まるでRPG?コロナ禍で拡がるビジネス展のオンライン化

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「アニメ・ゲームサミット 2021 Winter」は2Dゲーム感覚で会場を回れる。画像は、会期最終日の懇親会の様子。丸のアイコンは、出展企業担当者や来場者たち。(※モザイクで加工しています)

「アニメ・ゲームサミット 2021 Winter」より画面キャプチャー。

長引く新型コロナの流行で、オフラインのビジネス展示会の開催が制限される中、2021年のオンラインによるイベント開催は2020年以上に増えるだろ。すでに記者がこの1年で6、7回ほど参加した各種オンラインイベントのなかには、出展企業の “見せ方”、来場者とのコミュニケーション手段などに工夫を凝らしたものもいくつかあった。

そのなかから、取材者目線で気づいたオンラインイベントのさまざまの工夫をとりあげてみたい

オンライン開催は出展企業に格差が出る

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「IT & MARKETING EXPO2021春」はオンラインで開催された。シンプルな仕組みで、担当者にチャット経由でメッセージを送り、アポをとった後にZOOMで話を伺えた。

「IT & MARKETING EXPO2021春」の画面よりキャプチャー。

オンライン展示会の形式は、現時点でシンプルな作りが主流ではある。

1月27日〜29日に開催された「IT&MARKETING EXPO2021春」には、約300社が出展した。ホームページ上で各企業のブースを四角に区切って、縦横に整然と並べて表示。企業をクリックすると、事業を説明する文や動画を見ることができた。チャット欄にメッセージを送って担当者に連絡をとり、面談を希望する場合は、その後Zoomを使うという仕組みだった。

出展企業の一つ、スポーツの応援やギフティングなどを楽しめるアプリ「Player!」を運営するookami社の担当者・小野光雄さんは、2020年9月開催の前回展に続き、2回目のオンライン展の参加。オフィスでパソコン前で待機し、アポが入るとオンラインで対応した。

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チャットでアポをとった後に、画面上にあるZOOMボタンをクリックして面談が始まった。

「IT & MARKETING EXPO2021春」の画面よりキャプチャー。

記者は、同社の企業紹介画面の右下にあるチャットから、小野さんへメッセージを送った。しばらくして小野さんから返信があり、最終的にZoomへつないで感想を聞かせてもらった。小野さんはオンライン開催のメリット、デメリットについてこう指摘した。

「費用面でオフライン開催より安いです。また、前回より主催社がオンラインによる来場者へのアプローチや検索をしやすくするなど、(仕様を)改善してくれました。一方で、(各出展企業によって)格差がでる印象を受けます。ブースに集まるところと集まらないところの差が、オフラインより何倍にもなるという印象です

企業による注目の差が、オンライン開催で如実に反映されてしまうということなのだろう。

2Dロールプレイングゲームみたいなユニークな作り

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「アニメ・ゲームサミット 2021 Winter」のオンライン会場は、ブース、フリースペースなど2DのRPGのように細かく作り込んである。

「アニメ・ゲームサミット 2021 Winter」より画面キャプチャー。

ロールプレイングゲームをやっているような感覚になったオンライン展示会が、1月20日から22日に、DMM.comが主催したオンライン展示「アニメ・ゲームサミット 2021 Winter」だった。

同展は、2Dで展示会場を再現し、受付カウンター、企業ブース、商談ルーム、休憩用の長椅子、自由に雑談するためのエリアや円卓席、スピーチ用のひな壇が描かれていた。出展者側の担当者も来場者も入場の際に、自分のアイコンを作る。自分の顔写真や企業ロゴなどの画像を、アイコンに入れることができ、会場の画面上で登録名と一緒に表示される。

ユニークなのが、マウスカーソルで自分のアイコンを動かせすことができて、例えば、企業担当者や会場内のフリースペースにいる人たち(といってもアイコンだが)に近づくと、マイクを通じて声をかけられる。向こうにはパソコン越しでこちらの声が聴こえる。

