仏ピュブリシスは、世界最古にして最大規模のマーケティング会社だ。パリジャン、マルセル・ブルースタイン=ブランシェが1926年、20歳のときに広告代理店として創業。フランス政府との親密なつながりのおかげで、第2次世界大戦後に世界的な企業へと成長した。クライアントには、ディズニー、サムスン、メルセデス・ベンツ、マクドナルド、ファイザーなどが名を連ねる。
IT部門の幹部だったモーリス・レビが1987年、ブルースタイン=ブランシェの後を継ぎ、10年にわたる積極的な買収活動を開始。米レオ・バーネットや英サーチ・アンド・サーチといった大手代理店、サピエントやイプシロンなどのコンサルティング会社やデータ会社を傘下に収めた。ピュブリシスの従業員は、全世界で約8万4000人にのぼる。
レビは2017年、ピュブリシス帝国の後継者として最有力候補だった、元顧客担当のアルチュール・サドゥンに権限を移譲し、今に至る。ピュブリシスは2019年、119億ドル(約1.27兆円)の収益を計上。対して、競合であるWWPは160億ドル(約1.7兆円)、オムニコムは142.9億ドル(約1.53兆円)だった。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックを受けてクライアントが予算を大幅に削減すると、ピュブリシスも競合他社同様、給与と従業員数を削減した。しかし2020年後半、新規契約を複数取り付け業績を回復。年度末にはパンデミック前の株価を取り戻した。
本稿では、現在および過去のピュブリシス関係者との会話や、会計報告書、プレスリリースをもとに、パンデミック中に影響力を増した19人の幹部を紹介する。
ジャスティン・ビリングズリー(ピュブリシス / CMO)
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ジャスティン・ビリングズリーは、中国でサーチ・アンド・サーチを率いるため2009年にピュブリシスに入社。以来、サドゥンの相談役チームという少数精鋭部隊の一翼を担っている。
関係筋によるとビリングズリーは、成長を追い求めるという点でサドゥンと同じ情熱を抱いており、2018年にメルセデスへの売り込みをけん引して成功させ、その後メルセデス専門の部門を指揮してサドゥンの信頼を勝ち取った。
世界がパンデミックに見舞われる中、ビリングズリーはピュブリシス初のグローバルCMOに就任。同社ブランドの認知度を世界で高める責任を負いつつ、主要な新規契約に向けた営業も監督している。
また就任後、同社のメッセージを外部に向けて発信する支援として、社内コミュニケーション部門を再編した。ピュブリシスは最近、新しいロゴから「Groupe」の文字を削除したが、関係筋によるとその決定の背後にはビリングズリーがいたという。
「ジャスティンは、物事の進め方を心得ている」と話すのは経営トップのひとりだ。この人物によると、サドゥンは1日に4〜5回もビリングズリーと話をするときもあるという。ピュブリシスの各国・地域のリーダーは、ビリングズリーの直属の部下となる。
関係筋はビリングズリーについて、かなり上昇志向が強い人物と形容する。ピュブリシスがここ数カ月で、セフォラ、クラフト・ハインツ、さらにはロレアルの8億ドル相当の中国メディア・アカウントなど、一連の取引を獲得した際の支援もしたと話す。
しかしピュブリシスは最近、大口顧客のウォルグリーン、JPモルガン・チェース、T-モバイルの予算見直しで契約を逃している。現在は延期中だが、長期にわたりクライアントだったサムスンも予算見直しを行っており、再開した際には、ピュブリシスにとって大きな試練になるだろうと最近退任した元幹部は話す。
エマニュエル・アンドレ(ピュブリシス / 最高人事責任者)
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ピュブリシス関係筋によると、CEOのサドゥンは少人数からなる中核的な相談役を頼りにしている。事業には現場主義を取り、社内コミュニケーションから営業、顧客関係に至るまですべてをけん引するために、自らが手を出すことも多い。サドゥンにとっては最古参の仲間であるエマニュエル・アンドレの影響力は、社内の正式な役職以上に及ぶ。
サドゥンがCEOに就任するはるか以前、2人は競合オムニコム傘下のエージェンシー、TBWAで同僚だった。2人は顧客管理から始め、リーダーのポジションへとのぼり詰めた。ピュブリシスを引き継いで2カ月後、サドゥンは自身にとって初めてとなる重要な人材採用でアンドレを招き入れ、新設した最高人事責任者に就任させた。
