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バイデン「対中包囲網」の行く手阻む「2つの難問」。独自路線のドイツとインドに翻弄されて…

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2020年10月6日、コロナ禍で初めての顔合わせとなった日米豪印4カ国(QUAD)外相協議(協議としては2回目)。日本からは茂木外相(左から2番目)が参加。協議開始前に首相官邸にて、中央が菅首相。

Nicolas Datiche/Pool via REUTERS

アメリカでバイデン新大統領が誕生しておよそ1カ月。同政権は、先進7カ国首脳会議(G7)と日米豪印4カ国(QUAD)外相協議をオンラインで開き、「同盟」再構築に乗り出した。

ここで言う同盟とは、すなわち「対中包囲網」を意味するが、この戦略に懐疑的なドイツとインドが、同盟構築に向けて立ちはだかる「カベ」になろうとしている

足並みの揃わない欧米諸国

バイデン大統領の対中政策は、イデオロギーにまで踏み込んだトランプ前政権の「新冷戦思考」をリセットした。新型コロナや気候変動などの分野では中国と協調する半面、人権問題や知的財産の窃取などの問題については、中国との長期にわたる競争に立ち向かう姿勢を鮮明にした。

いわば是々非々(=公平客観に物事を判断する)のスタンスで、トランプ政権下で使われた「中国ウイルス」「武漢ウイルス」といった呼称を公式に禁止したのも、その一例と言える。

冒頭でふれたように、バイデン政権が進めようとしている「同盟」関係の再構築は、結局のところ中国を包囲する国際的連携であり、一歩踏み込んで言えば、中国を「共通の敵」とする軍事・安全保障戦略にほかならない。

実際、バイデン大統領は2月19日、西側諸国が安全保障について話し合うミュンヘン安全保障会議で、「米欧連携はあらゆる事柄の基礎」「民主主義を防衛しなければならない」と強調し、中国とロシアへの対抗を訴えた。

しかし、欧州は冷戦時代と異なり一枚岩ではない。

イギリスは欧州連合(EU)から離脱し、中国が進めるユーラシア諸国との広域経済圏構想「一帯一路」への対応も、欧州諸国の足並みはそろわない。中国通信機器大手ファーウェイへの対応をめぐっても、イタリアとドイツは(米政府からの)排除要求に同調していない。

中国側も、欧州内の亀裂や温度差に乗じ、着々と手を打ってきた。

とりわけ、2020年12月30日に中国とEUが投資協定の締結に向け大筋合意に達したことは、中国外交の「大勝利」と言っていい。

この直前、アメリカのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、バイデン政権とEUの(対中問題に関する)協議が終わるまで中国との合意を先送りするよう呼びかけていたが、EUはそれを完全に無視した。

メルケル独首相の根深い「対米不信」

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2021年秋で任期切れ、政界を引退する考えを明らかにしているドイツのメルケル首相。

Markus Schreiber/Pool via REUTERS

中国との合意に積極的に動いたのはドイツのメルケル首相だった。ドイツのEU議長国としての任期が2020年末で切れる寸前に、駆け込み的に合意に持ち込んだ形だ。

メルケル氏は民主主義や人権などについてはリベラルな政治家だが、対中政策は経済重視を貫いてきた。

その一方、破天荒なトランプ前大統領に対しては厳しい目を向けてきた。同政権が約1万2000人の駐留米軍をドイツから撤退させる計画を打ち出した際、メルケル氏は「欧州はアメリカとの関係を見直す」との強い警告を放っている。彼女の対米不信は相当根深い。

アメリカ側の警戒感も相応で、在独アメリカ大使館の米国家安全保障局(NSA)職員が2002年から10年間、メルケル氏の携帯電話を盗聴してきた。

英紙フィナンシャル・タイムズ(2021年1月5日付)のコメンテーターは、投資協定締結に向けたドイツの決断は「EUの『戦略的自治』を実践した結果」とみる。さらに「バイデン氏が大統領に選出されても、見方を変えることはなかった」と、ドイツの自律性を強調している。

メルケル氏は今秋引退するが、ドイツ政治に詳しい専門家たちは、誰が後継首相になっても「ドイツが中国との経済関係を重視する姿勢は変わらない」との見方で一致する。

「置き去り」にされるアメリカ

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2020年11月15日にオンラインで開催された「東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)」首脳会合。同協定に日中含む15カ国が署名した。

REUTERS/Kham

中国はアジアでも、アメリカと同盟国との間にクサビを打っている。日本や中国など15カ国による「東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)」協定への署名(2020年11月)がその好例だ。

署名した15カ国の人口と国内総生産(GDP)の合計は、それぞれ世界の3割程度を占める。この巨大な連携協定にアメリカは署名せず、インドは交渉段階で離脱した。

そこに中国が参加した経済的・政治的意味はきわめて大きい。「インド太平洋の統合は、アジアの巨大な自由貿易協定(FTA)を組み込みつつ前進し、アメリカを置き去りにしている」とみる専門家もいる

