2月19日早朝、火星探査車「パーサヴィアランス」が火星に着陸。18枚の画像でみる火星探査の現在地

着陸

着陸に向けて、火星に突入する瞬間のイメージ図。

NASA/JPL-Caltech

NASA(アメリカ航空宇宙局)の最新の火星探査機が、日本時間2月19日午前5時55分にいよいよ火星に着陸する。探査機の名前は「Perseverance(パーサヴィアランス)」。日本語にすると、「忍耐」という意味がある。

パーサヴィアランスは、2020年7月30日にフロリダから打ち上げられると、これまで約7カ月半にわたり火星への旅を続けてきた。

NASAが火星へと探査車を送り込むのは、2012年8月に火星に着陸した先輩にあたる「Curiosity(キュリオシティ)」以来、8年半ぶり(※)。そのキュリオシティも、稼働日数は既に3000日、総走行距離は24kmを超えた。

パーサヴィアランスは、その後継機に相当する探査車だ。

※2018年11月には、移動を伴わない火星着陸機「インサイト」の着陸に成功している。

火星に生命は存在したのか?

パーサヴィアランスの着陸工程の動画。

NASA Jet Propulsion Laboratory

「地球外生命を見つけたい」というのが、NASAが火星探査を進める本質の一つだ。

NASAは、火星探査プログラムのスローガンとして「Follow the Water(水を追え)」を掲げ、一連の探査を行ってきた。地球外生命体がいったいどのような姿をしているかは分からないが、少なくとも地球の生命を見た限り、水の存在が生命にとって欠かせない存在である可能性が高いためだ。

地球に生命が誕生したのは約40億年前。同時期の火星は、地球と同じように暖かく、水も豊富に存在していた可能性が高いことが明らかになっている。実際、キュリオシティはこれまでの探査によって、実際に水が流れていた痕跡を発見、「生命が存在できた環境」がかつての火星にあった可能性を見出した。

実際に火星に生命が存在していたことを確かめる重要な鍵になるのは、生命のもととなる「有機物」の発見だ。キュリオシティは、火星でごく微量の有機物を発見している。

ただし、生命の活動によって作られた有機物なのか、生命の存在とはまったく別のプロセスで作られた有機物なのか、現状では判断できていない。

そこで、パーサヴィアランスでは、「生命」の直接的な証拠となりうる有機物の探索を目指すとしている。

パーサヴィアランスには、レーザー光を当てるだけでそこに含まれている成分を判定できる装置が搭載されており、キュリオシティでは判別できなかった情報を知ることができる。さらに、パーサヴィアランスが火星の大地から掘り出したサンプルは、2020年代後半にNASAとESAの共同プロジェクトによって回収され、地球へと持ち帰られることになる。

火星の岩石を地球に持って帰ってくることができれば、その鉱物組成や含有物を詳しく調べ、格段に多くの情報が得られるはずだ。

多くの期待とともに火星へと着陸しようとしているパーサヴィアランス。

今後予定しているミッションを、これまで火星で奮闘してきたキュリオシティの成果とともに紹介しよう。


火星探査機パーサヴィアランスの最大の目的は、過去の生命(微生物)の痕跡を見つけること。

火星探査機パーサヴィアランスのイメージ図

火星探査機パーサヴィアランスのイメージ図。パーサヴィアランスは先代のキュリオシティの形状を踏襲し、ほぼ同じ大きさで外見も似ている。装置を加えた結果、パーサヴィアランスの方が126kgも重くなった。

NASA/JPL-Caltech


パーサヴィアランスの着陸地点はかつて湖だったと考えられている「ジェゼロクレーター」。

ジェゼロクレーター

ジェゼロクレーターは直径約45km。クレーターの左上から川が注いでいた跡がある。白丸は着陸予定地点を示す。

ESA/DLR/FU-Berlin/NASA/JPL-Caltech


ジェゼロクレーターは約35億年前には豊かな水をたたえていたと考えられている(想像図)。火星で生命が発生していたとしたら、このような湖は最有力候補だ。

ジェゼロクレーター(接近図)

NASA/JPL-Caltech


パーサヴィアランスはNASAの9機目の火星着陸機となる。最初に火星に着陸したNASAの探査機はバイキング1号。1976年のことだった。

探査機の到達点比較

NASA/JPL-Caltech


キュリオシティは度々、“自撮り”写真を地球へと送り届けてくれた。火星の地表は細かい砂で覆われていて、砂嵐も起こる。キュリオシティの機体についた砂埃が、火星の過酷な環境を想像させる。

