コルク佐渡島庸平・劇団ノーミーツ広屋佑規語る「エンタメの未来」【ビヨミレ2021イベントレポ】

ビヨンドミレニアルズ2021

コルク・社長の佐渡島庸平氏(左)と劇団ノーミーツ・主宰の広屋佑規氏(右)。

撮影:伊藤圭

社会課題に取り組むミレニアル世代の挑戦を応援するアワード「BEYOND MILLENNIALS(ビヨンド・ミレニアルズ)」。2021年1月28日に行われたファーストセッションのテーマは、「エンタメの未来」。

Culture×Business部門でノミネートされた、劇団ノーミーツ・主宰の広屋佑規氏と、コルク社長の佐渡島庸平氏が語り合った。モデレーターはBusiness Insider Japan エグゼクティブ・アドバイザーの浜田敬子。

コロナ禍のネット時代、エンタメ制作はどう変わる?

浜田敬子(以下:浜田):コロナ禍で私が衝撃を受けたエンターテインメントが『愛の不時着』と劇団ノーミーツでした。打合せやオーディション、稽古、上演まで一度も会わずに活動するフルリモート劇団で、公演ももちろんオンライン。出演者たちは自宅からリアルタイムで演じていたことも驚きでした。

むこうのくに

第2回公演『むこうのくに』ではチケットを2800円で販売。5000人以上を動員した。

提供:劇団ノーミーツ

演者さんがそれぞれ自宅からオンラインで出演されるのをリモートで鑑賞する体験が新鮮だっただけでなく、上演中に観客がチャットにどんどん書き込んで、それを見た演者がアドリブを加えていくのも面白いですよね。広屋さん、これは最初から狙っていた?

広屋佑規(以下:広屋):オンラインで演劇を届けるのに、ただ映像を流すだけだとドラマや映画と同じになってしまいます。より演劇的な体験をしてもらうためにどんな工夫をすればいいのかと考えて、たまたまチャットを取り入れたのですが、やってみてこれは大事だなと気づきました。

劇団ノーミーツ・主宰の広屋佑規氏

浜田:「今の何?」って書き込むと、ほかの観客が教えてくれたり。

広屋:みんなでコミュニケーションしながら鑑賞するオンラインならではの演劇体験ができます。

浜田:新しい体験ですよね。佐渡島さん、ご覧になりました?

佐渡島庸平(以下:佐渡島):もちろんです。広屋さんは、僕がやっているオンラインサロン「コルクラボ」の現役メンバーで、僕は「やっち」と呼んでいます。コルクラボは年1回の文化祭を大事にしていますが、初回と2回目を責任者として成功に導いて、ラボの基礎となる文化をつくってくれたのがやっち。

やっちはもともとOut Of Theaterというライブエンタメをやっていて、例えば街を歩きながらミュージカルを体験できる「STREET THE MUSICAL」など新しいタイプのエンタメに挑戦していたんですよね。イメージがつかないものをエンタメとしてやり切るプロデュース力があって、すごい才能だから会社にしたほうがいいよといったら、「会社のつくり方がわかりません」っていうから、うちの社員がいっしょに社名を考えたりスケジュールを引いたり(笑)。

コルク・社長の佐渡島庸平氏

浜田:そうだったんですね。佐渡島さんも自己紹介お願いします。

佐渡島:もともと講談社で漫画の編集者をしていて、2012年にクリエイターエージェンシーであるコルクを立ち上げました。最近では、コルクスタジオという事業で、クリエイターを集めて複数人で漫画をつくっています。アニメは1人では制作できないからアニメスタジオで複数人が制作していますよね。ツールの進化によって制作は楽になる一方、世界的にコンテンツの質が高まっていますから、漫画も複数人でもみ合いながらスピード感を持って出していく必要があるんです。

劇団ノーミーツがうまくいった理由のひとつに、最初Twitterですごいスピードでいろいろなタイプのコンテンツを発信した再現性の高さがあると思います。1人だと悩んでいるうちに時間が経ってしまいますが、3人から5人くらいの大きすぎないチームを組んで、それぞれの役割が入れ替わりながら、とにかくどんどんアウトプットを出していく。そういうつくり方がネット時代にはすごく重要になっています。

浜田:コロナの前からそうしたクリエイティブの変化はあった訳ですね。

佐渡島:そうです。コルクでは、2年ほど前から複数人でつくるチーム体制に変えていっています。演劇や映画、広告畑の人はチームで作品をつくることに慣れていますよね。ノーミーツの立ち上げも複数だったから早かった。

浜田:ノーミーツはコロナの中、2020年4月に旗揚げされていますよね。劇団メンバーには、本業は会社員という人も多い。いろいろなイベントが中止・延期になったり、リモートワークになったことで時間ができたこともあるけれど、オンラインだからすぐに集まれた。制約を逆手にとって新しいものを生み出した。もともと演劇畑ではない方もたくさんいらっしゃいますよね。

浜田敬子

広屋:むしろ演劇畑の人が少ないくらいで、広告やエンタメ、IT業界で働く20代を中心としたチームです。リアルに会えない中、何ができるだろうと考えて、旗を立てたところに集まってくれました。面白がって集まっているから価値観も必然的に近くなりますし、コミュニケーションコストがかからなかったので、オンラインでスピード感を持ってうまくできたのかなと思います。

知識と経験の価値が下がっている

浜田:コルクではチームでコンテンツをつくる体制ができていたということですが、コロナによる変化はありましたか?