バイデン大統領は、トランプ前政権時代の2017年に離脱した環太平洋経済連携協定(TPP11)への復帰についても消極的な姿勢で、一方の習近平・中国国家主席はTPP参加を「積極的に考える」と表明している。

対中同盟に懐疑的なインドの存在

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2020年8月15日、首都デリーで独立記念日の閲兵式に望むインドのモディ首相。

REUTERS/Adnan Abidi

バイデン氏は大統領就任後初めてとなる菅義偉首相との電話会談(1月28日)で、「自由で開かれたインド太平洋」という呼称を使っており、現時点ではトランプ前政権の戦略を継承するかのようにみえる。

だが、この発言をもってバイデン政権のアジア政策と断定するのは時期尚早だ。今後、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議などの場で、新名称を冠した自前のアジア政策を打ち出すと筆者はみている。「自由で開かれたインド太平洋」は“つなぎ”だろう

バイデン政権はその後、「自由で開かれたインド太平洋」の中心を担う日米豪印4カ国(QUAD)外相協議(2月18日)を開き、未開催の首脳会合の重要性を確認した。

QUAD最大の問題は、対中同盟に懐疑的なインドのポジションだ。

日印両国は2020年9月、自衛隊とインド軍の間で物品役務相互提供協定(ACSA)に署名。さらに11月には、インド洋における日米印の合同軍事演習「マラバール作戦」にオーストラリアが加わり、QUAD協力にはずみをつけている。

しかし、こうした協力関係の構築だけで、インドが「準同盟国」になったとまで見なすのは早計だろう。

安倍前政権はインドを「世界最大の民主主義国」と持ち上げ、自由や人権をベースとした外交の推進者であるかのように評価してきたが、それは一面の事実にすぎない。

ヒンズー至上主義の与党を率いるインドのモディ首相は、人口の9%を占めイスラム教徒が多い北部ジャム・カシミール州の自治権を2019年に剝奪。さらに、20年以降のコロナ禍でもその権威主義的体質をさらけ出している。

インドの累計感染者数は2月末に1100万人を超え、アメリカに次ぐ世界2位。ロックダウンで人の移動が制限されたため、農業労働力が不足して食糧のサプライチェーンに混乱が生じた。そんななかで農政改革に反対する農民のデモが起こり、ツイッターを通じて支持が拡大。モディ政権は反対派のアカウント凍結を命令した。

そして、内政圧力が強まれば、外に矛盾を転嫁するのは政治の常道だ。

モディ政権はコロナ感染拡大と(2020年に頻発した)中印国境衝突にかこつけ、ショートムービー共有プラットフォーム「TikTok(ティックトック)」など中国製スマホアプリの使用を禁止して「反中ナショナリズム」をあおった。結果として、インド各地に反中デモや中国製品ボイコットが広がっていった。

インドを侮ってはならない

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1月27日、ホワイトハウスで演説するバイデン大統領。

REUTERS/Kevin Lamarque

この状況は、バイデン大統領にとってインドを対中同盟に取り込む好機と映るかもしれない。

ただ、インドの対中姿勢はそう単純ではない。

確かに、インドは中国の「一帯一路」構想不支持の立場を鮮明にしている。宿敵パキスタンとの領有権をめぐる対立が続くカシミール地方で、「一帯一路」に連なる「中国パキスタン経済回廊」計画が進行しているからだ。

一方で、インドは中国主導の「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」設立には参加し、2018年6月にはムンバイで第三次年次総会を開いている。中国は最大の出資国であり、インドは最大の投融資先(=貸付を受けている)国という関係でもある。

また、インドは中国とロシアが主導する「上海協力機構(SCO)」にもパキスタンとともに加盟。ブラジル、ロシア、中国、南アフリカとともに「新興5カ国(BRICS)首脳会議」のメンバーでもあり、インドはアメリカの一極支配に与しない「多極化世界」の担い手としての存在感を放つ側面もある

モディ首相は2018年6月、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で、インドの「戦略的自律性」は不変であると発言し、特定の国を(包囲網の)標的にした「インド太平洋戦略に乗ることはない」と強調している。

インドを侮ってはならない、というのが筆者の基本的な視点だ。「戦略的自律性」を基調に、ときにはヒンズー・ナショナリズムが鎌首をもたげる「帝国」である。すでに書いたように、安倍前首相が言うような「世界最大の民主主義国」としての側面ばかりを見ていては判断を誤りかねない。

バイデン大統領のアジアにおける「同盟再構築」戦略にとって、当面の焦点は、インドが消極的とされるQUAD首脳会議の実現とその成果にある。

インドと中国の国境紛争地域では、2月に(融和に向けた)両国兵力の引き離しが始まっており、インド側は「中国敵視」「中国包囲」とみられかねない外交には慎重な姿勢を見せている。

ドイツの多角的自主外交が「同盟」へのヘッジ戦略であるのと同様、インドの「戦略的自律性」もまたヘッジ戦略の一環であり、そう簡単には手放せないのだ。

(文:岡田充


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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