グーグルの前CEOであるラリー・ペイジには、会社にとって大きな決断を下す際に相談する、信頼できるアドバイザーを集めた「Lチーム」がいた。
サンダー・ピチャイの同様のチームは「グーグル・リーズ(Google Leads)」と呼ばれており、研究から教育まで、グーグルの重要な事業部門からさらに幅広く集められた16人のメンバーで構成される。
この中にはプロダクト・リーダーやピチャイの信頼が厚い友人たちがいる。創業期からグーグルにいて、今この厳しい状況でピチャイの経営のかじ取りをサポートする人たちもいる。
Insiderは関係者からの情報をもとに、このグループのメンバーを16人特定した。
このグループは基本的に毎週会議を行っており、関係者によるとコロナ禍でその回数は増えているという。それでは、メンバーを見ていこう。
トーマス・クリアン(グーグル・クラウドCEO)
Flickr/Oracle PR
グーグルはクラウド事業について、2023年までに大手競合のうち少なくとも1社を追い抜くという目標を立てている。そのミッションを背負っているのがクラウド事業のCEOであるトーマス・クリアンだ(2023年という時期について、グーグル広報は「こうした報道は正確ではない」と否定している)。
元オラクル役員であるクリアンがグーグルのクラウド事業のトップに指名されたのは2018年11月だった。就任して数週間目には「グーグルはこれからもっと積極的に攻めていきますよ」と話している。今のところ、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)およびマイクロソフトのAzureに猛追しており、約束通りになっているようだ。
クリアンの前任者だったダイアン・グリーンは関係者によるとエンジニア寄りの人物で、他の役員との人間関係が原因で退社したと言われている。
グリーンとクリアン両方の体制で働いた人によると、「クリアンが就任したことで、トップが営業寄りに戻りました。これでグーグルのエンタープライズ部門について疑問視してきた企業に売り込みやすくなるでしょう」とのことだ。
クリアンが就任してから、クラウド事業は特定の業界に特化した製品やサービスを増やすことを目標にしており、2019年には5000万ドル(約50億円)規模の案件が2倍以上に増えたとクリアンは話している。グーグルは最近、財務レポートの中でクラウド事業については分けて記載しており、この事業の重要性が増してきたことをうかがわせる。
ちなみにクリアンは双子で、兄弟のジョージ・クリアン(George Kurian)はNetAppのCEOを務めている。
ルース・ポラット(グーグルおよびアルファベットのシニア・バイス・プレジデント兼CFO)
Denis Balibouse/Reuters
ルース・ポラットがモルガン・スタンレーを退職し、グーグルに新CFOとして入社したのは2015年。グーグルがアルファベットになるほんの数カ月前のことだった。
ポラットのこの就任タイミングは偶然ではなかった。体制変更の後もポラットはグーグルとアルファベット両方のCFOを務めており、グーグル帝国における最重要人物の一人となっている。
ポラットの担当領域にはアルファベットのいわゆる「Other Bets」(サービスとクラウド以外の事業)も入っており、これには自動運転、バイオテック、ドローンなどさまざまな事業の子会社が含まれる。ポラットはこうした事業における財務や人員の采配を振るっている。
この数年ポラットはアルファベットの財務規律を強化しており、資金を垂れ流していた案件にも影響を及ぼしてきた。またコロナ禍により2020年夏にデジタル広告が急減した想定外の状況でも、会社を慎重に指揮してきた。
ケント・ウォーカー(グローバル・アフェアーズおよび法務部門責任者)
Aaron Bernstein/Reuters
グーグルのトップ弁護士であるケント・ウォーカーは、グローバル・アフェアーズ担当シニア・バイス・プレジデント兼グーグルの法務部門最高責任者だ。
ウォーカーはグーグルの経営陣に対し、買収から反トラスト法調査に至るまで、法律および政策関連の助言をする。「テック業界では、かつてないほどの権力を持つ人物」とブルームバーグに表現されたこともあった。
しかし、その状況はまもなく変わるかもしれない。一連の反トラスト法訴訟について、ウォーカーは社外弁護士数人とともにグーグルの弁護人を務めることになるからだ。
スタンフォードのロースクール出身のウォーカーは、イーベイ(eBay)およびインターネットブラウザの先駆者であったネットスケープ(Netscape)で法務部門のトップを務めたのち、2006年にグーグルに入社。皮肉なことに、今回の訴訟で相手となる米国司法省にも5年間勤めていたことがある。
