猛暑の日には、気温が数度低い地下の部屋にいたくなる。これは地球の地表より地下の方が気温が低いからだ。
地熱スタートアップであるダンデライオン(Dandelion)によると、実は、外気温が高い時も低い時も、地下3メートルまで行くと気温は13度ほどで一定になるという。
この考えから生まれたのが、アルファベットの機密開発研究所、X発のスタートアップであるダンデライオンだ。グーグルの元社員であるキャシー・ハンナン(Kathy Hannun)とジェイムズ・クアズィ(James Quazi)が創業し、2017年にXから分社化している。
共同創業者のキャシー・ハンナン(左)とジェームズ・クアズィ。
Dandelion Energy
電力を極力使わない代わりに、地下深くの「温度」を利用する。それにより、冷暖房費を最大半分まで下げることができ、炭素排出も削減できる、とダンデライオンは言う。
ニッチな商品だと長く考えられていた地熱エネルギーの可能性について、大手投資家たちを説得するのはダンデライオンにとって難しいことではなかった。ダンデライオンの大きな特徴は設備そのものよりもシステムのコストを下げることであり、それにより地熱エネルギーを多くの人の手に届くようにすることだ。
ダンデライオンは2021年2月17日、ビル・ゲイツ率いるベンチャーキャピタルであるブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ(Breakthrough Energy Ventures)が主導した投資ラウンドで3000万ドル(約30億円)を調達したと発表。以前はグーグル・ベンチャーズとして知られていたGVも、今回の投資ラウンドに参加している。ダンデライオンは現在までに、合計6500万ドル(約65億円)を調達している。
地熱エネルギーのシンプルなしくみ
地熱エネルギーのしくみは、実はかなりシンプルだ。建物の外の地面に150メートルほどの穴を掘り、その中にグラウンドループと呼ばれるU字型のパイプを通して水を循環させる。地下に入っていく水は、その周りの温度へと調節される。つまり冬なら室温より温かくなり、夏なら室温より冷たくなる。その水がヒートポンプによって適切な熱に変えられ、温かい・冷たい空気として利用できるという訳だ。
ダンデライオン・エナジーのヒートポンプ。
Dandelion Energy
「グラウンドループで水を循環させるというシンプルなしくみです。閉じたループなので、水は永久に循環し続けるのです」とダンデライオンの社長であるハンナンは説明する。彼女はスタンフォードで土木工学の学士を取得した後、グーグルに7年間勤めた。
また、サーモスタットを使って室内の温度を調節することもできるため、常に13度で固定という訳ではない、とも言う。
地熱エネルギーをより身近に
EnergySageによれば、家庭向けの地熱エネルギーのシステムは高価なものだと3万ドル(約300万円)になるなど、その値段がネックとなってまだ導入が進んでいない。
「これまでは、地熱を使うとなると大きなリノベーション工事が必要になりました。プロの技術者が家に来て、いろいろな計算をし、それから多くの業者と打ち合わせをして導入方法を決めていく。このやり方ではかなりコストがかさんでしまうのです」とハンナンは2020年のクリーン・エネルギーの新興企業特集で語っている。
実際の導入工事の様子。
Dandelion Energy
Xで働いていた時、さまざまな事業機会を検討するプロダクトマネジャーというポジションに恵まれたハンナンが考えたのは、地熱のコストを下げるというアイデアだった。そのためには、地熱をもっと消費者向けに標準化された商品にする必要があると言う。
「一例を挙げると、当社では一連の設計を標準化しているため、導入の際に1軒1軒にカスタマイズする必要はありません」
ダンデライオンは、家の大きさによって必要なシステムの規模を自動で判定できるソフトウェアを開発した。また、地熱によく使われる井戸用のドリルを使うのではなく、地熱に特化したドリルの製造にも投資した。この2つがコストを下げるのだとハンナンは言う。
それでも決して安くはない
ダンデライオンのシステムは約1万8000ドルから2万5000ドル(約180万から250万円)であり、決して安価ではない。そのため頭金なしで毎月の支払額を150ドル(1万5000円)とする分割払いも可能だ。
ダンデライオンによれば、大きな効果を感じられるのは月々の電気代だ。例えばニューヨーク在住なら毎月の冷暖房費を平均で最大50%下げることができるという。
「建物内での冷暖房については、実は地熱がダントツで安いのですが、今までは普及が阻まれてきました」とハンナンは言う。
何より環境面でのベネフィットもある。アメリカでは二酸化炭素排出量の11%が住宅および商業ビルの冷暖房による排出だ。地熱は燃料を燃やすこともなければ、電力も極力使わない。脱炭素の実現に向けた、クリーンなエネルギーなのだ。
(翻訳・田原真梨子、編集・野田翔)