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JAXA「宇宙飛行士」13年ぶり募集は文・理不問に見る、現代のリーダー像とは?

宇宙遊泳する宇宙飛行士

宇宙遊泳する宇宙飛行士。

NASA

2021年秋、13年ぶりに宇宙航空研究開発機構(JAXA)で宇宙飛行士が募集される。

JAXAは、1983年からこれまでの間、宇宙飛行士の募集を5回行い、合計11名の宇宙飛行士を採用し、宇宙へと送り出してきた。

これまで、宇宙飛行士の選抜は不定期に実施されてきた。しかし、JAXAがNASA主導の月面開発計画である「アルテミス計画」へ参画することが決定したこともあり、JAXAではこれから5年に1回をめどに定期的に宇宙飛行士を募集するとしている。

2月18日、JAXAは宇宙飛行士選抜に向けて、求められる資質や選抜方法を議論するオンラインイベントを開催。宇宙飛行士の裾野を広げるために、「自然科学系の学歴や職務経験を不問」、いわゆる「文系」でも応募できるようにするといった案応募条件のダイナミックな緩和策が検討されていることを明かした。

JAXAイベントから見えてきた、これからの宇宙飛行士に求められる最大のポイントとは?

「文理」問わない選考も?

応募条件

出典:JAXAオンラインイベント投影資料

これまでの日本の宇宙飛行士選抜は、海外と比べて応募者が極端に少なく、その原因として、敷居が高すぎることが指摘されていた。

NASAの宇宙飛行士の募集には1万名以上の応募があるのに対し、日本の前回(2008年)の応募者は963名だった。

現段階では、もともと必須とされていた自然科学系の学歴や職務経験を不問とし、いわゆる「文系」でも応募できるようにするといった案などが上がっている。

航空機のパイロットは文系出身の人材も活躍しており、JAXAはISSの船外活動で使う宇宙機の操縦やシステムの運用に必要な専門的な知識は、訓練で身に着けられるのではないかと見ているようだ。

JAXAは、3月19日までの間、宇宙飛行士の応募条件や選抜方法、基礎訓練に関するパブリックコメントを募集している。

JAXA有人宇宙技術部門事業推進部長の川崎一義氏は「すべてJAXA内で検討されてきた過去5回と異なり、今回は準備段階から意見を広く取り入れることで、応募者の裾野を広げたい」と説明している。

なお、今回選抜される宇宙飛行士は、国際宇宙ステーション(ISS)への滞在だけではなく、アルテミス計画の一端を担う、月軌道を周回する宇宙ステーション「ゲートウェイ」構築に取り組む可能性もあるという。

月面開発時代の宇宙飛行士に求められる資質とは

アポロ

1971年、アポロ15号で月面着陸したときの様子。アルテミス計画が進めば、日本人宇宙飛行士が月面に足を踏み入れる瞬間も訪れるのだろうか。

NASA

JAXAでは、新たな宇宙飛行士として、どういった人材を求めているのか。現段階でJAXAが求める要素は、次の3つだ。

  • 国際共同事業、多国籍なメンバーシップのチームの中において、日本の代表として、多様性を尊重しつつ、ミッションを成功に導くための協調性と十分なリーダーシップを発揮できる
  • さまざまな環境に対しても適応能力があり、宇宙という極限環境での活動においても、柔軟な思考と着眼点を持ち、自らを律しつつ、適時的確な判断と行動ができる
  • 人類未踏の地における経験・体験を世界中の人々と共有する発信力があり、さらに次の世代へ受け継ぐことができる。

JAXAの川崎氏によると、求められる要素の大枠はこれまでの選抜と変わらないものの、今回の募集では、宇宙飛行士の経験を世界へと共有する「発信力」を特に重視したいという。

1965年に人類初の宇宙遊泳を行った旧ソ連の宇宙飛行士、アレクセイ・レオーノフは、絵画の腕前も評価され、宇宙空間を題材とした画家としても活躍したことが知られている。

