2月17日、日本でもついに医療従事者に向けたファイザー、ビオンテックが開発したワクチンの先行接種が始まった。
Behrouz Mehri/Pool via REUTERS REFILE
アメリカやイギリスをはじめ、世界では新型コロナウイルスに対するワクチンの接種が進んでいる。日本でも、いよいよ医療従事者を対象にしたワクチンの接種がはじまった。
既に世界では2億回分近いワクチンの接種が完了しており、製薬会社らが実施した治験データに加えて、臨床現場で得られたデータが蓄積されている。
日本で接種が開始されたのは、アメリカのファイザー社とドイツのBioNTech社が共同開発した、「mRNAワクチン」と呼ばれるタイプのワクチンだ。
ワクチンの効果や、副反応などの疑問を4つにまとめた。公開データを元におさらいしておこう。
1. ワクチンの有効性はどれくらい?
イスラエル、テルアビブで新型コロナウイルスに対するワクチン接種が行われている様子。接種場所は体育館。
REUTERS/Corinna Kern
世界で最もワクチンの接種が早く進んでいるのはイスラエル。2月19日の段階で、国民の4割(人口約900万人)を超える400万人以上の人が1度目のワクチン接種を終えているとの報道もある。
2月14日、イスラエルの医療機関クラリットは、ファイザーのワクチンを接種した人と未接種の人を対象に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症数を比較した結果を発表。
ワクチンを接種したグループ(約60万人)では、未接種のグループ(約60万人)に比べて発症者が94%少なく、さらに重症例も92%減少していたという。
約4万人が参加したファイザーの臨床試験では、ワクチンを接種したグループで、発症者が約95%減少したという結果が報告されていた。
クラリットの報告では、引き続き追跡調査を進めるとしている。最終的な有効率については変動することが予想されるものの、おおむねファイザーの臨床試験の結果と同等の高い有効性が確認できた。
また、ファイザーの臨床試験では、70歳以上の高齢者に対する結果が少なく、有効性などについて十分な結論を得ることはできていなかった。イスラエルの報告では、16歳以上のすべての人(70歳以上を含む)に対して、広く効果が確認できたとしている。
イスラエル保健省では、ワクチンの接種後の反応として、注射部位の腫れや痛み、発熱、悪寒、倦怠感、頭痛、脱力感、筋肉痛、関節痛、吐き気、リンパ節腫脹といった症状がみられることがあると説明。
これらの症状は、2回目のワクチン接種で少し多かった。また、アレルギー反応の一種であるアナフィラキシーの反応はまれだとしている。
イスラエルでは、ワクチン接種後に何らかの有害な出来事が発生すると、因果関係の有無に関わらず管理システムに報告することになっている。ただし、今回調べた範囲では、細かい有害事象(※)の総数についての記載は見つからなかった(データの所在が分かった場合、追記予定)。
※有害事象とは、ワクチンを接種したあとに起こった「あらゆる悪い出来事」。雷に打たれたり、交通事故にあったりと、ワクチンとの因果関係の有無に関わらず集計される。
2. ワクチン接種後の「副反応」は結局どのくらい?
