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「新電力」の自業自得なのか?卸価格“超”高騰で露見した「いまだに未成熟」日本電力市場の課題

電線

日本の卸電力市場は、まだ十分に成熟しているとはいえなさそうだ。

kazu/GettyImages

みんな電力、Looop(ループ)など、いわゆる「新電力」(正式には「特定規模電気事業者」)4社は2月10日、メディア向けに説明会を開催。この年末年始に起きた、日本卸電力取引所(JEPX)における市場価格の高騰問題に対する見解を発表した。

JEPXとは、電力小売りの自由化を受けて、発電事業者や小売事業者が電力取引を行う場として整備された市場。

東京電力HDや関西電力などの「旧一電(=旧一般電気事業者)」と呼ばれる大手電力会社の発電部門は、発電した電気の一部をこの卸電力市場に提供している。

新電力の中には自前の発電設備を持っていない事業者も多く、発電設備を持つ事業者と直接取り引きをしたり、JEPXを介して電力を購入することで、消費者(需要家)に電気を届ける仕組みとなっている。

このため、2020年12月下旬から21年1月中旬にかけて起きたJEPXの市場価格高騰により、多くの事業者に負担が重くのしかかっている状況だ。

3週間で年間取引額を超える金額が移動

スポット価格

12月下旬〜1月上旬にかけてのJEPXの取引価格は、最大で250円/kWhを超える時間帯もあった。

出典:経済産業省 電力需給及び市場価格の動向について参照

みんな電力の担当者は、

「価格高騰が起きていた3週間の平均価格は、1kWhあたり79.8円と通常の10倍ほどでした。30分ごとの金額と約定量を計算すると、総額1兆5000億円を超えることになります。これは、年間取引額を超える金額が(わずか3週間で)小売事業者から発電事業者に移動したことを意味しています

と、今回の市場価格高騰の異常性を語る。

自由市場における取引である以上、値動きがあるのは当然だ。しかし、たった3週間の取引額が、年間の取引総額を上回る状況は、果たして適正な市場といえるのだろうか。

今回の価格高騰による新電力の負担は、事前にリスクヘッジできていなかったことによる「自己責任」なのだろうか?

説明会には、中立的な立場から電力市場の設計・運営に詳しい京都大学の安田陽特任教授が参加。安田特任教授は、今回の“超”高騰について「この問題は非常にややこしく、見えづらい」と語った。

問題は価格の高騰ではなく「長期化」

市場動向

2020年12月26日ごろから、売り入札と約定量がほぼ一致する状況が続いていた。

出所:「JEPX 2020年スポット市場取引結果」をもとに安田特任教授が作成

今回、卸電力価格が高騰したのは、電力市場への「売り入札量」(提供された電力量)が不足したことを受け、新電力の間で買い争いが生じた結果だ。

新電力は、自前で電力を確保できなかった場合、送配電会社から融通してもらうことで、集めた消費者の需要を満たすことになる。その場合、市場価格よりも高い罰則的な料金(インバランス料金)を支払わなければならない。

その高い料金の支払いを避けるために、新電力ができるだけ高い価格で入札をしていった結果、競争が激しくなり、それに応じて価格がうなぎのぼりに高くなっていったわけだ。

安田特任教授は、この点について

「価格が高くなること自体はさほど問題ではありません。それが、3週間にわたってずっと続いたことのほうが問題なのです」

と指摘する。

卸電力価格の高騰自体は海外の市場でも見られる現象だ。ただし、通常、価格の高騰は電力供給が不足しそうなごく一部の時間に、短期的に発生するものだ。

今回注目しなければならないのは、「なぜ市場高騰が『長期間』続いたのか」という点である。

JEPXの公表データを見ると、2020年12月25日と26日を境に、発電事業者から売り入札量が明らかに落ちていることが確認できる。

卸電力市場では、発電事業者が市場で売る電力量は、取引が確定した電力量(約定量)に比べて多くなる(売れ残る)ことが一般的だ。これは、売れ残りが無いと、万一発電量が不足したときに調整力が無くなってしまうためだ。

しかし現実には、12月26日に売り入札量が激減して以降、売り入札量と約定量がほぼ一致する状態が3週間ほど続いた。つまりこの期間、市場に提供された電気は「ほぼ売り切れ状態」になっていたわけだ。

安田特任教授は「国際的に電力市場を研究している立場としては、(こうした状態になることを)見たことが無い」と話す。

電力の寡占市場が孕むリスクの非対称性

気温と買い入札

気温が下がっても、電力需要はそこまで増えていない。

出所:「JEPX 2020年スポット市場取引結果」などをもとに安田特任教授が作成

日本では、国内の発電電力量の約8割が、いわゆる電力会社である「旧一電(=旧一般電気事業者)」の発電部門によって作られている。

つまり、電力市場は、旧一電に売り手の大半を依存した寡占市場といえる。

安田特任教授は、こういった市場ではたとえ悪意がなかったとしても、市場支配力を持つ企業がたまたま同じ行動を取ることによって、市場価格に大きな変動がもたらされてしまう懸念があると指摘する。

