楽天は2020年通期決算を発表した。
撮影:今村拓馬
楽天は2月12日、2020年度通期決算を公表した。売上高は1兆4555億円と前年同期比15.2%増。一方で、営業損益は1027億円の赤字とモバイルや物流などといった事業への投資がかさんだ。最終損益は1141億円の赤字。
楽天の2020年がどんな1年になったのか。同日の決算会見や会長である三木谷浩史氏の発言から見ていく。
1. 楽天モバイルの契約数は「想定以上」
モバイル事業の業績推移。
出典:楽天
新プランを発表した直後の決算会見だったこともあり、取材陣からの質疑の多くはモバイル事業に集中した。
楽天のモバイル事業は、2020年第4四半期では451億円の売り上げに対し、725億円の営業損失を計上している。
楽天モバイル社長の山田善久氏は損失額の内訳について明言しなかったが、「ネットワークを(前倒しの計画で)構築している故の損失」と語っている。
また、楽天モバイルは累計契約申込数が2月8日時点で250万を突破したと発表。これについて三木谷氏は「当初想定したよりも早い」と語り、「今の申込者数が続くなら、(ネットワーク設備のキャパシティーが)正直に言って足りなくなる」と、投資の必要性に言及している。
2. モバイル事業に巨額の投資をする意味
楽天はRCPのサービスビジネス化をグローバルで進めている。
出典:楽天
楽天は、同社がモバイル事業に投資を続けるメリットについて、具体的な内容も示し始めた。
1つは、楽天モバイル自体でも活用している技術基盤「Rakuten Communications Platform」(以下、RCP)の外販ビジネスだ。既にRCPを何らかの形で活用すると決めた事業者は全世界で11社あり、楽天は潜在顧客はまだ70社弱存在するとしている。
モバイルの損失額と同様に、売り上げについても詳細は明らかになっていないが、三木谷氏は「今はどれだけとは言わないが、(RCPの売り上げは)かなり(の量)にはなっている」「とても大きなポテンシャルがある」と、将来性の高さとその実現性について自信を見せた。
楽天モバイルユーザーは、非モバイルユーザーに比べて、楽天市場でより多く購入する。
出典:楽天
もう1つ重要な指標は、楽天モバイルによる楽天ポイントや会員制度を基盤とした自社経済圏への貢献度だ。
楽天によると、2020年5月に楽天モバイルへ新規加入したユーザーの「楽天市場での利用額」を加入前後で比較すると44%増であり、楽天モバイル非加入者の同時期の購入傾向は13%増にとどまる。つまり、モバイル事業が他の自社サービスに与えている、というシナジー効果を強調した。
Rakuten UN-LIMIT VIの概要。
撮影・伊藤有
楽天が1月29日に発表した新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」は、月間データ使用量が1GBまでであれば、1回線目の基本料金が0円になるという破格のプランだ。
現時点までも同社は「1年間基本料(2980円)が無料」というキャンペーンを続けているが、本来であればキャンペーン終了後は収益性が一定程度上がる見込みだった。
しかし、ユーザーの使い方によっては、その計画も見直す必要がある。楽天としてはRCPによる売り上げおよびグループ全体のシナジー効果を見て、モバイル事業を総合的に投資価値のある事業とみなしている。
3. 楽天も“EC特需”、送料無料化についてもコメント
楽天は2020年で初めて国内EC総流通額が4兆円を突破したと発表。
出典:楽天
最終的な決算の数値は投資により赤字ではあったが、モバイル・物流・投資事業を除いた営業利益は1480億円で、前年比37.6%増だったという側面もある。なかでも、売り上げを大きく伸ばしたのは、楽天市場を中心としたEC事業だ。
楽天市場、トラベル、ブックス、ゴルフ、デリバリー、ラクマなどを含む「国内EC流通総額」は2020年通期で約4.5兆円。前年同期比で19.9%増となった。
中でも2020年4四半期の成長は著しく、マーケットプレイスビジネス(市場、トラベル、GORAなど)の営業利益は2020年第4四半期に前年に対して+117億円となった。
EC事業担当で楽天副社長執行役員の武田和徳氏は、この要因をコロナ禍による「消費者行動の変化」とした。三木谷氏はそれに加える形で、2020年2月に公正取引委員会の立ち入り検査にまで発展した「送料無料化問題」についてもコメントした。
「(送料無料化ライン導入以前は)楽天の最大の弱点が“送料バラバラ”(というもの)だった。(現在は店舗の)9割近くが送料無料化ラインを導入している。紆余曲折あったが、この活動が功を奏していると思う」(三木谷氏)
4. 西友と進めるスーパーマーケットのDX
楽天は子会社を通じて西友株式の20%を所有している。
出典:楽天
質疑の中では、EC領域について、2020年11月に米KRRと共同で行ったスーパーマーケット「西友」の株式取得についてもやりとりがあった。
西友と楽天は既にネットスーパーでの協業(2018年8月プレローンチ)や、西友や系列の「サニー」「LIVING」など全国300店舗でのスマホ決済「楽天ペイ」の設置(2020年12月)などを進めているが、その本質はスーパーマーケットのデジタルトランスフォーメーション(DX)にある。
西友の株式取得について問われた武田氏は、狙いについて「ネットスーパー事業の促進」「楽天市場やポイントなどを基にしたデータの活用」「全国の実店舗を活用した物流網の強化」の3つとした。
西友の培ったノウハウやプラットフォームは、西友以外のスーパーを含めた小売り、流通などさまざまな業種にも適用できるよう開発を進めていく方針。三木谷氏は「とにかくDX、今はキャッシュレスだが、将来的には“ゼロキャッシュ時代”が来る」と、その意義について私見を述べた。
5.カード・銀行は変わらず存在感を発揮
楽天銀行の口座は1000万口座を突破した。
出典:楽天
最後に注目すべきは、決済や銀行などといったフィンテック分野だ。コロナ禍による特需はEC分野だけではなく、“非接触”などをテーマにフィンテック業界全体に追い風となっている部分がある。
楽天銀行については、2020年12月に預金残高が5兆円、2021年1月にオンライン銀行で初めて1000万口座を突破した。
楽天カードは、経済産業省が発表した「特定サービス産業動態調査」において、2020年11月末の国内ショッピング取扱高ベースのシェアが2015年比で2倍となる19.5%に増加。
楽天カードはコロナ禍の影響を受けたが、EC特需などもあり持ち直した。
出典:楽天
カードについてはコロナ禍初期や1回目の緊急事態宣言の前後で、取扱高ベースの成長が前年同期と比べて鈍化していたが、9月以降は復調。現在はコロナ禍前の水準まで持ち直している。
これらフィンテック事業は、モバイル以上に楽天経済圏との親和性が高い。楽天ポイントの「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」などの各種ポイントアップ施策といった、直接的な消費行動の喚起以外にも、自社内で銀行や決済をもつことで手数料などといった外部への資金流出が防げるからだ。
ほかの携帯電話事業者やネット事業者も同様の経済圏づくりを進めている。他社に比べて、経済圏確立に1歩も2歩もリードしている楽天が、2021年にどのような動きを見せるのか注目したい。
(文・小林優多郎)