寒波で死者多数のテキサス大停電が示した「電気自動車一辺倒」の危険。カーボンフリー燃料がいま必要だ

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2月21日、米テキサス州の送電線網。零下18度という極寒の中で数百万人が凍える夜を過ごした。

Justin Sullivan/Getty Images

米テキサス州が記録的な寒波に見舞われた。ロイターによれば、ピーク時で430万人強が大規模停電の影響を受け、同州で電力網を運営する電気信頼性評議会(ERCOT)の経営陣が辞任する事態にまで陥っている。

前回記事で筆者は、自動車の環境対応をテーマに、自然災害の多い日本において「電気自動車(EV)一辺倒」はリスクが大きいため、暖房機能を併せ持つ内燃機関の重要性を踏まえ、水素やバイオ燃料を活用した内燃機関によるゼロ・エミッションも視野に入れるべきと指摘した。

今回のテキサス州のケースでも、多くの地元住民が車中で暖を取り、厳寒期の大停電をしのごうとする様子がテレビに映し出された(なお、屋内駐車場などの閉鎖空間における長時間のエンジン使用は一酸化中毒を引き起こす事例も報告されており、排ガスの換気に十分な注意が必要となる)。

内燃機関は、文字通りエンジン内でガソリンを燃やして熱を放つため、暖房の役割も果たす。停電時でもガソリンさえ補給できれば、何時間でも熱源とすることができる。

EVもバッテリー(車載電池)を電源としてエアコンを動かすことはできるが、零下の温度環境でエアコンを稼働させると電力を大量に消費するので、充電切れまでの時間も短くなり、停電時の熱源としてはおぼつかない。

今回のような自然災害の報に接するにつけ、すべてを電気に頼ることのリスクをあらためて考えさせられる。

有事に備えた「ベースロード電源」の必要性

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2月16日の停電中、積雪で昼間も冷え込むなか、物資を求めてスーパーマーケット前に行列をつくるテキサス州の住民たち(見にくいが写真左側から中央に並ぶ点が行列)。

Wienot Films / Shutterstock.com

それにしても、テキサス州の大停電はなぜ起きたのだろうか。

目下メディアなどでさまざまな原因が報じられているが、ウォール・ストリート・ジャーナル(2月17日付)によれば、テキサス州では全電力に占める風力発電の比率が42%だったが、寒波で発電用タービンの半数が凍結し、比率が8%まで低下。

電力供給を下支えして安定させる役割のはずの(火力発電など)ベースロード電源も、暖房利用による電力需要の急増をカバーすることができなかったという。

日本でほぼ10年前に起きた東日本大震災の際も、福島第一原発の事故などにより電力不足が発生したが、老朽化などの理由で休止していた発電設備を再稼働させ、各家庭や企業に計画停電や節電への協力を求め、何とか急場をしのぐことができた。

政府が2020年10月に宣言した「2050年カーボンニュートラル」を目指して、太陽光発電や風力発電の比率を上げていく必要はあるにせよ、そうした発電装置は天候の変化に脆弱な面があるため、ベースロード電源をどう確保するのかという問題は、あらかじめしっかりと考えておかねばならない。今回のテキサス大停電から学ぶべきはまさにその点だ。

福島第一原発の事故をはじめとする過去の経緯を踏まえると、日本ではベースロード電源に原子力を主とする選択肢は考えにくい

火力発電で発生する二酸化炭素(CO2)をまとめて地下に貯蔵する技術開発(CCS)も進んでいるが、何百年後に地上に噴き出すなどの可能性を完全には否定できず、不安を拭いきれない。

したがって、既存の火力発電設備をほぼそのまま使用できる、カーボンフリーのバイオマスや水素、アンモニア燃料による発電を進めていくのが得策と思える。

カーボンフリーの液体燃料を普及させておくと、緊急時の動力エネルギー・暖房にも転用できるため、有効な備えとなる。エネルギー密度が高く(=熱量比で容積が比較的小さい)、保存や輸送のインフラもすでに整備されているので、普及のハードルも低い。