今回の価格高騰のきっかけは、12月25日と26日の境に起きた市場への売り入札量の減少だ。

問題となるのは、そこに「正当な理由があったかどうか」である。

経済産業省は、市場価格が高騰した理由として、「寒波の到来による電力需要のひっ迫」「火力発電所の燃料となるLNGの供給不安」などを挙げている。

しかし、安田特任教授が公開データを調べたところ、気温の低下にともなう市場における電力需要の高まりや、LNG在庫量と市場への電力供給量は、相関関係が薄かった。

LNG

LNGの在庫量と、卸電力市場へ供給される電力量はそこまで相関していない。

出所:「経済産業省 第29回電力・ガス基本政策小委員会資料」などをもとに安田特任教授が作成

また、確かに年末年始にかけて電力需給のひっ迫が懸念される状況は生じていたものの、結果的には、他社からの電力融通を受けても、供給余力が3%を切る「電力ひっ迫」の状況までに至っていない。

これは、電力広域的運営推進機関(OCCTO)からの指示により、各エリア間で発電設備を最大限活用し、互いに電力を融通しあった現場の尽力の結果だ。

実は、1月6日には同機関から各発電事業者に対し、発電設備を最大出力で運転するとともに、余剰電力を市場に供給するよう指示が出ていた。

もしこの指示通り発電設備を稼働させていたのであれば、実際に「電力ひっ迫」が起きていなかった以上、余った電気が市場に提供されていなければおかしいことになる。

電力ひっ迫

1月以降、確かに電力供給が不安視される時期はあったが、結果的に全国で予備電力が3%を下回る「電力ひっ迫」の事態は回避された。

出所:経済産業省 資源エネルギー庁「電力需給及び市場価格の動向について」2021年1月19日付

さらに、火力発電所の燃料となるLNGの供給不安についても疑問が残る。

たとえ供給余力があったとしても、発電し続ければ将来的には燃料不足に陥ってしまうため、燃料在庫を維持するために発電を抑制することは十分考えられることだ。

ただし、

「もしそうだとすれば、なぜ公開されている情報とは異なる情報(=発電継続が燃料不足につながることを示唆する情報など)をもとに、発電事業者が市場行動(売り入札量の抑制)を判断したのかという問題が出てきます。これは、市場の透明性に関する問題にもなります」(安田特任教授)

市場の適正かつ公正な運用を行うためには、最低限、市場に参加するステークホルダーが同じ情報をもとに判断できる状況でなければならない。

提供する電力量を抑制した要因として、寒波による電力需要への不安や、LNGの在庫量に対する懸念などは確かにあったのかもしれない。しかし、もし発電事業者側の行動に合理的な判断があったとしたら、今度は現段階の情報公開ルールに不備があるといえるだろう。

市場プレーヤー間の「情報の非対称性」によって、結果的にそこで背負うリスクも非対称になっている状況だ。

寡占市場に必要な「市場支配力の排除」

需要曲線

電力・ガス取引監視等委員会では、1月22日以降、市場取引で最高価格をつけた需要曲線を公開するようになった。

撮影:三ツ村崇志

また、今回の価格高騰は、市場を監督する側(規制官庁)にも課題を残した。

寡占市場では、前述した通り、たとえ悪意があろうとなかろうと、市場支配力を持つ可能性のある企業の行動によって簡単に異常な値動きが起こりうる。

「(規制官庁は)寡占プレーヤーによる市場支配力が容易に行使されないように市場設計をするのが基本です」(安田特任教授)

海外では、「市場支配力低減措置」と呼ばれる仕組みが導入されている場合もある。

これは、寡占企業による売り惜しみがあったり、意図しない異常な値動きがあったりした際に、自動的に販売価格などに上限をかける仕組みだ。

しかし、今回の価格高騰においては、異常な値動きが見られた直後にそれを抑制できる仕組みが存在しなかった(※)。これは、市場のルール作りにおける課題といえるだろう。

※経済産業省は1月15日に、1月17日以降のインバランス料金の上限を200円/kWhにする緊急対応を発表している。

市場経済では、値動きに対するリスクは個人が背負わなければならないのが原則だ。

しかし、その前提として、あらゆる市場で公正な取引が行われるように、政府などによって規制の枠組みが決められている。とりわけ寡占市場では、強い市場支配力を抑制する仕組みが、信頼される市場を構築する上で重要とされている。

「日本のJEPXの市場設計は、正直言って未成熟ではないかと思います。ただ、まだ全面自由化してから5年しか経過していないので、仕方がないことだとは思います。だからこそ、こういった異常な出来事が起きた場合には、どこに原因があったのかをうやむやにせず、設計を見直さなければいけないと思います。そうしないと市場は信頼を得られません」(安田特任教授)

(文・三ツ村崇志

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