ケネディ宇宙センターで打ち上げられたスペースXのロケット「ファルコン9」。
Joe Burbank/Orlando Sentinel/Tribune News Service via Getty Images
- 子どもの頃にがんを経験した29歳のヘイリー・アルセノー(Hayley Arceneaux)さんは2021年、スペースXのロケットに乗り込む予定だ。
- 乗組員全員が民間人という初めての宇宙飛行に、アルセノーさんは他の3人とともに参加する。
- この宇宙飛行はビリオネアのジャレッド・アイザックマン(Jared Isaacman)氏がチャーターするもので、アイザックマン氏が残り2人を選ぶ予定だ。
ヘイリー・アルセノーさん(29)には常に制限があった。スキーはできない。スカイダイビングもできない。子どもの頃に受けた骨肉腫の治療で左足に金属製のロッドが入っているため、コントロールのきかない落下の危険性があるものは一切できないのだ。
しかし、彼女は今、無限のチャンスを手にした。
アルセノーさんはスペースXのロケット「ファルコン9」で行く、乗組員全員が民間人という宇宙飛行のメンバーの1人に選ばれた。Insiderのインタビューでアルセノーさんは、整形外科医から「宇宙では、君には何の制限もない」と言われたと明かした。
アルセノーさんが子どもの頃に治療を受け、現在は医師助手として働いているセントジュード小児研究病院は、ビリオネアのジャレッド・アイザックマン氏と提携している。アイザックマン氏はスペースXのロケットをチャーターし、自身を含め乗組員全員が民間人という初めての宇宙飛行を計画している人物だ。ミッションの一環として、アイザックマン氏は医療従事者を1人搭乗させたいと考えていて、セントジュード小児研究病院がアルセノーさんを選んだという。
アルセノーさんがこのニュースを聞いたのは1月5日のことだった。病院の広報担当者がある「チャンス」について話したいと言うと、アルセノーさんは不安そうにこれに応じた。何が起こるか、分からなかったからだ。そこで担当者からこの「インスピレーション4」と呼ばれるミッション —— セントジュード小児研究病院のための資金集め —— について聞かされ、宇宙飛行に行きたいかどうか尋ねられた。
「笑いながら『ええ、ぜひ』と言ったのを覚えています」とアルセノーさんは語った。それから彼女は3度、カリフォルニア州ホーソーンにあるスペースXの本社を訪れ、フライト計画を見たり、古いスペースXのカプセルの下でコーヒーを飲んだりしている。
アルセノーさんが乗組員の1人に選ばれたことが発表され、宇宙飛行に行く民間人の席は残り2つとなった。いずれも今後、数週間以内に発表される予定だ。このうち1人は、セントジュード小児研究病院に寄付をした人たち(金額は問わず)の中から選ばれる。決済情報処理会社シフト・フォー・ペイメンツ(Shift4Payments)の創業者であるアイザックマン氏は、このキャンペーンを通じて2億ドル(約210億円)を集めたい考えで、自身も1億ドルを病院に寄付する。最後の1人は、シフト・フォー・ペイメンツの顧客の中から選ばれる。
「インスピレーション4のミッションの核は、ユニークかつ多様な乗組員を集め、彼らの個人的なストーリーや価値観があらゆる場所の人々にインスピレーションを与えることです」とアイザックマン氏はコメントしている。InsiderはスペースXにコメントを求めたが、回答は得られなかった。
セントジュード小児研究病院のための資金集めおよび認知向上を手掛ける団体の責任者リック・シャドヤック(Rick Shadyac)氏は、キャンペーンで集まったお金はがん治療の研究や子どもとその家族向けの無料のケアを続けるために使われるとInsiderに語った。アイザックマン氏やスペースXとの提携は「セントジュード小児研究病院が引き続き限界を押し上げ、不可能に見えることを可能にしていることを示すもう1つの証拠」だと、シャドヤック氏は言う。
シャドヤック氏はアルセノーさんが10歳のがん患者だった頃から彼女のことを知っていて、がんから回復し、病院のインターンになり、医師助手になるのも見てきた。シャドヤック氏は、病院がこのミッションで成し遂げたいことをアルセノーさんが「象徴している」と言う。
アルセノーさんはアメリカ人最年少としてだけでなく、人工装具を付けている人として初めて宇宙へ行くことになると、ニューヨーク・タイムズは報じた。宇宙に滞在している間、アルセノーさんは病院のがん患者とビデオチャットをし、彼らを元気づけたいと話している。
「がんの治療を受けていると、今日はどんな予約があるか、どんな薬を飲まないといけないか、目の前のことに集中しているので、将来に目を向けることが本当に難しくなるのです」とアルセノーさんは言う。
「がん患者にとって、このミッションが楽しみにする何かになるだけでなく、彼らにとって、宇宙に行くということがいかに達成可能なことであるかを知ってもらいたいです」
(翻訳、編集:山口佳美)