アメリカの石油メジャー、エクソンモービルのダレン・ウッズ最高経営責任者(CEO)。かつて世界経済を支配すると言われた資源業界の巨人も、気候変動対応への遅れから文字通り「四面楚歌」の苦境に。
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オランダ最大の資産運用会社ケンペン・キャピタル・マネジメント(運用残高990億ドル)は2020年、シェアホルダー・エンゲージメント(=株主との対話・関係構築)に関する懸念を理由に、保有する米石油大手エクソンモービルの株式をすべて売却した。Insiderの取材で明らかになった。
同社シニアポートフォリオマネージャーのディミトリ・ウィレムスによると、エクソン経営陣が、より厳しい環境目標を設定するとともに再生可能エネルギーへの投資額の積み増しを求める株主からの要請に応じなかったため、ケンペンは2020年12月に2250万ドル(約23億6000万円)相当のエクソン株を手放した。
エクソン株を保有する他の株主も同様の懸念から、まもなく売却に動く可能性があるという。
「我々はエクソンに投資していた。だが、彼らは(環境問題に関して)最低でも欧州並みを要望する株主のエンゲージメントを受け入れなかった。だから売却した。こうした判断を下したのは我々だけではない。他の投資家も今後何らかの判断のもと動くだろう」
エクソンは、環境目標への対応がBPやシェルなど欧州の石油メジャー各社に遅れをとっているとして、ここ数カ月株主からの厳しい目にさらされていた。
より厳格な環境関連ポリシーを採用するよう積極的に要求する投資家もいれば、環境対応を優先して保有株式の売却という実力行使に出る投資家もいる。ブルームバーグ報道によれば、イギリス国教会年金理事会は昨年10月、ケンペンと同様の懸念からエクソン株を売却している。
エクソン側はケンペンによる保有株式の売却についてコメントに応じなかったが、広報担当から同社発行の環境報告書「エナジー&カーボンサマリー」と、バイスプレジデント(IR担当)スティーブン・リトルトンのブログ投稿、そのほか公の場でのコメントを参照するよう指示があった。
リトルトンのブログ投稿には、エクソンのシェアホルダー・エンゲージメントについて、次のような記述が見受けられた。
「我々のリスクマネジメントに関するアプローチにおいては、環境リスクを軽減するため、ポリシーが核心的な役割を果たすと認識している。過去5年間、我々はシェアホルダー・エンゲージメントの強化に務めてきた。2019年には、投資家や年金基金はじめさまざまな組織・機関と、環境や社会、ガバナンスなどの問題をテーマに85件以上の対話を行っている」
2020年、石油価格の急落を受け、エクソンの株価は暴落した。同社にとって4四半期連続の赤字は上場来初めて(=ただし第4四半期は減損処理を除くと黒字確保)で、通期の最終損益は224億ドル(約2兆3500億円)の赤字だった。
ブルームバーグによると、エクソンの筆頭株主は3億4439万株(発行済み株式の8.15%、170億4000万ドル相当)を保有するヴァンガード・グループ(Vanguard Group)。2020年第1四半期(1〜3月)のピーク時には3億6695万株を保有していた。
「エクソンは変化を受け入れなかった」
エクソンモービルの気候変動ポリシーに抗議する市民。2019年5月撮影。石油・ガス開発会社への風当たりは日に日に厳しさを増している。
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ケンペン・キャピタル・マネジメントは2017年第4四半期(10〜12月)にエクソン株を2222万ドル(約23億3000万円)分購入し、2018年第3四半期(7〜9月)に2898万ドル(約30億4000万円)まで買い増している。
