「フードデリバリーは高い」は本当?手数料がかかっても、ウーバーイーツや出前館が使われる「納得の理由」

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フードデリバリーサービスが普及し、食品を運ぶリュックを背負った配達員を見ない日はなくなった。

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営業時間の短縮や3密の回避など、コロナ禍で苦境のさなかにある飲食店の“救いの神”的な役割を果たして注目を浴びているのが、フードデリバリーサービスだ。

その代表格ともいえるのが「ウーバーイーツ(Uber Eats)」。東京の街中ではいまや、大きな四角いバックを背負って自転車に乗る配達員の姿を見ない日はない。

経済センサスによると、日本の飲食店数は59万店(2016年調査)。一方、宅配を代行するウーバーイーツの加盟店は3万店超、ライバルと目される「出前館」の加盟店数は5万店(2020年12月の発表)と言われており、数字だけ見るとまだまだ拡大の余地がありそうだ。

これから使おうと思っている人、すでにヘビーユーザーという人、さらには配達を委託する飲食店側、いずれにとっても気になるのはやはり「配送手数料」ではないか。

「クロネコヤマト」や「ゆうパック」といった宅配便の料金相場は多くの人が何となく想像できると思う。しかし、ウーバーイーツの歴史は浅く、配送手数料がどのくらいかかるのか、それが適切な料金設定なのか、わからずに使っていたり、使うのをためらったりしている人も多いと思う。

デリバリーサービスの配送手数料は妥当なのか。店内で料理を食べるイートインの場合と比較すると、その答えが見えてくる。

注文料金の約4割が手数料に

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出前館では2021年1月より、配達代行手数料を30%から25%に引き下げた。

REUTERS/Issei Kato

飲食店がデリバリーサービスに支払う配送手数料・サービス利用料は決して少なくない。

注文代金に対する比率でみると、ウーバーイーツ、出前館ともに35%程度に設定されている(※)。

フードデリバリーの手数料……ウーバーイーツは詳細を公開していないが、飲食店専門のメディアやSNS等を参考にすると、飲食店が負担する標準的な「手数料」は売上額の35%程度とみられる。出前館は「サービス利用料10%+配達代行手数料25%(2021年1月以降、それ以前は30%)」としている。

料理の値段をイートインの場合と同額に設定し、配送手数料をまるごと負担する飲食店もあれば(この場合、消費者には「配送手数料ゼロ」と表示される)、料理をイートインの場合よりも割高に設定し、配送手数料の一部あるいは全部を含めることで、お客さんに負担してもらう飲食店もある。

ここで、飲食店のコスト構造を見てみよう。

業態や立地により異なるので一概には言えないが、一般的に飲食店の売上高を100%としたとき、コストは大まかに「食材費30%、人件費30%、家賃10%」、さらに諸経費20%を差し引いて、残り10%が利益になると言われている。

イートインとデリバリーを比較するため、人件費と家賃を便宜的に「厨房」「ホール」の半分ずつに分けてみよう(料理人が5人で、ホールが1人といったこだわりの飲食店はこの際考慮しないこととする)。

・食材:30%

・人件費(ホール):15%

・人件費(厨房):15%

・家賃(ホール):5%

・家賃(厨房):5%

飲食店の視点で考えると、デリバリーを利用する客は、ホールでの接客を受けない。なので、ホールにかかる人件費15%プラス家賃5%の合計20%は、宅配サービスに支払っても問題なさそうだ。

しかし20%では、35%というデリバリーサービス配送手数料の半分超にしかならない。飲食店はさらに追加で売り上げの15%ほど支払う必要があり、その他諸経費を削れないとなると、虎の子の利益を削るしかない。

やはり配送手数料の負担は飲食店にとって高すぎる……のだろうか?

「マーケティング」と「決済」も含めると…

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新型コロナの影響で、飲食店街の人出は減っている。2021年1月15日撮影。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

もし本当に飲食店が「手数料が高すぎる」「必要な利益が出ないから無理」と感じているなら、現在のようなデリバリーサービスの活況はないはずだ。

したがって、飲食店にとってデリバリーサービスの利用は、イートインの場合にかかる接客コストを削減する以外に、何か別の価値が得られていると考えるのが自然だ。

ここからは、バリューチェーン(※)に沿って飲食店の営業活動の実態を整理して考えてみたい。

※バリューチェーン……商品の製造や販売、流通、人事管理など事業活動を機能ごとに分類し、それぞれが生み出す付加価値を分析し、戦略の有効性や改善の方法を探る考え方。

バリューチェーンの上流側には、潜在顧客に自らをアピールする「マーケティング」、下流側には代金を支払う「決済」がある。

これらにかかる費用を口コミグルメサイトを例に類推してみよう。

まずマーケティング。口コミサイト大手「食べログ」は、ディナーを予約する際、1人あたり200円の手数料を徴収している。飲食店の立場から見れば、5000円の食事をするお客さんへのマーケティング費用が売上高の4%になることを意味し、(飲食店側の利益が売上全体の10%程度にすぎないことを考えると)無視できない金額だ。

