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Sansan、コロナ禍で名刺交換減っても営業利益6.3倍。使うほどに“ロックイン”されるビジネスモデルの秘密

コロナ禍を経て私たちの生活は大きく変化しましたが、それはビジネス慣習に関しても同様です。特にビジネスシーンで様変わりしたものといえば「名刺交換」ではないでしょうか。

緊急事態宣言下では取引先と対面で会う機会も限られますから、必然的に名刺交換をする回数も減ります。「最近、名刺が減らないな」と思っているのは私だけではないはずです。

そんななか、「名刺」をビジネスにしているSansan株式会社(以下、「Sansan」)が2021年5月期第2四半期の決算を発表しました。

「名刺」がビジネスの中心なので決算は厳しいものになるかと思いきや、連結売上高は前年同期比1.2倍、連結営業利益に至っては実に前年同期比6.3倍と、驚くべき大躍進です。

図表1

(出所)Sansan 2021年5月期 第2四半期 決算短信をもとに筆者作成。

なぜSansanは、コロナ禍のなか「名刺」をビジネスの中心にしているにもかかわらず、このように業績を伸ばせているのでしょうか?

そこで今回は、同社のビジネスモデルを会計とファイナンスの視点から考察しながら、その強さの秘訣を探っていくことにしましょう。

実は時価総額トップ10%に位置するSansan

Sansanの創業は2007年。当時はまだ存在しなかった「名刺管理市場」を開拓し、いまや市場シェア83.5%(※1)を誇る気鋭のベンチャー企業です。最近はテレビCMに加えてタクシー広告や電車内の広告も積極的に出稿していますから、社名に馴染みのある方も多いのではないでしょうか。

主な事業は、法人向けのクラウド名刺管理サービスsansan(以下、sansan、sansan事業)と、SNSの機能を備えた個人向けの名刺アプリEight(以下、Eight事業)が2大柱です。

図表2

(1)「名刺管理サービスと営業サービス(SFA/CRM/ オンライン名刺交換)の最新動向」(2020年12月シード・プランニング調査) (2)2020年1月〜12月の国内ビジネスSNSアプリにおける、平均月間アクティブユーザー数(App Store/Google Play合算値)(2021年1月App Annie調査)

(出所)Sansan 2021年5月期 第2四半期 決算説明資料

先ほど「気鋭のベンチャー企業」と書きましたが、Sansanの時価総額は2月17日時点で約2961億円にもなります。これは三越伊勢丹ホールディングス、セブン銀行、ディー・エヌ・エー、森永乳業といった企業と同水準で、4000社弱ある上場企業の中ではトップ10%に位置しています

時価総額の話が出てきたところで、この連載でも過去に何度かご紹介した「PSR」と「PER」という指標でSansanの実力を確認しておきましょう。

PER(Price Earnings Ratio:株価収益率)は、時価総額が利益の何倍かを見る指標。PSR(Price Sales Ratio:株価売上高倍率)は時価総額が売上高の何倍かを見る指標で、主にSaaS(Software as a Service)のような成長著しい企業を分析する際に使われます(図表3参照)。

図表3

筆者作成

この数式に当てはめると、SansanのPSRは約21倍、PERはなんと約395倍と、かなり高い値です(ちなみに、本稿執筆時点での日経平均のPERは約22倍(※2)です)。これが意味するところは一目瞭然。Sansanはそれだけ市場から成長を期待されているということです。

使うほどに“ロックイン”されるサブスクモデル

では次に、Sansanの2021年5月期第2四半期の売上高と利益を見ていきましょう。

2021年5月期第2四半期の売上高は76.4億円と、前年同期に比べて約13.4億円増えています(図表4)。営業利益については、前年同期から5.8億円も増えています。

図表4

(出所)Sansan 2020年5月期 第2四半期 決算説明資料および2021年5月期 第2四半期 決算説明資料をもとに筆者作成。

利益が増加した理由としては、堅調に売上が伸びる一方で、顧客獲得に要する広告宣伝費が相対的に下がったことが考えられます。その証拠に、過去3期分の売上高の推移を示した図表5をご覧ください。実にきれいな右肩上がりの軌道を描いていますね。

