パナソニック、東京ガス、ウェザーニューズの共同記者会見が開催された。
提供:パナソニック
激甚化する自然災害。2月13日には、東北で震度6強を記録する大地震も発生した。災害にどう立ち向かうのか。これは、日本で生活するうえで大きな課題となる。
2月17日、パナソニックは、家庭用燃料電池コージェネレーションシステム「エネファーム」の第7世代となる新製品を発表した(発売予定は4月1日)。
エネファームとは、2009年に東京ガスとパナソニックが開発した天然ガスを利用した家庭用燃料電池システム。天然ガスから分離した水素と空気中の酸素を利用して発電を行うとともに、発電時に発生する熱を床暖房やお湯を沸かす用途として利用できることから、エネルギー効率が非常に良いシステムだとされている。
今回発表された製品では、同製品初となる無線通信機能を標準搭。全機体の稼働状況をリアルタイムで把握することが可能となった。
今回の新製品では、IoT連携によってさまざま災害へのレジリエンス機能(さまざまの状況に対応して生きるた目の機能)を拡充している。
気象予報や気象アプリを提供しているウェザーニューズ社のAPIとの連携では、気象データを利用した「ウェザーテック(WxTech)」の技術を活用し、事前の停電リスクに応じて自動的に発電する「停電そなえ発電」や、自宅に設置した太陽光発電で得た電力を効率的に使う「おてんき連動」といったシステムなどを実現している。
気象データ利用の「ウェザーテック」の可能性は
気象データとの相関を分析した上で、天気予報から未来を予測する。
出典:記者会見資料より
ウェザーニューズ社は、天気予報や気象アプリ「ウェザーニュース」などを提供する老舗の気象情報企業。同社では近年、長年蓄積してきた気象データや全国各地に張り巡らされた観測装置、そして自社のアプリユーザーから寄せられた実際のお天気情報といったビッグデータをビジネスに活かす「ウェザーテック」の取り組みを進めてきた。
ウェザーテックの使い方として、もっともわかりやすいのは、気象データと関連した商品の売り上げ予想だろう。
例えば、観測機から得られる気象データ(気温、天気、湿度、風の強さなど)と特定の商品の売上データの相関関係を分析。何らかの相関関係が見いだせれば、因果関係の有無に関わらず、天気予報を元に商品の売り上げを予測できる。
仕入れの効率化や食品ロスの低減化に活かすことが可能だ。
パナソニック、東京ガスとの共同記者会見に同席したウェザーニューズの石橋知博常務取締役によると、今回パナソニックに提供した停電予想でも、まずは気象データ、ウェザーニューズ社のアプリを利用している「サポーター」から得られた停電データなどをもとに、気象と停電領域の相関関係を分析。
その後、ウェザーニューズ社がもつ1キロメートルメッシュとう細かい天気予報データから、特定地域の停電の予報を行うとしている。
石橋取締役は、停電予報の具体的な制度については明かさなかったものの、「90%を下回ることはない」と自信をのぞかせた。
また、運用後も実際に停電が起きた際にはデータを収集して、再学習させることで停電予報を行う人工知能の精度を向上させていくとしている。その場合、エネファーム自体が、観測装置としての役割も果たすことになる。
「未来の天気予報では、例えばエネファーム向けの停電予報、もしかすると車向けにはスリップ予報といったように、さまざまなデバイスごとにカスタマイズした予報が出てくることになるのではないかと思います」(ウェザーニューズ石橋取締役)
と、石橋取締役はウェザーテックの今後の展開についても可能性を語った。
停電予報×エネファームで、停電リスクを自動で回避
停電予報のイメージ。
出典:記者会見資料より
エネファームはもともと有線でネットワーク接続できる仕様になっていたものの、接続率が上がっておらず、うまく活用できていなかった背景がある。
今回、無線での通信が可能となったことで、パナソニックのスマートエネルギーシステム事業部、浦田隆行氏は、
「100%ネットワークに接続できるようになると、製品の機能、サービスの質を1段階高くすることができると考えてます」
と、今後への期待を語った。
ウェザーニューズと連携したことで実現した「停電そなえ発電」では、台風などの発生により事前に天候の悪化が懸念された場合、ウェザーニューズから停電のリスク情報が通知されたタイミングでエネファームが自動的に発電を開始する仕様となっている。
実際に居住地域で停電が発生した場合、停電時専用コンセントを通じて、エネファームで発電された電力が供給され、最低限のインフラを維持する電力を賄うことができるというわけだ。
パナソニックによると、停電時の最大出力は500W、8日間程度の連続使用を想定しているという。
一度停電が起きてからエネファームを起動しようとする場合、起動のために電力が必要になる。停電前にエネファームでの発電に切り変えておけば、その問題は解消される。
エネファームには、もともと「停電時発電継続機能付きエネファーム」というタイプが存在していたが、この機能が使えるのは「発電中に停電が発生した場合」だけだった。
今回のシステムによって、リスクが高いことが気象予報からある程度分かっている場合に、自動的にリスクを回避できるようになったわけだ。
再エネの活用にウェザーテック
おてんき連動のイメージ。同じ技術で、さまざまな汎用例が考えられる。
出典:記者会見資料より
今回発表されたエネファームに搭載されるもう一つの新機能「おてんき連動」は、ウェザーニューズの天気予報データをもとに、1日のエネファームの稼働スケジュールを決定する機能だ。
浦田氏は、
「エネファームが発売した2009年当初にご購入されたお客様の中には、太陽光発電を併設されている方も多数います。そろそろ、電力の固定価格買取制度の適用も終了し、エネファームとの共存が課題となります。そのために用意したのが、『おてんき連動』です」
と話す。
例えば、天気予報をもとに稼働スケジュールを調整できるのなら、曇りや雨の日であれば朝からエネファームを稼働させ、一方で、快晴の日にはエネファームの稼働を節約するといったことが可能になる。
自宅に太陽光発電パネルを取り付けた消費者が、太陽光を利用して発電した電気を自分で消費することを促すことで、再エネの効率的な利用を進める役割を担うことができるわけだ。
このシステムは、電力市場の今後を考えたときにも、重要な意味がある。
今後、電力システムの中で太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーを利用した電気の割合が増えてくることはほぼ確実視されている。
その際に問題となるのは、再生可能エネルギーによる発電電力量が多いときに、いかに効率よく消費するかという点だ。
今回、エネファームに搭載された機能は、天気予報と連動して稼働スケジュールを決定するものだが、同じ情報をもとにして、太陽光発電事業者の発電量を調整したり、電気が余っている時間帯に蓄電池(代わりになるものも含めて)に充電しておいたりといった需給調整をすることも実現できるはずだ。
また、2020年末から2021年年始のように、電力の需給がひっ迫しかかった状況が発生した際に、天気の状況を見てエネファームを最大稼働させることができれば、電力システムの安定化への寄与も大きい。
ウェザーテックの利用の拡大は、災害への備えだけではなく、再エネの導入を進める上でも、今後注目だろう。
(文・三ツ村崇志)