ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)
撮影:西田宗千佳
PlayStation 5は、いまだに、日本を含む多くの国で入手困難な状況が続いている。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)にとって、PS5の立ち上げ(ローンチ)は好調なものでありながら、課題もはらんでいる。
今回、ジム・ライアン社長兼CEOが単独インタビューに応じた。
経営トップに聞くPS5の生産状況からゲームコンソールビジネスの現状とは? そしてライアンCEOの口からは、新たに「PS5世代向けのVRデバイス」提供計画が正式に始まったことも語られた。詳細をお伝えする。
PS5の供給は「緊急課題」、世界的な半導体需要がSIEを直撃
2020年9月18日の発売から5カ月が経過したが、圧倒的な需要に対する「供給不足」の問題はいまだ解決していない。頭の痛い問題だ。
撮影:西田宗千佳
PS5の新プラットフォームとしての立ち上がりの状況はどうなのか? ライアンCEOは好調さをアピールする。
「2020年のホリデーシーズン(年末)には、全世界で450万台のPS5を販売しました。これは、(PS4の発売年である)2013年に販売した全てのPS4よりも多い数です」
ただ、それだけを販売しても、世界的な需要を満たすことはできなかった。
「ローンチでもっと多くのPS5を供給できていれば、とは思っています。出荷数を改善し続けることこそが、本当に緊急かつ、重要な課題だと認識しています」
とライアンCEOも言う。
なぜさらに多くの量を用意することができなかったのか? そこには複数の要因がある。
「パンデミックの中でのサプライチェーンは非常に複雑でした。“世界的に半導体が不足していた”ことはみなさんもご存知でしょう。自動車メーカーにスマートフォンメーカー、ゲーミングPCにゲーム機と、全てが影響を受けています。それが1つ目の理由です。
2つ目は、我々も流通をオンラインのみで行えるように移行する必要があったことです。
そしてさらに、PS5の需要は非常に高かった。この3つが合わさった結果だったんです」
写真提供:SIE
もちろん、SIEはPS5の供給拡大に向け、「工場やサプライヤーとの間で信じられないほどの努力をしている」(ライアンCEO)という。それでも、いつ供給が正常化するのか、という明確な時期についてのコメントは得られなかった。転売対策についても、「私が言えるのは、PS5の販売を確実にするために、小売店と協力してがんばっているということだけです」とコメントするにとどまった。
中国市場へのPS5投入を決定
一方で同社は、PS5を新たに中国市場へと投入することを決定した。このことは、ただでさえ供給が足りないPS5を、さらに新しい国に供給することになり、状況の悪化を招くようにも思える。だが、ライアンCEOはそれを否定する。
「供給量のバランスの問題だと考えます。中国のゲーマーがPS5を楽しめるようにすることは正しいことだ、と私たちは考えています。だから、既存の国々への供給量増加と新しい国々への供給、その両方をやってみるつもりです」
「PS5ユーザーの4分の1は新規顧客」だった
PS5のローンチについては、PS4の時代とは違う部分がある。PS5がPS4とほぼ完全な互換性を持っていること、そして、ネットワークサービスもそのまま引き継いでいることだ。そのため、PS4向けのゲームやそのコミュニティ、ネットワークサービスからの収入を落とすことなく、PS5のビジネスをスタートすることができた。
以前、ソニーの2020年度第3四半期決算についての記事で指摘したように、新型ゲーム機のローンチ時期には、通常ゲーム関連事業の利益は落ち込むものだ。しかしPS5については、利益率を維持したまま新しい世代のビジネスへと移行することに成功している。
G&NS分野の第3四半期売上と利益。PS5は立ち上げと同時に大きく利益に貢献した。
出典:ソニー2020年度第3四半期決算資料より
ライアンCEOもこの点を重視している。このことは「PS5が、PS4のコミュニティをそのまま引き継いだだめ」と説明する。
「PS4とPS5の両方で選択肢を用意し、素晴らしいゲームを提供しました。移行したい人はPS5で素晴らしい体験をし、移行する準備ができていない人はPS4で素晴らしい体験をすることができるようにしたのです。私は、“コミュニティにとって良いものであることを確実にする”ことに重点を置きました。それは正しいアプローチだったと思います」
PS5への移行は進めるが、PS4のコミュニティとの連続性は重要だし、現在もPS4のビジネスは重要。「PS4のビジネスやコミュニティを無視することはまったくない」とライアンCEOはいう。
「PS5が欲しいと思っている人のために、できるだけ多くのPS5を作ろうと思っています。ですが、2020年のホリデーシーズンにも、PS4を大量に生産しました。PS4の最大の特徴は、現在1億台以上のインストールベースがあり、巨大なコミュニティがあることですから」
とはいえ、PS5の好調さは「PS4のファンが買ったから」だけではない。ライアンCEOは、新しいユーザーの獲得状況についても注目して欲しい、と話す。
「PS5購入者の4人に1人は、PS4を持っていませんでした。そして、さらにそのうちの半分は、(PlayStationのネットワークサービスである)PlayStation Networkを初めて利用する人々でした。多くの人々が、新たにPlayStationのコミュニティに参加していただけるのはうれしいことです」
PS5版「新型PlayStation VR」を正式表明、ケーブル接続型でゲーム体験重視
現行機種のPlayStation VR。次世代機開発の正式表明はこのインタビューのタイミングが初のことだ。
出典:SIE
その上でライアンCEOは、新しい発表も行った。「PS5向けのVR体験」の開発表明だ。
SIEは、PS4に接続するVR機器として、2016年に「PlayStation VR」(PSVR)を発売した。いまとなっては技術的に見劣りする部分もあるが、2019年までに500万台を販売しており、プラットフォームとして普及台数は小さなものではない。
同社はかねてより、「PS5世代に向けたVR体験」の存在をほのめかしてきたが、今回、ライアンCEOの口からついに、正式に「PS5向けのVR機器」が開発中であることが語られた。
「VRはPlayStationにとって重要かつ戦略的な存在です。新たに革新的で技術的な進歩を提供できるでしょう。私たちはVRの将来について非常に楽観的であり、新しいVR機器が、短期的・長期的になにをもたらすのか、非常に楽しみにしています。
新デバイスでは、現行のPSVRから学んできた多くの教訓も反映されています。例えば、新しいPlayStation VRシステムでは、非常に簡単な、1本のケーブルによるセットアップに移行する予定です」
では、具体的にどのようなものになり、いつ製品が発売になるのか? 「それはまだ教えられません」とライアンCEOは笑う。ただし、「本当にもうすぐ、大小様々なデベロッパーとパブリシャーに向けて、開発キットの出荷が始まります」とだけ教えてくれた。
そして、もう一つ、新たなVR機器の仕様に関するヒントも語った。それは「あくまでPS5と接続して楽しむものである」ということだ。
現在のVR機器では、Facebookの「Oculus Quest」シリーズのように、PCなどと接続することなく、単体で動作するものが増えている。しかしSIEは、今回もゲーム機に接続するデバイスという形を採用するようだ。
「理由は、(ケーブル接続型にすることが)最高のVRゲーミング体験を提供できる構成だと考えているからです。PlayStationでは最高のゲーム体験を提供するために必要なことをしてきました。ですから、私たちは新しいVR機器で、ケーブルのセットアップを簡単にすることにとても満足しています」
(文・西田宗千佳)