「これからの100年は、宇宙のくらしを支える」──創業100年のパナソニック、舞台は宇宙へ

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2020年12月6日、探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウで採取した岩石などを載せたカプセルをオーストラリアで発見したと発表した。地球に突入したカプセルは、パラシュートで着地し、ビーコン電波を発して着地地点を知らせた。ここで、回収用ビーコン信号発信器などの電源として使用されたのが、日本のパナソニック製のリチウム電池だった──。

多岐にわたる技術を持つパナソニックは、これまでにも宇宙産業に製品や技術を提供してきた。だが、社内の「宇宙熱」は意外なほど低かった。そうした中で2019年4月に立ち上がったのが、「航空宇宙事業本部」だ。「事業本部」といっても、これは社内のさまざまな組織で働く宇宙ビジネスに意欲や興味を持つメンバーが集まった「有志団体」。

約27万人の従業員を有する巨大企業の中で、“宇宙にかける夢”を実現するべく集まった同志たち。その活動にかける思いやパナソニックや日本の宇宙ビジネスの展望について、発起人の出口隆啓氏に話を聞いた。

きっかけは、1人の社員の「危機感」

出口隆啓さん

出口隆啓(でぐち・たかひろ)氏。2006年入社。国内営業、海外営業、ICT市場のマーケティング分野などを担当し、現在はパナソニック インダストリーソリューションズ社 電⼦材料事業部 グローバル営業総括部に所属し、航空宇宙市場のマーケティングを担当。

宇宙産業は、今後の成長が見込まれている有望分野だ。内閣府が2017年5月に発表した「宇宙産業ビジョン2030」では、特に民間企業の参入を促進することで、約1.2兆円(2017年時点)の国内市場規模を2030年代早期に倍増させることを目指している。

パナソニックにもこれまで製品やソリューションが宇宙で活用されてきた実績があった。だが活動はバラバラで社内外の認知が低い状態が続いていたという。

「私が所属する事業部のマーケティング活動の一環で、宇宙分野で採用されているパナソニック製品を調査すると、予測していたよりも実績が多いことを知り、とても驚きました。それなのに社内ではほぼ実績や取り組みが認識されておらず、ビジネスとしての可能性について検討すらされていない状況。これは非常にもったいないし、なんとかしなければと感じました」(出口氏)

出口氏は2018年の秋に航空宇宙事業本部の礎となる活動を開始。最初に集まったのは、目星をつけて声をかけた知り合いの数人程度だった。そこから各メンバーのつながりをたどり、宇宙分野に関連がありそうな製品や技術の洗い出しを行なっていった。

転機が訪れたのは2019年3月。社内のピッチイベントに出口氏が参加することになり、宇宙産業における自社の可能性をプレゼン。それを聞いて興味を持った30人程度の社員が新たにメンバーに加わった。同年4月には「航空宇宙事業本部」の名称となり、積極的な広報活動から人が人を呼び、現在のメンバー数は約300人(2021年2月時点)にまで増加。宇宙関連の情報や人脈をシェアしたり、宇宙産業への参入アイデアを創出したりしている。

「得意なことをやる」フラットな組織を目指した

「航空宇宙事業本部」は基本的に業務時間外に活動し、もちろん報酬もない。その活動を社内で認知させ、約2年半で300人を超える賛同者を集めた出口氏。そこには苦労も多かったのではと思いきや、「実は、その部分ではあまり苦労はしていない」のだという。

「メンバーを増やすのは、それを得意とする人にお願いしました。というのも、立ち上げ当時から自分が常に前面に出て何もかもやる組織にはしたくないし、できないと思っていました。フラットな雰囲気の中で、各メンバーが自分の得意なこと、好きなことができるチームを作ろうというのは、最初から決めていたことです」(出口氏)

では、出口氏自身が得意とするのは何なのか。一つは、メンバーが増えることでブレが生じがちな「組織としての目標」を常に明確にすること。そしてもう一つは、組織の中で「ハブ的な役割」を担うことだ。

