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「女性だから」で終わらせない、企業がみるべき数合わせよりもっと大事なこと

女性エグゼクティブ

shutterstock/GaudiLab

「弊社の社外取締役に就任してもらえませんか」

ビザスクの端羽英子社長は、2020年3月に上場が成功した後、とある企業からこう声をかけられたという。

なぜ自分なのかと問うと、こんな答えが返ってきた。

「女性だから」

端羽社長は当時の心境をこう振り返る。

「女性であるという以外にもう少し何かありませんかね……と。本来は、そもそもガバナンスとは何かというところから考え、どのような人が自社にとって適任かを考える必要があります」(端羽社長)

しかし実際は、企業が社外取締役を探すにあたっては人づてで、知り合いに頼んで引き受けてもらうといったことも多いようだ。とりわけ女性は「多様性確保のための数合わせ」として採用されるというケースもあり、実際に「自社にとって適任か」が精査されているとは限らない。

ビザスクは自社が上場するときに、社外取締役の適任者を探すのに苦労した実体験もあり、2020年12月に「ビザスクboard」というサービス開始を発表した。社外取締役の候補者を企業に紹介するサービスだ。

もともとさまざまな領域の専門家の知見と企業をマッチングするサービスを展開しており、その強みを生かしたという。

「弊社も上場するときに、何社も社外役員を兼任しているような方ではなく、ある程度時間を割ける方、でも適任で、知見がある方を探すのはなかなか大変でした。ビザスクは投資ファンド出身なのでネットワークもありましたが、そのような企業ばかりではない。

一方で社会的にはコーポレートガバナンスをめぐる基準が厳しくなっていて、社外取締役を見つける必要性も増していると感じました」(端羽社長)

女性役員増やす流れに待ったなし

森喜朗

東京五輪・パラリンピック組織委員会元会長の森喜朗氏。女性蔑視発言を巡り議論が巻き起こった。

Getty Images/Takashi Aoyama

端羽社長の言う社外取締役の必要性が増している背景とは何だろうか。

1つは、企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)の改訂だ。2021年春に、金融庁と東京証券取引所は、取締役の3分の1以上を独立した社外人材から選ぶよう求める予定だ。

もう1つは、女性役員を増やす動きだ。2015年日本政府は第4次男女共同参画基本計画で、上場企業の女性役員の割合を2020年までに10%に引き上げるという目標を閣議決定したが、実際の2020年の女性役員比率は6.2%にとどまる。10%ですら未達だが、経団連は2030年までに役員に占める女性比率30%を目標にするという。

2021年2月、東京オリンピック・パラリンピック組織委の森喜朗前会長発言と辞任を巡る騒動により、かつてなく会議での女性の立ち位置について注目が集まった。

しかし現在の日本では、企業においても意思決定の場や会議にそもそも参加している女性の割合は限られる。「クリティカル・マス」と呼ばれる一定割合を超えると、マイノリティが発言しやすくなると言われており、その目標として30%と設定されることは多い

女性役員の増加は社内からの昇進でも目指すことができるが、現実問題として管理職クラスの比率引き上げにも苦労する企業が多い中、役員は社外から招くほうが手っ取り早いと考える企業も多い。

海外投資家も取締役会の多様性の基準に厳しくなっている。例えばゴールドマン・サックスは新規株式公開の引き受けに際し、上場希望する欧米企業には最低1人の女性取締役やマイノリティーの起用を求めている。

企業はガバナンスに有効な社外取締役の選任、とりわけ多様性確保のため女性の適任者を探す必要性が増しているのだ。

女性なら誰でもいいのか?

しかし、では数値を達成するために、「女性なら誰でもいいのか」といえば、もちろんそうではない。実績のある人に「女性だから」としか選出理由を伝えられないのは失礼だ。

端羽社長は社外取締役候補者を選出するサービス、前述のビザスクBoardについて次のように語る。

「多様性は一つの大事な要素ですが、女性であれば誰でもいいわけではなく、女性で経営目線がある人とか、新規事業を立ち上げた経験がある人とか、経営とテクノロジー両方の視点を持っている人とか、属性だけではなく自社に足りない視点や必要な視点がそれぞれの企業にあるはずなので、ヒアリングした上で候補者を紹介します」