ファイザーの第3相試験に関する詳細が記載された論文。新型コロナウイルスに関係した論文は、ほとんどの雑誌で誰でも無料で読めるようになっている。
撮影:三ツ村崇志
※有効性や副反応に関する細かい数字は、ファイザーの臨床試験や、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が報告しているデータを元にした。
ファイザーがワクチンの効果を確認するために行った第3相臨床試験には、4万3548人が参加した。
このうち、実際に注射を打ったのは4万3448人。約半数となる2万1720人にワクチンを接種し、残りの2万1728人にはプラセボ(偽薬)が投与された。
2度目の投与から7日後以降に発症したCOVID-19の患者数をこの2つのグループで比較したところ、ワクチンを接種したグループでは8人、プラセボを投与したグループでは162人だった。
ワクチンを打たなければ162人発症していたところ、8人(162人と比較すると5%)しか発症しなかったということで、約95%の発症予防効果があるとしているわけだ。
次に、ワクチンの接種時に生じる副反応。
1月27日のCDCの報告では、ファイザー、モデルナそれぞれのワクチンを接種した直後7日間で生じた主だった反応について、アメリカの副反応調査システム「V-safe」に登録された割合が下の図のようにまとめられている(症状の大小についての記載は確認できなかった)。
V-safeに少なくとも1度は登録を行った人の数は、ファイザーのワクチンを接種したグループで約100万人、モデルナのワクチンを接種したグループで約108万人だった。
なお、この段階でファイザーのワクチンを接種した人数は約1200万人、モデルナのワクチンを接種した人数は約900万人であることにも同時に注意する必要がある。
ワクチン接種後7日以内にV-safeに報告があった症状の割合。どちらのワクチンについても、報告件数は約100万件。モデルナの2度目の接種後のデータはなかった。
CDCのデータを用いて編集部が作成。
日本で医療従事者向けの接種が始まったファイザーのワクチンでは、一般的な局所症状として、腕の痛みや腫れなどが報告されている。
また、全身症状としては、寒気や倦怠感、頭痛が多い。これは、ファイザーの臨床試験でも報告されていたものだ。
また、CDCもイスラエル同様に、1度目の接種時より2度目の接種時の方が全身の症状は顕著にあらわれる傾向があるとしている。
なお、ファイザーの臨床試験の結果の詳細を見ると、症状の大小に応じた頻度が細かく記載されている。それによると、報告されている局所症状や全身症状の大半は「軽度」から「中等度」。生活に支障がでるレベルの症状は数少ない。
2度のワクチン接種後に生じた日常生活を妨げる「重度」以上の症状のうち、2%以上の頻度であらわれたものは、倦怠感(3.8%)と頭痛(2.0%)のみだった(このデータの母数はプラセボ群含めて8183人)。
とはいえ、38度前後の発熱なども軽度に分類されているたため、今後、ワクチンを接種する事になった場合は、1〜2日程度安静にできるよう休みを確保しておいても良いかもしれない。
なお、日本で承認されたファイザーのワクチンの国内治験では、2度のワクチン接種後に接種部位の痛みを認めた人が約80%、37.5度以上の発熱があった人が約33%、疲労・倦怠感を訴えた人が約60%いた。
ファイザ−が日本で行った臨床試験で報告された副反応。同じ症状でも、軽度のものから重度のものまで様々あるが、重度の副反応の事例については厚生省のウェブページからワクチンの添付文書等を参照して欲しい。
厚生労働省に記載のデータを用いて編集部が作成。
3. 気になるアナフィラキシーの頻度は?
また、海外で接種が始まってからというもの、低頻度でアレルギー反応の一種であるアナフィラキシーが確認され、注目されている。
2020年1月17日には、CDCからアナフィラキシーに関する調査結果が報告された。
そこでは、2020年12月14〜23日の間にワクチンを接種した約190万人中、重いアナフィラキシーを発症した件数は21件。そのうち71%は、ワクチン接種から15分以内に発生していた。なお、アナフィラキシーによって死亡した事例はなかった。
また、その後、アメリカ国内での接種が進むにつれて、アナフィラキシーに関するデータが更新された。1月27日の資料では、mRNAワクチン(ファイザー製、モデルナ製)を接種した場合にアナフィラキシーを発症する割合は、100万人中2〜5件程度と見積もられている。
日本では、首相官邸のワクチンに関するウェブページで、アメリカでの報告を引用する形で、アナフィラキシーの発生割合を「100万人中5人」と示している。また、日本での接種においては、ワクチン接種後15~30分経過を見て、アナフィラキシーが発生した際には医療従事者が必要な対応を行うとしている。
なお、ファイザー社が開発したワクチンにせよ、モデルナ社が開発したワクチンにせよ、CDCでは、mRNAワクチンの1度目の接種で重度のアレルギー反応を起こした人は、2度目の接種を行わないよう推奨している。通常の食物アレルギーなどの人に対しては、接種を勧めている。
日本での運用も、少なくとも現時点で承認されているファイザーのワクチンでは同様だ。
4. ワクチン接種の準備状況は?