さらに、アイコンの距離がやや離れていたり、発声マークの向きが違うと、声も少し遠くなる。他人同士がアイコンを介して話しているところに近づくと、その会話内容も聞こえてくる。リアルな音空間を演出していた。

心を燃やさないとオンライン展示会では戦えない

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展示会初日、他の担当者に話しかけるのを躊躇してしまい、自分のアイコンを他から離れた場所に置いたりしてしまった。

「アニメ・ゲームサミット 2021 Winter」より画面キャプチャー。

この形式は自分自身、初体験。特に初日は戸惑った。画面上で自分のアイコンを動かして誰かに声をかけるのが、どうしても気が引けるのだ。今までのオフラインの展示会だったら簡単にできることが、オンラインのこの形式だと躊躇してしまう。

誰にも声をかけられずに気持ちもなえてきたこともあって、自分のアイコンをフリースペースの円卓に止めてしまった。そして、自宅からの参加だったこともあり席を離れて雑用をしていた。すると、他に誰もいないはずの部屋に、突然声が響きわたり、ドキッとさせられた。

「何か困ってないでしょうか?」とPCからいきなり声が聞こえてきたのだ。え? こちらに話しているのかな?と思っていると、さらにPCの向こう側から「大塚さん、おられますか?」と呼びかけられた。

あわててパソコンの前に戻ると、自分のアイコンの隣に主催社DMM.comの担当者のアイコンがあった。

話を聞くと、来場者のアイコンが動いてないなどの場合に、一人ずつ声かけをしてるとのこと。その後、このオンライン展の活用法を説明してもらった。

さっそく勇気を出して、担当者のアイコンのあるブースに自分のアイコンを動かして、話を聞かせて下さい、と声を掛けてみると、当たり前だが快く対応してもらえた。今まで体験したことのないやり方で戸惑っただけで、一度上手くいくと心理的なハードルは下がった。

慣れてくると、担当者のアイコンがあるブースを探しては、自分のアイコンを動かし声をかけて取材を続けた。

逆に来場者から声をかけられることもあった。画面を見る分にはゲームそのもので、無駄にアイコンを動かして、画面内の冒険を楽しんだ。

オンライン開催最大のメリットは費用面

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新書館のブースで担当者を取材している様子。

「アニメ・ゲームサミット 2021 Winter」より画面キャプチャー。

「アニメ・ゲームサミット 2021 Winter」の出展企業数社に感想を聞いてみると、記者と同様、まだ慣れてないことによる戸惑いを感じる声があり、同時に便利さも感じていた。

出展していた、書籍や漫画などの販売を行う新書館は、販売部外販課の宮内良太さんと岡田真紀子さんが、自宅からのテレワークで参加していた。

岡田さんはオンライン展示会が初めてで「(画面上の来場者や別のブース担当者のアイコンに)話しかけるハードルが高かった」と話した。一方で、宮内さんは昨年、DMMの同じ形式のオンライン展示会に参加したこともあって「まだ耐性がありました。来場者が来るのも待ちつつ、声かけも行いました」とあり、慣れの要素は大きいようだ。

また、コロナ禍で海外からの往来ができない状況だが、オンラインということもあって、海外のバイヤーと話すことができたという。

フリースペースにテレビ東京の担当者のアイコンがあったので、声をかけた。同社アニメ・ライツ本部アニメ局アニメ事業部の豊田真由さんは、オンライン形式が初参加とあって「驚きました。最初はやり方が分からなかった」と笑う。

人気アニメなどコンテンツを多く抱える同社だけあって、一日中商談をしていたが「ブースにいるだけでなく、他のブースにも時間を見つけて出向きました」。そして、オンライン展示会のメリットについて、豊田さんは「(リアルの展示会と比べて)時間と費用で余裕が出ました」とあげた。

オンライン展示会になって、多く聞くのがこの「時間と費用の節約」というメリットだ。

オフラインの展示会に企業が出展する場合、前日の物理的な準備作業、最終日の撤収作業、そして会期中は1日会場にいる必要がある。オンラインであれば、そういった費用も安く、会場に時間を縛られないメリットがあるのは間違いない。