アンドレの主な仕事は書類上、ピュブリシスの幹部向け訓練プログラムすべての監督と、新たに指導的立場になった人材の支援だ。しかしある元幹部に言わせると、アンドレが最も得意としているのは、サドゥンの豊かなアイデアを実現させることだという。
サドゥンは、AIツール「マルセル」と、2020年のホリデーシーズンのバーチャル・プログラム(元ファーストレディのミシェル・オバマ、ディズニーのボブ・アイガー、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOが出演)を大々的に発表したいと考えたとき、イベントの企画者にアンドレを選んだと元幹部は話す。
別の幹部2人は、アンドレがサドゥンの娘の名付け親でもあると話す。また、サドゥンとやりとりするにはアンドレを通すのが最も効果的なことが多いとの理解が、社内にあるとも述べた。サドゥンの右腕であるアンドレだが、プライベートではビンテージ・バイクのトライアンフで公道を走ることに情熱をかけている。
モーリス・レビ(ピュブリシス / 監査役会会長)
Francois G. Durand/Getty Images
モーリス・レビは1971年、ITディレクターとしてピュブリシスに入社し、1987年に創業者マルセル・ブルースタイン=ブランシェの後継者として同社2代目のCEOとなった。かつてライバルだったWPPのマーティン・ソレル同様、レビは大小エージェンシーを多数取得することで、ピュブリシスを世界的大手企業へと押し上げた。
レビは2017年、30年務めたCEO職を正式に退任し、後継者としてサドゥンを指名。しかし世界戦略を監督するほか、サドゥンへのメンターや、エリザベート・バダンテール(ブルースタイン=ブランシェの娘でありピュブリシスの筆頭株主)の最も近しい助言者を務めるなど、引き続きさまざまな面で社内最大の権力を維持している。
レビは議決権の約2.5%を保有しており、社員によると、パンデミックを受けて以前よりも存在感を増したという。
ピュブリシスは年末の休暇シーズンに風刺的な動画を発表しており、レビはよくゲスト出演している。しかしそうした役割にとどまらず、時には重要なプロジェクトをけん引するために立ち上がることもある。シェアオフィスの運営を手掛ける米ウィーワーク(WeWork)が騒動を起こした2019年後半、月50万ドル(約5300万円)でコンサルタントとしてピュブリシスを雇った際、レビは3カ月間、CMOに就任した。
ある経営トップは、ピュブリシスはサドゥンとレビが共に経営していると話す。レビは、新規契約に注力するサドゥンに対し、エグゼクティブ・コーチ、顧客アドバイザー、プロの相談役といった役割を果たすのだという。
「自分の部下が全員戦っているのであれば、自分は上司でい続ける、というのがモーリスの理論だ」とこの人物は話している。
スティーブ・キング(ピュブリシス / COO)
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スティーブ・キングは、ピュブリシスのグローバル・レベルの幹部として、アルチュール・サドゥン、モーリス・レビに次いで3番目の立場となる。
関係筋によると、キングは2017年にレビの後継者として最終候補に残ったひとりだった。
ピュブリシス勤続35年に及ぶベテランのキングは、ピュブリシス傘下の英メディア会社ゼニスCEOを経て2016年、ピュブリシス・メディア全体を指揮するポジションに昇進。その3年後、グローバルCOOに任命された。
関係筋によると、キングは現在もピュブリシス・メディアの指揮を執っているが(後述のティム・ジョーンズがキングの直属の部下となる)、サドゥンとレビは、ピュブリシス・メディアの枠を超えた職務についてもキングに信頼を寄せているという。例えばキングはこれまで、ピュブリシスのEコマースおよびコンテンツ制作事業のグローバル展開を指揮し、また、ピュブリシス傘下の全企業がサピエントを通じて一部業務をインドに外注しやすくなるようにした。
ある経営トップは、キングとサドゥンの意見は常に一致する訳ではないと指摘する。キングはピュブリシスのグローバル展開に注力しているが、サドゥンは国ごとの成長に取り組んでいるのだ。しかしキングの方が年上であることや、業界内での人脈の広さ、ピュブリシスへの愛社精神から、キングが組織のトップにい続けることは間違いないと見られている。
エイミー・ランジー(ピュブリシス / エグゼクティブ・バイス・プレジデント、コマース・プラクティス・リード)
