【単独】スター経営者集団「WEIN」はなぜ信頼崩壊したのか…高岡浩三氏、溝口氏が語る“対立”

溝口勇児氏

WEINグループ創業者の溝口勇児氏。

撮影:伊藤有

FiNC Technologies(以下FiNC)創業者の溝口勇児氏が立ち上げ、本田圭佑氏、元ネスレ日本社長の高岡浩三氏といった経営者、著名な投資家らが参画する、ファンド運営・スタートアップ支援会社WEINグループが9カ月で「崩壊」したことが話題を集めている。

名前自体が看板になるほどの経営者や起業家、著名人、投資家が集まりながら、正式なプレスリリースも出せぬままに、本田、高岡両氏らを含む多くの旧経営陣がグループから「退任」する事態に発展したのはなぜなのか。

キーパーソンである創業者の溝口氏、そして旧経営幹部の一人であった元ネスレ日本社長の高岡浩三氏、および関係者への取材から見えてくるのは、急成長を信条とするスタートアップ企業のガバナンス観をめぐる深刻な対立だった。

溝口氏「ガバナンスが問題だと言うなら具体例を出してくれ」

「僕は真実を伝えたいだけ。ガバナンスが問題だというのなら、何が問題なのかを具体的に言ってほしい。彼ら(旧経営陣)はそこに一生懸命寄りかかっているとしか思えない」

2月26日、単独インタビューで溝口氏はそう主張した。

Business Insider Japanが溝口氏とこの問題で初めて接触したのは2020年の12月後半のこと。「実質的なナンバーツーによる“クーデター”が起こった」と、溝口氏本人が生々しい現状を語った。

このナンバーツーとは、すでに各報道で名前が上がっているWEINグループのWEIN Incubation Group(以下WEIN IG)の現代表であり、元ノーリツ鋼機代表取締役の西本博嗣氏だ。

なお、溝口氏率いるWEINは実質的なホールディングス(持株会社)であり、傘下にWEIN IGと、スタートアップの資金支援をするWEIN Financial Group(以下WEIN FG、当時の代表は岡本彰彦氏)を持つ。

WEINの分裂は、12月1日に実施された経営陣のミーティング(以下、定例会議)に端を発する。

ここで溝口氏は経営陣らから資金の不透明な流れや従業員へのパワハラなどを指摘され(溝口氏はいずれも否定)、経営から一時的に身を引くことを求められる。その後、投資家サイドから関係修復を働きかけられるも、12月末に決裂が決定的となり、2021年2月19日には主要経営陣の退任という結果になった。

溝口勇児氏

WEINグループ創業者の溝口勇児氏。

撮影:伊藤有

定例会議で糾弾された資金問題について、溝口氏はあくまで経営者としての合理的な判断に則ったものであり、さらには社員とのコミュニケーションを担っていた西本氏らにも了承を取っていたと主張する。

パワハラによってパニック障害を患った従業員がいたとの指摘についても、2月26日のインタビューでは改めて「自分はその社員と一度しかミーティングをしていない」と反論した。

なお、2020年12月時点で35人だった従業員数(社員29人、業務委託6人)は、2021年2月時点では20人(社員14人、業務委託6人)になっている。

直接コミュニケーションができない

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WEINが入居する浜松町のシェアオフィス。

共に会社を経営していく中で、経営陣のコミュニケーションがうまくいかないシーンは折に触れてあったようだ。

溝口氏自身も、自身が採用したい人材を西本氏の面接を経ずに採ってしまったこと、あるプロジェクトの発足が事後報告になってしまったことがあったと認める。

2020年8月中には本田圭佑氏と西本氏との電話会議で、西本氏から直接不満を言われたという。

「その後に西本氏と電話して、言いづらいことがあるかもしれないから、僕に対しての敬語をやめてほしい、さん付けをやめてほしい、定例会を毎週やりましょう、などと伝えました」(溝口氏)

決裂が決定的になった2020年12月末以降も何らかの落とし所を探る時間はあったはずだが、関係者への取材を通じても、ビデオ会議も含めて対面コミュニケーションをとった形跡はほとんどない。