プラバカール・ラガバン(検索およびGeo部門担当シニア・バイス・プレジデント)
プラバカール・ラガバンは2020年初めの経営陣刷新の際にグーグルの検索部門のトップに就任した。以前はグーグルの広告・コマースチームのトップを務めており、さらにその前にはグーグル・クラウドのG Suiteを担当していた。
ラガバンの専門は検索だが、この体制変更で広告、Geo(Google MapsとGoogle Earthを含む)、コマースおよびペイメント、さらに音声を使ったアシスタントのプロダクトの責任者も兼任。ラガバンはグーグルの収益源のトップに就いたことになる。
部下の顔ぶれも変わり、Google Adsのリーダーであるジェリー・ディシュレル、Geo部門の新たなリーダーであるデイン・グラスゴー、エリザベス・リードなどの上司となった。
グーグル入社以前は、Yahoo Labsを設立しヤフーの検索戦略を指揮していた。また検索についてはラジーブ・モトワニとの共著『Randomized Algorithms』など著作・論文を多く出している。
ちなみに、ラバガンはTwitterのアカウントは持っているものの、あまりつぶやかない。実は、ユーザー名(@ wittednote)が「I don’t tweet」のアナグラム(文字列を入れ替えたもの)となっている。
ベン・ゴメス(学習・教育担当シニア・バイス・プレジデント)
Flickr
ベン・ゴメスも創業期からのメンバーで、1999年入社。当初はグーグルの「ページランク」を2500万ページ以上に拡大する業務などに携わっていた。
ゴメスはグーグル検索の第一人者と言われる。「ベンはグーグルの顔とも言える存在」とは、元ヤフーCEOのマリッサ・メイヤーがグーグル副社長在職時代にゴメスを評した言葉。だが、ゴメスがグーグルの検索事業のトップにようやく指名されたのは2018年のことだった。
最近、ゴメスはグーグルの教育・学習関連プロダクトの責任者になった。これら領域のさまざまな取り組みをまとめるほか、コロナ禍におけるGoogle MeetとClassroomの構築にも携わっている。
ピチャイCEOはゴメスのこの異動について2020年6月に発表した際、「ベンはいつも教育におけるイノベーションに大きな関心を寄せていました。この分野をさらに発展させてくれるのを楽しみにしています」と述べている。
検索部門のテクニカル・アドバイザーとしての仕事も続け、プラバカール・ラガバンをサポートする。また慈善事業のGoogle.orgとも協力を続けるとのことだ。
フィリップ・シンドラー(シニア・バイス・プレジデント、チーフ・ビジネス・オフィサー)
Matthias Balk/picture alliance via Getty Images
グーグルのチーフ・ビジネス・オフィサーであるフィリップ・シンドラーは、コロナ禍の影響を回避するためにこの1年忙殺された。
ドイツ生まれのシンドラーは、1990年代にはAOLとCompuServeで働いていたが、ITバブル後の2005年にグーグルに入社。2015年、新たに設立された持株会社アルファベットの傘下にグーグルが入るという体制変更を行った際にチーフ・ビジネス・オフィサーに就任した。グーグルの広告事業の顔であるだけでなく、Googleニュースからその他の野心的プロジェクトまで、至るところに関与している。
検索と広告の事業を統括するシンドラーは今後、ラガバンとの連携が多くなることが予想される。
ヒロシ・ロックハイマー(プラットフォームおよびエコシステム担当シニア・バイス・プレジデント)
2017年のGoogle IO /YouTube
Androidチームの初期メンバーであるロックハイマーは現在、Android、Chrome、Chrome OS、Google Playといったグーグルのさまざまなモバイル関連プロダクトを統括する。
グーグルがAndroidを買収したあと2006年にグーグルに入社し、技術部門のエグゼクティブ・ディレクターを経て、バイス・プレジデントとなった。実はピチャイもかつてChromeとChrome OSの開発リーダーを務めたことがあり、2015年に新しくグーグルのCEOとなった際、ロックハイマーをグーグルのモバイル・ソフトウェア担当のシニア・バイス・プレジデントに指名した経緯がある。
関係者はロックハイマーについて「静かな強さ」を持つ人物であり、社内で尊敬されているリーダーだという。