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ピュブリシスは2018年前半、スティーブ・キングを中心としてグローバルなEコマース事業をローンチして一部の競合広告代理店の先手を打った。
パンデミックにより消費者行動が変化し、マーケティング担当者にとってEコマースがよりいっそう重要性を増す中、エイミー・ランジーに注目が集まった、と関係筋は話す。ピュブリシス・メディアの北米事業をけん引していたランジーは2020年1月、ピュブリシスで関連事業すべてを監督する役職に登用され、その後、アメリカの大口顧客がEコマースを導入する支援を任された。
ランジーは、デジタルおよびメディア関連の全エージェンシーのEコマース・チームを指揮し、また、化粧品メーカーのコティや製薬メーカーのグラクソ・スミスクライン(GSK)といった大口顧客が、アマゾンやクローガー、ターゲットのメディア企業ラウンデルといった大手小売プラットフォームを使いこなすための支援も行っている。
ナイジェル・バズ(ピュブリシス・サピエント / CEO)
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ナイジェル・バズは、ピュブリシス・サピエントCEOであり、サドゥンの側近のひとりでもある。
サピエントは、大手デジタル・コンサルティング会社に勝つためにピュブリシスが2015年、37億ドルで取得したエージェンシーだ。サピエントは当初、厳しい買い物となった上、ピュブリシス・ネットワークにおける位置付けが曖昧だった。
しかし関係筋によると、パンデミック中にEコマースへと迅速にシフトしたことで、クライアントが競うように自社のデジタル・プラットフォームを使いアマゾンに張り合うようになったため、サピエントの重要性が増したという。
バズは、時に困難にも見舞われたサピエントのピュブリシス統合や、2019年前半のピュブリシスのグローバル・ブランド再構築を進める力となった。
サピエント勤務21年のベテランであるバズは、ピュブリシスのコンサルティング業務の責任を担っている。この部門は、パンデミックに伴い、クライアントがビジネスのデジタル化を強化する方法を模索し、サピエントもデロイトのような大手企業との差別化を図る中、重要性が増している。
バズはまた、ピュブリシスの役員会(ほぼ全員、伝統的な広告業界のバックグラウンドを持つ)に重要なテクノロジーの視点をもたらしている。ある関係筋は、サピエントがもし取得されていなかったら、「ナイジェルはシリコンバレーで働いていただろう」と話す。
サピエントは近年、ウォール・ストリート・ジャーナルのペイウォール(課金用の壁)の構築や、マクドナルドのデジタル・ユーザー・エクスペリエンス(ドライブスルーのセルフ注文端末からモバイルアプリまで)の向上など、大手クライアントのプロジェクトを手掛けてきた。
バズは2021年1月、書籍『Digital Business Transformation: How Established Companies Sustain Competitive Advantage from Now to Next』(未訳、デジタル・ビジネスの変革:今から次へ、既存企業が競争力を維持する方法)を刊行している。
テレサ・バレイラ(ピュブリシス・サピエント / 最高マーケティング責任者(CMO))
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テレサ・バレイラは、サピエントが2020年を方向転換の年にした際に重要な役割を果たした。
バレイラは、アクセンチュアやデロイトでマーケティングのトップを務めた後、2018年にサピエントに入社した。第一の目標は、さまざまな業界のピュブリシスのクライアントやリーダーに、サピエントの業務をよく知ってもらうことだ。
サピエントは従来的な営業を行ったことはほとんどないが、関係筋によると、相手の懐に入るバレイラのスキルが、これまで新たな事業機会を生み出してきたという。
他の人たちとコラボレーションするバレイラのスタイルの例として、2020年後半にローンチした動画ストリーミング・プロジェクト「ザ・ハウ・チャンネル」がある。スクエアやホールフーズといった企業のリーダーを招き、短い説明動画に出演してもらったり、ピュブリシスの幹部と直接やりとりできるプライベートなイベントに参加してもらったりした。
