トランプ弾劾裁判で提出された「恐怖の現場証拠ビデオ」その中身。日本では報じられないが……

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2月9日、上院弾劾裁判に提出された連邦議会議事堂襲撃「証拠動画」のキャプチャ画像。

Margaret Sullivan/The Washington Post/Business Insider Japan

米連邦議会議事堂襲撃事件が起きたのが1月6日、バイデン新大統領の就任がその2週間後の20日。混乱の政権交代劇からおよそ1カ月が過ぎたアメリカの首都ワシントンで、襲撃事件をあおったとされるトランプ前大統領の「反乱扇動罪」を問う上院弾劾裁判の結果、2月13日に無罪評決が出た。

前大統領が無罪とされたものの、有力紙は「再出馬しても勝ち目がない」と書き、すでに別の大統領有力候補の名前や、将来閣僚になりそうなヒーローの名前があがっている。アメリカではすでに2024年の大統領選挙に向けたシナリオが描かれ始めた。

ただ、世界はその前に、この弾劾裁判の中身をしっかりふり返っておくべきと思う。

「銃を3万丁持ってくりゃよかった!」

連邦議会議事堂の扉を盾に、暴徒らの進入を阻止しようとする議場内の警察。扉を打ち破ろうと殺到するトランプ支持者たち。その間で挟まれて身動きが取れなくなり、苦痛で叫び声を上げる警官。

暴徒たちは「銃を3万丁持ってくりゃよかった!」などと怒鳴る。議事堂の外に設置された絞首刑台の周りでは、「ペンス(前副大統領)は吊るし首だ!」と怒号がこだまする ——。

襲撃事件の現場の様子を時系列でまとめた身も凍るようなビデオに、全米が釘づけになった。2月9日から13日までの5日間行われたトランプ前大統領の弾劾裁判に、下院民主党の弾劾管理人(=検事の役割を担う)が提出した証拠動画だ。

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「証拠動画」より、殺到する暴徒に発泡する警官(左)。撃たれたトランプ支持者は死亡している。

Margaret Sullivan/The Washington Post/Business Insider Japan

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「証拠動画」より、暴徒らと扉に挟まれ苦悶の呻き声(動画をご覧いただきたい)をあげる警官。

Margaret Sullivan/The Washington Post/Business Insider Japan

ビデオ提出の5日後、トランプ前大統領が有罪かどうかを問う採決は、50人いる共和党議員の中から7人が賛成に回り、賛成57反対43、つまり「有罪」の判断が過半数を占めた。しかし、有罪評決が成立するには上院100議席のうち3分の2以上の賛成が必要で、結果として上院全体の判断は「無罪」となった。

だが、無罪評決の数分後、驚きの展開が待っていた。「身内」である共和党上院トップのミッチ・マコネル院内総務(ケンタッキー州)が声明を読み上げ、トランプ氏を痛烈に批判する「爆弾」を落としたのだ。

マコネル氏の声明で明らかになったのは、共和党主流派の上院議員が無罪票を投じた理由、そしておそらく唯一の理由は、トランプ氏がその時点でもはや現職の大統領ではないから、という憲法解釈の結果に過ぎなかったことだ。

大統領退任後の弾劾裁判を有効とするかどうかは、憲法解釈によって立場が異なる。マコネル院内総務は「退任後の裁判は違憲」と審理中にはっきりと主張していたが、その上で無罪評決の確定後に、過去4年間トランプ政権を支えてきた人物らしくない次のような非難の言葉を浴びせかけた。

「暴動に先立つトランプ氏の行動は、恥ずべきもの、恥ずべき職務放棄だった」

「あの日の事件を引き起こした事実上、そして道義上の責任をトランプ氏が負うことには、疑いの余地が全くない」

「選挙に負けたことに怒っていた、地球上で最も権力がある男から狂気じみたウソを(暴徒らは)吹き込まれていた」

「上院での無罪評決は、トランプ氏の任期中の行動に対する刑事および民事上の潜在的責任を逃れさせるものではない

マコネル氏はつまり、前大統領は上院を一歩出れば、刑事・民事上の「容疑者」だと、トランプ氏を「刺した」わけだ。

ナンシー・ペロシ下院議長は直後の2月15日、議事堂襲撃事件について独立の「2001年9月11日米同時多発テロタイプの」調査委員会を立ち上げると発表した。

上院では無罪評決が出たため、議会としてトランプ前大統領の罪を暴くには、この新たな委員会が唯一で最終の手段となる。

共和党内の分裂が決定的に

弾劾裁判のあと、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「弾劾無罪、トランプ氏の正当性示せず 再出馬しても国政選挙では勝ち目なし」とする社説を掲載した。

有罪なら公職に就くことができなくなっていたが、結果は無罪評決だったため、トランプ氏は2024年の大統領選挙に立候補することができる。しかし、WSJの見立てとしては、万が一出馬することがあっても敗北するだろうというわけだ。

