20世紀初めの創業以来、石油生産を事業の柱としてきたロイヤル・ダッチ・シェル。同社は2021年2月11日、よりクリーンなエネルギー源へシフトしていくための計画を発表した。これは、2050年までに自社の温室効果ガス排出を実質ゼロに削減するという宣言に基づくものだ。
ベン・ファン・ブールデンCEOは投資家に対し、シェルの石油生産は2019年に、そして全社での温室効果ガス排出は2018年に既にピークを迎えたと話した。今後は石油生産を毎年2%縮小していくという。
石油を減少させる分、温室効果ガス排出量がより少ない、クリーンな水素や電力などの販売を増やしていくことで、シェルは今後もエネルギー業界でのポジションを維持する計画だ。
ファン・ブールデンCEOは投資家へのプレゼンの際、「私たちは今後、違うものを売っていく必要があります」と述べている。
その一例として、シェルは今後10年間で電力販売を倍増させる目標を立てている。また、電気自動車(EV)向けの充電スタンドも増やす予定だ。
BPなど欧州の石油大手企業は、温室効果ガス排出量を減らすために戦略を見直しているが、そのアプローチはさまざまだ。例えばトタルは、太陽光発電所や風力発電所などクリーンエネルギーの施設の開発に注力している。
シェルは今回の発表で、1株当たりの配当を毎年4%ずつ増やしていく目標も発表した(石油価格の急落により、2020年の春、シェルは戦後初めて配当額を減らしている)。
シェルは今後、石油事業を徐々に縮小させていく中で、どのように存在感を維持しながら利益を出していく計画なのか。75ページに及ぶ同社のプレゼン資料の中から8枚を抜粋して解説する。
今後30年間で売上における二酸化炭素の「濃度」を下げていく
Shell
シェルの温室効果ガス排出のピークは2018年で、今後は2050年までに実質ゼロにまで減らしていくという。
ここで注目したいのは、この目標には自社の操業からの排出だけでなく、販売したエネルギーからの排出も含まれる点だ。
電力やバイオ燃料などの販売に注力する部門を新設
Shell
電力販売を2030年までに倍増させ、運営するEVの充電スタンドを250万カ所まで増やす予定だ。また天然ガス事業も創設する。
排出削減の一環として、森林などの二酸化炭素吸収源や温室効果ガスを回収する機械を活用し、大気から二酸化炭素を取り除く能力も強化する。
低炭素戦略のカギはガソリンスタンド
Shell
他の石油メジャー同様、シェルは膨大な小売拠点網を持っている。
低炭素航空燃料の販売やEV向けの充電スタンドなどを今後展開していくにあたり、現在運営しているガソリンスタンドを含むサービスステーション4万6000カ所を活用していく予定だ。
ちなみに比較対象として、マクドナルドが世界で展開する店舗数は3万6000店だ。
大きく変わるガソリンスタンドの未来
Shell
シェルのガソリンスタンドでは、2050年までにEV向けの充電スタンドも兼ねることになる可能性が高く、さらに水素燃料電池で走行する車両にも対応する可能性がある。
電力会社並みに電力販売を拡大
Shell
見落とされがちだが、石油メジャーは他の業界でも大きなシェアを持っている。例えば、シェルは北米において電力卸業界のトップ3の一角を占めている。
そこからさらに規模拡大を目指し、2030年までには年間560TWhの電力を販売する計画で、これは現在の2倍の電力量となる。
まだ詳細は明かしていないものの、現在のグリッド経由の電力よりクリーンな電力を販売したいとも述べている。
低炭素への取り組みにおける水素ガスの重要性
Shell
産業プロセスやよりクリーンな物流のために使われる水素への需要は、今後30年で爆発的に伸びるという。
シェルは「過去数十年間で蓄積してきた水素の小売ノウハウ」を武器に小売大手になることを目論んでいる。やはりそこで強みになるのが、ガソリンスタンドのネットワーク経由での販売だ。水素燃料の運搬用にパイプを変更することもできる。
シェルは傘下のシェル・ベンチャーズを通して、航空機向けの水素燃料による動力機関を開発するゼロアビア(ZeroAvia)にも最近出資している。
まず自社用水素の供給を開始。2035年までには水素ステーションの大規模ネットワークを構築
Shell
しかし、調査会社のウッドマッケンジーによれば、2050年になっても、燃料電池を動力とする車はまだ世界の自動車販売のほんの一部にすぎず、2050年に販売される自動車の多くはEVまたはプラグインハイブリッドだと予想されている。
直近のプロジェクト予算の多くはまだ化石燃料向け
Shell
シェルは短期的には設備投資額を最大220億ドルとしており、そのほとんどが石油とガスの生産に向けられている。
最大60億ドルが再生可能エネルギー、電力販売、マーケティングへの配分となっており、この中には燃料や潤滑油が含まれるという。
スライドが示すとおり、化石燃料がまだ多くを占める理由の一つとして、再生可能エネルギーと比較して投資リターンがはるかに大きいことが挙げられる。
つまり、シェルは自社改革を行う資金を得るために、石油とガスに頼ることになる。
(翻訳・田原真梨子、編集・常盤亜由子)