1月中旬の段階で、半数の病院がワクチン接種への協力に前向きだった。
出典:エムステージ
日本では、2月17日から医療従事者を対象にワクチンの接種が始まった。
現在、各自治体では、4月以降に予定されている非医療従事者へのワクチン接種に向けた、医療従事者や接種場所などの調整が行われている。
医療従事者向け人材サービスを提供するエムステージでは、1月21日〜26日に全国の131の医療機関と483人の医師それぞれアンケートを実施。
これによると、医療機関の約半数が、すでにワクチン接種への協力依頼があったと回答している。また、すでにワクチン接種の実施を決めた医療機関は31%だった。
また、依頼はきていないものの、「依頼があれば、実施する」と回答した医療機関も19%と、全体の半数がアンケート実施段階でワクチン接種への協力に前向きな回答を示していた。
中には、医療機関としては諸般の事情から対応できなくても、自治体からの要請にもとづいて医療従事者を派遣することを決めている医療機関もみられた。
医療機関だけではなく、多くの医師も、ワクチン接種への協力に前向きだった。
出典:エムステージ
また、医師向けに行われたアンケートでは、9割以上の医師が「新型コロナのワクチン接種の勤務があれば、希望する」と回答。「常勤している勤務先の業務もある中で、スポット的にワクチン接種に協力したい」などと、ワクチン接種に対して協力的な意見が多かった。
一方、ワクチンの接種を進めていく上で、実務上で懸念となる事項については、7割以上の医師が「接種時の副反応への対応」をあげている。
ワクチン接種に向けて、実務上の課題を聞いたところ、「副反応への対応」をあげる医師が多かった。
出典:エムステージ
都内の病院に勤務している感染症の専門医(30代)に話を聞くと、副反応に対する考え方を次のように語った。
「主な実務上の懸念は、アナフィラキシー反応や強いストレスや痛みなどの影響で生じる反応である迷走神経反射などへの対応になりますが、インフルエンザといった他のワクチンでも一定の確率で起きることなので、特別な対応は必要ではないと考えています」
「副反応に懸念している」と言われると、今回のワクチン特有の副反応があるように聞こえるかもしれない。
しかし実際には、現時点で普及しているさまざまなワクチンを接種する上でも、医師らはつねに副反応に対して気を遣っているという。
「個人的な印象では、新しいワクチンということで、メディアが大きく着目していることでコロナワクチンには特別な対応が必要であるといった空気がでている印象があります。
一方、コロナワクチンの接種は欧米で始まったばかりなので、長期的な視点でコロナワクチン特有の問題が発生するかどうかの注視は必要とは考えます」(前述の医師)
アンケート結果で、「副反応への懸念」という言葉が多く上がったことは、医師たちが普段から細心の注意を払っていることの現れだとも言えるだろう。
CDCによると、アナフィラキシーの発生割合は100万人あたり5人程度。
東京都(人口約1400万人)では70人。関東一都三県(人口約3500万人)では175人。全国(人口約1億2000万人)だと600人程度がアナフィラキシーを起こす計算になる。
ただし、いつ、どこで、誰がなるのかが分からないのがやっかいなところだ。
そのため、厚生労働省は、ワクチン接種会場で、アナフィラキシーをはじめとした想定される副反応にすぐに対応できるように準備を進める計画を示している。
新型コロナの収束をさせる上で、ワクチンが重要な役割を持っていることは間違いない。その一方、「新しいワクチン」ということで、接種を悩む人も中にはいるかもしれない。
国内外で蓄積されてきたデータや、ワクチンの接種体制を見極めながら、ワクチンを接種するメリットとデメリットを考えて、納得の行く選択をできるようにして欲しい。
(文・三ツ村崇志)
●参考文献
・アメリカ疾病予防管理センター「COVID-19ワクチンとアレルギー反応」
・アメリカ疾病予防管理センター「COVID-19 vaccine safety update」(1月27日の報告資料)
・アメリカ疾病予防管理センター「ファイザー社のワクチンに関する情報」
・アメリカ疾病予防管理センター「コロナワクチンの有害事象に関する報告」
・ファイザー社、国際共同第2/3相試験論文データの副反応詳細
ほか、厚生労働省の基本情報を参照