過去約1年間の政治家による公的発言の中から、ジェンダー差別やジェンダー格差を容認しているとして見過ごせない問題発言8件を選び、インターネットで投票を募ってワースト1位を決定する試みが始まった。
投票は今回で4回目。過去2回は麻生太郎副総理兼財務相がワースト1位だったが、今回は候補リストから外れている。代わりに多くランクインしたのが地方議員たちだ。
ジェンダー差別、ジェンダー格差の容認にNO!
今年も政治家によるジェンダー問題発言が相次いだ。ワースト1位は誰の手に。
出典:REUTERS、その他本人HPより
投票を実施するのは、三浦まり・上智大学教授らの「公的発言におけるジェンダー差別を許さない会」。
前回のワースト1位に選ばれたのは、「子どもを産まなかったほうが問題」という麻生氏の発言だ。個人のリプロダクティブ・ヘルスライツに踏み込み、かつ、少子化の責任を個人に押し付けて政治家の責任を放棄したものとして批判され、投票総数7593票のうち34%である2588票を占める、ぶっちぎちの結果だった。
ちなみに2位は安倍晋三前首相の選挙応援演説での「お父さんも恋人を誘って、お母さんは昔の恋人を探し出して投票箱に足を運んで」という発言だ。
それでは早速、今年の候補になっている発言と、公的発言におけるジェンダー差別を許さない会による解説を見ていこう。それぞれの発言への関連記事も掲載しているので、ぜひ併せて読んで欲しい。
1、女性の社会進出を牽制
性差別発言への批判を受け、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会⻑を辞任すると発表する森喜朗氏。
Yoshikazu Tsuno/REUTERS
まずは記憶に新しい、東京五輪・パラリンピックに関して。
森喜朗氏(東京五輪・パラリンピック大会組織委員会前会⻑ / 元首相)
「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」「私どもの組織委員会にも女性は7 人くらいおりますが、みんなわきまえておられて」など
この森氏の発言に対抗して、Twitter上では #わきまえない女 というハッシュタグが生まれ、その処遇検討を求める署名は15万7400筆の賛同を集めた。
解説:会議において男性の方が発言時間・回数が⻑いことは研究でも判明している。森氏の発言は意思決定における女性の発言時間や内容を牽制するもので、男女の対等な意思決定への参画を阻害、無効化する意味で性差別発言といえる。
2、セクハラを擁護
竹下亘氏。
REUTERS/Yuya Shino
森氏の東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長辞任を受け、新会長に選任されたのが橋本聖子氏だ。しかし橋本氏は2014年、ソチ冬季五輪閉会式後の打ち上げパーティーで、男性フィギュアスケート選手にキスを強要したと報道されており、女性差別発言で辞任した森氏の後任として適任なのか、批判、懸念する声が上がっていた。
次のノミネートは、そのことについて述べた竹下亘衆院議員(自民党・元総務会長)の発言だ。
「スケート界では男みたいな性格でハグなんて当たり前の世界だ」「セクハラと言われたらかわいそう。セクハラと思ってやっているわけではなく、当たり前の世界である」
竹下氏はその後、事務所を通じて「男勝りと言いたかった」と訂正している。
解説:キスの強要はどんな性格であろうと、「男勝り」であろうとなかろうと、加害側がセクハラと思ってやっていようがいまいが、セクハラであり、当たり前のことではない。それはスポーツの世界でも同じであることが分かっていない。
3、ジェンダーステレオタイプを正当化
Colaboのバスカフェ。議員らの視察が行われた日も、多くの少女たちが訪れていた。
撮影:竹下郁子
他にも、議員自身のセクハラに関連する問題行動や発言もあった。
