幸せに働く人を増やしたい、駆け抜けた5年で何が変わり何が変わらなかったか

一般社団法人at Will Work

at Will Workの理事5人。2016年、「幸せに働く人を増やしたい」と、活動期間を5年と区切って設立した。

提供:at Will Work

日本の働き方をもっと多様にしたい、と期間を5年と決めて活動して来た一般社団法人at Will Work(以下、aWW)。2017年2月から年1回開いてきた「働き方を考えるカンファレンス」の最終回が2月24日に開かれる。

この5年間で、日本の働き方にはどんな変化があったのか。変えられなかった課題とは何か。そして働き方の未来は?

代表理事を務める藤本あゆみさんに聞いた。

「なぜ働くのか」に向き合う場を作りたかった

aWWのカンファレンスは毎年、先進的な働き方を取り入れている企業の経営者や、多様な働き方に挑戦する個人が登壇してきた。セッションプログラムの企画を担当してきた藤本さんは、最終回の内容を考えるにあたり、これまでのプログラムを全て見直したという。印象的だったのは、5年前から言っていることが変わらない企業がいくつもあったことだ。

「例えばユニリーバの人事総務部長の島田由香さんや、キャスターCOOの石倉秀明さんはコロナでリモートワークが注目される前から、場所や時間にとらわれない働き方がいかに個人が能力を発揮しやすくし、満足度をあげるかということを話していました。そうしたいくつかの企業には5年前から働くことに対する明確な“will”があり、それがブレていないということだと思います」

at Will Workという団体名は、企業も個人も「働く場」にはWiilが必要だ、という思いからつけた。新卒で一括採用され、年功序列で昇進し、定年まで勤め上げるという日本型雇用慣行の中では、明確なWillを持たない社員の方が企業側にも好都合だったし、個人も「何のために働くのか」を考えずに済んできた。

藤本さんは新卒で人材会社に就職、その後転職したグーグルではHappy Back to Workという育休から女性たちがスムーズに復職するためのプログラムを担当した。「幸せに働く人を増やす」、これが自身の働く強いモチベーションにもなってきた。だが、次第にモヤモヤした気持ちが募っていたという。

「日本は人口減少という社会構造や個人の人生観の変化が加速しても、なかなか働き方がアップデートされませんでした。だったら、『なぜ働くのか』に真正面から向き合う場所をつくろうと思ったんです」

変化をやめずに守り抜くべきものとは?

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虎屋の黒川会長(この登壇当時は社長)。500年という伝統企業の中で、変革を意識してきたという。

提供:at Will Work

多くの企業の「改革」が語られてきたセッションで特に印象的だったのが、虎屋の17代目社長(当時)、黒川光博氏(2020年6月で社長から会長に)の言葉だった。

500年という歴史がありながら、変化をやめないという挑戦心。と同時に、何を守るのかを考え抜く姿勢は、日本の大企業こそ学ぶべき点が多いのではないかという。

これまで多くの大企業にも登壇依頼をしてきたが、「うちは何も話すことないんで……」と断られることも少なくなく、大企業での改革の難しさも実感してきた。その中で今回、「企業と人の関係はこの5年間で変化したのか」というセッションには日清食品事業構造改革推進部長の深井雅裕氏が登壇。5年かけて、会社全体をどうやって構造改革しているかを話す予定だ。

「確かに大企業全社での改革となると時間もかかるし、経営者の覚悟も問われる。担当役員や担当者が数年で変わることもハードルの一つ。でも、できる部署からだけでも変えようと思えるかどうか。働き方改革について相談を受けたら、私は『小さく、早く、たくさん』改革を回すこと、と答えています。これは企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)でも同じことが言えるんですね」

新しい働き方の実験でもあった

藤本あゆみさん

at Will Work代表理事の藤本あゆみさん。今の「本業」はPlug and Playの執行役員。

提供:at Will Work

aWWがユニークなのは、5人の理事全員が本業は別にあり、副業として活動していたということだ。多様な働き方を推奨する自分たちが、実際「パラレルキャリア」「副業」という新しい働き方を試してみよう、という“実験”も兼ねていた。

藤本さんの今の“本業”は世界最大のアクセラレーターでベンチャーキャピタル(VC)であるPlug and Playの日本支社の執行役員(CMO)。何度かの転職する際の条件は「副業を許可してくれるか」だった。

国が副業や複業を推奨し、認める企業も少しずつ増えてきていることは、この5年間で働く現場で起きた一つの変化だが、藤本さんも職場全員がいつも賛同してくれていた訳でもない。その都度上司と交渉し、職場の理解を得るためにaWWの活動や副業の意義を伝え続けてきた。自身が経験したからこそ、副業の可能性も課題も見えた。

「2つの仕事を掛け持ちして良かったのは、掛け算のキャリアが築けたこと。本業で見えるDXの課題とaWWで見えた働き方の課題。この2つの課題は実は表裏一体の部分もあります。どちらだけの専門家だと見えない課題が見えたり、DXの課題を働き方の観点から解決するアイデアを出せたりしています」

より自由により主体的にを求める若年層

日比谷尚武さん

理事の一人、日比谷尚武さん。セクターを横断する「コネクタ」としても活動している。

提供:at Will Work

コロナを機にリモートワークが定着し、若い世代の中には、より自由に主体的に働きたいという欲求が強まりつつある。コロナによる働き方の変化は、5年の変化を加速させ、より一人ひとりの働くことへのWillが試される時代になってきた、と藤本さんは見ている。

「リモートより対面のコミュニケーションの方がラクなのは当然。それでもうちの会社は変わらないと嘆いたり、やっぱり元の方が良かったと戻るのでなく、いかにここで体験したことを無駄にせずに、変化を定着させるかを考えた方がいい」

新型コロナウイルスの感染拡大は、aWWのカンファレンスのあり方にも影響を及ぼしている。2月24日に開かれる「働き方を考えるカンファレンス2021 働くのこれから——「働く」は変わったのか?働き方の未来をつくる——」は、2020年に続きオンライン開催となる。

(文・浜田敬子

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