佐渡島:以前からオンライン化は進めていましたが、打合せの方法論が変わりましたね。もともと悩んでいたんです。ストーリーをつくるって抽象的な作業ですよね。例えば僕が作家に「ちょっとキャラが弱いね」と言った時、意味の捉え方は作家によって違う。作品の状態によっても、作家の考えや世界観によっても違います。コミュニケーションに「ずれ」が生じて、なかなか伝わらない、直らないということがある。

でもオンライン化でみんなの日程調整がしやすくなって、複数の作家と僕が打合せすることが増えたんですね。打ち合わせが終わると作家同士で内容を振り返るようになった。「キャラが弱いってどういう意味だと思った?」「僕はこうだと思った」「私はこう思った」と全員がずれをすり合わせる中で、言葉が正しく伝わっていくし、動きも速くなります。

僕は今、YouTubeチャンネルで自分が持っている漫画の知識を全部出していっています。漫画家志望の人が僕のYouTubeを20〜30本見た後に編集部に作品を持ち込めば、編集者の言っている意味が伝わりやすくなります。これまでは打合せの多くの時間を知識の移転に使っていましたよね。でも知識の移転は動画を見てもらえばいい。人と話す時間は認識のすり合わせに使う方が、スピードも速いし質も高まる。

佐渡島氏はマンガ制作のノウハウを自身のYouTubeチャンネルに惜しみなくアップロードしている。

編集者 佐渡島チャンネル【ドラゴン桜】

浜田:作家同士で助け合うんですね。「ほかの作家に手の内を見せたくない」ということにはなりませんか?

佐渡島:吉本新喜劇って芸人同士が助け合うんですよ。芸人をスカウトで一本釣りしてくるとみんな争いますが、吉本は学院の同期だから助け合う。だから僕が最初にやったのは漫画の学校をつくったことです。そこで学ぶ人たちの互助の文化の中で漫画家になっていく。1人でやるより助け合った方が成長は早いんだという気づきが生まれます。

浜田:これまで創作は属人的な才能とされていて、編集者も一対一で向き合うのがあたりまえとされていましたが、チームで活動することによって成功に結びつきやすくなるというのは面白いですね。

広屋:ノーミーツもそうだなと思いました。作・演出は小御門優一郎がやっていますが、小御門一人が脚本をつくる訳ではなく、誰でも参加していいよというフラットさがあって、みんなでストーリーをつくっています。クリエイター陣とプロデュース陣の垣根もないですし、メディアアーティストが演出に、エンジニアチームが制作に「もっとこうできるんじゃない」と言いますし、僕もたまたま主宰しているだけで、ただの役割に過ぎないという考え方です。吉本の学校の話と同じで、面白がって集まっているだけですから上下もありません。フラットにみんなが参加するから、物語や企画をスピーディーにブラッシュアップできます。

小御門優一郎

小御門優一郎氏が作・演出を務めた第3回公演は「演劇界の芥川賞」とも言われる岸田國士戯曲賞の最終候補になった。ただ、脚本はスタッフなら誰でも意見ができる環境だったという。

提供:劇団ノーミーツ

佐渡島:インターネットが登場したことで、知識と経験の価値が下がっています。例えば料理のレシピはこれまでも公開されていたけど、火加減やタイミングなどのコツは時間をかけて学ぶものでしたよね。でも、いまやYouTubeで全部オープンになっていますから、知識の移転だけなら誰でもできる。

最近やってみて驚いたのが太極拳です(笑)。太極拳の動きって難しくて習得に時間がかかるのですが、太極拳のVRソフトがあるんです。VR空間の中でボールの動きを追うだけで太極拳の動きになるんですよ。さらにダンスのゲームもあって、人の形にくり抜かれたボードが迫ってくるのに合わせて体を動かすとリズミカルなダンスができるという(笑)。

つまり、これまで習得に時間がかかるとされていた太極拳やダンスのような体の動きでさえ、VRの中で画像を追うだけで再現できる。知識と経験を得ることが今までは一番大変だったのに、もはやそれは誰でも無料で見られます。だから、それを作家の才能だと考えてはいけない。いま僕が作家に伝えているのは、知識と経験はネット上から拾ってきて、そこから自分らしい優れた作品をつくる力こそが才能だということです。編集者の役割は、作家の心理的安全性を担保しながら議論を活性化するファシリテーターだと考えて、自分の役割を変えています。

