中国産業界に貢献する“メイド・イン・ジャパン”の高性能触媒…田中貴金属が持つ技術の強みとは?

触媒を手に持つ村山氏

近年、全世界で重要度が高まっている環境保護の取り組み。“世界の工場”とも呼ばれる中国も例外ではなく、政府が発表する5カ年計画によって環境汚染の改善が進められている。

環境汚染のひとつには、工場などから出た有害物質を含む排ガスによる大気汚染がある。大気汚染の防止には、原因となる有害物質を浄化する処理を施すことが必要だが、それに使われるのが「触媒」。日本の触媒メーカーは数十年にわたる開発実績をすでに持っており、“メイド・イン・ジャパン”の高性能触媒は中国の産業にも大きく貢献できる可能性を秘めている。

触媒事業で中国市場への本格参入を狙う田中貴金属工業の担当者は、中国市場の有望性を「化学プラントや大規模工場など、大量の触媒を必要とする施設が数多く存在し、規制強化の流れもあって、今後は高性能な触媒の需要が高まることが予想されている」と話す。

アメリカを超える経済大国を目指す中国。経済発展のなかで直面する大気汚染対策の現状と、ビジネスチャンスを聞く。

大気汚染対策のため、規制強化が進む中国

化学工場

shutterstock

いまや環境保護の取り組みの必要性は当たり前に受け入れられている時代。世界各国の政府や自治体が環境汚染への規制や資源保護の対策を打ち出す一方、ESG投資のような概念も社会に浸透しつつある。もはや「ビジネスの持続のために環境対応が欠かせない」といっても過言ではない時代になっている。

Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)に配慮した企業を重視して取り組む投資のこと

近年、急速な経済成長と工業化を遂げてきた中国でも、その傾向は同様だ。2000年代半ば頃から始まっていた中国政府の取り組みは、2016年からの第13次5カ年計画で本格化。現在は環境汚染対策として、大気や水質、土壌などの汚染に対して、厳しい規制を敷いている。

「特に大気汚染については、2016年1月に改正大気汚染防止法が施行され、重大な大気汚染事故を起こした企業への罰則強化も盛り込まれました。これまではNOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)がメインの排出規制物質で、VOC(揮発性有機化合物)については優先度が低めの印象でしたが、最近では、VOCも規制の遵守を求められるようになっています。そのため、今後、高性能な排ガス浄化触媒の需要は増加するだろうと見込んでいます」

こう話すのは、田中貴金属工業 化学回収カンパニー 化学回収営業部でチーフマネージャーを務める村山恵二氏。排ガス浄化触媒などの触媒製品の営業活動を国内外で担当しており、ここ10数年の中国の変化も、営業の最前線で文字通り身をもって体感してきた。

田中貴金属工業の村山氏

田中貴金属工業 化学回収カンパニー 化学回収営業部 チーフマネージャーの村山恵二氏。

田中貴金属工業は1995年から排ガス浄化触媒の製造・販売を開始しており、中国市場には、日系企業の現地工場に納入する形で2004年に進出している。ただこの時点では、中国政府による規制がそれほど厳しくなかったこともあり、現地企業が採用する触媒は性能や寿命よりも、圧倒的に安価な中国製の製品が高いシェアを持っていた。当時、本格的な事業展開は困難な状況だった。

「我々の触媒には日本国内での実績もあり、高性能であることには自信を持っていました。ところが、中国国営企業の化学プラントに提案しても、中国内での実績や性能保証を求められることが多く、なかなか採用には至らない状況が長く続きました。ただ現在は、(2015年に策定された)第13次5カ年計画での規制強化にともなって“性能重視の気運”が高まっています。比較的小規模な工場においても、高性能な触媒に対する需要が広がりつつあるのを実感しています」(村山氏)

高性能な触媒が「燃料消費を減らし、環境負荷も下げる」理由

メタルハニカム触媒

田中貴金属工業が製造・販売するメタルハニカム触媒。ハニカムを構成する壁厚が約50ミクロンと薄く、セラミックス製と比べてハニカムの孔の密度を高められるため、基材の表面積を広くできるというメリットを持つ。サイズに自由度があって角型や丸形、大型化などの対応が可能な点と、強度が高く扱いが容易な点も特長だ。

提供:田中貴金属工業

一般的に、触媒とは「それ自体は変化せず、特定の化学反応のスピードを速める物質」のことを指す。排ガス浄化触媒の基本的な仕組みは次のようになっている。

排ガス浄化触媒の目的は、文字通り、有害な排出規制物質を効率よく水や二酸化炭素に分解して浄化することだ。触媒を使用せず排出規制物質を直接、大気中の空気と反応させて分解しようとすると約700~800度という高温が必要になるのに対して、触媒を使用すると約300~350度という低温で済む。また、物質によっては室温付近からの分解も可能となる。これにより、「温度を維持するための燃料」を格段に減らすことができ、コスト削減や環境負荷低減に役立つ。

