Clubhouseの第一次ブーム終焉で見えてきた「実用化」で就活・採用が残る理由

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爆発的な流行となった「Clubhouse」。しかし、早くも第一次ブームは終焉の気配だ。

Shutterstock/Viktollio

1月の下旬から約3週間にわたり話題となった音声SNS・Clubhouseも落ち着きを見せている。ここ数日はアプリ内を見渡しても、ニッチなテーマで数10人で話している部屋、業界ごとの関係者部屋、芸能人やインフルエンサーが雑談している部屋などがそれぞれストレスなく展開されている。

爆発的に流行した理由は、さまざまな記事が出ているのでここではあまり言及しないが、人とのつながりに飢えずにはいられないコロナ禍のこの一年で、とにかく一度さわってみたいという好奇心と、取り残されたくない恐怖心(FOMO=fear of missing out)という根本的な欲求にクリーンヒットしたのだろう。

TwitterやFacebookのタイムライン、Instagramのストーリーは「招待してください」「始めたので繋がりましょう」の投稿で毎日あふれた。

そしてわずか1カ月あまりで、一時の熱狂が冷めた背景は、欲求が一定満たされたことにあると思う。

FOMOについては「意外と取り残されることはなかった」という安心感、オーディエンスの反応を意識しすぎることによるスピーカーの疲労感、輪の中に入れない疎外感、嫉妬など、離脱をめぐる感情はさまざまあるだろう。

とどのつまり、ログインしなくても不安ではなくなった。そして、異常にハイペースな利用で無意識に溜まった疲労感に多くの人が気づいたから、離脱も増えたのだと思う。

冷静に考えるとこれまでも1日の中で何時間も雑談はしないし、孤独を癒すために入った部屋で疎外感を味わうのは本末転倒だ。オーディエンスとして眺めるClubhouse上の団らんは、友達のいない結婚式の二次会くらい、つらい。

いくつかの領域で見え始めた「実用化の動き」

スマホ操作

Clubhouseは「ブーム」から「実用」への転換期にある、と言える。

撮影:今村拓馬

異常な第一次ブームは実質終了した一方で、特定の領域では「実用」の動きが複数、発生している。

具体的にはメディア取材、サービスプロモーション、採用、業界カンファレンスなどにおいては規模を問わず毎日何かしらの部屋が存在している。

筆者もClubhouseが日本で広まり出した早い段階から「Clubhouseに住民票移しました」などと言いながら、ほぼ毎日のように利用していた。Voicy代表の緒方憲太郎さんに至ってはもはや「住んでいる」という言葉では足りないほどそこにいた。

実用のパターンについては緒方さんがまとめて解説している。就職活動と新卒採用を支援する会社で仕事をしている僕は、専門領域の「仕事選びと採用」に絞って、実用の可能性について書こうと思う。

まずは具体的に、採用領域での活用事例を見ていきたい。

採用活用1. オープン社内雑談型

最も多く見られたのが、採用を行う企業が、求職者向けに社内の雑談を配信するものだった。特に新卒採用においては、コロナでオンラインによる採用が主流になった2020年から、学生は「社風が分からない」、企業も「社風を伝えられない」という、共通の悩みがずっと上がっていた。

「社風」と「説明」は相性が悪い。感じてもらうためには視聴覚情報で関係性を「感じてもらうこと」が重要だ。

例えば社員同士の関係性の風通しが良いのであれば、それを言葉であれこれ説明するよりも、異なる立場の社員2人が実際に話しているのに触れて「風通しの良い関係性」を感じてもらうのが早い。

これまでは動画がそのような「社風の表現の場」として活用されていたが、機材や出演者の調整、脚本作りなど準備に時間と労力を要することから、自前でできる企業は限られていた。

それがClubhouseであれば人の稼働時間以外、ほとんどコストゼロで「社風の表現の場づくり」が可能だ。

事例:LayerXのClubhouse企業説明会

採用活用2. インタビュー番組型

筆者も「ここがすごいよ〇〇」というテーマで、サイバーエージェントやディー・エヌ・エー(DeNA)など先進的でオープンな採用を実施している企業のみなさんと、Clubhouseで公開インタビューのような番組をやってみた。結果的に、求職者や所属社員、卒業生、他社の人事などさまざまの視聴者が集まり、同時視聴は1000人を超えるものとなった。

視聴者の聞きたいことを代わりに聞く、という第三者の存在が、オープン社内雑談型とは違った内容となったようだ。スピーカーがリラックスしながら互いに話したり、社外の人に受け答えすることから、社内外の関係性を感じられるコンテンツはキャリア/採用領域でこれまであまりない。

関係性から社風がわかる生放送は求職者の根強いニーズがあることが分かった。

また、所属社員や、他社の人事も普段聞けない人の話を聞きたいというニーズは強く、「うちの会社でやってほしい」「次は〇〇とやってほしい」など求職者、人事の双方からリクエストを多くいただいている。

採用活用3. セッション型

複数社の人事が共同で部屋をつくり、連携して配信するような取り組みも始まっている。企業同士の相性や関係が良い場合は、単独でやるよりも、お互いのフォロワーを集めて連携できる。企業同士の特徴も互いの関係性からにじみ出るので、上手な活用方法だと言える。

なぜClubhouseは採用領域と相性が良かったのか?

