コロナ移住は本当に起きている?東京都の転出超過で人気の地にみるある法則

sawadaiju

筆者も2020年6月、東京から淡路島に移住した。コロナ移住は本当に増えているのだろうか。

撮影:澤田晃宏

東京都の転出超過が止まらない。一度目の緊急事態宣言後の2020年5月に東京都からの転出者が転入者を上回る「転出超過」となり、翌6月は転入者が上回ったものの、その後は転出超過が続いている。

日本最大の移住相談センター「ふるさと回帰支援センター」(東京都千代田区)の高橋公理事長は、コロナによる移住への関心の高まりを確かに感じている。

「これまで移住を検討していた人が、背中を押された感じです。メールや電話の相談が中心となりましたが、本気度が違います」

ただ、コロナ後に移住に向かい始めた人たちは、これまでと少し動きが異なるようだ。

住民基本台帳人口移動報告

東京都では6カ月連続の転出超過を記録した。

出典:住民基本台帳人口移動報告(総務省統計局)

東京から100〜150キロ圏内が人気

「在宅勤務の増加で毎日会社に行く必要がなくなり、東京から少し離れてもいいから、大きな家に住みたいという需要が多い。通勤圏内ギリギリの、東京を中心とした100~150キロ圏内の地方都市の人気が上がっています」(高橋理事長)

高橋理事長

高橋理事長は「コロナの影響でイベントやセミナー開催に制限はあるが、電話やメールでの相談は急増している」と話す。

撮影:澤田晃宏

2020年6月から9月の移住先の相談数(電話・メールも含む)を都道府県別に見ると、前年を大きく上回るのは東京に隣接する茨城県(前年比2倍)、山梨県(前年比1.8倍)、神奈川県(前年比1.6倍)、群馬県(前年比1.5倍だ。

前年比で最も相談数が増えている茨城県の移住相談員はこう話す。

「特に県南地域への移住相談が多く、東京からの近さが優位に働いていることが一つの要因と感じています。海も山もあるのんびりとした環境でありながら、1~3時間で首都圏へ出られる距離の近さが、茨城県のポイントになっていると思います」

最も人気なのはつくば市だという。都心部からは秋葉原駅とつくば駅を結ぶ鉄道路線「つくばエクスプレス」では45分(快速の場合)という近さだ。JRの在来線快速に乗れば、上野駅まで約40分という取手市にも注目が集まっているという。先の移住相談員はこう話した。

「がらりとライフスタイルを変えると言うよりかは、引越しに近い感覚です」

出社が月1回なら新幹線で

IT企業、ビッグローブ社員の平澤庄次郎さん(36)は、2020年8月末に神奈川県小田原市に移住した。

移住前は「とにかく満員電車が嫌」で、品川区の会社から徒歩10分の家賃7万8000円の賃貸アパート(19平方メートル)に住んでいた。しかし、コロナ感染拡大の影響で2020年4月からは出社が月1回に。会社の近くにいても意味はないと感じ、7月には移住を決意した。

「月に一度は必ず出社しなければならないし、何かあったときにすぐに東京に行ける状態にしたかった。移住先選びで最も重要なポイントは新幹線の駅があることでした」

小田原、品川間は新幹線でわずか26分。品川から在来線に乗り換え、会社最寄りの「品川シーサイド駅」を経て会社までは、ドア・ツー・ドアで約1時間。在来線を乗り継いでも1時間半という近さだ。

会社からは乗車券のみが交通費として認められているため、帰宅時は在来線でのんびり帰ることが多いという。

平澤さん

平澤さんは別荘地で知られる静岡県の伊豆高原出身。実家に戻ることも考えたが、都心への電車も少なく、さすがに遠いと諦めたという。

提供:平澤さん

平澤さんは、こう話す。

「家賃は以前と比べ1万5000円下がり、広さは倍になりました。小田原駅には立派な駅ビルがあり、スターバックスやドン・キホーテなど、何でもあります。地方移住したつもりが、自分が以前住んでいた東京の住宅街より都会的です。しかも、駅前を少し離れれば自然環境が豊かで、新鮮な魚を食べられます」

子育て世代が環境求めて郊外に

コロナ下で「低密」な地方に移る人が増えたのは確かだろうが、実行に移せるのは平澤さんのようなIT企業の関係者など、限られた一部の人だろう。それも東京の仕事を続けるため、月数回の出社のために東京近郊エリアにとどまる「リモートワーク移住」になる。

東京都の転出超過が続いている内訳を年代別で見ると、30代以上の子育て世代が多い。子育てのために少しでも広い家やいい環境を求めてということなのだろう。20代では依然として東京への転入超過が続いている。

群馬県内に移住したベンチャー企業勤務の男性(34)はこう話す。

「最初の緊急事態宣言下で子どもの保育園も休園になり、家族全員が自宅で過ごす生活になった。夫婦ともにリモートだと家は狭く、マンションでは子どもが家の中を走り回ると下の階の人に迷惑をかけていないかを心配するなど、余計なストレスが増えた」

都心のマンションもすぐ売れた

コロナ後に、むしろ、都心に居を移した人もいる。

千葉商科大学准教授で、『「就活」と日本社会』など働き方に関する多数の著書がある働き方評論家の常見陽平さん(46)は、2020年7月に東京都墨田区内のマンションから、大田区内の戸建住宅に引っ越した。

