NPO法人「全国女性シェルターネット」が、パートナーからの性的DVについての声明を発表。性暴力に関する刑法が実態に即したものになっているかが議論されている法務省の検討会にも、「パートナー間の性暴力を扱う性犯罪を創設すること」などを求める要望書として提出した。
出産直後にセックスを強要された、避妊に協力してもらえず中絶を繰り返している、排泄行為を見られる……。
団体に寄せられた相談者の声からは、深刻な被害の実態が浮かび上がっている。
「性交渉に応じるのは妻の義務」
配偶者、パートナー間でも深刻な性暴力の実態がある(写真はイメージです)。
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NPO法人「全国女性シェルターネット」は、DV被害を受けた女性や子どものシェルター運営などを行う67の民間団体で構成されている。
同団体によると、配偶者間の性暴力は被害当事者も性暴力であると認識しにくいため、日常化、 深刻化する傾向があるという。根底にあるのは「性交渉に応じるのは妻の義務」「妻は夫の要求に従うもの」という意識だ。
以下は、全国女性シェルターネット加盟団体に寄せられた相談だ。
(※性暴力の詳細な記述があります。フラッシュバックなどに注意して下さい)
産後すぐセックス強要、避妊に協力しない、娘にも連鎖する性暴力
妻への性暴力が、子どもにも及ぶこともある(写真はイメージです)。
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「夫は私がトイレに行く時についてきて、無理矢理、私が排尿するのを見るようになった」
「激しい身体的暴力の中、避妊もできず10回も中絶するしかなかった。 逃げて離婚し娘も遠くへ行ったが、離婚から15年たち娘は強度のうつ状態となった。 娘も性暴力の被害にあっていたことが分かった」
他にも、「下着をつけずに外出させられた」「アダルトビデオで見た通りの残虐な性行為を強いられた」人などもいたという。
写真や映像の撮影を強制されたり、薬で眠らされて撮影され、それを脅しに使われる「デジタル性被害」もあったそうだ。
また、被害にあうのは同居中だけではない。離婚後の子どもの面会交流を利用して呼び出され、性暴力にあうケースもある。
DVに埋もれる性的DV
性的DVが事件化しにくいのは、さまざまな理由がある(写真はイメージです)。
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こうした過酷な現状にもかかわらず、配偶者間の性暴力が刑事事件化することはほとんどないという。
「被害者は相手から離れて避難先を隠すことを優先するため、性暴力に絞って警察に被害届を出すことは非常に難しい。また警察にDVを相談した場合も、警察担当者は命の危険、避難の援助を主に考えるため、DVの中に性暴力があったとしてもそれに注目して刑事課に回し、被害届を出すよう提案することはまずないものと思われます」(NPO法人・全国女性シェルターネット声明文より)
表面化しづらい配偶者間の性的DV。全国女性シェルターネットは今回の声明を、内閣府、厚生労働省、法務省の「刑法改正検討会」に要望書として提出した。
パートナー間の性暴力も性犯罪の類型に
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求めているのは、以下の内容だ。
・DV防止法の保護命令の対象に精神的DVと性的なDVを含めること
・性的DVの実態をふまえ、母体保護法に基づく人工妊娠中絶の際の、配偶者同意のサインの要件を撤廃すること
・パートナー間の性暴力を扱う性犯罪を創設すること
「現行刑法の性犯罪が規定する『暴行脅迫』要件では、継続的な支配関係の下でのパートナー間の性暴力を性犯罪として捉えることは困難です。配偶者・パートナー間の性的DVの特質をふまえた犯罪類型を作るか、不同意の性的行為全体を禁止した上で、配偶者・パートナー間の性的DVの場合はより重い刑として下さい」(NPO法人・全国女性シェルターネット要望書より)
同意のない性行為はどのような関係性であっても暴力なのだという認知を広めるためにも、法や制度の整備が不可避となっている。
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(文・竹下郁子)