次に決済。来店客が食事代金を電子決済サービスで支払った場合、飲食店が決済事業者に支払う手数料の相場は代金の3%強。

マーケティング費用と決済手数料を合計すると7%強。飲食店のホール運営にかかる費用はすでに書いたように20%程度と計算できるので、合わせて27%強。

飲食店が35%の手数料を支払ってデリバリーサービスを使う判断まで至るには、このホール・マーケティング・決済のコスト27%強がすべて必要なくなるとしても、あと8%程度の付加価値がないと割高ということになる。

忘れてはいけない「移動費」

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バリューチェーンのさらに上流には、「お客さんが店舗まで移動する」という活動がある。これを忘れてはならない。

飲食などのサービス業は、製造と消費が同時にならざるを得ない。言ってみれば「同時性」が大きな特徴だ。サービス業の多くは、顧客に店舗への移動を強いる。

例えば、往復500円の交通費を支払って5000円のディナーを食べるとする。労力や時間(経済学で言うところの機会費用)を加味すれば、その費用は5500円以上に相当すると考えていい。

飲食店がフードデリバリーに転嫁する残り8〜13%の付加価値は、まさにこの移動などの費用であり、イートインであれば客側が負担するコストと言えるだろう。

フードデリバリーとIKEAの共通点

ここで重要なのは、サービス業に限らず、あらゆる商売には売り手と買い手が存在し、双方の間で価値の移動が生じ、対価の支払いが生じるという視点だ。

ただし、価値の創造や移動といった一連の活動の「主体を固定化」して捉える必要はない。これはどういう意味かというと、スウェーデン発の家具大手IKEAを想像してもらえるとすぐにわかる。

IKEAビジネスの核心の1つは、家具の組み立てという活動を売り手から買い手に移すことで、低価格と豊富な品ぞろえを実現したことだ。上の文脈に沿って言えば、IKEAは意図的に組み立てという価値創造活動の主体を、自社から顧客に移したわけだ。

同様の発想で、飲食店はデリバリーサービスを活用することで、移動という活動の主体をお客さんから店側に(さらにそれを配送代行会社に)移したと理解できる。

バリューチェーン上の価値提供活動の主体や、価値の提供方法を見直すことは、ビジネスモデル検討の第一歩だ。今回は新型コロナ感染拡大による環境変化がきっかけとなったが、ほかに行政当局による規制の変化や技術革新も、バリューチェーン組み換えによる新しいビジネスモデル検討のきっかけになり得る。

そんなわけで、冒頭の「デリバリーサービスの配送手数料は高すぎるのか?」という問題設定の答えは、飲食店にとってもお客さんにとっても、ひとまず対価が全然不釣り合いということは決してない、となるだろう。

参入相次ぎ、今後は価格低下も予想

バリューチェーンに沿って飲食店の営業活動を考えてみたが、デリバリーサービスの活用を持ち上げすぎたきらいもある。実際は、店舗でしか得られない体験があるという意味で、イートインが劣後するわけではない。

デリバリーサービスの出現という「選択肢の増加」に直面して、顧客はいま自らが求める価値とその対価の均衡点を探っているところだ。

飲食店はイートインにしてもデリバリーにしても、顧客の要求に応じてサービスと価格を再設計していかなければならない。対価として不釣り合いとは言えないと結論したが、デリバリーサービスの料金はこの流れに呼応して変化していくだろう。

デリバリーの比率が高まれば、飲食店はホールを小さくして厨房を大きくする必要があるかもしれない。店舗の立地も繁華街である必要がなくなるかもしれない。宅配ピザのようなデリバリーを前提にした業態(最近は「ゴーストレストラン」などと呼ばれる)も増えるだろう。

新規参入も相次ぐ。ウーバーイーツや出前館以外にも、北欧から上陸した「ウォルト(Wolt)」などのように、新たなデリバリーサービスの進出はすでに始まっている。当然、配達員の数も増えているはずだ。

競争激化がこのまま進めば、デリバリーサービスの配送手数料は下がると予想される。

しかし、顧客(この場合、飲食店もまたデリバリーサービスの顧客だ)の求める輸送品質と価格の均衡点はたった1つというわけではない。

単純な手数料競争で勝者と敗者が分かれるのではなく、より高品質な料理の提供に特化するなど、品質でカテゴライズされたいくつかのデリバリーサービスが生き残るのではないだろうか。

(文・上野善信


上野善信(うえの・よしのぶ):金沢工業大学虎ノ門大学院教授。新日本製鐵株式会社にて製造系・流通系のシステム導入、i2テクノロジーズ社製ソフトウェアによるSCM導入コンサルティングに従事。アサガミ株式会社(倉庫・物流・印刷業)取締役、PwC PRTM(戦略・SCM・R&Dコンサルティング)ディレクター、キャップジェミニジャパン(ITコンサルティング)代表取締役などを歴任。東京大学工学部卒、UCバークレー工学部大学院・MIT経営大学院修了、東京大学工学系研究科技術経営戦略学専攻修了(博士工学)。

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