ティム・ジョーンズ(ピュブリシス / アメリカCOO)
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ティム・ジョーンズは、関係筋によると、アメリカのピュブリシスで最も静かな影響力を持つ人物であり、同社の計画を実行する際にリーダーらにかなり信頼されている人物でもある。
「彼は偉大な力を持っているのにそれを見せない」と、ある幹部は話す。ジョーンズは2021年初頭、ピュブリシス・メディアの南北アメリカCEOから、ピュブリシスのアメリカ事業における全エージェンシー(別運営のイプシロンとサピエントを除く)を指揮するCOOに昇進したことで、さらなる権力を手にした。
ピュブリシスは、全収益のうち約6割をアメリカから計上している。しかしアメリカはあまりにも複雑な市場であるため、同社が独自のCEOを設けていない唯一の国でもある。ジョーンズは、アメリカ拠点の役員会を率いているが、パンデミックを受けて役員会の権力は拡大しており、関係筋は、ジョーンズが非公式のCEO職をサドゥンと共同で務めていると話す。
イギリス出身のジョーンズは、ゼニスで25年過ごした後、2016年にピュブリシス・メディアの南北アメリカCEOに昇進した。ジョーンズはまた、ピュブリシスが同年、クライアント向けのプログラマティック・トレーディングやデジタル投資を管理するために立ち上げたグループ、ピュブリシス・メディア・エクスチェンジ(PMX)の推進力とも考えられている。
ある関係筋によると、ピュブリシスは先ごろ、イプシロンのデータ資源を活用してクライアントに具体的な結果を提供できるよう、イプシロンを米メディア・エージェンシー事業に統合。これを指揮したのはジョーンズだったという。
サドゥンがジョーンズをアメリカCEOに就かせるのでは、との噂があったが、別の幹部は、ジョーンズの影響力が強まったのはわずかここ半年、特にCOOに昇進した後だと話している。
デイブ・ペンスキー(ピュブリシス・メディア・エクスチェンジ / グローバル・チェアマン、ピュブリシス・メディア / アメリカCEO)
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デイブ・ペンスキーもまた、華々しい経歴を持ったベテランだ。ティム・ジョーンズの後継者として2021年2月、ピュブリシス・メディアのアメリカCEOに昇進して以来、その影響力が増している。ペンスキーもまた、アメリカの全業務を監視する取締役の一員だ。
ペンスキーはメディア企業ゼニスのCEOに昇進した後、ピュブリシスの全クライアントのプログラマティック・バイイングを引き受けていたトレーディング・デスク、ビバキ(VivaKi)の運営を任された。ビバキが2015年に解散すると、その後継組織であるピュブリシス・メディア・エクスチェンジ(PEX)のCEOに就任した。
ペンスキーは2020年1月、PEXのCEOを退任したが会長職は現在も続けており、ティム・ジョーンズおよびスティーブ・キングと密に連携しながらピュブリシス・メディアのアメリカ事業の采配を振るっている。
ペンスキーは、アメリカを拠点にしたメディア幹部としてはジョーンズに次いで2番目の立場にある。ロックサ(Rauxa)などデジタルに焦点を当てたエージェンシーのリーダーらはペンスキーの部下になる。
ペンスキーはまた、ピュブリシスのクライアントから出版社やプラットフォームへの支払いの流れを監視する立場にいることや、ディズニーやベライゾンといった大口顧客と親しいことから、かなりの影響力を持つ。
ヘレン・リン(ピュブリシス / 最高デジタル責任者(CDO))
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ピュブリシスでデジタル関連のあらゆる業務の責任を負うヘレン・リンは、フェイスブックやグーグルといった大手テック企業との関係を持つ、ピュブリシスで最も職位の高い人物だ。ピュブリシス・メディアでCDOを務めた後、2021年2月にピュブリシスのCDOに就任。同グループ内アメリカCEOのデイブ・ペンスキーが直属の上司となる。
リンは、大小さまざまなクライアントにデジタルのどの部分に投資すべきかを助言しているが、今後は、データ・プライバシーやブランドの安全性に関するピュブリシスの業務もけん引することになる。
パンデミック中にペイド・ソーシャルのトレンドは変化を遂げているが、関係筋は、勤続14年のベテランであるリンのこの分野における専門知識を絶賛する。