キュリオシティの自撮り写真

キュリオシティの自撮り写真(ロボットアームの先についたカメラで撮影した複数の画像を繋ぎ合わせている)。キュリオシティ以前の探査車には太陽光パネルがついていたが、パネルが砂で覆われて発電できなくなることがあった。多くのエネルギーを必要とする大型探査車キュリオシティとパーサヴィアランスは、原子力電池を使う。

NASA/JPL-Caltech/MSSS


キュリオシティが撮影した「シャープ山」のふもとの「ヴェラ・ルービンリッジ」。鉄があるとされ、キュリオシティの主要目的地のひとつだ。多種多様の岩石は、火星の環境が変化してきたことを物語る。それらを一つひとつ調べるのが、キュリオシティの仕事だ。

ヴェラ・ルービンリッジ

ダークマター研究の第一人者、故ヴェラ・ルービン博士の名前から付けられた。手前から赤い岩、盛り上がって尾根状になっている”Vera Rubin Ridge”、灰色の泥の層、茶色の硫酸塩岩の層が見える。

NASA/JPL-Caltech/MSSS


シャープ山を少し登ったところから見下ろした眺望。キュリオシティは8年かけてここまで少しずつ登ってきた。

グリーンヒュー山麓緩斜面

2020年4月9日に撮影された28枚の画像をつなぎ合わせたもの。

NASA/JPL-Caltech/MSSS


火星では、探査車が地表を走って岩石や大気を調査する一方、周回衛星が上空から地形を撮影し、レーダーによって地下の氷を遠隔で探査する。多数の探査機を駆使した複合的な探査が行われている。

火星周回衛星マーズ・リコネサンス・オービターが上空から捉えたキュリオシティ

火星周回衛星マーズ・リコネサンス・オービターが上空から捉えたキュリオシティ。カメラの解像度が高いので、探査車もしっかり写る。キュリオシティは画像左上の斜面を登ろうとしている。

NASA/JPL-Caltech


キュリオシティは愛称で、正式名称は「マーズ・サイエンス・ラボラトリー」。キュリオシティ自体が移動する「実験室」だ。

岩石を掘るキュリオシティ

ロボットアームの先についたドリルで岩石を掘ろうとしているキュリオシティ。

NASA/JPL-Caltech


キュリオシティはドリルで岩石を粉砕し、内部の装置でその成分を分析した。火星の岩石は赤みを帯びているが、これは酸化鉄が含まれているせいだ。

キュリオシティが開けた穴

キュリオシティがドリルで火星地表に開けた穴。

NASA/JPL-Caltech/MSSS


キュリオシティは30億年前の泥岩の中から有機分子を発見した。火星地表で有機物が発見されたのは初めてだ。

キュリオシティと有機分子

また、大気中のメタンの量がわずかに季節変動することも明らかにした。メタンは岩石と水との反応や、地球上では生物の活動で発生する。これらの発見が生命と直接関係していると断定はできないが、火星探査の大きな一歩だ。

NASA/GSFC


キュリオシティは過去の水流作用で丸くなったとみられる小石を含む礫(れき)岩を見つけた。この岩石ができたころには、液体の水が地表を流れていて、今よりもずっと温暖な気候であったと考えられる。

礫岩

NASA/JPL-Caltech/MSSS


パーサヴィアランスはキュリオシティの後継機として、さらに詳しく生命の痕跡を探す。過去最多の計23台のカメラと、着陸時の音や火星の風の音を集める2つのマイクを搭載。

パーサヴィアランス1

NASA/JPL-Caltech


パーサヴィアランスには火星地表の岩石を採取して容器に入れる「サンプルキャッシングシステム」が搭載されている。これで、将来予定されている地球へのサンプルリターンの下準備をする。

パーサヴィアランス2

イメージ図。

NASA/JPL-Caltech


パーサヴィアランスが採取した岩石の試料は、将来の別の探査車によって回収され、地球へと持ち帰られる。

パーサヴィアランス3

イメージ図。

NASA/JPL-Caltech


パーサヴィアランスには惑星探査史上初のヘリコプターを搭載。名前は「創意工夫を意味する「Ingenuity(インジェニュイティ)」。火星に初めて人工物を飛ばすことになる。

インジェニュイティ

イメージ図。

NASA/JPL-Caltech


NASAのウェブページでは火星行きの搭乗券をつくることができる。

搭乗券

パーサヴィアランスのミッション分は終了、次回の分を作成できる。

NASA


パーサヴィアランスには事前に搭乗券を作った1090万人の名前が入ったチップが搭載されている。名前だけではなく、実際に人が火星に降り立つ日が待ち遠しい。

チップ

NASA/JPL-Caltechの画像から筆者作成


(文・小熊みどり)

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