撮影:鈴木愛子
幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
今回は読者の方からお寄せいただいたご相談にお答えします。「今の会社で給与を下げられる」という男性、転職すべきかどうか悩んでいらっしゃいます。
今の給与額は適正なのか? 市場価値を確かめてみる
まず、「転職する」「転職しない」の最終決断は脇に置いておくとして、試しに転職活動をすることで、ご自身の「市場価値」を確かめてみてはいかがでしょうか。
つまり、今の会社でもらっている給与額が、「人材市場」と照らし合わせて高いのか安いのか、適正なのかを見極めるのです。
私は転職エージェントとして、これまで「仕事内容・スキルに対して年収額が見合っていない」方を多く見てきました。安すぎるケース、高すぎるケース、両方です。
「安すぎる」ケースでは、在籍企業の給与額が一般水準と比べて低く、それより給与水準が高い会社に移ることで、同じ仕事・ポジションでも年収アップを果たすケースがあります。
逆に「高すぎるケース」もあります。この場合、転職活動をした結果、市場価値に対し、これまで「もらい過ぎ」だったと気づくのです。転職によって年収が大幅に下がる現実を知り、「今の会社は恵まれているんだ」と、転職をやめる人もいます。
例えば、ある広告営業の方は、年収1000万円をもらっていましたが、会社の業績悪化で年収が100万円ダウンしたことに不満を抱いて転職活動を開始。候補企業からのオファーは600万円台が中心である現実を知りました。
さて、Aさんの場合はどうなのでしょうか。
今いる会社には優秀な人が多く、相対的に低評価となっているのかもしれませんが、他社では高評価を得られ、年収維持またはアップで迎えられる可能性もあるでしょう。もちろん、逆のケースもあり得ます。
自身の市場価値をつかむには、「ビズリーチ」「キャリアカーバー」などにキャリアと希望年収を登録してスカウトの声がかかるかどうか待ってみる、あるいは転職エージェントに相談するなどの方法があります。そこから始めてみてはいかがでしょうか。
なお、実際に転職活動を始めていろいろな企業を見たり面接を受けたりしていると、「企画職として今の自分に足りないもの」に気づけるかもしれません。
それを強化するための行動を起こす——それは独自での学習かもしれませんし、新たな経験を積める企業への転職かもしれませんが、それによってスキルアップすれば、年収回復やその先の年収アップにつながっていくと思います。
今の会社で評価の回復を目指すには?
Aさんのご相談の中で、気になるワードがあります。
「自分なりに頑張ってはいるものの期待には届いていないようです」
だから、このままこの会社で頑張っても成果を挙げられる自信がない……とのことですが、果たしてそうでしょうか。
もしかすると、これまでの「頑張り方」が間違っていたということはないでしょうか。頑張る方向性が会社の期待からズレている、ということです。
事例を一つご紹介しましょう。
ある営業プレイングマネジャー……つまり自分個人が担当顧客と営業目標を持ちながら、チームマネジメントも行っている方がいらっしゃいました。その方は、個人では高い売上を挙げていたのですが、会社からの評価は自分が期待したより低い。そこで、不満を抱いて部門長に談判されました。その対話によって、部門長は「個人プレーで業績を挙げるより、メンバーを育成・フォローしてチームとしての業績を最大化すること」を求めていたのだと知ったのです。
Aさんももしかすると、ご本人は頑張っているつもりでも、会社の期待からズレていることも考えられます。上司とじっくり話す時間を設けて、自分が何を期待されているのか、どんなパフォーマンスやアウトプットをすれば評価が上がるのか、しっかり確認してみることをお勧めします。思い込みや誤解も意外と多いですから。
減給の理由が、「人事評価制度の刷新」によるものだとしたら、挽回できる可能性は十分あると思います。
「期待しているが、あえて一時的にマイナス評価することで奮起・成長を促したい」という意図が込められていることもありますので、早まって転職するのはお勧めできません。
転職する場合、年収維持できる可能性がある選択肢とは
では、「転職」に踏み切るとしたら、年収維持できる企業をどのように選べばいいのでしょうか。
Aさんは30代後半。一般的に、30代も後半になると、未経験分野への転職のハードルはぐっと上がります。年収を維持したいなら、これまでの経験を活かす方向で探すのが、希望が叶う確率が高くなります。
ここでのポイントは「減給の理由」です。会社の経営状態の悪化が原因である場合、「個社の経営悪化」なのか「業界全体の景況悪化」なのかで、選択肢が変わります。
「個社の悪化」であれば、同業他社への転職によって年収維持できる可能性がありますが、後者の場合は難しいと言えるでしょう。
営業職や管理部門職であれば、業界が変わってもポータブルスキル(コミュニケーション力・交渉力・調整力など)や専門スキルを活かし、即戦力として活躍できる可能性があります。
しかし、Aさんは企画職なのですね。企画職は業界が変わると「商品・サービスの知識がない未経験者」と見なされるため、年収が下がるかもしれません(高度な数値分析力を持つ事業企画・経営企画などはまた別なのですが……)。
撮影:鈴木愛子
同業界・類似業界で企画経験を活かす転職となると、スタートアップや中小ベンチャーなら可能性があります。しかし、これらのフェーズ・規模の企業は給与水準が低め。中堅~大手企業から移るとしたら、大幅な年収ダウンに加え、福利厚生も失われる可能性大と言えます。
しかも、少人数で運営されているため、企画職だけでなく、他の業務の兼務を求められることも。専門外の業務にも臨機応変に対応する覚悟が持てるかどうかが重要です。
もちろん、有望なスタートアップなどであれば、入社時に年収が下がっても、会社の成長に伴い、短期間で元の年収水準に戻せる可能性があります。ただし、それも自分が頑張って成果を挙げることが前提。今の会社でしている努力よりはるかに大きな努力が必要となるでしょう。
……となると、今の会社でさらに努力して評価を上げ、年収回復を狙うほうが早いかもしれませんね。
「年収維持」という観点だけでなく、自分がどんな仕事をして、将来どうなりたいのかも踏まえたうえで選択肢を比較検討することをお勧めします。
「副業」で収入補てん&スキルアップの一石二鳥を狙う手も
減った分の収入を補いたいのであれば、会社を辞めず、終業後や休日の時間を使って副業をするという手もあります。
最近は、企業と副業希望者のマッチングサービスも増えており、スキルを活かせる副業を見つけやすくなっています。
副業に時間を費やすなら、本業で成果を挙げる活動に時間を使ったほうがいい……とも言えますが、副業を通じて新しい知見やスキルを得られることもあります。それが本業に活かされる可能性もありますので、相乗効果を期待できる副業を探してみてはいかがでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第47回は、3月15日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。