新型コロナワクチンの接種が始まり、経済の本格的再開が見えてくるなか、専門家による将来見通しに幅が生まれてきている。
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- 株価は上昇気流との見通し、市場への資金流入も続くなか、ビル・スミードは40%の株価下落を予想する。
- スミードは、これから始まるインフレ(物価上昇)が触媒となり、投資家たちは債券市場になだれ込むことになるとInsiderに語った。
- コロナショック後の経済再開に向けて、回復基調の株は引き続き強気とスミードはみる。
ビル・スミードは何もかもに飽き飽きしている。
ユーフォリア(=根拠のない市場の過熱感)、終わりの見えない量的緩和策、実体経済と数倍もかい離した株価、特別買収目的会社(SPAC)バブル、ワクチン提供開始をものともしない外出自粛関連銘柄の株価好調……そんなすべてのことに、だ。
23億ドル(約2400億円)を運用するスミード・キャピタル・マネジメントの最高投資責任者であるスミードは、それらが結局は最悪の事態を招き、過去最大級の株価暴落につながると予測する。
2月2日、スミードはInsiderのインタビューに応じ、次のように語った。
「ユーフォリア的なエピソードがいくつも同時に語られている状態だ。債券市場、テック大手(FAANMG)、外出自粛。実態とかけ離れていて、すべてがあべこべ。伝説に残りそうなほど馬鹿げたエピソードがまかり通っている。これはいずれ1929年(の世界恐慌)に続く暴落を招くことになる」
スミードは、S&P500種指数(=アメリカ大型株の動向指標)で最低40%の下落が起き、2000年(ドットコムバブル崩壊)あるいは2008年(リーマンショックを含む世界金融危機)を彷彿とさせるネガティブな時期が5〜10年は続くと予測する。
いつそうした下落が起きるのかについてスミードは言及しなかったが、いずれどこかのタイミングで下落が起こることを示唆しつつ、「トップはプロセス(=山も谷も市場の一局面)」という格言を引用した。
スミードは現在の状況に関して中央銀行の金融政策を批判。インフレの巨大な波が迫っていると警鐘を鳴らした上で、それが過剰なマネーサプライ(通貨供給量)のなかで株価下落を引き起こす触媒になる、と指摘した。
連邦準備制度理事会(FRB)は今後10年のインフレを容認するとしている。バイデン新政権が発表したかつてない規模の(1.9兆ドルという)景気刺激策を議会が承認すれば、そうしたシナリオも現実的になってくるだろう。
ただ、(米10年物のブレークイーブンレート=期待インフレ率は2021年に入って2%を突破しているものの)有意な水準のインフレが本当に起きるのかどうかはいまのところ不明だ。
高水準のインフレは株価収益率のマルチプル・コンストラクション(=乗数倍の下落)を引き起こす。企業の収益は増加するが、同時に国債のイールド(=利回り)上昇も引き起こすため、S&P500種企業の株価上昇をけん引する(そして大きな割合を占める)グロース株のリスクを嫌う投資家の離脱につながる。
インフレ圧力のもとでも景気循環株(=景況に左右されやすい性質の株)の好調は続くだろうし、コロナからの経済回復も進むと思われるが、そうした一部銘柄の高パフォーマンスも市場全体からみれば影響は限定的で、S&P500種銘柄に占める割合も比較的小さい。
「S&P500種銘柄の時価総額に占める下位250社の割合は12〜14%程度。もちろん下位250社から大きな成功をおさめる企業が絶対出てこないという意味ではない。下位250社が業績を伸ばしたところで、S&P500種のインデックスに投資する人たちにとっては何の利益にもならないということだ。5〜10年間、生み出されるのは損失だけという時期が続くだろう」(ビル・スミード)
スミードは市場全体でみたときにリターンは消失すると予測したが、コロナからの経済回復に関連した銘柄については強気(上昇傾向)と判断。実際、投資家たちはみな経済再開に期待して関連銘柄を買っているとみている。
ただし、2月最初の週に映画館チェーン・AMCエンターテインメントの株価を過去最高額にまで引き上げたユーフォリア的な狂乱に関して、スミードは首を横に振り、数カ月あるいは数年でコロナワクチンが出回ってそのうち回復に向かうのは明らかなのだから、なんとも無益なことだと語った。
「私が無益だと言うのは、投資家たちがAMC株をこぞって買ったからではない。コロナ感染者数は急激に減り、ワクチンは素晴らしい効果を発揮しつつあり、(映画館再開が想定される)AMCに投資が集まって株価が上昇すること自体は何もおかしくはない。
私が考える「最も良い投資」とは、これまでも可能だった何かではなく、これまでは不可能だった何かに資金を投じること。だから(AMCへの集中投資は)無益だと言うのだ」
「インフレは起きる、でも2021年ではない」が主流
復興銘柄は強気、想定されるインフレへの不安というスミードの予測は、必ずしも例外的な見方とは言えない。
ストラテジストの多くが、景気循環銘柄は経済回復につれて中長期的に株価が上昇すると予想しているし、FRBも一定のインフレを予想している。
だが、40%という劇的な株価下落予想は、さすがに市場予想の平均から大きく外れている。確かに、モルガン・スタンレーの米国株チーフストラテジスト、マイク・ウィルソンのように短期的な市場のパフォーマンス低下の可能性を指摘する専門家もいるが、彼も含めてほとんどが2021年については基本的に上昇基調との見方で一致している。
また、インフレが起きるとしても、それは今年ではない。市場から失われた労働力が回復しない限り、賃金の上昇も期待できないからだ。
米生命保険ノースウェスタン・ミューチュアルのチーフストラテジスト、ブレント・シュッテはInsiderの取材(1月)に対し、次のように答えている。
「将来インフレは起きると考えている。インフレという現象は時代遅れでもう二度と来ない、という将来は考えられない。それが今年起きるとは考えられないだけのこと。2021年の残りの時間について、我々が見通しをポジティブと予測しているのはそういう理由からだ」
(翻訳・編集:川村力)