このようにキャリア、採用領域でなぜClubhouseは、活発に使われ続けるのかを、分析してみたい。

就活生

キャリア選択の場面における情報のオープン化にClubhouseが使われている。

撮影:今村拓馬

1. 他の領域と比較して情報が圧倒的に不透明だった

個人の意思決定において、もっとも関係人口が多く、かつもっとも情報が不透明だったのが仕事選びの領域だった。「(会社に)入ってみないとわからない」状況が長く続き、入る前に知り得たはずのことが、入社後になって判明したことによるネガティブな退職は後を絶たない。

2020年から急速に進み始めた採用のオンライン化により、合同説明会での偶然の出会いや、入社先の決め手となるような情報を得る機会が不足し、各企業はエントリー数や選考辞退率、内定保留に苦しんでいる。

「オンラインで情報をオープンにしなければ人が来てくれない」という状況は加速した。各社の採用における情報の透明化を、綺麗事ではなく「採用戦略として」推し進めるきっかけとなっている。

2. これまでの採用手法が立ち行かなくなっている

特に新卒領域においては、ただ母集団を集めようという段階から、どうすればオンラインでも社風の理解や志望度向上ができるかという段階へ、一歩踏み込んだ議論が増えている。

オンライン化で学生のエントリーは各社増えたもの、これまでのようにオフラインの説明会やオフラインの面談ができなくなったことで、実際に採用実績に繋がるかは別の話だ。

感度の高い企業はClubhouseに限らず、オンライン動画や記事コンテンツなどを拡充し始めており、地上戦から空中戦へ、採用の勝負の場を切り替え始めている。

3. 動画よりも実施が手軽であること

なんと言ってもClubhouseはお手軽だ。

オンライン説明会は急速に普及したものの、多くの企業が悩んでいる。オンライン化自体はできたものの、多くの企業はこれまでの説明会をZoomなどで「そのまま」配信するという表面上のオンライン化に留まっており、学生からは「おもしろくない」「つけっぱなしで別のことをしている」など良い体験を提供しているとは言えない状態が続いている。

機材や脚本、進行など動画には動画のやり方があるものの、自前で「見続けてもらえる動画」をつくれる企業はあまり多くない。それでも自社でなんとか配信を実施したいという企業にとっては音声配信は手軽で挑戦しやすいものになるかもしれない。

オープン化に伴う痛み、Clubhouseのリスクにも注意を

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Clubhouseを採用に導入することによる「痛み」は必要。

Shutterstock/rafapress

とはいえ、気を付けておかなければならない点は多分にある。

Clubhouse自体のセキュリティや規約については十分に確認が必要だ。また、採用領域そのもので言えば、これまでクローズドであったものをオープン化することによる「痛み」は発生すると考えられる。

視聴者のニーズに合わない内輪ノリが続いてしまい、結果的に体験を損なってしまうケースもあるだろう。関係性がよくない企業は、音声だからこそ伝わる「間」や「声色」による社風のオープン化によって、隠しておきたかった「実情」が不覚にもバレてしまうことだってあるかもしれない。

社員が勝手に配信することによって、企業のブランドメッセージとは違ったイメージが個人に伝わってしまうリスクもある。

これらは、「Visualize Everything」をミッションとするワンキャリア(会社)で仕事選びの透明化を進めている筆者としては、全て「いつか感じなければならない痛み」だと考えている。

ミスマッチを減らすためには「実情のオープン化」は不可避であり、この機会にオープンな採用に取り組みたいと考えている企業のみなさんには、覚悟すべき「事実」としてお伝えしておきたい。

2020年の採用オンライン化による岐路

日本上陸から、Clubhouseに対する採用企業のアクションを見て実感したのは、採用における情報の透明化、オープン化はきれいごとではなく「採用戦略として必要」となっているということだ。

この情報オープン化の流れを拒むか、企業情報のオープン化を採用に取り入れるかは、2020年のオンライン化をきっかけに多くの企業が岐路に立たされている。

Clubhouseに限らず、音声でもテキストでも動画でも「個人の声」を主体にしたプラットフォームが成長すること。

それにより企業情報のオープン化、仕事選びの透明化が進み、「防ぐことのできたミスマッチ」が減少することを切に願っている。

(文・寺口浩大


寺口浩大:ワンキャリア 経営企画室 PR Director。1988年兵庫県出身。リーマンショック直後に、三井住友銀行で企業再生、M&A関連業務に従事し、デロイトトーマツグループなどを経て現職。現在は経営企画とパブリックリレーションズ全般に関わる。コラム連載、カンファレンス登壇の他、「#就活をもっと自由に」「#ES公開中」などのソーシャルムーブメントも手掛け、経営と連動したコミュニケーションデザインを実践。

※編集部より:一部、企業のClubhouse活用事例のリンクを追加しました。2021年2月24日17:15

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