ロックハイマーは、また新しいOSであるFuchsiaへの挑戦も指揮している。これはAndroidとChrome OSの混合版のようなオープンソースOSだが、まだまだ謎が多い。
リック・オスターロー(デバイスおよびサービス担当シニア・バイス・プレジデント)
AP
ここ数年、リック・オスターローは、スマートフォン、ノートPC、ウェアラブル端末など、グーグルのハードウェア関連の取り組みをなんとか一つの一貫したビジョンに収めるという難題に挑戦している。
モトローラ・モビリティの元社長であるオスターローは、2016年にハードウェア部門のトップとしてグーグルに舞い戻った(編注:オスターローはもともとグーグル社員で、グーグルがモトローラ・モビリティを買収した際に社長に就任した。その後、同社がレノボに買収された後も社長を続けたが、2016年に退社。グーグルに戻ってきた)。グーグルの自社スマートフォンであるPixel(ピクセル)を有名にしたのが一番大きな業績だろう。
2018年からはGoogle Nest(グーグルのスマートスピーカー)の責任者も兼任。Nestはグーグルが買収し一度アルファベットの傘下となったものの、その後再度グーグルに吸収された会社だ。
オスターローはグーグルのハードウェア・プレイヤーとしての存在感を示す必要があるが、この1年はメンバーの離職やプロダクトの展開における偏りが見られるなど、まだ軌道には乗せられていないようだ。
グーグルはPixelとChromebook向けの自社プロセッサを開発していると言われているが、これが成功すれば関連ハードウェアでオスターローの部門は重要な事業になるかもしれない。
オスターローの直属の部下にはNestのバイス・プレジデントであるリシ・シャンドラと、グーグルのVR/AR製品の責任者であるクレイ・ベーバーがいる。
スーザン・ウォシッキー(YouTube CEO)
Reed Saxon/AP
YouTubeのCEO、スーザン・ウォシッキーは、グーグル創業初期からのメンバーでもある。1998年に創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが最初のオフィスを作ったのがウォシッキーのガレージだった。
また、2006年にYouTubeの買収を提案したのもウォシッキーだ。15年経った今、その提案通りにしてよかったと、ペイジとブリンも思っていることだろう。
ハーバード大学で歴史と文学を学んだウォシッキーは、YouTubeをグーグル最大の成功のひとつに導いた立役者だ。
YouTubeからの収入を公開し始めた今、どれほど成功を収めているのかも可視化された。YouTubeが成長を続けてテレビ広告費を侵食しつつある今、アナリストはグーグルにおいて最も楽しみな事業だと注目している。
ロレイン・トゥーヒル(チーフ・マーケティング・オフィサー)
ロレイン・トゥーヒルは2003年、マーケティング職で初となるアメリカ以外からの採用でグーグルに入社。その後またたく間にキャリアアップし、マーケティング部門のトップとなった。
トゥーヒルはグーグルの社内広告代理店であるクリエイティブ・ラボ(Creative Lab)も立ち上げた。そのため、検索部門やChromeなどあらゆるプロダクトのパフォーマンスについて、他の社員がアクセスできない情報まで横断的に把握している。
コロナ禍においては、グーグルのプロダクト全般にわたり健康に関する公式情報を伝えるため、世界保健機関(WHO)およびアメリカ疾病予防管理センター(CDC)と協力した。
フィオナ・チッコーニ(人事担当シニア・バイス・プレジデント)
フィオナ・チッコーニは新しく就任した人事のトップで、自身にぴったりの仕事に就いたと言えるだろう。
前職はアストラゼネカの人事トップ。今後はグーグルで広がるリモートワークの社員や、社員の間に広がる対立などの対応をすることになる。
前任者のアイリーン・ノートンは2020年末までに退職することを2020年2月に発表していた。グーグルの広報はチッコーニがピチャイCEOの直属の部下になることを認めている。
この1年、グーグルでは炎上案件もいくつか発生しているため、チッコーニは2021年、その対応で忙しくなるだろう。
2021年初めには社員数百人がアルファベット初の労働組合を結成した。またAI倫理の研究者のリーダー2人が解雇されたことについて、社内の動揺は今も収まっていない。
グーグルのダイバーシティ、公平さ、インクルージョンへのコミットメントについても、ここ数カ月疑問視されてきており、チッコーニにとって重点課題となるのは間違いない。