溝口氏自身に確認したところでも、旧経営陣とは直接的なコミュニケーションはしておらず、退任や引き継ぎのやり取りはWEINグループCFOの高橋宏治氏や経営管理の担当者らを通じてのみだった、と言う。

高岡浩三氏「主導したのは私」

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Zoomで取材に応じた高岡浩三氏。

溝口氏はあくまで、一連の「首謀者」は、WEIN IG代表の西本氏が起点だ、という認識を取材でも崩さなかった。一方、旧経営陣側(WEINのファンド運営幹部を含む)の見え方はまったく異なるものだ。

キーパーソンの一人、元ネスレ日本社長でWEIN挑戦者0号ファンドに参画した高岡氏は、「(溝口さんとは)全く見ている景色が違うし、ポイントが噛み合わない」とした上で、対立の契機となった「コーポレートガバナンス(企業統治)のチェックを主導したのは自身だ」とインタビューで明らかにした。

高岡氏が溝口氏の経営方針に対して違和感を覚えたのは、前出のWEIN IG代表の西本氏と、WEIN FG代表の岡本氏から、相談を受けた時のことだという。

「僕が一番引っかかったのは、(従業員ではなく)パートナーとして対等にやっていく彼ら(西本氏、岡本氏ら)にお金の流れが見えていなかったこと。僕は経営に入っていないので(認識していなかったが)お金の流れは彼らが当然つかんでいるものと思っていた」

高岡氏の提案で、WEINグループの経理を精査した結果、経営陣が関知していない不透明な金の流れがあった、と高岡氏は言う。

なお溝口氏側は、この指摘に対して、前出の西本氏や本田圭佑氏の代理人である中西武士氏に家賃や報酬の仕組みなどについて話を通していた、と主張している。

論点は「コーポレートガバナンス感覚の違い」

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WEIN挑戦者STUDIOの一角を占める会議室。コロナ禍もあってミーティングはオンライン上で行われることも多かったという。

撮影:西山里緒

高岡氏は、コーポレートガバナンスの感覚に大きな違いがあるため、一緒にビジネスをやっていけない、シンプルにそういう話なのだと明かした。

「(指摘した一連の問題は)法律に触れることではないんです。ただ、ガバナンスというのはそういうものではないでしょう。すると彼は、『法律には違反していない』の一点張りで。そうなると、他のメンバーは一緒にビジネスをやっていけない。だから単純にやめさせてくれ、と」(高岡氏)

高岡氏と溝口氏との出会いは、溝口氏が前職でFiNC代表を務めていた時期に遡る。知人経由で、高岡氏のファンだという溝口氏と知り合い、若手起業家コミュニティーとの付き合いが始まった。

ヘルスケアアプリを運営するFiNCは、2020年1月時点で累計で150億円強を調達するメガベンチャーだが、溝口氏が退任する直前期の2019年1月〜12月時点での業績は約47億円の純損失を計上していた(2020年1月、溝口氏は代表を退任)。

「FiNCは過去に、ガバナンスができていなかったからこそ、長きにわたって(経営に課題を抱えていた)。(WEINで私は)経営そのものには参画しないからこそ、(ファンドに参画するプロの経営者として)かなり高所に立って、ガバナンスだけはしっかり見ておきたかった。こうしてWEINとの関わりがスタートしたわけです」

※高岡氏は、WEINのファンド「WEIN挑戦者0号ファンド」のGP(ジェネラル・パートナー)に参画

しかし、高岡氏が参加していた週1回の「投資委員会(定例会議)」では、高岡氏のアドバイスが聞き入れられないことが、しばしばあったという。

「私の意見を聞いているようで聞いていないところが散見された。自分の意見を押し通そうとする。これはFiNCの時から変わっていないのではないか」

こうした背景があったからこそ、溝口氏のガバナンス観に「危うさ」をそもそも感じていた、と高岡氏は明かす。

倫理的な観点に則って、みんなを納得させて組織を運営することこそが、経営者の力です。

12月1日の会議の場では、我々も、部下も(一連の問題で)非常にギクシャクしているので、一旦経営から降りてほしいと。その間に、こうした状況の説明をしてください、と(伝えたのです)」

