『変わり始めた大企業キャリア』と題したトークセッション。今回は新型コロナウイルスの影響もあり、オンラインにて行われた。
Business Insider Japan
Business Insider Japan主催のビジネスカンファレンス「BEYOND MILLENNIALS 2021」(1月28・29日)では「30代で経営者になった2人に聞く『変わり始めた大企業キャリア』と題したトークセッションが、キャリアを模索する人たちから注目を集めた。
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス社長の井上裕美さん、SMBCクラウドサイン社長の三嶋英城さんに、Business Insider Japan編集長の伊藤有がキャリアの築き方や日々の「働く」について聞いた。
ターニングポイントは「自ら手を挙げてつくり出す」
——井上さんは日本アイ・ビー・エム、三嶋さんは三井住友銀行と、お二方とも大企業組織の中で、30代で子会社の経営者になりました。キャリアのターニングポイントは、いつ、どのように訪れたのですか。
三嶋英城さん(以下、三嶋):「訪れた」よりも「つくり出してきた」と言うほうが正確かもしれません。三井住友銀行でも前職のニフティでも、チャンスは自ら手を挙げて獲得してきました。人は与えられたことよりも、自分のやりたいことをやる時に最高のパフォーマンスを発揮できると思っているので。
井上裕美さん(以下、井上):私も三嶋さんと同じで、「こういう機会があったらやらせてもらいたい」と、積極的に声をあげてきました。キャリアを築く上で最も重要なのは、自分が何をしたいのかという「軸」です。それを社内で発信し続けてきたから今があるのだと思います。
—— 自ら手を挙げてこられたのは、そうした行動を受け入れてくれる組織風土があったからなのか、それとも自分の力で切り開いてきたからなのか。どちらだと感じていますか?
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス社長、井上裕美氏。最初のターニングポイントは20代で1人目の子どもを妊娠したときに訪れたという。
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三嶋:環境の影響はもちろん大きいです。三井住友銀行にも前職のニフティにも、挑戦する人を支援する体制が非常に整っていました。特に三井住友銀行では、太田純社長が「社長製造業」という言葉で表現している通り、社内起業を強力にプッシュしています。
従来の銀行では、40代後半や部長クラスの人材がグループ会社の代表に選ばれるのが通例でした。そんな中、自分が37歳で今の立場に抜擢されたのは、トップの言葉をきっかけとして全社的に考え方が変化した影響があったからだと思います。
その一方で、与えられた仕事を100%こなして信頼残高を積み上げてきたのも大事な要素だったと思います。たとえ恵まれた環境があったとしても、「この人だったらやれるだろう」と周囲から信じてもらえなければ、そう簡単には背中を押してもらえないでしょう。
—— 確かに、環境の影響は大きいですね。ただ、やりたいことに手を挙げる人がいるからこそ、そうした人を受け入れようと組織も変化していくのかもしれないと思いました。井上さんはいかがですか?
井上:三嶋さんの言う通り、自分がやりたいことを発信するためには、それだけのスキルとノウハウが確実にある状態でなくてはなりません。そのための努力は常に行ってきました。
また、弊社には一人ひとりがやりたいことを発信する文化が根づいていますので、そうした環境に支えられた面は大いにあると思います。
ただ、私に関して言えば、最初のターニングポイントは20代で1人目の子どもを妊娠したときに訪れました。つわりがひどく、日中も眠気が強くて思うように働けなくなってしまったのですが、私は「リーダーは現場にいなければならない」と思い込んでいました。
しかし、周囲に率直な意見を聞くと、私に求められていたのは肝心な決断をしたり、大事なトピックを一緒に検討したりすることであって、必ずしも現場にいることが重要なわけではなかったのです。
出産を機に、周囲との期待値のギャップに気づけたのは、貴重な出来事でしたね。
リモート時代に抜け落ちがちな「雑談」と「反応」
SMBCクラウドサイン代表取締役社長、三嶋英城氏。リモートワーク中はあえてアジェンダがない状況でミーティングを行い、雑談を促すようにしているという。
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—— リモートワークが広がった今、リーダーシップの取り方について多くの中間管理職の方が悩みを抱えています。お二人が考えるコミュニケーションのポイントは何でしょうか?