発信の手段が豊富な現代では、より一層候補者の個性が光りそうだ。

日本人宇宙飛行士が宇宙へ行く意味

野口さん

JAXAの野口聡一宇宙飛行士。2020年11月16日にスペースXが開発した宇宙船「クルードラゴン」に乗って、宇宙へと旅立った。現在は、ISSで約半年にわたるミッションをこなしている。

JAXA/NASA

日本人宇宙飛行士に対して、世界からは何が求められているのか。

JAXAのオンラインイベントに参加した、4度の宇宙飛行経験を持つ若田光一宇宙飛行士は、「日本が開発を担当しているシステムを熟知しておくこと」が求められると語る。

日本は、ISSに日本実験棟「きぼう」を保有している。また補給機「こうのとり」の後継機も開発をしている最中だ。

「『日本のものはこの人に聞けば全部分かる』というように、『日本実験棟きぼう』や『こうのとり』などの日本のシステムを熟知しておけば、リーダーシップを果たしながら、ISS参加国との連携に寄与できます。これは、日本の宇宙飛行士としてやらなければならないことですし、他国の宇宙飛行士や運用の関係者からも求められていることだと思います」(若田宇宙飛行士)

また、日本はアルテミス計画で宇宙飛行士たちが滞在する「ゲートウェイ」の居住モジュールの建設や物資の補給システムなど、月軌道への滞在に欠かせない装置の建設・運用を担うことが決まっている。

今回の宇宙飛行士募集で採用された宇宙飛行士が、本当にアルテミス計画へと関わることになるのなら、こういった装置の運用についても、世界から活躍が期待されることになる。

また、若田宇宙飛行士はオンラインイベントで、宇宙飛行士に求められるリーダーシップについても、印象的なコメントをしている。

「リーダーについて行くだけでなく、リーダーを補助して能力向上に寄与できるアクティブフォロワーになれるのが望ましいです。

(立場は作業によって入れ替わるので)今日リーダーだった人が、明日はフォロワーになることも。役割をタイムリーに変えながらミッションに取り組む必要があります」

月面開発には、国際宇宙ステーションに参加していた15カ国だけでなく、さらに多くの国の参加が見込まれている。

また、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は、身体的障害がある人であっても、支援ロボット等を使いながら宇宙に滞在できるよう研究する「パラアストロノート」の募集を開始する計画を発表した。

強いリーダーシップを持ちながら誰とでも柔軟にチームを組める協調性も、今後の宇宙飛行士にとってさらに重要な資質と言えそうだ。

宇宙飛行士になっても、宇宙までの道のりは遠い

宇宙

ISSから見た地球。

Roscosmos

オンラインイベントでは、“宇宙飛行士のキャリア”も話題に上がった。

JAXAの宇宙飛行士は、募集から約1年かけて選抜される。

前回の選抜では、書類審査の後、一般教養と専門の筆記試験や医学検査、約1週間にわたって閉鎖施設で過ごす適性試験などが行われた。

選抜に合格すると、宇宙飛行士候補生として約2年間基礎訓練を受け、一通りの訓練を終えると、晴れて宇宙飛行士とされて認定される。

その後は、ISSのロボットアームの操縦など、基礎能力の維持・向上訓練を受けながら、ミッションが決まるのを待つ。そして、フライトが決まると、1〜2年半かけて宇宙滞在中の計画に合わせた訓練を受け、宇宙への出発に備えることになる。

そして、ミッションから帰還すると、再び訓練をしながら次のミッションを待つことになる。

JAXAの2008年の募集で選抜された宇宙飛行士の中で、最初に宇宙飛行を行なった油井亀美也宇宙飛行士の初フライトは2015年。応募してから宇宙に行くまでに、7年かかった。そのため、宇宙飛行士のキャリア形成には長期の勤続が必須となる。