「数年前、我々はエクソンの当時の評価額に魅力を強く感じ、積極的なエンゲージメントも期待できると判断して、投資ポートフォリオに加えた。しかし、想定したほどにうまくはいかなかった。エクソンはエンゲージメントや変化を真剣に受け入れようとしなかったからだ」(ディミトリ・ウィレムス)
「出発点」として、ケンペン側は、地球温暖化対策の枠組みであるパリ協定と2050年までの温室効果ガス排出量実質ゼロという目標へのコミットをエクソンに求めた。同時に、短期的に実現可能な目標の設定も要請したという。
しかし、エクソン側はパリ協定の長期目標達成を目指すことには同意したものの、2050年までの排出量実質ゼロについては誓約するに至らなかった。
ケンペンが石油ガス会社の経営にエンゲージメントを求めるのは、環境や社会、ガバナンス・コンプライアンスに関わる資産を保有することの責任という観点から考えたとき、それが投資の可否の根幹に関わるからだ。
「我々は投資家として、企業やその経営陣と対話し、視点やインサイトを共有することで、新たな可能性が生まれると考えている。企業を変えようと思うなら、対話をすることこそその近道だと強く信じている」(同)
ただ、ケンペンはエクソンと2年以上にわたって対話の努力を続けてきたが、思うような成果は得られなかった。
「我々のエンゲージメントは実を結ばず、何の成果も得られないとわかったなら、『行動』に出るのに何の躊躇(ちゅうちょ)もない。我々はその対話に自ら望んで2年間も真剣に向き合ってきたのだ。実りのないエンゲージメントの結果、我々はエクソンへの態度をはっきりさせた。そういうことだ」(同)
ウィレムスによれば、エクソンのエンゲージメントに不満を抱いている株主はケンペンだけではない。具体的な名前はウィレムスの口から上がらなかったが、他の投資家もエクソン株の売却を検討しているという。
エクソンの気候対策は「あまりに貧弱で、遅すぎた」
エクソンモービルが操業するイラク・バスラの西カルナ油田。フレアスタックで燃焼処理されるメタンガスの炎が見える。
REUTERS/Essam Al-Sudani
エクソンは2020年末、投資家からのプレッシャーを受けて気候関連のディスクロージャー(情報開示)を拡大するとともに、排出量の削減に向け努力することを約束。
12月には、石油・天然ガス生産設備からのエネルギー1単位あたりの二酸化炭素(CO2)排出量(エクソンは専門用語の「炭素強度」を表現として使った)を最大20%減らすと宣言した。
エクソンはまたメタンガスのフレアスタック(燃焼処理)量を減らすことを誓約し、カーボンキャプチャー(CO2回収)など排出量を削減する技術に特化した新会社を立ち上げると発表した。
しかし、投資家たちはエクソンにさらなる取り組みを求めている。
2021年1月末、Insiderが報じたように、BNPパリバ・アセット・マネジメントをはじめとする投資家の一団は、エクソンがアメリカの気候変動政策に影響力を行使するためロビイング活動を通じて(連邦議会などに)どういった働きかけを行っているのか、より詳細な情報を開示するよう要求した。
アクティビスト(物言う株主)の「エンジン・ナンバーワン(Engine No.1)」や「DEショー(D.E.Shaw)」もエクソンに変化を求め続けている。
ケンペンのウィレムスは、エクソンの最近の気候変動をめぐる声明や発表について、こう語る。
「少なくとも、いま何かしら変化が起きているのは確かだ。しかし、再生可能エネルギーへの移行の最前線ともいえる欧州の状況とは比較にならない」
欧州の石油メジャーは軒並み2050年までの排出量実質ゼロを誓約し、カーボンキャプチャーや再生可能エネルギーなど移行のためのテクノロジーに集中投資を行っている。
また、エクソンのアメリカにおける競合企業も再生可能エネルギーへのシフトを強力に推し進めている。例えば、オキシデンタル・ペトロリアムは今年1月、大規模なダイレクトエアキャプチャ(DAC)プラントの建設を発表。大気から直接CO2を捕集して地下に封入するこの設備には、数億ドルの投資が必要とされる。
(翻訳・編集:川村力)