マーク・ランドルフが1997年、ネットフリックスの事業構想を共同創業者のリード・ヘイスティングスと思いついたとき、誰もが彼のビジョンを信じた訳ではなかった。ランドルフの妻でさえも、ネットフリックスがうまくいくとは思っていなかったのだ。
だが彼女の読みは外れた。ネットフリックスは今や、時価総額2300億ドル(約25兆円)に及ぶ企業だ。
ネットフリックス立ち上げ後の20年で、ランドルフは他に6社のスタートアップを単独または共同で立ち上げてきた。これには、2019年に26億ドル(約2800億円)でグーグルに売却したビジネス・インテリジェンス・プラットフォーム、ルッカー・データ・サイエンシズ(Looker Data Sciences)も含まれる。
「間違いなく言えるのは、起業もたいていのこととそう違わない、ということだ」と、ランドルフはInsiderの取材に答える。つまり、「やればやるほど、うまくなる」ということだ。
新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、起業件数は急増している。ビジネスのアイデアを実際に形にしたいと考える人が増え、アメリカでの事業申請数は2020年10月までに40%増加した。しかし起業の最大の障壁になり得るのが、どこから着手すればいいのか分からないという点だ。
本稿では、その一歩を踏み出すためのアドバイスをランドルフに聞いた。
1. 問題解決法を見つけよう
いろいろな意味で、起業は人が思うほど複雑ではない、とランドルフは話す。必要なのは、高学歴でも人目を引く事業案でもない。問題を解決することなのだ。
「難しい話ではありません。コンピューター・サイエンスの学位やMBAの話ではないのです。起業に必要なのは、何かを試し、そこから学び取る能力です」
起業家は、夢追い人や空想家と呼ばれることが多い。しかしそうした資質があれば成功できる訳でもない。ランドルフの目を引くのはそれよりも、行動指向の起業家であるかだという。
「私は、夢追い人ではない人物を求めています。現実主義者で、『このアイデアが良いか悪いかは分からないが、とりあえず実現してみよう』という人を求めているんです」
例えば、問題解決のステップをきちんと踏んだと示せば、自分の会社をテクニカル面で支援してくれる共同創業者が見つかる可能性が高くなる、とランドルフは言う。また、抽象的なアイデアを売り込むよりも、確固としたデータを共有した方がいいとも付け加える。
2. 小さな一歩から始めよう
ビジネスのアイデアがあったら、少しずつ歩み始めるといいとランドルフは言う。アイデアは常に、現実世界の複雑さとは無縁な頭の中にあるときの方が、よく見えてしまうものだからだ。うまくいくかどうかかを知る唯一の方法は、飛び込むことだとランドルフは話す。
例えば、ランドルフは自身が初期に立ち上げたベンチャーのひとつである音楽通販ビジネスを通じて、事業がうまく行くか否かを知る唯一の方法は、物事を実際に試してみることだと悟った。そこで、最善のプロセスは何かを探るために、DVDを自分に郵送するといった試行錯誤に取り組むようになったという。
こうした行動は往々にして、ある程度のリスクがつきものだ。起業家は、物怖じせずにリスクを取れるようにならなければいけない、とランドルフは言う。
「住宅ローンや子どもの大学の学費でギャンブルをしている、と人は思うものです。しかし私に言わせれば、リスクを取るとは単に、どんな結果になるか分からないまま何かに取り組むことにすぎません。ネットフリックスがこれほどの規模になる前、私はこれを何度となくやりました」
3. メンターを見つけよう
自分のアイデアに対して、尊敬する人からフィードバックをもらうのは非常に大切だ。しかしパンデミック以降はこれが以前より難しくなっている。
「友達とバーへ行って、すごいアイデアが浮かんだんだ、なんていう話ができなくなってしまいました。誰も彼もが、自分の頭の中で暮らさざるを得なくなった。人と会ってアイデアをぶつけてフィードバックをもらう、という以外の方法を見つけなければいけません。これはかなりのチャレンジだと思います」
しかしLinkedInなり事業者団体なりを通じて、リモートでも素晴らしいメンターを見つける方法はある。起業家がメンターを探すときは、正直なフィードバックをくれる人を見つけるようにとランドルフは助言する。そうしたフィードバックは、自分の成長に極めて重要だからだ。
「起業家なら誰もが、『そんなの絶対にうまくいかない』という言葉を聞かされるものです」とランドルフは言う。「しかし時には、『すごい、素晴らしいアイデアだ』という言葉の方が耳が痛いこともあるのです。厳しい真実に直面させまいとしてそう言ってくれているのなら、なおさらです」
成功する起業家は、先が見えない状況や批判に慣れる必要があるという。ランドルフ自身も、過去にはこうしたものに対処しなければならなかった。
「私が立ち上げたビジネスはどれも、当初はどこに向かおうとしているのか、私にもまったく分かりませんでした。でも、うまく行くことも時にはあるものです。今起業しようとしている人たちも、私と何ら変わりがないのです」
(翻訳・松丸さとみ、編集・野田翔)