失敗して去っていく人に執着しない

浜田:「知識と経験」のハードルが下がる中、なにが差別化要因になるのでしょうか。

佐渡島:これからその苦しみを味わう入り口に立っていますよね、やっちは(笑)。

広屋:そうですね。演劇の再構築に挑戦しようとオンライン演劇という形態を生み出すことはできました。でも、どうやったらこれを新しいエンタメとして面白がってもらえて、持続可能なものにしていくのか、めちゃめちゃ悩んでいます。

佐渡島:持続可能なクリエイティブってすごく難しい。ネットでバズるのも難しいですが、ちょっと面白ければ何回かはバズれるかもしれない。でも人は絶対飽きるので、継続してお客さんを集めることが一番難しいんですよ。

お客さんが数百人しかこないかもしれないけどやり続けるという状態があって、またブレイクする。その繰り返し。ずっと突然変異ばかりして進化を続ける生物はいませんよね。突然変異して停滞して、また変異してという過程を繰り返して進化していく。

停滞期にもやり続けて、再び認知されることが難しい。注目が集まると失敗できないという気持ちになるじゃないですか。「次も成功させたい」と思う。「成功させたい」と思ったところからジャンプの幅が小さくなるんですよ。同じことを繰り返すようになる。でも失敗していい。失敗すると「なんだ、偽物だったんだ」と言って去っていく人もいて、それを見ると心が痛む訳ですよ(笑)。失敗して去っていく人を惜しむ気持ちを捨てることで持続できるようになります。

広屋:失敗して、去っていく人がいて当然で、それは新しいものを生み出すために必要なプロセスなんですね。いや、この話聞けてめちゃめちゃよかったです。

劇団ノーミーツ・主宰の広屋佑規氏とコルク・社長の佐渡島庸平氏

コロナよりインターネットの方が影響大きい

浜田:コロナがエンターテインメントに与える影響をどうご覧になっていますか?

佐渡島:コロナが与える影響よりもインターネットによる変化の方が大きいと僕は思っています。人類は何度も感染症を経験してきましたが、そこで生まれて現代まで残っている物語はさほど多くありません。平時にわざわざ感染症の話を読みたくないから、長期的に人の心に刺さるものになりづらい。でもノーミーツが前回の公演で観客が参加できるインタラクティブな仕組みをつくったように、インターネット的なものがエンターテインメントの未来に与える影響は大きいと思います。

広屋:もっとインターネットを面白がれるし、面白がった方がいいと思っています。コロナはそれを推進するきっかけに過ぎません。ノーミーツは演劇というレガシーなジャンルのものを再構築しようと挑戦しています。演劇って実際の劇場で見た方が面白いんですよ、絶対。あの会場の臨場感と一体感は何物にも替え難いですよね。その魅力をインターネットに適したコンテンツに置き換えて、まったく新しいジャンルを作り出せたら、新しいエンタメとして続いていくんじゃないかと思っています。

ZA

劇団ノーミーツは2020年、オンライン劇場「ZA」もプロデュースした。オンライン演劇を配信するプラットフォームとして、ピューロランドやHKT48とのコラボ公演も実現している。

ZA 公式サイト

ノーミーツが2年目を迎える2021年は、オンライン演劇というものを自分たちでつくり続けるだけでなく、ほかの劇団さんもどんどん巻き込んで、オンライン劇場の遊び方をもっと増やしていきたいと思っています。コラボ上演もいくつか決まっています。共感して面白がってくれる仲間を増やすことがオンライン演劇という新しいジャンルの確立につながっていくんじゃないかと思っています。

(文・渡辺裕子、写真・伊藤圭、編集・野田翔)


佐渡島庸平(さどしま・ようへい):1979年生まれ。東京大学文学部卒。講談社を経て、2012年クリエイターのエージェント会社、株式会社コルクを創業。三田紀房、安野モヨコ、小山宙哉ら著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテインメントのモデル構築を目指している。Twitter: @sadycork / Youtube【編集者 佐渡島チャンネル

広屋佑規(ひろや・ゆうき):1991年生まれ。劇団ノーミーツ主宰 / 株式会社Meets代表。コロナ禍で全ての仕事が中止となったなか、フルリモート劇団「劇団ノーミーツ」旗揚げ。短編Zoom演劇作品は3000万回再生、長編オンライン演劇公演は1.2万人を動員、多くのお客様に自宅から観劇いただく。オンライン演劇の可能性を追求しオンライン劇場「ZA」を建設。第60回ACC クリエイティブ・イノベーション部門ゴールド受賞。Twitter:@hiroyayuki

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