撮影:鈴木愛子
今回は読者の方からお寄せいただいたご相談にお答えします。「なんでも屋」状態で、自分の強みと言えるものがない……と、不安を抱えていらっしゃる方です。
「マルチタスク力」「サポート力」は市場価値が高い
まずは結論からお伝えしましょう。
Aさんのような経験をしてきた方は、転職市場では「価値が高い」と言えます。どうぞ自信を持ってくださいね。
一般的な傾向をお伝えすると、転職市場において、「大手企業の一部門で専門特化した仕事を長く続けてきた人」と「中小規模の企業で幅広い業務を兼務してきた人」とでは、後者のほうが高く評価されるケースが多いのです。
もちろん、前者が専門とする分野の市場価値が突出して高ければ別ですが……。
なにしろ、今は変化のスピードが速い時代。特定分野で専門スキルを培ったとしても、あっという間に陳腐化してしまいます。ですから、人材採用においては、専門スキル以上に「柔軟性」「臨機応変な対応力」「新しいことのキャッチアップ力」が重視されるケースも多いのです。
Aさんのお仕事ぶりからは、これらの力を備えていらっしゃると想像します。
中途採用市場には、スタートアップや拡大中のベンチャー企業の求人が数多くあります。まだまだ人数が少ないこれらの組織では、1人が複数の役割を担うこと、担当外の業務に柔軟に対応することが求められるため、Aさんのようにマルチタスクをこなしてきた方は重宝されるのです。
実際、Aさんのような方が転職を経てキャリアアップを果たす事例もあります。
例えば、総務や営業アシスタントなどの女性が「サポート力」「マルチタスク力」「気配り」などを買われて、ベンチャー企業の社長秘書として採用。
スケジュール管理だけにとどまらず、社長や役員から「ちょっとこれお願い」と頼まれた情報収集や資料作成などの雑務に対応するうちに、ファイナンスや広報など、経営周りの幅広い知識を習得。その結果、「社長室長」へと昇格したり、経営企画・人事・広報・IRなどの部門に異動して活躍したり——というケースは決して少なくありません。
率先して「都合のいい人」になれば、チャンスをつかめる
Aさんはご自身を「なんでも屋」と表現されました。組織の中で「こぼれ球」のような業務を拾っている方々は、時に「皆に便利に使われて、自分だけ損をしている」と悲観的に捉えることがあります。
しかし私は、とことん「都合のいい人」になることをお勧めします。なぜだか分かりますか?
会議のファシリテーションや議事録作成など、皆が面倒がるような役割を率先して引き受けていると、「あの人がいると助かる」と感謝されます。
すると、重要なプロジェクトの一員として招かれやすくなる。新しい知識と経験を得るチャンスを得られ、次のキャリアにつながっていくのです。
Aさんが「何らかのコアスキルを身につけたい」と思うのであれば、今の「なんでも屋」の立場をうまく利用して、企画なり人事なり広報なり、自分が興味ある業務分野へ積極的に「染み出して」いってみてはいかがでしょうか。
マルチタスク力に加えて、何らかの分野で強みを得れば、いずれ転職を決意したとしても、選択肢が広がるでしょう。
特に今は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」がキーワードとなっています。DXのテーマは、業務オペレーションの効率化、新たな営業手法の開発、サービススタイルの変革など、さまざまです。
自ら提案したり、プロジェクトに手を挙げて関わったりすることで、市場価値が高いキャリアを手に入れられる可能性があります。
「改善」「変革」のマインドやノウハウは、いつの時代も求められるものですから。
なお、総務職の方には、Aさんと同様「なんでも屋だから専門性がない」と嘆く方が少なくないようです。
確かに総務部門は、商品開発や営業といったフロント部門に比べると目立ちにくいですよね。けれど、総務はその企業の「空気」をつくり、「カルチャー」を醸成する存在です。
昨今、時代の変化に対応するために、多くの企業が「変革」に取り組んでいます。しかし、単に新たな仕組みや制度を導入しても、社内の空気が変わらなければ、それらは機能しません。まさに、総務の腕の見せどころなのではないでしょうか。
風土改革やカルチャー醸成にチャレンジすることで、転職市場で高く評価されるキャリアを築けるかもしれません。
「なんでも屋」の経験を職務経歴書でアピールする方法
Aさんは、「職務経歴書に書けるような強みがない」という不安を抱いていらっしゃるとのこと。転職活動を始めるとなった場合、職務経歴書作成でどう工夫すればいいか、ポイントをお伝えしておきましょう。
成果を挙げた経験から「ポータブルスキル」を整理する
「なんでも屋」的に働いてきた中で、「成果を挙げた」「褒められた」「感謝された」経験を思い出してみてください。
そして、それを成し得た自分の能力は、どの「ポータブルスキル(持ち運べるスキル)」に当てはまるかを整理してみましょう。それを、職務経歴書の「自己PR」欄に記載します。
詳しくは、この連載の第7回を参考にしてください。
突然降ってきたタスクに、どう対応していたかを整理する
Aさんがおっしゃるには、「細々としたタスクが、『ちょっとこれやっといて』という感じで私に降ってくる」とのこと。
そんな場面でどう対応してきたのかを、思い出して書き出してみましょう。
例えば、「書籍やウェブサイトで独自に学んだ」「社内外で知識を持っている人に協力を仰いだ」など。
また、困難なテーマや壁にぶつかった時、どう乗り越えてきたのかも振り返ってみてください。
こうした、自分の「課題解決法」を認識し、整理しておきましょう。そして、職務経歴書の「自己PR」欄に記載するほか、面接で具体的なエピソードを語れるようにしておきます。
応募先企業で「この課題解決の姿勢と手法は、自社でも再現してくれそうだ」と認められれば、受け入れられる確率がアップします。
「雑務」と言われる仕事には、とても価値があります。「こんなことしかしていない」ではなく、「価値ある仕事を担ってきた」と自信を持ってアピールしてくださいね。
※この記事は2021年2月15日初出です。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。