スウェーデン発の車載電池スタートアップ、ノースボルト(Northvolt)は、電気自動車(EV)シフトを背景に、世界最高のクリーンバッテリー開発メーカーとして大きな注目を集めている。
Northvolt
- ノースボルト(Northvolt)のピーター・カールソン最高経営責任者(CEO)はかつて、テスラでサプライチェーン担当のバイスプレジデントを務めていた。
- 自動車産業の将来を見通す(テスラの)イーロン・マスクCEOの考えについていくのは相当に大変なことだった。
- カールソンCEOは自ら立ち上げた電池スタートアップ、ノースボルトでテスラの企業カルチャーを再構築しようと考えている。
欧州発、いま世界で最も注目される電池開発スタートアップ、ノースボルトを率いるピーター・カールソンが、テスラの「イーロン・マスクが仕込んだ恐ろしいほど有能な連中ばかり集まるチーム」にジョインしたのは2011年の夏。
それから10年以上、彼はオペレーションとサプライチェーンの専門家として経験と実績を積み重ねた。
カールソンはスウェーデンの通信機器大手エリクソンでキャリアをスタートさせた。1995年にはソーシングマネージャー(=調達・購買を担当)、2001年には同部門のトップに就任。携帯電話サプライチェーンの成長・拡大に貢献した。
13年間をエリクソンで過ごしたあと、カールソンはオランダの半導体大手NXPセミコンダクターズに転じ、オペレーションとサプライチェーンの改革を指揮している。
ノースボルトのピーター・カールソン最高経営責任者(CEO)。
Northvolt
どう考えても輝かしい実績だが、その経験はテスラに移ってからは、世間で評価されるほどには役に立たなかった。
テスラでは、イーロン・マスクCEOの独創的なひらめきがまずあって、カールソンを含むあらゆる従業員は何ごとも勝手な思い込みではないかと自らの考え方を疑うところから始め、既存のテクノロジーの限界を超えたところで新たな何かを生み出していく必要があった。
カールソンはテスラでサプライチェーン部門のトップを務めていた当時、Business Insiderにこう語っている。
「イーロンはたくさんのことを教えてくれた。それまで自分はオペレーションとサプライチェーンを熟知していると自信を持っていたけれども、彼は僕がキャリアの過程で学んできたことに対し、とてもシンプルな疑問を投げかけてきた。『5年、10年前の話が今日(のイノベーションに)何か関係あるのかい?』ってね」
マスクCEOはサプライチェーンマネジメントについて垂直統合型の発想を持っていて、部品はできるだけ自社生産し、製造プロセスも可能な限り自動化、自己完結的な体制の構築を志向したため、カールソンは(部品などの供給網に依存する形の)従来的なサプライチェーンをあきらめざるを得なかった。
2015年、カールソンはテスラから独立し、2016年11月、いま最も注目される電池スタートアップ「ノースボルト」を設立する。電池セルのケミストリー(=材料など化学的構成)を最適化し、より環境に優しいサステナブルなリチウムイオン電池をつくり出すのが目的だった。
従業員数百人規模のスタートアップが17万人の巨大企業に成長していくさまを目の当たりにした、テスラでの数年間の経験から学んだいくつものことが、ノースボルトの経営にいま生かされている。
「創業期は本当に大変だった。でも、強力なミッションと目的を持った人たちが集まれば、無謀とも思える何かであっても、それをなし遂げる力は生み出せるということがわかった。
自分でノースボルトを立ち上げるとき、土台に据えたいと考えていたことがある。それは、大きなインパクトを生み出したいという目的を同じくする、多様な文化背景を持つ人たちが世界中から集まって、世界で最もサステナブルな生産体制と、地球上で最も環境に優しい電池をつくり出すという理想だ」(カールソン)
(翻訳・編集:川村力)