馳浩元文部科学相(自民党)が会長を務める「自民党ハウジングファースト勉強会」が、10代の少女らを支援する一般社団法人Colaboへの視察を行った際、馳氏が「ちょっとどいて」と言いながら10代のスタッフの後ろを通ろうとし、両手で腰を左右から触るセクハラ行為があったという。
スタッフの少女は性暴力の被害者。触られた時の感覚が消えず、過去の被害について思い出し食欲がなくなり、翌日は布団から起き上がることもできなかったそうだ。
ノミネートしたのは、視察の際、テントの設営に参加した馳氏がテントなど重い荷物を女性に渡さず、若手議員らに運ばせる勝手なふるまいをした際に発した言葉、「女の子だから」。
解説:主催者やその場にいた女性たちの意向を尊重しない自らの言動を、性別ステレオタイプを用いて正当化している。
その後、Colaboは抗議文を掲載。馳氏はセクハラについて、「全く意識に残っていない」とした上で、「心より深くお詫び申し上げます」と謝罪し、安倍首相(当時)も国会で「(議員らを)厳重注意したい」とした。
しかし、Colaboの抗議文や要望書についてはほとんど回答がなく、誠実な対応からはほど遠い。
4、性暴力被害者へのセカンドレイプ
2020年11月11日のフラワーデモにて。
撮影:竹下郁子
セクハラや性暴力被害者への無理解は、これだけではない。自民党の杉田水脈(みお)衆院議員が性暴力被害者への支援をめぐり、「女性はいくらでも嘘をつける」と発言したのだ。
解説:性暴力被害者を二次的に加害する発言。また、女性の訴えを虚偽と見なすことを正当化するにあたり「女性は嘘つき」という偏見を述べており、女性を蔑視する発言でもある。性暴力被害者の訴えは往々に嘘として退けられてきたが、そうした社会の偏見を強化するものである。
杉田氏の発言の謝罪・撤回、及び議員辞職を求めて、性暴力の根絶を目指して花を手に集まるフラワーデモの主催者らが立ち上げた署名には約13万6000筆(当時)が集まったが、自民党はこれを受け取り拒否。
子どもに性加害した教員に対し、教員免許の再交付をやめるよう求めて活動している「全国学校ハラスメント被害者連絡会」のメンバーは、この杉田氏の発言後、「嘘ばかり言ってるんじゃないか」など酷い中傷を受けるようになったという。
5、女性の家事の負担を軽視
松井一郎氏。2019年7月3日撮影。
REUTERS/Issei Kato
スーパーでの新型コロナウィルス感染防止に関しての、松井一郎大阪市長の発言も大きな波紋を呼んだ。
「やっぱり女の人が行くとね、色々商品とか見ながら『これはいい』『あれがいい』と時間がかかる」
「言われたもんだけ買うということになればね、男性の方が早い。スーパーの中にいる時間は非常に短縮できると思います」
解説:普段スーパーに出入りし、必要なもの・買うべきものに心を配り決定をするのは女性であり、男性は普段スーパーに出入りせず女性に言われたものを買うだけという、固定的な性別役割分担を前提に話をしている点が問題。また与えられたリストのものだけを買う場合と、そのようなリストなくその場で主体的に買うものを決定しなければならない場合とでは全く買い物の条件が異なるにもかかわらず、それぞれの「スーパーの滞在時間の⻑さ」を単純比較しているが、そのような軽率さを招いているのは、スーパーで買うものを決める行為の背後に、家庭の在庫や予算や家人の好み等を把握したうえで献立を考える複雑な作業があることへの無理解、つまりはケア責任や家事負担の軽視と思われ、その点も問題である。
日本の女性に、日々の暮らしの中で最も不当に扱われていると感じること、キャリアを阻む壁、男女格差解消の鍵をたずねたところ、全ての答えが「家事分担」であることが、リンクトイン(LinkedIn)ジャパンの最新の調査で分かっている。
また国立社会保障・人口問題研究所の「全国家庭動向調査」(2018年)によると、夫婦の平日の1日の平均家事時間は妻は263分、夫は37分と、約7倍の差がある。
6、同性愛者への差別
白石正輝氏。
出典:足立区議会HP