弾劾裁判の評決結果とマコネル院内総務の発言から、共和党内の分裂も明白になった。無罪を主張する立場の同党から7票も有罪票が出たのは、弾劾裁判史上初にして最多だ。

現職大統領ではないからという理由で無罪票を投じた主流派が、マコネル氏の声明でいかにトランプ氏とケリをつけたかったかが分かる。

長男の悲劇を胸に秘め、弾劾管理人の責務を果たした議員

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弾劾管理人のリーダーを務めたジェイミー・ラスキン議員(メリーランド州選出)。

U.S. Senate TV/Handout via Reuters

弾劾裁判では、マコネル氏以外にも大きな注目を浴びた人物がいた。下院民主党から選出された弾劾管理人のリーダー、ジェイミー・ラスキン議員(メリーランド州)だ。

彼はアメリカン大学で長く憲法学の教鞭をとった元教授だ。弾劾裁判で「(弾劾管理人は)証拠を何も示していない」と根拠もなくまくしたてるトランプ氏の弁護団に対し、冷静に事実関係を説く姿で議会内外から注目された。

じつはラスキン氏は2020年12月31日、ハーバード・ロースクール在籍中の長男トーマス氏を、うつ病による自死で失っている

地元で葬儀を済ませたのが1月5日。その翌日が、バイデン次期大統領の選挙での勝利を最終確認する上下両院合同本会議。ラスキン氏は投票という責務を果たすため、娘と娘婿を傍聴人として伴い、会議に参加した。そしてそのさなかに、暴徒らが議場に押し入ってきた。

4年に一度、新大統領決定のために投票するという議員としての晴れの姿を見せたかった娘には、恐怖から「もう二度と議事堂には来たくないと言われた」とラスキン氏。弾劾裁判の冒頭陳述では声を詰まらせた。

共和党の上院議員がトランプ氏に反旗を翻し、1票でも多くの有罪票を投じようという緊迫した展開のなかで、長男を失った悲哀を表に出すことなく、弾劾管理人のリーダーとして品があるとさえ感じるほどの落ち着きぶりで追及を続けるその姿は、目を引いた。

米ニューヨーク・タイムズの保守派コラムニスト、ブレット・スティーブンズ氏は「将来、司法長官に挑戦すべきだ」と、アメリカ司法行政のトップの地位に相応しいとの見方を述べている。

トランプ氏の影はまだまだ色濃い

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トランプ政権の国連大使を務めたニッキー・ヘイリー。2024年大統領選挙の共和党候補者に名があがっている。

REUTERS/Carlo Allegri

スティーブンズ氏はさらに、2024年大統領選挙の共和党有力候補者として、トランプ政権の元国連大使ニッキー・ヘイリー氏の名前をあげている

「彼女が(分裂した)共和党を統一できる唯一の候補かもしれない。賢いしカリスマ性がある」

一方の民主党では、バイデン氏が高齢を理由に再出馬せず、カマラ・ハリス副大統領が出馬するとの予測が高まっている。

民主党はハリス氏、共和党はヘイリー氏がそれぞれ指名候補となれば、アメリカ大統領選史上初の女性候補対決となり、選挙戦がこれまで以上に過熱するのは間違いない。

ヒラリー・クリントン元国務長官が2016年にトランプ氏に敗北し、初の女性大統領の誕生機会を失ったことは、民主党にとってトラウマになっている。もし、共和党から初の女性大統領誕生を許せば、民主党にとっては二重のトラウマとなるだろう。

両党ではほかにも女性の有力候補者が育っており、ハリス対ヘイリー以外の女性対決が実現する可能性もある。

また、先に触れたWSJのように、トランプ氏が再出馬しても敗北するとの見方は少なくないが、トランプ氏自身とその礼賛者たちはまったくひるんでいない。

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トランプ支持者の経営する牧場。バイデン新大統領の就任でトランプ時代の何もかもが終わり、変わったわけではない。

撮影:津山恵子

上院の重鎮、リンゼイ・グレアム議員は弾劾評決の直後にトランプ氏と電話で会話し、その内容について次のように語っている。

(トランプ氏は)前進し、共和党を再建させる準備ができている。2022年中間選挙についても楽しみにしていると語った」

共和党では、グレアム氏らトランプ氏に忠実なひと握りの上院議員、さらに2022年の中間選挙で全議席入れ替えとなる下院議員たちが、トランプ氏の威を借りて当選を果たそうとしている。そうした議員たちはさっそく、トランプ氏の「第45代米大統領オフィス」があるフロリダ州を詣でている。

市民の多くとワシントンの主流派議員らは、トランプ政権時代を乗り越えようとしている。弾劾裁判などのイベントを通して、それは少しずつ浮き彫りになってきた。

それでも、2022年の中間選挙、トランプ氏再出馬の可能性もある2024年米大統領選挙が視野に入るなか、彼の影はまだまだ色濃く残っている。

(文:津山恵子

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