クールな3Dデザインも、肝心な機能を欠いたTIFFCOM

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昨年11月の「東京国際映画祭」コンテンツマーケット「TIFFCOM」はオンライン開催し、3Dデザインで工夫されていた。ただ、画面内に担当者が表示されておらず、その場での問い合わせができない作りだったのが、もったいないように感じた。

「TIFFCOM」を画面キャプチャー。

3Dでブースを再現したデザインにしていたのが、2020年11月の東京国際映画祭と同時期に開催された、コンテンツマーケット「TIFFCOM」だ。例年なら、渋谷や池袋に会場を構えて開催するが、完全オンラインだった。

出展企業のオンラインブースは3Dで表示され、ブース内を移動したり、壁に掛かっている画像をクリックすると、コンテンツの画像や映像が見られるなど、面白い作りだった。

出展社の1つで、海外向けにドラマやバラエティー番組などの映像コンテンツを販売するABCインターナショナルの米田祥子さんも「他の国際フィルムマーケットに比べ、手が込んで工夫してあり、面白いと思いました」と評価していた。

しかし、「画面上で連絡を取りあう手段がないんです」(米田さん)とも指摘した。

どういうことか? TIFFCOMのオンライン展示会のデザインは、非常に作り込まれててよくできているのに、例えば、ブースを訪れたバイヤーが興味を持っても、画面上のどこにも担当者とすぐにつながれる、対応してもらえる機能が見当たらないのだ。たしかに、来場者として企業を見回っていた記者も、出展物や企業に興味を持って問い合わせたかった時に、すぐに問い合わせられずに困った。

せっかく3Dで作ったのだから、わかりやすいように、担当者の3Dアバターをブース内に設置して、来場者からの問い合わせに対応できる仕組みがあれば、より商機が広がっただろう。

オフライン開催の強みは”通りすがり”

オンラインイベントは、リアルのイベントを置き換えることはできるのか? それとも別のものとしてとらえるべきなのだろうか?

「アニメ・ゲームサミット 2021 Winter」に参加していたある番組制作会社は、オンライン展示会の課題について率直なコメントをくれた。

「リアル(オフライン)の開催であれば、通りすがりの問い合わせがあるのですが、事前のアポ以外しか話がありませんでした。選べるのであれば、リアルの方が正直良い。ただ、費用面で非常に抑えられるのは大きいです」

同じくTIFFCOMに出展していた、地方テレビ局の担当者も同様の指摘をした。

「オフラインでのマーケット開催の場合、ふらっとブースに立ち寄った人との立ち話からビジネスの話につながる事や、情報収集に役立つ事が多々あります。コロナ収束後もずっとオンライン開催でいいではないかという声も出るかもしれませんが、個人的にはオフライン開催のメリットはまだあると信じています」

費用を大幅に抑えられるメリットがあるにしても、オフライン開催での活気や熱量、偶然の出会いはプライスレスであり、思わぬ発展性もある。担当者の声からは、「コストが下がることのトレードオフ」だとは単純に割り切れない。

また、展示物によっては、オンラインでなかなか商品の良さが伝わりにくいものもあるだろう。しかし、新型コロナウイルスが変えてしまった社会のなかでは、ビジネス展示会が完全にオフラインのみに戻ることは当分ないだろう。

ただし、世界的にもオンライン開催が増えていることで、その恩恵を受けられているのも事実だ。ABCインターナショナルの米田さんは、海外の展示会に参加しやすくなったと明かす。

「これまで世界の主要のフィルムマーケットに参加していましたが、オンライン開催が増えたことで、費用面を含めてこれまで参加したこと無かったものの、注目していた海外市場のフィルムマーケットにも、トライアルで参加することができました」

オンライン展示会でも、オフライン並の手応えをいかに作り出していくか。

これはテクノロジーが挑まなければならない課題であり、今まだ発展途上と言わざるを得ない。ある意味では、その仕組みづくりそのものがビジネスチャンスでもあり、驚くようなオンラインイベントに出会えることを2021年は期待したい。

(文・大塚淳史)

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