なお、JAXAの宇宙飛行士は、引退するまでにこれまでおおむね1回〜4回程度ミッションに参加している。若田宇宙飛行士は、5回目となるフライトを2022年に予定しているが、これが実現すればJAXAの宇宙飛行士最多だ。

ESAの場合は、宇宙飛行士として最低2回のフライトを経験できるよう、選抜に応募できるのは50歳以下に限られている。

宇宙飛行士の「セカンドキャリア」

ISS登場宇宙飛行士の選抜プロセス

宇宙飛行士のキャリア形成には長い年月を要する。

JAXA プレスリリース資料より

体力低下の影響か、NASAの宇宙飛行士の引退時の平均年齢は48歳と比較的若い参照)。

宇宙飛行士の引退後のキャリアはさまざまで、世界では各国の宇宙機関でのキャリアを深める人もいれば、大学教員企業のマネージャー講演家政治家に転職する人などもいる。

日本では、日本初の宇宙飛行士である毛利衛宇宙飛行士が日本科学未来館の館長を務めていることが有名だろう(なお、2021年3月末で退任予定)。

また、2011年にJAXAを退職した山崎直子宇宙飛行士は、当時の記者会見で、(退職後も)宇宙を身近にする活動に精進していきたいと語っていた。

現在は、有人ロケットの離発着が可能な宇宙港の開港を構想する一般社団法人Space Port Japanの代表理事を勤めながら、宇宙の利用計画や宇宙開発予算を取りまとめる内閣府宇宙政策委員会委員などとして活躍。

宇宙飛行士引退後も、何らかの形で宇宙に携わり続けている。

山崎宇宙飛行士にこの先の活動について話を聞くと、

「多くの人が宇宙に行ける時代、いずれは日本からも宇宙に行き来できる時代を目指したいと思い、Space Port Japanの活動や、宇宙教育などに力を入れています。そうなった暁には、いつか再び宇宙に戻りたいと思っています

と、再び宇宙へと活動の場を戻す気持ちを見せた。

実際、アメリカではNASA退職後に、民間企業に転職し、再び宇宙を目指す宇宙飛行士も増えてきている。

NASAで約20年間務めたマイケル・ロペズ=アレグリア宇宙飛行士は、退職後に宇宙ステーションの構築を計画するベンチャー企業のAxiom Spaceに入社。

2022年に同社の民間宇宙飛行士として、スペースXの宇宙船クルードラゴンを使い、ISSに滞在する予定が発表されている。

若田光一宇宙飛行士

JAXAの若田光一宇宙飛行士。

JAXAオンラインイベントより

若田宇宙飛行士は現在57歳。残り3年でJAXAの定年を迎える。

自身の今後のキャリアについて聞くと、少なくとも今は2022年に予定されている国際宇宙ステーション滞在に向けての訓練に集中しているため、具体的に引退後のキャリアについては「まだ検討していない」と返答があったものの、

「経験をどう社会にフィードバックしていくかに留意しながら、訓練と宇宙飛行に臨み、そこで得た知見を多くの皆様に共有できるようにしていきたいと思っています」(若田宇宙飛行士)

宇宙飛行士の経験を活かした取り組みをイメージしていると語る。

チームプレイヤーで良い聞き手であること、ストレス下でも冷静沈着に行動できること、苦しいときもユーモアを忘れずに前向きに物事を考えられることなど、宇宙飛行に必要な資質は、日々の生活においても必要なことです。


人材の流動性が高くなれば、帰還後のキャリアを考えながら訓練に取り組むこともできるようになるでしょう。(宇宙飛行士になるときに)キャリアが明確になっていれば、訓練やミッションで獲得すべきことが拡がります」(若田宇宙飛行士)

日本では数少ない宇宙飛行士。

次世代の育成や教育分野、あるいは民間への転職など、その後のキャリアの可能性もさまざま。いずれにせよ、宇宙飛行士をキャリアの一つと捉えると、これまで想像しなかったような経験が積めることは間違いないだろう。

(文・井上榛香、編集・三ツ村崇志

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