「グーグルやフェイスブックはリンを指名してくるし、全クライアントがリンの存在を知っている。それは、彼女が瞬時に問題を解決してくれるからだ」とある幹部は話す。
ゼニスでかつてマネージング・ディレクターを務めたリンは、業界団体アドカラーなどとともに、広告業界でのさらなる多様性の推進を提唱している。また、ピュブリシスのリソース・グループ「パワー・オブ・ウィメン」や、ニューヨークでデジタル広告に従事する人たちの組織212NYCの役員も務める。
カーラ・セラーノ(ピュブリシス / 最高戦略責任者(CSO)、ピュブリシス・ニューヨーク / CEO)
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カーラ・セラーノは、サドゥンCEOの最側近のひとりであり、彼女を「アルチュールの右腕」と呼ぶ幹部もいる。
セラーノは、TBWAで広告代理店のキャリアを開始。CSO(最高戦略責任者)にのぼり詰め、クラフトやGSKといったクライアント獲得の助力となった。ネイキッド・コミュニケーションズの北米CEOも務め、NBCユニバーサル、モンデリーズ、ノバルティスなどの顧客を担当。2014年にピュブリシス・ノース・アメリカに移り、CSOに就任した。
セラーノは2016年、ニューヨーク・オフィスのCEOに昇進。サドゥンがアメリカを重視するようになるに伴い、ここ1年でセラーノの影響力は拡大している。
複数の幹部によると、セラーノの日常業務内容は必ずしもはっきりしないが、アメリカ事業、とりわけニューヨークについてサドゥンが助言を必要とするとき、セラーノは常に相談相手の候補となる。これまでいくつかの重要なプロジェクトをけん引しており、2020年半ばにAIプラットフォーム「マルセル」を発表した際には、インタビューを手配したり、マルセルの最新情報を随時、全社員に告知したりした。
アレクサンドラ・ボン・プレート(ピュブリシス・ヘルス / CEO)
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ヘルスケア・マーケティングは2019年、ピュブリシスの総収益の10%を占めたが、この数字は増加する見込みだ。パンデミック中、製薬会社やヘルスケア企業が持ちこたえたためだ。
ヘルスケア・マーケティングは、クライアントとしてファイザー、サノフィ、GSK、ノバルティスなどが名を連ねるピュブリシスにとり、貴重な明るい材料だ。つまり、世界の医薬品市場でさらなるシェア拡大をもくろむピュブリシスにとって、アレクサンドラ・ボン・プレートの役割はさらに重要性を増すことになる。
ボン・プレートは、ピュブリシス傘下の医療系広告代理店デジタス・ヘルスやメディカスで10年近く過ごし、2018年にヘルスケア業務を統括するピュブリシス・ヘルスのCEOに就任した。サーチ・アンド・サーチ・ウェルネス、ピュブリシス・ヘルス・メディア、製薬専門のディスカバリーUSAを含む関連エージェントすべてを監督している。
ニック・コルッチ(ピュブリシス・ヘルス / エグゼクティブ・チェアマン、ピュブリシス・コミュニケーションズ / COO)
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ニック・コルッチは、2003年にピュブリシスのヘルスケア部門の立ち上げに関わって以来、同部門の中心的存在になっている。4年後、製薬業界のクライアントがピュブリシスにとって重要な役割を担う中、同部門のプレジデントおよびCEOに任命された。
コルッチは2018年、エグゼクティブ・チェアマンに就任。エージェンシーの合併やリーダーシップの変更が続く中、ピュブリシスの米クリエイティブ・ネットワークの再構築をCOOとして担った。
ある関係筋は、リモートワークへの転換における重要な部分をコルッチが監督する立場にいたため、パンデミック中にコルッチの影響力が増したと話す。コルッチは外部と接する立場にはいないが、AIプラットフォーム「マルセル」に関連した人材やリソースの一部管理業務など、ピュブリシス運営において目には見えない機構の大部分に携わっている。なお、コルッチはピュブリシス入社前、スイスの製薬大手ロシュで長年マーケティングや営業を手がけていた。
アンヌ・ガブリエル・ハイルブロンナー(ピュブリシス / セクレタリー・ジェネラル)
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ピュブリシスにおける4人体制の取締役(CEOのサドゥンや、前出のスティーブ・キングを含む)のひとりであるアンヌ・ガブリエル・ハイルブロンナーは、同社で最も地位が高い女性リーダーだ。