図表5

(出所)Sansan 2021年5月期 第2四半期 決算説明資料

このように、多額の広告費をかけて顧客を獲得していくビジネスを展開できるのは、sansan事業とEight事業がともに積み上げ型のビジネスモデルであるサブスクリプション型をとっているからです(同じSaaSのサブスクリプション型としては、この連載の第34回第35回で取り上げたSlack technologiesなどがその代表格です)。

実際、図表5を見ると、売上高の95%近くが継続課金(ストック売上高)となっていることが分かります。

この点をもう少し詳しく見てみましょう。2021年5月期第2四半期の売上高76.4億円のうち、sansan事業は90%近くの69億円を占め、残りの10%弱がEight事業の7.4億円です。つまり、売上の多くはsansan事業による継続課金だということです。

このように継続課金が維持されている理由は、Sansanのビジネスモデルでは、クライアント企業がsansanを使えば使うほど“ロックイン”されるしくみになっているからです。

名刺がクラウドで一元管理されていれば、連絡をとりたい会社や人に容易にアプローチできるようになる。企業が保有する名刺はいわば「可視化されたネットワーク」であり、企業にとってはまさに資産そのものですから、人脈という名の資産が増えれば増えるほど、sansanを使っている企業はsansan以外の名刺管理サービスを使えなくなるというわけです。

また決算説明資料によれば、sansanの直近12カ月の平均解約率はわずか0.65%である一方(図表6)、新規契約数は前年同期比で15.4%増となっています。つまり、新規加入率が解約率を大きく上回っている状況です。

図表6

(注)直近12カ月の平均解約率とは、「sansan」の既存契約の月額課金額に占める、解約に伴い減少した月額課金額の割合。

(出所)Sansan 2021年5月期 第2四半期 決算説明資料

この連載の第35回でもお話ししたように、サブスクリプション型のビジネスモデルでは「LTV(Life Time Value:生涯顧客価値)」が重要になってきます。サブスクモデルでは理論上、新規加入率が解約率を上回っていれば、収入はマーケットが飽和するまである程度増え続けていくからです。

そのことを裏付けるように、Sansanの顧客がもたらす収入をそのサービス開始時期別に見ると、収益が積み上がっていく様子がよく分かります(図表7)。

図表7

※「Sansan」の月額課金額をもとに作成(未監査)。

(出所)Sansan 2021年5月期 第2四半期 決算説明資料

たとえコロナ禍で名刺交換の頻度が減ったとしても、顧客企業がsansanで名刺を管理しているかぎり、Sansanはサブスクモデルを通じてチャリンチャリンと収入を得続けられるわけです。

名刺管理の市場規模はどのくらい?

さて、ここまでお読みいただいたところで、「名刺管理の市場規模ってそんなに大きいの?」という疑問がよぎった方がいるかもしれません。

先ほど私は、「サブスクモデルでは理論上、新規加入率が解約率を上回っていれば、収入はマーケットが飽和するまで増え続ける」と書きました。今はぐんぐん成長中のSansanですが、もし仮に名刺管理市場がたいしたサイズでなければ、同社の成長は早晩頭打ちになってしまいます。つまり、マーケットの大きさがSansanの成長にも大きく影響してくるということです。

では、名刺に関する市場はどのくらいの大きさなのでしょうか?

マーケット規模の分析の際によく使われるのが、TAM、SAM、SOMの3つです。「TAM」とはTotal Addressable Marketの略で、実現可能な最大の市場規模のことを言います。例えば、会社四季報業界地図(2021年版)によれば国内自動車業界全体の規模は約45兆円になります(※3)。これがTAMです。

「SAM」とは、Serviceable Available Marketの略で、上述したTAMのうち、特定の顧客セグメントのニーズを表現したものです。例えば、自動車業界における「自動車市場」「自動車部品市場」「カー用品市場」などがSAMに当たります。

最後の「SOM」とはServiceable Obtainable Marketの略で、SAMにおいて自社が実際に獲得できるシェアのことを言います。例えば、国内自動車市場におけるトヨタ自動車のシェアがSOMになります(※4)。

Airbnbは「TAM・SAM・SOM」で投資家を納得させた

このTAM、SAM、SOMに関して有名なのが、Aibnbが2008年の創業当初に資金調達を行った際のプレゼン資料です。

初期のAibnbは、自社の市場を図表8のように定義づけました。

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