人づでで見つけることは難しくても、実際に世の中には社外取締役をできる可能性がある人は実は少なくない。ビザスクBoardを発表後、約2カ月で候補者として登録をした専門家などは1000人を超えたという。

「女性はまだまだ少ない」が、ビザスクでは多様な選択肢を提示することが存在意義だと考えているという。

候補者を探し始めてから面接等を経て、最終的には株主総会での承認が必要だ。ビザスクBoardは採用された場合に成功報酬を受け取るビジネスモデルで、息の長いプロセスを引き受けることになるが、「社会的意義があると思って」(端羽社長)取り組むという。

「革靴の外から足をかくような仕事」

働く女性

撮影:今村拓馬

女性に特化した社外取締役紹介サービスを開始した企業もある。フリーランス女性と企業とのマッチングや離職女性の再就職支援に取り組む人材エージェント「Waris」は、1月20日より女性役員の人材紹介サービス「Warisエグゼクティブ」を開始した。

既にWarisに登録している女性の中から、起業経験や役員経験、事業部長クラスの経験がある人を、取締役、監査役、執行役員等の候補者として企業に紹介するという。

2月にWarisが開催した「女性役員」に関心のある企業・個人に向けて開催したセミナーでは、社外取締役経験者がオンライン登壇し、自分自身の経験を語った。

エコノミスト崔真淑さんは、コーポレートガバナンスの知識を生かせると考えて社外取締役に就任した時のことをこう話した。

「当初あった根拠なき自信は崩れ去りました。事業経験がなかったので現場に足を運ばせてもらったり、商品を買って見たり、コロナの前は社員の方と飲みに行ったりしながら、勉強しながら、組織ならではの悩みを理解しようと努めました」

一方、株式会社Will Lab小安美和さんは、リクルート子会社での執行役員経験はあったが、社外取締役は「“革靴の外から足を掻くようだ”と表現されるように、外から内側の状況を把握し適切な意見を出すという難しい作業。 それぞれの専門性を持つ他の社外取締役に助けられて学ぶことも多かった」と言う。

それでも、女性役員が存在することの意義は大きい。

「男性だけのオールド・ボーイズ・クラブだと、(男性同士で)同調しやすくなる。つるんでしまって、トップにNOを言わなくなる。そこに異質な存在が入ることで、空気を壊し、同調させないようにすることが女性役員の存在意義」(崔さん)


「 例えば誰を昇進させるかという会議でも、意思決定者たちが男性ばかりだと、女性について『あの子はそろそろ結婚だからね』という風に、勝手に配慮されるといったことは起こり得ます。そこに『彼女は能力あります』と言ってあげる人がいるかどうか。多様な声を吸い上げるための多様な役員がいることが大事」(小安さん)

株主代表訴訟の被告になる可能性も

東京地裁

Getty Images/Takashi Aoyama

ただ、社外取締役は非常に責任の重い仕事でもある。「株主やその価値の源泉となる従業員の利益等を上げる上で、それに資すると思えない人を解任する権限を持つ」(崔さん)仕事だ。

問題が起こりそれを指摘できなかった場合は、株主代表訴訟の被告になる可能性がある。保険会社には「会社役員賠償責任保険」などもあるくらいだ。

就任する側が、企業をある程度選ぶ視点も必要だろう。「どうせ外から来ていて中のことは分からないでしょ」という態度で、社外取締役がいじめのような対応を受けたという事例も聞く。

引き受ける場合は、

「 経営者の倫理観、経営哲学、会社の財務面やなどは事前にぜひ確認を。とりあえず女性なら誰でもいいという会社ではなく、自分の知見とシナジーがある会社で引き受けたほうが価値を発揮できるはず」(小安さん)

五輪組織委の森元会長の発言では、女性は話が長く「わきまえて」短くしてほしいということが示唆され大きな問題となったが、マジョリティにおもねる発言をするよう圧力をかければ、異質で多様なメンバーを会議に入れる意義自体が失われるだけだ。

企業における社外取締役もいわば発言を「わきまえて」いては到底つとまらない重要な役回りだ。企業側も女性側も数合わせに惑わされず、しっかりとガバナンスに寄与しつつ、クリティカル・マスを突破していくことを目指すべきだ。

(文・中野円佳

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