セクレタリー・ジェネラルとしてハイルブロンナーは、内部監査やリスクマネジメント、国際規定へのコンプライアンス、調達マネジメント、第三者ベンダーとの関係など、ピュブリシスにおける最重要機能の一部の責任を負っている。
2012年に取締役に任命されて以来、ハイルブロンナーの職責範囲は拡大している。ピュブリシスの社会的責任への取り組みや、「経済と社会のための女性フォーラム」グループを同社でけん引する人物として、サドゥンは、長年にわたり働く女性を擁護しているハイルブロンナーを指名した。ピュブリシス・グループは毎年、パリに約1500人の幹部を集め、ジェンダー平等の問題について協議している。
ハイルブロンナーは過去には、外務省や、銀行監督組織である財務監督局などで勤務するなど、フランス政府で重要な役職を歴任した。
レネッタ・マッキャン(ピュブリシス / 最高インクルージョン・エクスペリエンス責任者)
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40年以上前にシカゴの米広告代理店レオ・バーネットで研修生としてそのキャリアを始めたレネッタ・マッキャンは、ピュブリシスに生涯を捧げている。
レオ・バーネットで初の黒人バイス・プレジデントやメディア・ディレクターになるなど20年過ごした後、スターコムに移り、ワールドワイドCEOへとのぼり詰めた。その後2008年にサバティカル(長期休暇)を取得し、学校で人材マネジメントを学んだ。その後、レオ・バーネットに復職し人事部門を率いた後、ピュブリシスにおけるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の全取り組みを率いることになった。
元幹部の中には、マッキャンを「ピュブリシスの王族」と呼ぶ人もいれば、社内政治を避けつつ強大な影響力を持つと表現する人もいる。
パンデミック以前、ピュブリシスが新たに作ったD&I運営委員会(2020年のジョージ・フロイド死亡事件から発生したBLM(Black Lives Matter)に対応するための組織)を指揮する人物として、マッキャンが選ばれた。
現在は、2020年12月にアメリカの最高多様性責任者だったロニー・ディッカーソン・スチュワートの退任を受け、D&I業務でさらに重要な存在となっている。マッキャンは2021年2月、アメリカの取締役にも任命されている。
マッキャンがサバティカルを取る意向を発表した際、当時のバラク・オバマ政権に加わるために広告業界から完全に身を引くのだとの噂が流れ、本人が否定するという一件があった。しかしマッキャンはキャリアを通じてこれまでずっと政治的に活発であり、2020年12月の誕生日には、政治雑誌ポリティコが祝いの言葉を掲載したほど、シカゴの政界では知られた存在だ。
アネット・キング(ピュブリシス / イギリスCEO)
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ピュブリシスが国ごとにCEOを指名するようになったのは2017年だが、サドゥンはピュブリシスにとって2番目に大きなイギリス市場の事業を指揮する人物として、競合WPPのエージェンシー、オグルヴィのCEOだったアネット・キングを採用し、同国で話題になった。
ピュブリシスはイギリスで約5000人を雇用しており、関係筋によると、世界全体の収益のうち同国は10%弱を占めているという。ある経営トップは、経営陣の一員でありサドゥンの直属の部下でもあるアネットの承認なしに、イギリスで進められるものは何一つないと話す。
ピュブリシスは2020年4月、広告代理店として初めて、雇用削減や役員報酬の削減を行うことを認めた。これ以来、イギリスの立ち位置は後退したと言う人もいる。しかし、報酬は予想よりも早い9月に通常の水準に戻っており、アネットは引き続き、ヨーロッパで最も影響力を持つ人物のひとりとなっている。
アネットはこれまで、給与の男女平等を声高に訴えてきた。ピュブリシスの直近の男女平等プログラムに関する2019年報告書の中でキングは、女性幹部が複数人採用されていることに触れつつ、男女間の賃金格差は依然としてあると認めている。
ロス・キング(ピュブリシス / エグゼクティブ・バイス・プレジデント、グローバル・クライアント・リード)
ピュブリシスは2018年、クライアント1社に特化し、さまざまなエージェンシーから人材を集めた部門を立ち上げるようになった。例えば、ピュブリシス・イマジンは、ディズニー専門だ。