ジェン・フィッツパトリック(コアおよびコーポレート・エンジニアリング担当シニア・バイス・プレジデント)
1999年のインターンシップ・プログラムを経てグーグルに入ったジェン・フィッツパトリックはグーグルの初期メンバー30人に入る人物だ。草創期の数少ない女性エンジニアでもあった。
フィッツパトリックは検索、Googleニュース、ショッピング、AdWords(広告)などのチームのリーダーを務めてきた。2014年にはGeo部門のバイス・プレジデントとなり、Googleマップ事業全体の責任者となった。
2020年にはGeo部門からコア・エンジニアリングのチームに移り、8000人以上の社員を統括する。
2020年6月に異動が発表された際、「ジェンにはプロダクトに関する深い知識と、プライバシーなど重要な分野に注力した経験があります。新しいチームのトップとしていい仕事をしてくれるでしょう」とピチャイはメッセージを出している。
新しい役職でも上司は引き続きピチャイとなる。技術部門のバイス・プレジデントでありベテランのルイス・アンドレ・バロッソは引き続きコア部門に残り、フィッツパトリックがその上長となる。
ジェフリー・ディーン(シニア・フェロー、研究および健康担当シニア・バイス・プレジデント)
ジェフリー・ディーンはグーグルのAI部門を率いるシニア・フェローだ。ディーンも1999年からとグーグル勤務が長く、卓越したコーディングの才能で高評価を得てきた。2011年にグーグルの機密研究所「X」に入所し、ディープ・ニューラル・ネットワークの開発をしていた。
これがのちのグーグル・ブレインの設立につながった。AI研究部門であるグーグル・ブレインは、ディーンが統括する、より幅広い研究部門に所属する。
2018年の経営体制変更の際にAIが独立した事業となったが、その際にディーンはグーグルのAI部門全体のヘッドに就任している。AI部門の中には、AIを活用した多くの案件を抱える健康事業グループも含まれており、グーグル・ヘルスのデビッド・ファインバーグはディーンの直属の部下となる。
ディーンとともにいくつかの案件に携わったことがあるグーグル社員は、彼を「気配りのあるメンター」と評する。
大学時代、ディーンは世界保健機関のエイズ関連グローバルプログラムの仕事をしており、今でも健康分野に大きな関心を寄せている。
トム・オリヴィエリ(CEOオフィス担当バイス・プレジデント)
トム・オリヴィエリは2005年にグーグルに入社し、グーグル初のペイメント・サービスの開発に従事した。その後グーグルのさまざまなプロダクトのマーケティングのリーダーを務め、バイス・プレジデントとしてChromeとAndroidのマーケティングも統括した。
オリヴィエリは現在、CEOチーム担当のバイス・プレジデントであり、ピチャイの信頼も厚いという。オリヴィエリの部下には2019年にリーダーシップ・アドバイザーとしてグーグルに入社したジェフ・マーコウィッツがいる。
ベン・スミス(グーグル・フェロー)
ジェン・フィッツパトリック同様、ベン・スミスもインターンシップ・プログラムを経て1999年にグーグルに入社した。当時グーグルに魅せられるあまり、フルタイムでグーグルの研究をしたくて大学院を中退。現在に至るまでグーグルで働いている。
スミスも初期メンバーで、CEOオフィスのテクニカル・アドバイザーだ。ピチャイのチームの中では表に出ることが比較的少ないメンバーだが、会社のブログの投稿で時々登場する。
コーリ・デュブロワ(グローバル・コミュニケーションおよび広報担当バイス・プレジデント)
LinkedInからのスクリーンショット
コーリ・デュブロワはコミュニケーションの責任者だ。スターバックスとセールスフォースで広報戦略を指揮していたが、アルファベットのブランディングのため2018年に入社した。
デュブロワはピチャイの直属の部下として、200人以上の社員を率いている。グーグルに入社して間もない頃、広報部門の社員に「OKR」と呼ばれる目標設定・評価指標を導入した。これはピチャイが自分の部下に対して使っている手法だ。
2020年、世界のPR業界の分析を行うHolmes Reportのイベントで、インタビューを受けたデュブロワは次のように述べている。
「グーグルは長年、データは豊富にあるものの分析があまりできていませんでした。今は精度を高めるための分析エンジンやチームを構築しているところです」
実は音楽ジャーナリストの経験もあるデュブロワ。『ローリング・ストーンズ』や『GQ』といった雑誌で彼の名前を見かけることがあるかもしれない。
(翻訳・田原真梨子、編集・野田翔)