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ファーウェイの2020年10-12月(4Q)のスマホ出荷台数が、グローバルで6位に沈んだ。調査会社のcanalysによると、ファーウェイがトップ5から外れたのは実に6年ぶりだ。
同社はサプライヤーに2021年のスマホ出荷が6~7割減少するとの見通しを伝えており、2019年の2億4000万台だった出荷台数は、2021年には7000万台前後まで落ち込む計算になる。バイデン政権に移行してもファーウェイを取り巻く環境が短期間で改善するとは考えにくいが、任正非CEOは久々にメディアの前に姿を現し、「生き残る確信は高まっている」と強気の姿勢を見せた。
スマホのシェア、6年ぶりにトップ5から陥落
スマホのグローバルでの出荷台数、左は2020年4Q、右は2020年通年。
Canalysレポートより
トランプ大統領下の米政権がファーウェイへの輸出規制を発動したのは2019年5月。翌2020年9月には規制を強化し、ファーウェイが第三者から半導体を調達する道を封じた。ファーウェイはスマホにGMS(グーグルモバイルサービス)を搭載できなくなり、さらにはスマホ製造そのものが困難になった。
それでも2020年7-9月(Q3 )までは、規制前に購入していた在庫があったことと中国での好調さによって、グローバルで2位以内を守り続けていた。
だが、息切れの時はやってきた。Canalysisによると2020年4QはiPhone12シリーズが好調なアップルが首位に立ち、2位はサムスン。シャオミ、Oppo、Vivoの中国3社が3~5位につけた。そして2位が定位置だったファーウェイは、6位に順位を落とした。
サムスンの出荷台数がマイナスだったのに対し、シャオミは前年同期比31%、Oppoは15%、Vivoは14%伸ばした。「ファーウェイ排除」の漁夫の利を得たのは明らかだ。
2021年はファーウェイにとって一層厳しい年になりそうだ。複数の報道によると、同社はサプライヤーに2021年の調達量を6~7割減らすと通知した。出荷台数は7000万台まで減る見込みで、アフリカで圧倒的なシェアを持つ中国メーカー「伝音科技(Transsion)」にも抜かれ、グローバルでは7位に沈む可能性がある。
「端末事業は決して放棄しない」
アメリカがバイデン政権に移行しても、ファーウェイへの締め付けは続くとの見方が多い。
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危機に瀕するファーウェイは2020年秋、スマホのサブブランド「Honor(オナー)」を販売代理店30数社が立ち上げた企業「智信新信息技術有限公司」に売却。ファーウェイから切り離されたHonorは2021年1月、アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)、インテル、クアルコム、マイクロソフト、ソニーなどと取引を継続できていることを明らかにした。これまで若者向けのローエンド・ミドルエンドスマホに特価してきたHonorは今後ハイエンドにも進出し、独立メーカーとして生き残りを図っていく。
2021年1月には、ファーウェイがスマホ事業から完全撤退するとの報道も出た。同社は即座に否定するコメントを発表したが、任正非CEOは2月9日、山西省太原市で1年ぶりにロイターなど欧米メディアの取材に応じ、
「Honorを分離したのは、(ファーウェイの規制の影響を回避して)サプライヤーと販売代理店を生かすためだ。ネットワークにつながる物はすべて『端末』であり、スマホはその一つに過ぎない。ファーウェイはスマホがなくても生存できるが、端末事業を決して放棄しない」
と、さらに踏み込んで説明した。
鉱山、港湾、空港……インフラ経営の無人化に着手
76歳の任CEOは「引退」について、「引退してもやることがないので、仕事をする」と答えた。
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任CEOがファーウェイが本社を置く深センではなく、知名度の低い都市に外国人記者を招いたのは、同社の今後の方向性を示すためだった。中国有数の炭鉱地域である山西省で、ファーウェイは5Gやクラウドコンピューティングなどの先進技術によって、鉱山経営の効率と安全性を向上させるプロジェクトを発足したのだ。
ICTに携わるグローバル企業で、鉱山をターゲットとしている企業は多くない。任CEOは「だからこそ、鉱山を選んだ」と言う。
「中国には5300の炭鉱、2300の金属鉱がある。これらの鉱山の経営を効率化・無人化できれば、気象条件が劣悪で、人々が生活できない場所にある鉱山の採掘が可能になる。山西省で得た知見・ノウハウを世界に広げられる」
さらに、
「ファーウェイは従来、数十億人の人々にネットワークを提供する役割を担っていたが、5G時代には企業、空港、港湾、鉱山、鉄工所、自動車工場、航空機工場にネットワークを提供し、業務効率の向上に寄与する」
と語り、新興国に事業を広げやすいインフラ・製造業などの領域において、中国でノウハウを蓄積する戦略を明らかにした。
ファーウェイは、2020年8月にひっそりと「南泥湾計画」をローンチしている。この耳慣れない「計画」についても、「外国人記者は、南泥湾という名詞に聞き覚えがないだろうが」と、初めて解説した。
「南泥湾」とは1940年代前半の抗日戦争中に、経済的苦境に立たされた中国共産党が陝西省延安市の荒地だった南泥湾を開墾し、手工業、工業、商業を育成して前線の戦いを支える基地を建設した史実に由来する。
つまり「南泥湾計画」とは、「自給自足によって自力救済すること」(任CEO)との説明通り、アメリカのサプライチェーンを離れても自活できる体制を目指すものだ。独自OS「Harmony OS」の開発は分かりやすい一例だが、これに加えて、任CEOは
「石炭、鉄鋼、音楽、スマートスクリーン、PC、タブレットなどの領域を開拓することも計画の一環」
と言明した。
iPhoneがファーウェイの5Gの優秀さを証明する
長女である孟晩舟副会長兼CFOの逮捕、そしてトランプ政権による規制を受け、2019年にメディアへの露出を急激に増やし、「2020年と2021年は冬の時代」「2020年の目標は生き残ること」と悲壮感を隠さなかった任CEO。だが今回のインタビューでは、自ら設定した冬の時代が折り返しを迎えたことを踏まえ、
「ファーウェイ生存への確信は強まっている。困難を克服する手段を多く持てたからだ」
と自信を見せた。
半導体の調達をふさがれたことも、
「ファーウェイがスマホを作れなくなっても、5Gに対応したiPhone12が、欧州でファーウェイの5Gネットワークの素晴らしさを証明してくれている」
「今は世界中が半導体チップを奪い合っているが、チップはいずれ生産過剰になる。その時、ファーウェイに売ろうとする企業が出てくるだろう」
と、致命的な打撃にならないと強調した。輪番会長の一人が退社するとの報道が出るなど、ファーウェイのぐらつきを示唆する情報が相次ぐ中で、76歳の創業者は自身と企業の「健在」を示すために、1年ぶりに海外メディアを通じて「発信」したのだろう。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。