脱ハンコで攻勢。電子契約“国内利用1位”VS“世界1位”それぞれの闘い方

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弁護士ドットコムの橘大地氏(左)、ドキュサイン・ジャパンの立山東氏。

撮影:横山耕太郎

「脱ハンコ」の流れに乗り、急激に成長する電子契約。

矢野経済研究所の調査によると、2019年に68億円だった市場規模は、2024年には約4倍の264億円になると予想されている。

日本国内では、国内発のサービスと、海外発のサービスがしのぎを削る。

2015年から電子署名サービス「クラウドサイン」を運営する弁護士ドットコムは、「日本企業にとって使いやすい新サービス」を打ち出しアピール。

一方で、世界1位のシェアを誇るドキュサイン(DocuSign)は「グローバルスタンダードとしての利便性」で対抗する。

「電子契約サービス乱立時代」の最前線で競い合う両社の事業責任者に、勝ち抜くための戦略を聞く。

「ハンコに替わる習慣を作る」

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クラウドサインのHPを編集部キャプチャ

この国が電子署名大国になることは間違いない。それが10年で実現するか、20年かかるかは分かりませんが、より消費者に選ばれるサービスが勝ち残る」

弁護士ドットコム取締役で、クラウドサイン事業部長の橘大地氏はそう話す。

弁護士資格をもつ橘氏は、弁護士ドットコム入社前、法律事務所での勤務や企業の社内弁護士も経験している。

「日本のハンコ文化に囲まれて仕事をしてきた。ハンコは約150年続いてきた商習慣だが、デジタル化で大きく効率化が進む。ハンコに替わる慣習は誰かが作らないといけないし、私たちがその立場にある」(橘氏)

機能でサービスが選ばれる時代に

弁護士ドットコムが差別化を目指すポイントの一つが、日本企業にとっての使いやすさだ。

例えば、電子契約書を受け取った時に、決裁権のない社員が勝手に契約を結べないようなシステムを開発した。

「電子契約サービスでは送る側が注目されがちだが、受け取った側がどう処理するかに着目したサービスは他に例がない」

契約を受け取った側への配慮について橘氏は、「電子サービス乱立時代を勝ち抜く方法の一つだ」という。

「競合は外資系サービスだと思っています。多くのサービスがある現状で、使っていいサービスと、だめなサービスというポリシーが会社ごとに出てくる。現状のオンライン会議サービスと同じような状況になると思っています。

『このサービスは受け取った場合のワークフローも定まっているから使ってもいい』、『このサービスはセキュリティが心配だからだめ』など、受け取る側の期待に応える必要があります」

LINEと並ぶユーザー数「夢ではない」

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クラウドサインでは、マイナンバーカードの利用で、電子契約がさらに普及すると見込む。

クラウドサインのHPを編集部キャプチャ

「電子契約大国・日本」の将来を見据え、電子契約のすそ野を広げる新サービスも開発している。その一つがマイナンバーカードの利用だ。

「例えば銀行で口座を開くときに、窓口でたくさん書類を書いたりハンコを押したりするのを、家からパソコンやスマホでできるようになる。

他に会員カードを作るとき、運転免許証や保険証のコピーを取られることもあるが、これもなくなる。お店からクラウドサインを通じて契約書が送られてきて、スマホでマイナンバーカードを認識させて契約できる

マインバーカードによる本人認証ができれば、より法的な効力の高い契約も可能になり、電子契約の利用はさらに広まる可能性もある。

「現状では遠隔で本人認証の規格はまだ少ない。クラウドサインを受け取った側のユーザー数も含めれば、クラウドサインはLINEやメルカリと並ぶような国民的なサービスのユーザー数となるのも夢物語ではない

マイナンバーカード認証のサービスへの実装は、2021年中を目指している。

アメリカでは給付金受け渡しの実績

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カリフォルニア発のドキュサインは、電子契約で世界1位のシェアを持つ。

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一方、すでに世界1位のシェアを誇る外資系サービスも、「脱ハンコ」が進む日本市場に力を入れる。

外資系企業向けのサービスと思われがちですが、国内企業の契約数も利用数も大幅に増加している。コロナ禍で『使ってみたら便利だった』という声も多く、グローバルトップメーカーとしての利便性をもっとアピールしていく」

ドキュサイン・ジャパンのカントリーマネージャーの立山東氏はそう語る。

立山氏はシスコシステムズでセールス事業に携わり、同社の業務執行役員などを経て、2020年12月から現職。SaaSの事業拡大に長くかかわってきた人物だ。

ドキュサインはカリフォルニアに本社を置き、創業は2003年。ドキュサイン・ジャパンによると、ドキュサインは現在188カ国以上、82万社以上で使われており、海外でのシェアは74%と圧倒的だ。

日本法人は2015年11月に設立され、印鑑メーカーとして知られるシヤチハタと業務提携し、国内市場での浸透を狙ってきた。

ドキュサインは国ごとの契約数や利用数は公表していないが、新型コロナの影響を受け、国内での契約数を伸ばしている。

「日本に比べ海外では電子契約が深く浸透している国もある。特にヨーロッパやアメリカでは普及しており、ずいぶん前から銀行の口座開設や不動産賃貸・売買契約などで普通に使われてきた。コロナ禍では、ニューヨーク州などで政府からのコロナ支援の給付金の受け渡しが、ドキュサインを使って行われた実績もある

シリコンバレーの技術力をアピール

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オンラインで取材に応じた立山氏。「グローバル企業の日本支社という立ち位置で、情報発信の面で後れを取ってしまうのが課題だ」と話す。

撮影:横山耕太郎

ドキュサインがアピールしているのが、他のSaaSサービスとの連携だ。

「システムインテグレーション(システムの統合)が進んでおり、オプションとして簡単に他のサービスを使える。例えばセールスフォースのサービス画面に、ドキュサインがすでにあって、ボタン一つで連結できる。こうした利便性はグローバルサービスの大きなメリット」

他にもSlackやGoogleドキュメントなどのサービスや、主要な業務アプリケーション350以上を提供する。

また、契約全体を網羅したパッケージ商品で利便性や、シリコンバレー発のサービスとしての技術力もアピールする。

「契約前の書類の準備、契約後には書類の保管など、一連の契約全体をサポートできる仕組みを世界共通のサービスとして提供している。すべてのサービスではないが、日本語対応のサービスも提供しており、今後も製品の日本語化を進めていく。またAI技術を活用し、契約書類を作成する際、契約上のリスクを見つけ出す機能もある」

日本法人の社員を2倍に

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ドキュサインのHPを編集部キャプチャ

ドキュサインでは日本法人を拡大し、シェア争いを優位に進める体制作りを進めている。

日本法人の社員を(2020年1月に比べて)2倍に増やし、営業とカスタマーサクセスに注力していく

立山氏が必要性を強調するのが、カスタマーサービスの強化だ。

「サービスを初めて使う顧客がまだまだ多いのが現状。どういう使い方ができて、コスト削減と業務時間の短縮にどうつながるか。分かりやすく知ってもらうことで競争力につながる」

日本の市場の可能性について立山氏は、「グロースステージにあり、今後爆発的に普及する可能背がある」と期待を寄せる。

「日本企業ではまだまだ紙文化が残っている。例えば休暇申請を紙で提出したり、人事のお知らせに紙が使われたり、そうした社内プロセス効率化のニーズを掘り起こしたい。国内マーケットの成長を考えると、少ないパイを奪い合っているのではない。他社のサービスも含めて、日本で電子契約を普及させていきたい

(文・横山耕太郎

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