新プラン「LINEMO」は新料金プランというだけではなく、Zホールディングス(ヤフー)を傘下に持つソフトバンク、LINEが強く関係するものとしても注目だ。
撮影:小林優多郎
ソフトバンクが3月17日から提供開始するオンライン専用プラン「LINEMO(ラインモ)」が話題だ。LINEとソフトバンク陣営は、Zホールディングス(ヤフー)とLINEの経営統合をめぐって急接近している。その経営統合のスケジュールは新料金発表翌日の2月19日、「3月1日に経営統合を実施」することが発表された。
LINEMOの料金やサービス内容は既報のとおりだが、LINEと組むシナジー効果を生かし切っていない印象が強い。取材から見えてくるのは、それがどうやら経営統合と関係があるのではないか、という仮説だ。
サービス面での“LINEとのシナジー”に疑問
LINEとのシナジーとして発表されたのは3つだけだった。
撮影:中山智
筆者がLINEMOの発表でとりわけ気になったポイントは、ブランド名に「LINE」という文字を残してはいるものの、LINEとの実際のシナジー効果がソフトバンクのアピールほど感じられないことだ。
発表会でLINEとのシナジーとしてアピールしていたのは下記の3つ。
- LINEトークなどのカウントフリー
- LINEでの音声通話/ビデオ通話カウントフリー
- LINEスタンプ プレミアム ベーシックコース無料
LINEMOの契約手順の例。eKYCを採用することで、ショップに行くこと無くLINE内でスムーズに契約できるという。
撮影:小林優多郎
最初の2点は2020年12月の仮称である「SoftBank on LINE」発表時にアナウンス済みで、今回の発表で追加されたのはLINEスタンプの件のみだ。
そのほかの申し込みや本人確認などもLINEから行えるようになること以外は、LINEとのシナジーは(発表時点では)まったく感じられない。
発表会に登壇したLINE取締役CSMO舛田淳氏。
撮影:中山智
発表会にはLINE取締役CSMOの舛田淳氏も登壇したが、LINEの月間利用者数が8600万人で、毎日使うユーザーは85%など利用状況を話すにとどまった。関連サービスもプレゼンしていたが、今回のLINEMOと連携するものはない。
発表会での質疑応答で「先行エントリーで付与されるのがLINE PayではなくPayPayのポイントなのは何故か」という質問に対し、ソフトバンク常務執行役員の寺尾洋幸氏は「先行エントリーを受け付ける際に、ソフトバンクとして短時間で用意できるのがPayPayボーナスだった」と説明。
さらに「LINEとヤフーの経営統合が3月に控えている。そのなかでどのサービスを組み合わせていくか大切になってくる」と話している。
ソフトバンク目線で「媒体としてのLINEは非常に魅力」
グループインタビューで記者の質問に答える寺尾氏。
撮影:中山智
発表会後に、寺尾氏へのグループインタビューの時間があった。
そこで筆者は「LINEのブランド、価値かというものをどう考えているか。単なるメッセンジャーサービスとして見ているのか、周辺のサービスも含めて残していくつもりなのか?」という質問をしてみた。
寺尾氏はメッセンジャーやコミュニケーションプラットフォームとしてのLINEは重要視していると語る。
「取っかかりとしてはコミュニケーションがLINEの1番の強みだと思っている。
オンライン(専用)ブランドということで、どうやってお客様にサービスを提供していくかが今後の課題となってくる。そういう我々のサービスを伝える媒体としてのLINEは非常に魅力的だ」(寺尾氏)
加えて、寺尾氏はLINEの各サービスとの連携を視野に入れていることは説明した。
「次のフェーズとして、今回『LINEスタンプ プレミアム ベーシックコース』を提供したが、LINEには『LINEミュージック』や『LINEマンガ』といった楽しいサービスもたくさんある。
その裏側を支えているNAVERにも技術を持った人がたくさんいる。そういった点を取り込んでいきたい」
「LINEが持っているサービスとヤフーが持っているサービスはバッティングしているものもあるが、これらが統合された場合はどうなるのか?」との質問には、
「そこはケースバイケースになると思う。まだLINEとヤフーのサービスをどう統合していくかといのはまだディスクローズ(情報公開)されていない。そこについてはコメントを差し控えたい」
と口が硬い。
3月1日の“統合”以降でLINEMOの印象が変わる
LINEにはオンライン・オフライン合わせて多くのサービスがあるが、LINEMOだからおトクに利用できるようなものは現状ではない。
撮影:中山智
質疑応答とグループインタビューからの話からわかることは、LINEとヤフーの経営統合が3月のため、現時点ではアナウンスできないものがあるのではないか、ということだ。
この段階でLINEMOにLINEの各種サービスとの連携を発表しても、そのサービスが経営統合後どうなるかアナウンスできないので、現時点では連携できない……のだとすれば、シナジーの薄さにも納得がいく(もしくは、本当にこれだけなのかもしれないが)。
現時点でLINEのコミュニケーションプラットフォームとしての重要性は、ソフトバンク内で揺るぎないものとなっているため、LINEMOはそこに軸足を置いていくのは確実だ。
その上でLINEのサービスがヤフーとの経営統合後どれくらい残るのか。また、ヤフーのサービスをどれくらいLINEMOにも開放するのか。
価格と利用できるデータ量が3キャリア横並びの状況だけに、LINEMOが細かなサービスで他キャリアと差異を見せられるのは、3月1日以降、LINEとヤフーの経営統合して、各種サービスが整理されてからということになりそうだ。
(文・中山智)
中山智:海外取材の合間に世界を旅しながら記事執筆を続けるノマド系テクニカルライター。雑誌・週刊アスキーの編集記者を経て独立。IT、特に通信業界やスマートフォンなどのモバイル系のテクノロジーを中心に取材・執筆活動を続けている。