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上野千鶴子氏は組織をどう生き抜いたのか。孤立しないためにやった“根回し”【後編】

上野千鶴子氏

上野千鶴子氏。

撮影:柳原久子

社会学者の上野千鶴子氏が、立命館アジア太平洋大学学長の出口治明さんとの共著『あなたの会社、その働き方は幸せですか?』で指摘した日本人の働き方、日本型の経営のひずみは、東京オリンピック・パラリンピック組織委の森喜朗前会長発言から始まった一連の騒動で、改めて浮き彫りになった。

Business Insider Japanエグゼクティブ・アドバイザーでジャーナリストの浜田敬子氏が、上野氏に一連の問題について聞いたインタビュー後編では、上野氏自身が組織の中で生き抜いてきたのか、女性が仕事をする上での心構えを聞いた。


——森さんの後任を決める過程では、女性にするべきだという声がある一方で、能力や適性で選ぶべきだという声もありました。これは政治の世界のクオータ制の導入、企業の女性管理職の数値目標の議論でも、よくある議論です。数ありきでいいのか、能力のない女性を引き上げていいのかという。この女性を引き上げるときの数と能力問題を、上野さんはどうご覧になりますか。

上野千鶴子(以下、上野):能力ってポジションが育てますよね。女性にリーダーシップがないとしたらリーダーシップを発揮する場が与えられてないだけ。でも最近は中高大でサークルや部活のリーダーをやって、リーダーシップを持った女性はいっぱいいます。

森さんも一時後任に名前が上がった川淵(三郎)さんも、人脈と金脈がある調整型のリーダーです。その人脈も金脈も一定のポジションにいたから蓄積できたもので、同じようなポジションに女性がいなかったっていうだけの話です。

でも、今回の後任人事で、私は嫌な予想をしちゃいました。危機に陥った組織って、「困ったときの女頼み」で女を使うことがある。特にこういう性差別発言の後は、女って一応クリーンに見えますから。女性をリーダーに立てて幕引きさせて、一番嫌な役をさせる。一番嫌な役というのはオリンピックの廃止も含めて決断しなければならないという役回りです。

※編集部注:このインタビューの後に橋本聖子前五輪担当相が東京オリンピック・パラリンピック組織委の後任会長の要請を受諾した。

——私は今回のことで少しでも日本が変わった感を世界に発するためには、女性が会長をやったほうがいいと思っていますし、できる人もいると思うのですが。

上野:でもね、コロナ禍のもとでの強行開催かそれとも廃止かを含めてこんなにかじ取りの難しい時期に、この困難なポジションに女性をわざわざ人身御供みたいに立たせて、「やっぱり(できない)」とやられたら汚いなって思います。女性をこのチャンスにっていうのは、私は賛成できないな。

目的のためには根回しも忖度もやった

——それよく女性管理職でも見られる現象です。抜擢されても、その後なんのフォローもなく、社内から「お手並み拝見」という目で見られる。そして何かちょっとした失敗をすると、やっぱり女はダメだという評価になる。女という属性で語られるというのはよくある話ですね。

上野さんはわきまえた経験だとか、あのときわきまえてしまった、という後悔はありますか。

上野:私もなんだかんだずっと(大学などで)勤め人をやってきました。しかも一時は国家公務員でしたから(笑)。組織で働いて組織で何かやろうと思ったら1人じゃどうにもならないんです。だから根回しと忖度もしましたよ。

自分のやりたいことを達成したいと思ったら、「あなたの言い分のここは通してあげるから、私の言い分のここは通してね」みたいなこともやりました。でもそれは組織で生きる人間としては当たり前のことで。ただ、上の人に黙って従うということはしませんでした。

——わきまえるということと、自分の目的遂行のために政治的、戦略的に振る舞うというのは何が違うのでしょうか。

上野:「おっさん」のやり方ははっきり分かってます。孤立させるんです。キミは彼女と違うよね、と女性たちを分断する。やられてきたでしょ? これはセクハラの被害を申し立てした人たちが共通に経験してきたことです。ありとあらゆる悪い噂をたてて、あいつとつるむとろくなことないぞ、みたいな形で分断させて孤立させる。

だから私が何かノイズをたてるときには絶対孤立しないよう根回しをしました。気に入られたいからではなく、やりたいことがあるからこその根回しです。

——男性も含めて味方を作っておくという意味ですか?