公的発言におけるジェンダー差別を許さない会によると、今回の投票は地方議員の発言がいくつも候補になっていることが特徴的だという。
「過去の投票キャンペーンを振り返ると、候補のほとんどは国会議員や知事・首長の発言で、地方議員のものは毎回1件あるかどうかでした。これは、前者ほうが後者の発言よりも報道されやすいためであり、地方議員に問題発言がないことを意味しないだろうというのが私たちの受け止めでした。今回、地方議員の問題発言が数多く報道されてワースト候補に入ってきたことは、ジェンダー平等に対する社会的関心が一層高まっていることを示していると思います」(同会)
それでは以下、地方議員の問題発言を見ていこう。まずは東京都・足立区議会定例会の一般質問で、少子高齢社会への対応を問われる中で出たものだ。
白石正輝(足立区議会議員)
「あり得ないことだが、日本人が全部 L(レズビアン)、G(ゲイ)になったら次の世代は一人も生まれない」
「LだってG だって法律に守られているという話になったのでは、足立区は滅んでしまう」
解説:同性愛者が法律によって守られることに強い危機感を持つよう、聴衆を煽る発言。婚姻は子作りだけを目的とする制度かのような誤解を与え、また同性カップルが子どもを育てている現実を否定するものでもある。
7、LGBT差別はないと公言
井上英治氏。
出典:春日部市議会HP
井上英治(春日部市議会議員)
「埼玉県や春日部市は LGBT に関するいじめ相談が過去5年間でゼロ」
「春日部で差別は起きていないのに、そんな時に小学生にレズビアンだとかゲイだとか教える必要あるんですか」
「この請願は差別を解消してほしいと言いながらも、現在ある例えば教育委員会のいじめ相談窓口や法務局の人権相談制度を活用もせず、市内に実際には存在しない差別があると言っています」
「春日部市には(LGBT に対する差別は)存在しないことが明らかになっていま す。請願の理由は存在していないのです」
これは、埼玉県・春日部市議会に市⺠から出された「春日部市におけるパートナーシップの認証制度および性的少数者に関する諸問題への取り組みに関する請願」 に関連した発言だ。
解説:自らが一方的に定義するごく狭い「差別がある状態」にあてはまらないことをもって、「差別は存在しない」「実際には存在しない差別があると言っている」と主張しており、著しい不平等や人権侵害を不適切に肯定する発言。差別される側の人々が声をあげにくい状況にある ことについても思慮を欠いており、人権や差別についての無理解を示している。
8、相手の容姿を勝手にジャッジ
石島茂雄氏。
出典:石島しげおを応援する会HP
石島茂雄(静岡県・伊東市議会議員)
「銀座のクラブのママみたいだね」「地元でこれ言ったら、みんな喜ぶんだぞ」
「(女性にセクハラだと抗議され)なんでもかんでもセクハラって、一体なんなんだよ。じゃあ女とは一言も話せないね」
立憲⺠主党大会の出展ブースに参加していた女性に対する発言。
解説:相手の外見を一方的にジャッジし、その内容を口に出すこと自体、相手への敬意があるのか疑われかねない言動だが、そのような言動をとがめられたのに聞き入れなかったことや、そのような言動がとがめられるなら女性とはコミュニケーションしなくてよいという考え方自体に、一貫して女性への蔑視が示されている。
「この企画を通じ、なぜこれらの発言がジェンダーにかかわる問題であるのかを発信してゆくとともに、政治にかかわる人たちのジェンダー差別発言に対する批判や、そうした発言が繰り返される現状を変えたいという気持ちを『見える化』したいと考えています」( 公的発言におけるジェンダー差別を許さない会)
投票は2021年2月26日〜3月5日まで。詳しくは同会のHPを参照して欲しい。
政治家の差別発言には、社会を、市民を煽動する効果がある。しかし、それを止めることができるのもまた、私たち市民だ。
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(文・竹下郁子)