同社は翌年、こうしたチームや、大手クライアントとの関係を指揮する人物として、英大手銀行ロイズでマーケティングの責任者を務めていたロス・キングを採用した。ロスは経営陣の一員であり、サドゥンを直属の上司とする。また、プロクター・アンド・ギャンブルやモンデリーズといった顧客を抱える各国のリーダーがロスの部下となる。
職務は、クライアントがピュブリシスのリソースを最大限に活用できるようにする支援だ。これには、社内の最新情報の告知から、ウェビナーへの招待、パンデミック中にクライアントが必要なサービスを使用できるようにすること、などが含まれる。
おそらく最も重要なのは、ロスが、ピュブリシス最大の新規契約の売り込みをまとめる中心的な存在だという点だ。他のピュブリシス取締役はほとんどが同社に長年在籍していることもあり、最近採用された中で、ロスは最も有力な人材のひとりでもある。
ロイズ銀行の前には、オグルヴィで同社長年のクライアントであるアメリカン・エキスプレスを担当。またIPG傘下のマッキャン・ワールドグループで顧客管理もけん引していた。
アンドリュー・スウィナンド(レオ・バーネット / CEO、ピュブリシス・コミュニケーションズ・セントラル / CEO)
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複数の経営幹部によると、アンドリュー・スウィナンドは、ピュブリシスのアメリカ事業におけるコミュニケーション部門の最重要人物だ。
スウィナンドはレオ・バーネットのグローバル・ネットワークを取り仕切っており、また、ファロン、BBH、MSL、サーチ・アンド・サーチといった他のクリエイティブおよびPRエージェンシーでの新たな事業の取り組みの責任も担っている。
スウィナンドはもともと起業家で、マーケティング・テクノロジーおよび分析企業2社を創業。両社とも、スウィナンドの入社と同時にピュブリシスが取得している。テクノロジーのバックグラウンドを持つスウィナンドは当初、フィリップモリスの「マールボロマン」、ハインツのケチャップ(The best things come to those who wait)、全米肉牛生産者・牛肉協会(Beef. It's what's for dinner)など、印象的なCMを手掛けたエージェンシーをけん引する人物としては、意外な選択に思われた。
しかしスウィナンドは、ピュブリシスのメディア・エージェンシー、スターコムで10年のキャリアを積み、プロクター&ギャンブルでもマーケティングのトップを務めていた。ある幹部によると、クライアントのニーズがますますデータに基づくものとなる中、スウィナンドはテクノロジーとエージェンシーの経験という、待望の組み合わせをもたらしたという。
リズ・テイラー(レオ・バーネット / グローバル最高クリエイティブ責任者、ピュブリシス・コミュニケーションズ・ノース・アメリカ / 最高クリエイティブ責任者(CCO))
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関係筋によると、リズ・テイラーはピュブリシスの中でも指折りのクリエイティブ・エグゼクティブであり、レオ・バーネットを取りまとめ、ピュブリシス・コミュニケーションズ・ノース・アメリカの全作品の責任を負っている。ある幹部は、「リズとその他大勢」だと表現するほどだ。
テイラーは2019年初頭、CSOのカーラ・セラーノと元グローバルCCOのニック・ロウのパートナーとしてピュブリシスに加わった。現在は、スウィナンドや、ピュブリシス最大の市場となる北アメリカで活動するピュブリシス傘下にある他のエージェンシーのクリエイティブ・リーダーと密に連携している。またレオ・バーネットの各地域のチームを監督するために、世界中を飛び回っている。
テイラーは、エージェンシーでの広範な経験をこの役職にもたらした。また、紙やテレビといった従来型の広告から離れたピュブリシスにとって、テイラーのデジタル専門知識はとりわけ重要であった。テイラーは以前、米広告代理店IPG傘下のFCBのシカゴ・オフィスでCCOを務め、WPPのオグルヴィでデジタル・メディアおよびソーシャル・メディアの業務を率いた。
テイラーは社員からも人気が高く、2020年のホリデーシーズンにピュブリスが行った全社向けのバーチャル・イベントに出演した数少ないクリエイティブ部門のリーダーだった。
(翻訳・松丸さとみ、編集・野田翔)