人間とテクノロジーはどう共生する?暮らし、教育、イノベーション…未来を生きるための考え方とは?

ベルリン発のテックカンファレンスTOA(Tech Open Air)の日本版「TOAワールド・ショーケース2021」が2021年2月15〜16日にオンラインで開催された。

日本各地と欧州から多彩なゲストが集まり、地域コミュニティや教育といった身近なテーマから、産業構造の転換、大企業のイノベーションまで、多様なテーマについて異なる視点から議論が展開された。

これから先の世界は、日本は、私たちの暮らしはどこへ向かうのか。TOAワールド・ショーケース2021のエッセンスを、NEWSCAPE INC. 代表取締役CEO、ブランドアクティビストの小西圭介氏のレポートでお届けする。

産業構造はサーキュラーエコノミー(循環型経済)へと向かう

オンラインでサーキュラーエコノミーについて語る小泉環境相

オンラインでサーキュラーエコノミーについて語る小泉環境相

初日のキーノートセッションには環境相の小泉進次郎氏が登壇し、インフォバーン代表取締役CVOの小林弘人氏と、日本のサーキュラーエコノミーをめぐる課題や取り組みについて議論を交わした。

「環境は成長戦略でもあり、産業政策でもあり、経済成長の中核に据えられるべきものだ。2021年12月にCOP26(国連気候変動枠組み条約締約国会議)があるが、そこで日本が海外に発信するコミュニケーション戦略は、従来の3R(リデュース・リユース・リサイクル)では駄目。サーキュラーエコノミーを前提に語っていかないと届かない」(小泉氏)

日本のサーキュラーエコノミー戦略の中で、小泉氏が注目すべき切り口として挙げたのが、生活者にも身近な「食」と「ファッション」の分野だ

例えば日本の衣料の国内生産比率は低く、98%を輸入に頼っている。そのうち半分が売れ残りの状況だ。一方、フランスは2019年のG7サミットで環境のためのファッション協定を発表し、今後売れ残り衣料の焼却処分を禁止する法律が施行された。

食品ロスも大きな社会問題だ。日本は海外からの食品輸入の割合が非常に高く、食品ロスが少なくなれば資源問題だけでなくCO2削減が進むという。

課題を抱える半面、小泉氏は嬉しい変化の兆しもあると語る。国連の環境計画のアンケートで、気候変動を緊急事態だと思っている人の割合が、日本は世界で3位になったという。実際、国内の地球環境への関心の高さは、2020年7月から実施したレジ袋の有料化にも反映されている。環境省が2020年に実施した「レジ袋チャレンジ」を見ると、1週間以上レジ袋を使わなかったという人が、2020年3月の3割から、同年11月に7割に増加しているのだ。

さらに今国会ではプラスチック資源循環促進法案が提出される。これは日本のプラスチック資源循環戦略をさらに推進するもので、大きなターニングポイントになる可能性がある。

再生可能エネルギーへの転換についても、今後、進めていくべき課題だ。

日本は海外に依存している化石燃料に対し、年間17兆円も支払っている。本来なら地域や国内に回っていく資金が流出している。再生可能エネルギーへの転換は、より自立した国に、サーキュラーな国にしていくスタートだ」(小泉氏)

サーキュラーエコノミーへの転換について、小泉氏はこう力を込めた。

変わる教育「新しい学び」と、テクノロジーの役割は?

TOA教育に関するセッションの様子

次世代の「教育」について考えるセッションの登壇者。画面左から、草本朋子氏(白馬インターナショナルスクール設立準備財団)、竹村詠美氏(FutureEdu & Learn by Creation)、中川綾氏(しなのイエナプランスクール 大日向小学校)。

次世代の「教育」について考えるセッションでは、草本朋子氏(白馬インターナショナルスクール設立準備財団)、中川綾氏(しなのイエナプランスクール 大日向小学校)、竹村詠美氏(FutureEdu & Learn by Creation)が、コロナ禍でオンライン化が進んだ教育環境のなか、フィジカルな場がどういった意味を持つかについて議論を交わした。

どこにいてもオンラインで優良なコンテンツを学べるようになったことは、地域の教育格差を乗り越えるチャンスだ。一方で3人は「リアルな地域に関わることで得られる本物の学び、自分たちが地域に対してインパクトを与えられる学びこそが、価値あるもの」と指摘する。

草本氏は、準備中の白馬インターナショナルスクールで、コロナ禍による学校建設スケジュールの遅れを逆に生かして、地元の古い旅館だった場所を学生寮に転用。1期生の子ども達と住環境を改善したり、カーボンニュートラルな校舎を建てる学校のデザインを一緒に考えるPBL(問題解決型学習)を行なったりしていきたいと語った。

テクノロジー活用による未来の教育に関するセッションでは、教育困難地域に教師を派遣し、子供達の可能性を引き出す教育改革を世界59カ国で進めるTeach For Allのアレックス・ビアード氏が、3つの「危険な思想」を語った。