「EVありき」のゼロ・エミッションの懸念点

冒頭でふれた自動車の話に戻ろう。

ベースロード電源を拡充してもなお、自然災害による停電リスクは考えておかねばならない。自動車の電動化が進んでいくのはもはや既定路線としても、すべてをEVにしてしまったら、テキサス州で起きたような大停電の際には家も車も、すでに書いたように暖房機能も、失われてしまう。

現在の「ゼロ・エミッション」(=温暖化ガス排出量を実質ゼロ化)実現に向けた議論の問題は、自動車分野について「EVありき」になってしまっていることだ。

前回記事で紹介したように、例えばブラジルは電気自動車ではなく、サトウキビの搾りかすを原料とするバイオ燃料(エタノール)を使うことで「カーボンニュートラル」(=燃料としての使用時にCO2排出量に計上されない)を目指している。

国や地域ごとに異なる自然環境や産業構造、競争力、災害対応などを考え、自動車のゼロ・エミッションをどう実現していくべきなのか、個別具体的に検討する必要があると筆者は考える。

日本の場合、世界トップクラスの技術を誇ると断言できるのは、トヨタ、ホンダ、日産がそれぞれ持っているハイブリッド技術だ。ガソリンエンジンと電気モーターを併用し、ブレーキ時には(エンジン動力の一部で)発電機を回してモーター用のバッテリーを充電する仕組み。

日産の車両搭載技術「e-POWER」は、小型ガソリンエンジンを発電機として電気をつくり、モーターのみで100%駆動する仕組みだが、ガソリンとモーターの併用という意味でハイブリッドに含まれる。

日本ではこのハイブリッド技術を通じて、EVに必要な技術はすでに確立されていると考えていい。

EV用バッテリー(車載電池)の品質向上と製造コストの引き下げという課題は残っているが、パナソニックとトヨタの合弁会社であるプライム プラネット エナジー&ソリューションズをはじめ、電池あるいは素材メーカーが技術開発とコスト低減に取り組んでおり、先行する中国・韓国のメーカーに伍していける可能性は十分にある。

「カーボンフリーの燃料」開発が必須

また、原料調達から廃棄・リサイクルまで含めたライフサイクル全体で見ると、火力発電所でつくられた電気を使って充電するEVのCO2総排出量は、現状のハイブリッド車と大差がない

したがって、世界のトップを走るハイブリッド技術を活かし、なおかつエンジンから排出されるCO2をさらに削減できれば、ライフサイクル全体で見たとき、EV以上に環境に優しい自動車を実現できる可能性がある。

エンジンから出るCO2を削減する手法としては、すでにふれたバイオ燃料以外に、最近研究が進んでいる合成液体燃料「e-fuel(イーフューエル)」の使用が有効だ。発電所や工場などから回収したCO2と水素(H2)を合成することで得られ、ガソリンに混ぜることでCO2排出量を減らすことができる。水素社会を目指す日本での実現性は高い。

e-fuelは欧州でも自動車や航空機の燃料として研究が進んでいる。ウォール・ストリート・ジャーナル(2月18日付)は、航空機の燃料は今後、バイオマス燃料とe-fuelの二本柱になっていく可能性が高いと書いている。

自動車のゼロ・エミッションに向けた取り組みを「EVありき」とするのはまだ早い。自然災害の多い日本だからこそ、10年前の東日本大震災や今回のテキサス大停電などを教訓に、有事の対応まで広く視野に入れたゼロ・エミッションと、そのためのロードマップを世界に示していくべきではないか。

(文:土井正己


土井正己(どい・まさみ):国際コンサルティング会社クレアブ代表取締役社長/山形大学客員教授。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒業。2013年までトヨタ自動車で、主に広報、海外宣伝、海外事業体でのトップマネジメントなど経験。グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より国際コンサルティング会社クレアブで、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

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