「人と人をつなげること、あるいは製品や技術を新たな用途と結びつけること。これがうまくいって、組織の壁を越えて可能性が広がると非常にワクワクしますね。航空宇宙事業本部の活動を続けるモチベーションにもなっています」(出口氏)

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オンラインで定期的にイベントを開催。何よりもみんなが楽しみながら活動できるよう運営している。

宇宙ビジネスを通じて、日本のプレゼンスを高めたい

出口氏が航空宇宙事業本部を立ち上げた動機は、もう一つある。それは「世界の中での日本のプレゼンスを高める」ことだ。

「昔から、剣道をしていて和の心や日本という国に誇りを持っていました。パナソニックに入社したのも、日本の強みである“モノづくり”を世界に広げたいという思いがあったからです。現在は残念ながら、日本の産業力の低下が指摘されがちですが、今後の成長が予測される宇宙産業に力を注ぐことができれば、かつての勢いを取り戻すことも可能だと思っています」(出口氏)

前出の「宇宙産業ビジョン2030」では、日本の宇宙機器産業の構造として、部品や材料の海外依存が高いことが指摘されている。宇宙機器産業における日本企業の国際競争力向上は、市場規模の拡大にもつながる重要な課題だ。宇宙分野での製品の採用実績をすでに持つパナソニックにかかる期待は大きい。

「我々が宇宙ビジネスに本格参入することは、日本のプレゼンスを高めることへの貢献につながります。そして、それはパナソニックの経営理念の一部でもある、社会全体の富と幸福に寄与する“産業報国の精神”とも一致すると考えています」(出口氏)

地球と宇宙船

Shutterstock/3Dsculptor

「宇宙のくらし」を支えるパナソニックへ

2020年には、航空宇宙事業本部の今後に影響する大きな動きがあった。

パナソニックとして宇宙ビジネスに参入する意義や事業化の可能性を検証するプロジェクトの検討が社内で進められ、出口氏らはそれに携わることになったのだ。

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「はやぶさ2」に搭載されたBR系円筒形リチウム一次電池。小惑星の微粒子サンプルを収納して地球に送り届ける「再突入カプセル」の回収用ビーコン信号発信器など、4つの装置の電源として使用された。

現在は、正式な業務として活動が始まったプロジェクトと有志団体の航空宇宙事業本部が両輪となり、航空宇宙ビジネスの将来性を社内に広く認知したり、将来の具体的なビジネスにつなげたりする活動を進めている。

現在までのパナソニックの宇宙分野での採用実績としては、小惑星探査機「はやぶさ2」へのリチウム一次電池の搭載や、国際宇宙ステーション(ISS)日本実験棟で使用されたハンディ掃除機などが挙げられる。また、出口氏によると、ベンチャー企業や大学の研究室が開発する小型衛星にパナソニック製の部品や材料が使われているケースもあるという。

「まずはこれまでの実績をベースに増加する需要にしっかり対応していくことが、パナソニックの宇宙事業のファーストステージになる」(出口氏)

ハンディ掃除機

国際宇宙ステーション日本実験棟で小動物飼育ミッションの排泄物清掃などに使用されたハンディ掃除機は、市販品をベースに、宇宙環境での使用に最適化して開発されている。

その一方で、出口氏は「もう少し先の未来」にも目を向けている。2035~40年頃には、月や火星などの宇宙空間に人が滞在する時代になると予測されており、そこでは例えば照明や電子レンジなどの家電、シャワーやトイレといった住宅設備など、宇宙での生活を支えるさまざまな道具が必要になるからだ。

「パナソニックは、創業からの100年間、人々のくらしに寄り添うモノづくりを続けてきました。これからの100年は、宇宙でのくらしも支えていきたい。今後も、より良い社会の実現のために“ワクワク”を大切にしながら行動し続けていきたいと思います」(出口氏)

出口隆啓氏


パナソニックの産業用製品について詳しくはこちら。

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