  1. アダプティブラーニングやAIなどの「機械が問題を解決する」のではないということ。テクノロジーを活用しながら、人間が共同で問題を解決することを学ぶべき。
  2. 学びをユーザーフレンドリーにする、という発想は危険で、ユーザー“アンフレンドリー”にすべきこと。あえて困難を解決するところに本質的な学びがあるから。
  3. Automate Learning(学びの自動化)ではなく、人間の認知や学びを強化すること。人は生まれながらの学習者であり、自動化はむしろ人間の認知能力を下げてしまうということ。

未来の学びは、機械に代替されやすい記憶や効率的な作業ではなく、人間らしい認知や問題発見、リーダーシップなど「人間的な能力の開発」がより重要になっていくはずだ。

不確実な時代、大企業はいかにイノベーションを実現するか?

TOA当日の様子

もう一つ興味深かったのが、イノベーションを生み出す大企業のマネジメントだ。

今回、パナソニックの深田昌則氏(Game Changer Catapult 代表)、ライオンの藤村昌平氏(ビジネスインキュベーション部長)、資生堂の中西裕子氏(R&D戦略部 マネージャー)のセッションも示唆に富むものであった。

コロナ禍で外出が制限するなかでNetflixやYouTubeといったオンラインサービスの利用時間が急激に増えた。こうした環境の変化を受けて家事や暮らしの省力化に注力しているライオンの藤村氏は「時間を生み出せる企業になれるのではないか」と語る。

一方、教育や介護、買い物のように、これまで当たり前に家庭の外に頼ってきた活動が行えなくなり、家庭内でこれらの課題を解決せざる得なくなったことに、新市場の可能性を見出しているのがパナソニックだ。同社は創業当初から、新たに生まれた社会活動や課題を家電で解決することに注力してきた歴史がある。現在は「未来のカデン」をコンセプトに事業開発を進めている。

大企業のイノベーション組織のマネジメント課題について、資生堂でオープンイノベーションを推進する中西氏は「イノベーションのフェーズによって目的やKPIが異なるため、経営幹部との丁寧なコミュニケーションが大事」だという。ライオン藤村氏は、インキュベーション部門のスタッフがその場で意思決定する権限と裁量を持つため「報連(相)」を禁止する、ユーザーのところに行くため20%以上は「社内の仕事」をしないなど、イノベーション組織のカルチャー創造の大事さを語った。

2日目のセッションには、ダイムラーグループのイノベーション組織が独立した1886Venturesのスザンヌ・ハーン氏が登壇した。同社は社内ラボの時代から、Car 2 Go(カーシェア事業)やMercedes Me(OMO型の新業態)など革新的な取り組みを行なってきたが、大企業の組織マネジメントの限界を乗り超えるため外部化したという。

このあたりは日本の大企業と全く同じ状況であることが興味深く、独立したイノベーション組織によるスピードと柔軟性、リーダーシップには学ぶべき点が多いと感じた。

「自分の問い」をどのように見出すのか

TOAが何より大事にしているのが、どのように自分にとっての「問い」と、アクションにつなげるか、という点である。

マーケティング産業に長くいた私が、サーキュラーエコノミーへの転換を考えるなかで再認識した問いが、「絶えず消費者の欲求を生み出し、消費を加速して無限の成長を追求してきたマーケティング産業は、新しい目的を再発明しなければならないのでは?」という点だ。

環境意識が高いと言われていた日本だが、1人当たりのプラスチックゴミ排出量、ゴミの海外輸出量も世界で第2位と、資源リサイクルも国や企業の努力だけでは加速しない。再生型社会の実現にとってもっとも大きな課題である「新たな循環型の消費文化」を、生活者・企業や社会とともに作っていくことは、今後のマーケティングの重要な目的となるべきだ。

あなたにとっての「問い」は何だろうか。


小西圭介:NEWSCAPE INC. 代表取締役/ブランド・アクティビスト:電通にて、大企業からスタートアップなど100社を超えるクライアント、地域や自治体などと、ビジネス成長を加速するブランドづくりを20年以上に渡ってリード。2021年に独立し、株式会社ニュースケイプを設立。 デービッド・A・アーカー(UC Berkeley Haas School名誉教授)が副会長を務める米国プロフェット社(SF)にて、グローバルブランド企業の戦略コンサルティングに従事。同氏とともに日本企業に、経営戦略課題としての「ブランド」を浸透させてきた。 近年はブランド・アクティビストとして、ビジネスが環境や地域・人やコミュニティの社会変化の主導的な役割を果たす、共創型のブランド戦略モデルを提唱・実践している。著書『ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略』(ダイヤモンド社)、訳書に『顧客生涯価値のデータベースマーケティング』(ダイヤモンド社)他。

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