上野:そうです。私が東大に採用されたときにも、女性の同僚たちに声をかけて食事をしました。そういうことは結構マメにやってます。それから職員の女性たちとお近づきになりました。職員の人たちは、先生たちに遠慮もあるし、嫌な目にも遭ってらっしゃるのでね。だからとてもよくしていただきました。

逆に、おっさんも一枚岩じゃないので、手を突っ込みましたよ。

「狙い撃ち」されないように気をつけたこと

働く女性

撮影:今村拓馬

——私は管理職になったばかりの頃、どうふるまったらいいかわからず、取材先など社外の女性管理職や役員に教えを請いに行きました。前編でも触れましたが、出口さんと共著『あなたの会社、その働き方は幸せですか?』にはまるまる1章、上野さんが組織でどう働いてきたかが書いてあって、ああ、もっとこれを早く読めたらと思いました。

上野:それは嬉しいですね。

女性が難しいのは、組織人として生きていないからです。組織が何を一番嫌がるのか。指揮命令系統のステップを飛び越すことが一番嫌なんですよ。だから、それはわきまえました。直接の担当者を味方につけて、この人にやる気になってもらう。

——上野さんそのお作法は自分で考えられたんですか。学んだんですか。

上野:それは2つあります。1つは組織の中で観察してきたこと。もうひとつはね、私、長い間運動をやってきたんです、学生運動も含めて(笑)。運動体というのは、金とポストがなく、それで人を動かすことはできないから、どうみんなのやる気を引き出すか、どうやって他人を巻き込むかっていうことを考えますよね。

——女性管理職の悩みを聞いていると、例えば「根回し」的なことができないということもありますが、そういうことをするのは汚いことだという考えも持っています。裏で交渉するのは卑怯なのではと。

上野:なるほど。「政治的」って言うことが、悪い意味で使われているからですね。その考えもわかります。

私が30代の頃、メディア対応を戦略的にやったので嫌がられました。商業的フェミニストとか呼ばれて、嫌われました(笑)。

それだけでなく私が自分がやりたいことをやりたいようにできたのは、給料をもらう仕事以外に、社会運動や執筆活動など、いくつかの活動をして給料以外の収入源を確保していました。何かあっても辞めても生きていけるように。その代わり、給料分の仕事は手を抜かないようにしました。

やっぱり組織の中って足を引っ張られるんです。以前、『お役所の掟』というベストセラーを書いた元官僚の宮本政於さんから聞いた話ですが、すぐそばにいる事務方や同僚に、逐一服務規程違反をチェックされ30ぐらいのリストを作られたそうです。狙い撃ちされたら絶対組織の中じゃ逃げられません。私、この話を聞いたときに心底震えあがりました。私は狙い撃ちされやすい立場にいたからです。だからそこは本当に気をつけましたね。

私たちの業界だと、科研費(文部科学省の科学研究費助成事業)の不正使用疑惑というのはほとんどがインサイダーからの密告です。それはやっぱり、自分が仕切ってる人たちの中に不平を持ってる人がいるということ。でも集団を束ねるってそういうことに配慮するということなんですよ。

自分を守るためには仕事に手を抜かないこと

上司と部下

Shutterstock/chaponta

——よく思うのは、男性はそういう能力をどこで身につけるんだろう、ということです。上司部下の固い絆の中なのか、飲み会やタバコ部屋かゴルフなのか……。

上野:メンターの役割もありますよね、親分子分みたいな感じで。男社会でメンターの振る舞いを見ながら学ぶということもあるんでしょう。

——自分を守るのは仕事に手を抜かないこと、ともおっしゃっていますよね。

上野:後ろ指をさされないよう給料分の仕事はちゃんとする。本当に足をすくわれますから。バランスを崩したところを虎視眈々と狙ってるような社会ですからね。

私を一匹狼だと思ってる方がいっぱいいらっしゃるようで、これまで組織の中でどう生きてきたかを聞いてくれる人もいなかったんです。今回の本ではよくぞ聞いてくれました、という感じでした。

それにフリーランスになるのを思いとどまったとか、50代でそれまでの仕事が煮詰まったと思ったときにどうしたかとか、そういうことも本書では話しました。そういうことは働く女の人にとっては役に立つかもしれませんね。

——私はバブル世代として大量採用された世代です。多くの同世代は結婚出産を機に退社しましたが、働き続けてきた女性たちもいます。中には独身の人もいるので、自分で自分の身を守るためにも収入を確保しなくてはいけない。でも今、どんどん会社で居場所がなくなりつつあると聞きます。

上野:なるほどね。東大女子は、卒業して10年くらい経つと煮詰まって脱サラしたいとか言ってくるんですよ。これも意外に思われるかもしれませんが、私はそれに賛成したことがないんです。ちょっと待てって。組織は無能なあんたを守ってくれる、って言ってきました。

私はたくさん失敗もしてきました。地雷も踏んできました。失敗から「何をやってはいけないか」「どうすればチームを動かせるのか」を学んできました。必要なのは場を与えられたらためらわずにチャレンジするということ。踏んだ場数が人を育てるんです。

(聞き手、構成・浜田敬子、編集協力・稲葉結衣)

上野千鶴子(うえの・ちづこ):1948年、富山県生まれ。社会学者。東京大学名誉教授。NPOウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学、ジェンダー研究のパニオニア。現在は高齢者介護とケアの問題も研究している。主な著書に『おひとりさまの老後』『女性たちのサバイバル作戦』『在宅ひとり死のススメ』など。

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