触媒の構造と仕組み

メタルハニカム触媒の構造と仕組み。ハニカム構造の金属製の基材にはセラミックス成分が薄くコートされており、その表面や内部には貴金属微粒子が分散している。VOCなどの有害成分がこの貴金属微粒子に接触して化学反応が起こり、水や二酸化炭素へと分解される仕組みだ。

排ガス浄化触媒では、触媒としてプラチナやパラジウムといった貴金属が使われている。この貴金属はナノメートルサイズの微粒子になっており、ペレット状やハニカム(蜂の巣)構造になった基材の表面にコーティング(担持)されている。この基材の中を排出規制物質が通り抜ける際に、貴金属微粒子に接触して化学反応が起こり浄化される仕組みのため、「基材の表面積が広いほど触媒の性能が上がる」ことになる。

「我々の触媒の特長は、金属を使ったメタルハニカム基材を採用していること。セラミックス製と比較してハニカムを構成する壁厚が薄く、ハニカムの孔の密度を高められることから、基材の表面積を広くできるというメリットがあります。また、基材の表面に貴金属微粒子を均一にコーティングする技術も確立しているため、高性能かつ長寿命な触媒を製造できるという強みもあります」(村山氏)

田中貴金属工業の菊原氏

田中貴金属工業 化学回収カンパニー 触媒開発 チーフマネージャーの菊原氏。環境問題・エネルギー問題の解決に貢献できる触媒製品の開発を進める。田中貴金属工業の強みは「貴金属触媒の製造・販売だけではなく、触媒に使われる貴金属化合物の開発・生産から使用済み触媒の貴金属リサイクルまで、すべて自社で回せること」だと話す。

提供:田中貴金属工業

貴金属の扱いを熟知していることは、貴金属メーカーならではの強みだ。

田中貴金属工業では、貴金属微粒子の原料となる貴金属化合物を自社内で独自に開発・生産している。そのため、排出規制物質の種類に応じて、最適な化合物を選定できるのが強みだ。触媒の良し悪しを判断するための、さまざまな評価装置や解析装置、分析装置を駆使し、これまで蓄積した膨大なデータを利用して国内外での多様な要望に対応してきた実績もある。

競争力のある触媒の開発は地球環境への貢献にもなる

今後、田中貴金属工業が中国市場で注力していく分野について、村山氏は「化学プラント」と「燃料電池」の2つを挙げる。

「化学プラントに関しては、我々の中国市場参入後である2008年頃から、中国国営の化学メーカーが排出基準を厳格に管理していたことは把握しています。触媒の性能に妥協が許されないため、以前から(中国メーカーではなく)欧州メーカー製の触媒を導入しているケースが多いのですが、競争力のある製品を提供できれば、我々にもチャンスはあると考えています」(村山氏)

環境負荷の小さい次世代エネルギーとして注目される燃料電池については、村山氏はこう話す。

「燃料電池は、中国でもこれから盛り上がりが予想されている分野です。燃料電池システム向けには、我々は燃焼触媒のほか、水蒸気改質触媒やPROX触媒といった複数種類の触媒を提供できます。現在は家庭用、業務用、産業用のそれぞれについて、様々な提案を進めようとしているところです」(村山氏)

水蒸気改質触媒は天然ガス(都市ガス)や液化石油ガス(プロパンガス)などから水素を生成するもの。また、PROX触媒は固体高分子形燃料電池へ供給する水素ガス中に含まれる一酸化炭素を最終的に数ppmレベルまで除去するもの

村山氏は、欧州メーカーや中国国内メーカーとの競争では、「貴金属メーカーならではの強みをさらに突き詰めていく」ことが重要になると語る。

「貴金属メーカーとしての知見を生かして、使用する貴金属の量を少なくしても、触媒の性能や寿命を維持できるような開発が今後の鍵だと考えています。それがコストの低減につながり、結果的に我々の製品を採用してもらえる可能性を高めることにもなります」(村山氏)

高性能かつ低コストの触媒を追求していくことは、地球環境への貢献にもなるはずだ、と村山氏は言う。低温で排ガスを浄化できる触媒であれば燃料の節約によって環境負荷を抑えられ、また低コストの製品であれば大気汚染を改善する触媒の普及を促進することができるからだ。

「今後も、我々の製品開発を通して、持続可能な社会の実現にも貢献していければいいなと考えています」(村山氏)

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