「襟を正す機会にしてほしい」

WEIN

高岡氏はスタートアップと大企業とのマッチングをしたいとの思いから「WEIN挑戦者ファンド」に参画した。

画像:WEIN公式サイト

高岡氏のコメントから浮かび上がるのは、元外資系企業経営者としての高岡氏の「コーポレートガバナンス」を重視する姿勢だ。

そもそも高岡氏がWEINに参画した背景には、ネスレ日本社長退任以降、ライフワークとして「スタートアップと大企業の橋渡し」をしたかったことがある、という。

「失われた30年の間、大企業がイノベーションを果たせず、アメリカや中国にどうしようもない差をつけられてしまった。そのことに対する、現在60代から80代の経営者の責任はとてつもなく大きい」(高岡氏)

だからこそ、WEINでは自身の今までの経験を活かし、スタートアップでも特にガバナンスに強い組織を作りたかったと、高岡氏は当初の構想を振り返る。

「例えば、パワハラやセクハラも法廷で争って決めるものじゃない。実際、パワハラで訴えられた側が被害者になる可能性も、ないとは言えない。けれども、訴える方を守る方向で考えていかないと、会社組織のガバナンスとして機能するわけがない」

高岡氏は、お金の問題やパワハラなどのトラブルの種があった、そういった疑義が仲間内から生じた時点で、そもそもガバナンス上の「問題」があると考えるべきだ、とする。

また、投資側で参画した別の関係者の証言では、パワハラの問題、お金の流れの問題など、根拠は積み上げており、溝口氏サイドと対峙できるだけの十分な準備はあると説明する。

一連の指摘に対して、溝口氏は、取材の中で一貫して、旧経営陣側に具体的な証拠の提示を求めると繰り返した。しかし、話し合いの場が持てない以上、話は平行線のままだ。

高岡氏はWEIN経営陣の決裂を振り返りこう語る。

「(12月1日から)3カ月、すったもんだでやっとここまで来た。僕からすると子どもの喧嘩みたいなもので、全くお恥ずかしい」

「WEINは、溝口さんには申し訳ないが一旦ストップして、(このような状況を)皆さんに見てもらって、襟を正す機会にしてほしい。多くの頑張っている起業家に、悪い影響を与えるようなことは避けたい。それが(今回の決裂に至った)一番の想いです」

変わる「スタートアップのガバナンス」観

横断歩道

この分裂騒動は、スタートアップのガバナンス観を見直す一助となるのか。

撮影:今村拓馬

両者の言い分は、なぜここまでズレるのか。

本来は、ここまで決裂する以前に社内で解決できた問題にも思えるが、経営陣同士の根本的な信頼関係が揺らいでしまった今となっては、それも難しくなってしまった。

著名経営者らが数カ月の時間を経ても和解できなかった理由として考えられるのは、旧経営陣と、溝口氏との“ガバナンスの常識”があまりにすれ違ってしまっていたからではないだろうか。

創業まもないスタートアップにどこまでのガバナンスを求める必要があるのか、という議論はこれまでにもあった。しかしここ1〜2年は、スタートアップのガバナンスに関わる問題が急速に問題視されるようになっているのも確かだ。

2020年末、恵比寿のラウンジで女性がテキーラ一気飲み直後に死亡した問題において、同席したスタートアップ起業家の倫理観が批判されたことは記憶に新しい。

急成長を目指すスタートアップという建前で、ある種、見過ごされてきた「(大企業と比較した時の)ガバナンスの甘さ」への風向きが、ここ数年で変わってきている。

一方で今回の件に関していえば、ガバナンス上の問題提起から決裂までの時間が、なぜここまで早かったのかという疑問は残る。

WEINでPR担当を務める瀧本裕子氏は、この3カ月の出来事をこう語った。

「ガバナンスの問題は(溝口氏個人だけの)話ではなくて、会社の話。経営陣にとっては他人事ではないはず。11月に新会社※ができて、これからそういうルールを作ろうという段階だったのに、なぜ?というのが正直な気持ちです」

※WEIN Incubation Group、WEIN Financial Groupのこと

(取材・文、伊藤有、西山里緒)

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