三嶋:雑談の機会をきちんと確保することでしょうか。雑談によって新しいアイデアが生まれたり、社員のモチベーションを肌で感じられたりしますが、リモートワークによってこうした機会は少なくなってしまいました。
そこで、雑談が自然と生まれるように、あえてアジェンダがない状況でミーティングをしてみたり、電話での会話がしやすい状況を整えたりしています。まさに今、試行錯誤しているところですね。
井上:確かに、ちょっとした雑談の中で生まれる気づきってありますよね。それに加えて私が意識しているのは、メンバーに対する「反応」です。
メンバーへの感謝の気持ちは積極的にテキストにしますし、WEB会議中は、私はできるだけ画面をオンにして話を聞くようにしています。聞き手がうなずいたり、笑顔になったりする様子を見られるだけで、話し手は「伝わってるんだな」と感じて安心しますよね。
こうした行動をメンバー全員ができるようになるためには、リーダーのファシリテーション力が非常に重要です。リーダーが率先していろんな人に発言を振ったり、拍手のアイコンを話し手に送ったりする行動を取ると、リモートコミュニケーションが活発になり組織が活性化されると考えています。
三嶋:ファシリテーションもそうですが、オフラインの場では無意識にやっていたのに、リモートだと欠落してしまうケースってありますよね。
特に我々のようなベンチャーは、一人ひとりのモチベーションが全てです。雑談の設計などを通じて、お互いのモチベーションをいかに把握し、高められるかが重要だと認識しています。
挑戦によって広がるコンフォートゾーン
——さまざまな経験を乗り越えてきたお2人ですが、22歳の自分にアドバイスをするとしたら、どんな内容になるでしょうか?
井上:「キャリアの軸を早いうちから考えた方がいい」と伝えたいですね。
私は、チームで協力し合って壁を乗り越えるのが好きだったので、そうした方向性でチャレンジをしていきたいという軸をキャリアの初期からずっと持ち続けてきました。だからこそ、時間をかけてなりたい像に近づいてこられたのだと思います。
ただ、その軸を自分一人で見つけられない人もいると思います。そういう人は、楽しそうに働いている先輩と会話をしてみてください。
「なぜこの人は、こんな風に前向きに働いているのだろう?」と考えながら話を聞いてみると、自分に置き換えられるヒントを得られると思います。
三嶋:自分のやりたいことって、なかなかピンポイントでは見つかりませんよね。でもいろんな経験を積むうちに、うっすらとその輪郭は見えてくるものです。
入社して、やりたいことがおぼろげながらに見えてきたら、まずは手を挙げてやってみる。それは20代だけでなく、30代や40代になっても同じように大切です。
「まずはやってみる」ことの大切さを2人は語る。
撮影:今村拓馬
—— おそらく、チャレンジできない人の中には「失敗したくない」という気持ちがあると思います。外資系企業ではチャレンジした結果失敗したとしても、その経験が評価されると聞きますが、日本企業も失敗に寛容になれば、社員がよりチャレンジしやすい雰囲気に変わっていくのでしょうか。
井上:それは非常に大切なポイントですね。私もこれまでいろんな挑戦をしてきましたが、もちろん全てがうまくいったわけではありません。挑戦して、失敗したら改善する。その経験を若いうちからさせてもらえたからこそ、ここまで成長してこられたのだと思っています。
三嶋:全く経験がない分野に挑戦するのはハードルが高すぎますから、新しい挑戦をするときには、その分野に関連する経験が何かしら必要ですよね。経験があるから挑戦できるんです。
「失敗したら会社からバツを付けられる」という環境では、挑戦するのは難しいはず。将来の選択肢を持つためにも、できるだけ幅広く経験させてもらえる環境に身を置いたほうがいいと思います。
——今日お二人のお話を聞いて、「コンフォートゾーンにとどまらない」姿勢がポイントだと感じました。どんどん次の段階へと進んでいく動きが重要ですね。
三嶋:そうですね。私自身は「誰がやってもできるだろうな」と思う仕事には、あまり興味が湧かないんです。「けっこう厳しいけど、できたらすごいよね?」というレベルの仕事を率先してやってきましたし、これからもそんな挑戦を続けていきたいですね。
井上:最初は、コンフォートゾーンの外側には、挑戦しなくてはならないストレッチな世界が、そしてさらにはデンジャラスな世界が広がっているように思えるかもしれません。でも、挑戦すればいずれコンフォートゾーンに変わっていきます。そういうエリアがどんどん広がると、自分の成長を感じられるのです。
「自分にできるだろうか」と感じる仕事でも、まずはやってみる。怖がらずに、ぜひ前向きにチャレンジしてみてください。
(構成・一本麻衣)