常見さん

「夫婦ともにリモートワークが続くが、一軒家だとストレスにならない」と大田区の新居前で話す常見さん。

提供:常見さん

マンション売却に向けて動き出したのは、緊急事態宣言発令後のことだ。コロナ化で地方移住への関心が高まるなか、なぜ、より密となる都心への引越しを決めたのか。

きっかけはやはり子育てだったという。常見さんには3歳の娘がいる。

刺激と安らぎの両方がある場所で娘を育てたいと考えたのがキッカケだったという。



「以前住んでいた墨田区は、東京の下町風景の残るいい場所でした。いい子には育つかもしれませんが、それだけでは社会の荒波に打ち勝っていけません。会社組織のなかでも、本人の能力より、動じない人間が評価されたりします。帰国子女やTOEIC900点なんて言葉に引け目を感じないよう、小さい頃から刺激のある環境で育てたいと考えました」

以前住んでいたのは墨田区内の3LDのマンション(75平方メートル)。築15年の低層階のマンションは売れるのか——。

売却までに1年ほどかかると予想していたが、不動産会社を通して物件を公開し、ゴールデンウィークから物件見学の予約を開始すると、あっさり2組目の見学者で売却が決まった。子育て世代の若い夫婦で、購入時(3400万円)より高い値段で売れた。

そして水害リスクが少ない大田区の高台エリアに戸建て住宅を買った。間取りは4LDKで、2階建てだが、半地下に駐車場もある。仲介手数料や新たに買い入れた家具の費用も含めると、8000万円を超える買い物になった。

とはいえ、コロナが収束すれば、働き方は劇的に変化することに、常見さんは懐疑的だ。

「リモートワークを推奨し、積極的に推し進めているのは、まだ一部の意識の高い大企業。働く側にとっても、会社はオフィス機材がそろっているし、話したいことがあれば直接すぐに話ができます。リモートワークが進むIT業界でも、緊急事態宣言の解除後にサイバーエージェントが原則出社に戻すなど、その対応は企業によります。リモートか否かではなく、うまく組み合わせる方向に向かうのではないでしょうか」

だから、「コロナで移住する人はまだまだ限定的ではないか」とも指摘する。

常見さんの新居の書斎

常見さんの新居の書斎。当初は賃貸物件への引越しも考えたが「ローンが通るなら買っちゃえと決断しました」。

提供:常見さん

不動産業界は「駅近より広さ」

不動産業界を見ても、東京首都圏の需要は大きく変わらない。

不動産経済研究所の「首都圏・近畿圏マンション市場予測」によれば、2020年1~11月の平均価格は6254万円で、1990年以来、2度目の平均6000万円台にという高値だ。マンション供給数は、2020年は前年比21.9%減の2.44万戸の見込みだが、2021年は前年比31.1%増の3.2万戸とコロナ以前の水準に戻る見通しだ。

一都三県のマンション価格の動き

注※( )内は平米単価。2020年は1~11月のデータ

出典:不動産経済マンションデータ・ニュース(不動産経済研究所)

住宅評論家の櫻井幸雄さんは、都心や駅近志向はコロナ後も変わらないと話しながら、リモートワークの普及により、優先事項が「駅近」から「広さ」に変わり、都内ではこれまで注目されなかったエリアまで需要が広がっていると指摘する。

「緊急事態宣言が出た当時は、これからはリモートワークが普及していくのではないかと期待する人が多く、広い家を探して東京近郊の郊外都市に人気が集まりました」

神奈川県なら相模原市、藤沢市、埼玉県ならさいたま市緑区、東京なら多摩ニュータウン、千葉県なら千葉市、柏市、松戸市などに注目が集まったという。

しかし緊急事態宣言が解除され、感染者数も減ってくると、状況は一変。出社が求められ、再びコロナ前の社会に戻るのではないかという空気感が強くなった。

2021年1月8日に品川駅で撮影された写真。

2021年1月8日の品川駅。感染者数は爆発的に増えていたが、マスクをして出勤する人で通路は混雑していた。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

「郊外からでは通勤時間がかかり、密な状態に長くいることから、自宅に帰るとばい菌扱いされてしまう。そこで注目されるようになったのが、江東区南砂や北区赤羽など、23区ギリギリのエリアです。駅前は高いですが、駅から徒歩15分以上となると、価格が下がります。『駅近』を我慢して『広さ』を求める動きが強まっています」(櫻井さん)

人材派遣大手のパソナグループが本社機能を兵庫県の淡路島に移す動きなどもあって、コロナ移住が一気に加速するかと思われたが、全体を見れば限定的だ。

東京一極集中の是正を掲げる政府が、新たにテレワーク移住の補助金を創設するなどの動きもあるが、まだまだ実行に踏み出せない人は多いようだ。

(文・澤田晃宏


澤田晃宏:ジャーナリスト。1981年神戸市出身。週刊誌「AERA」記者などを経て、フリーランス記者に。2020年、コロナ後に兼業農家を目指し淡路島に移住。教育困難校向け進路情報誌「高卒進路」(ハリアー研究所)編集長。著書に『ルポ技能実習生』。取材対象は高卒就職、外国人労働者、農業、漁業、地方行政。twitter: @sawadaa078

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