カナダ産のバターは、なぜ固くなったのか…「バターゲート」の真相は未だに不明

ニューヨークのマンハッタンで行われた第90回メイシーズ・サンクスギビング・デー・パレードの開始を待つ、バターのかたまりに扮したピエロたち。

ニューヨークのマンハッタンで行われた第90回メイシーズ・サンクスギビング・デー・パレードの開始を待つ、バターのかたまりに扮したピエロたち。

REUTERS/Andrew Kelly

  • カナダの人々は、なぜ最近のバターが固く、塗りにくくなったのか、疑問に感じている。
  • 食品の専門家の中には、牛の飼料に使われるパーム油の量が増えたことが原因だと考える人もいる。
  • 誰もがそれに納得しているわけではなく、酪農業界のロビー団体が調査を行っている。

カナダの人々は、バターが最近急に固くなり、以前のように溶けなくなったと不満を述べている。

そのことが気になった家庭の料理人や食の専門家は、「バターゲート」と名付けられたこの現象(編注:「ゲート」はスキャンダルに名称を付けるときによく使われる語尾)についてオンラインで語り合い、答えを探している。

私たちのバターに何かが起きている。私はこれを探っていくつもり。バターが室温ではやわらかくならなくなったって気付いてた? 水っぽい? 消しゴムみたい?

パーム油のせいだと考える専門家もいる

バターが固い理由を証明した研究はないが、一部の消費者は、牛の飼料に含まれるパーム油の使用量が増えていることが原因だと指摘している。

料理についての著書のあるカナダ人、ジュリー・ヴァン・ローゼンダール(Julie Van Rosendaal)は、2月20日のグローブ・アンド・メール紙に寄稿したコラムで、牛の飼料に含まれるパーム油の使用量が増えていることが、バターの固さを変化させた可能性があると述べた。

ゲルフ大学の食品科学の教授で、カナダ・リサーチ・チェアの研究資金を獲得しているアレハンドロ・マランゴニ(Alejandro Marangoni)は、ローゼンダールのインタビューを受け「最近は間違いなくパルミチン酸(パーム油の主成分)の含有量の高い脂肪を牛に与えている」と語った。

「パーム油は、乳脂肪中の長鎖飽和脂肪酸が増加させるなど、確実にバターの食感に影響を与えるものだ」

モントリオールのCTVニュースによると、牛の飼料にパーム油を加えることは目新しいことではない。パーム油を与えると乳脂肪分を増やすことができるため、カナダでは20年ほど前から使用しているという。

だが2020年の夏以降、パンを焼く家庭が増えて、乳製品の需要が高まり、それに対応するためにカナダ各地の何百もの酪農家が、パーム油の使用を増やすようになったとBBCが報じた

BBCが酪農家団体のデイリー・ファーマーズ・オブ・カナダから得た情報によると、バターの需要は2020年には12%以上増加したという。

「ジャックが建てた家」(文章を足していく言葉遊びの一種)のようにグローバル経済を表すとこうなる。まずパンデミックがあった。みんなが家に閉じこもり、以前よりも料理をしたりパンを焼いたりするようになった。するともっとバターを使うようになった。つまりもっと牛乳が必要になった。ということは乳牛にもっと食べさせなければならなくなった…

パーム油の使用は合法ではあるが、飽和脂肪酸の摂取と心臓病に関連性があることが知られているため、物議を醸している。また、パーム油の生産は環境にもダメージを与える可能性がある。

酪農家団体が調査中

ダルハウジー大学の農産物分析研究所シニアディレクターであるシルヴァン・シャルルボア(Sylvain Charlebois)が執筆した固いバターとパーム油の使用を関連付けた論説は、多くの人に読まれている。

彼は、乳製品メーカーは原材料についてもっと透明性を高めるべきだと主張している。というのも、この業界は政府から多額の助成金を得ているからだ。

「他の国とは異なり、カナダでは牛乳はいわば公共財だ」と彼は記した。

「酪農家には政府が認めた独占的な生産割当があり、カナダの納税者は高品質の乳製品を継続的に入手できるようにするために、17億5000ドルを支払ってきたのだ」

カナダの人々は、なぜバターがこれほど固いのか知りたがっている。

カナダの人々は、なぜバターがこれほど固いのか知りたがっている。

Haven Orecchio-Egresitz

業界団体のデイリー・ファーマーズ・オブ・カナダは2月19日に発表した声明の中で、パーム油などのパーム製品が乳牛の飼料に「限られた量」だけ含まれていることがあるが、牛乳の品質にはほとんど影響がないと主張した。

「カナダで乳牛にパーム油のサプリメントが与えられる場合、通常は飼料に少し加えられるだけであり、それによって増加するパルミチン酸は3%以下と推計され、影響は非常に限られている」

このように主張したが、同団体は、懸念されている事項をさらに調査するための委員会を立ち上げるという。

加工方法によって固くなっているという意見も

パーム油がカナダのバターを固くした、あるいは品質をすっかり変えてしまったという考え方に、すべての食品科学者が納得しているわけではない。

ゲルフ大学の食品微生物学者であるキース・ウォリナー(Keith Warriner)は、バターの加工方法が原因かもしれないと考えており、「バターを早く処理しすぎると、固くなることがある」とCTVに語った。

彼はまた、バターが数年前から固くなっていることに今気付いた人もいるのではないかとも述べている。

バターが室温でなかなか柔らかくならないのはカナダの寒さのせいだと、ソーシャルメディアで発信する人もいる。

うちのキッチンが寒いからとかそういうことだと思っていた。だからヒーターの温度も上げたのに(本当に)。でも固いバターは固いバターだった。どういうこと? 牛の飼料に含まれる倫理的に疑わしいパーム油が原因かもしれない...

シャルルボアはそういうこともあるだろうと考えている。

彼は論説の中で、カナダのバターのいくつかのブランド、例えばオーガニックブランドのものは固くなっていないと述べている。

「冬や寒さのせいにする人もいるが、真実はそれ以上に厄介だ。『バターゲート』は業界が必要としているものではないし、カナダ人にふさわしいものでもない」

[原文:Canadian butter has gotten weirdly hard, won't soften at room temperature, and nobody is sure why

(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)

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