撮影:今村拓馬
リモートワーク前提社会でビジネス街の「オフィス」という存在はどう変わっていくのか。このほど事業用不動産大手CBREが取りまとめたレポート「コロナ禍で加速するオフィスの再評価」(調査期間2020年10月〜11月)の各種データは、コロナ収束後のオフィスのあり方と、リモートワークの課題を改めてあぶり出す興味深いものになっている。
「変わるものと変わらないもの」、そしてコロナ下以降も続きそうなオフィス物件の機能に関する、働き方のトレンドが見えてくる。
「テレワークで仕事はできる」=オフィス不要、ではない?
調査対象企業の業種別の比率。n=228で、内訳は東京165件、地方都市63件。
出典:CBRE「オフィス利用に関するテナント意識調査(2020年10〜11月調査)
リモートワーク前提社会において、オフィス使用面積の見直しの影響を最も受けやすい地域は、多くの人の想像どおり首都圏だ。
地価を反映した高いオフィス賃料の問題に加えて、実際の感染拡大の影響が大きいことが影響している。この調査でも、「全席数の75%の稼働率」だったオフィスは、23区が28%にとどまったのに対して、地方都市では42%と、14ポイントもの差があった。
つまり、リモートワーク影響の最前線である23区のオフィス戦略担当者の回答に着目すれば、これからのオフィス設計や、その働き方が見えてくるということになる。
出典:CBRE「オフィス利用に関するテナント意識調査(2020年10〜11月調査)
ここで取り上げたいのは「32%」と「-1.8%」という2つの数字だ。
前者は23区の賃貸ビル入居企業のうち「オフィスを減床予定」と答えた企業の比率。
後者は回答企業のオフィス使用面積から、稼働床面積へのインパクトを推計し、2020年10月時点の稼働面積に比べてどのくらい「実需が減少」するかを計算した数字だ。
出典:CBRE「オフィス利用に関するテナント意識調査(2020年10〜11月調査)
32%の企業がオフィスを減床させようとしているのは、かなり多い数字に見える。
ただ、オフィスマーケットに対する実際の需要減少に換算すると、1.8%減程度の影響しかない、という。
出典:CBRE「オフィス利用に関するテナント意識調査(2020年10〜11月調査)
つまりはCBREの顧客企業に多いだろう中堅・大企業向けオフィス需要は、大した影響を受けないことになる。なぜ、大幅なオフィス削減には向かわないのか? そこにはリモートワーク慣れしてきたからこそ見えてきた課題が関係しているようだ。
理由:リモートワーク慣れでコミュニケーションの課題が増加
なぜ、リモートワークが進んでも、実際のオフィス需要はあまり減らないのか? CBREの調査では、リモートワーク独特の課題が日を追うごとに認識されはじめた様子があらわれている。
出典:CBRE「オフィス利用に関するテナント意識調査(2020年10〜11月調査)
1回目の緊急事態宣言下にあたる2020年5月の調査と今回の10月の調査を比べると、「従業員同士のコミュニケーション」「部下・チームマネジメント」などの課題感が急増している。
もちろん、リモートワークには、通勤に伴う負担の軽減やワークライフバランスが向上するなど、さまざまなメリットがある。一方で、「リモートワークだけですべての仕事が完結できる」ほどには、日本の働き方をめぐる環境と意識は、アップデートされていない……ということかもしれない。
同レポートでは、上で急増しているような課題解決のための有効な手段として、「オフィス」という機能が改めて再評価されている……と分析している。
出典:CBRE「オフィス利用に関するテナント意識調査(2020年10〜11月調査)
「社内コミュニケーション・コラボレーション」「組織・チームの一体感の醸成の場」などの点でオフィスという場の存在が高く評価されている。これはつまり、今後のオフィス設計が、こうしたコミュニケーション機能を満たすものとして考えられていくということだ。
一方で、ただ「机を並べて働く」場所というのは、シェアオフィスや在宅勤務など別の形に吸収されていくはずだ。
なお、レポートの後半にある、現時点のオフィスの形態と、今後の予定を比較した以下グラフも一読の価値がある。各企業のオフィス戦略担当が直面している「リモートワークを前提とした職場環境の変化」を如実に反映しているからだ。
出典:CBRE「オフィス利用に関するテナント意識調査(2020年10〜11月調査)
東京、地方都市をとわない2020年10月時点の調査では、64%の企業がいまだ「全部固定席」だと回答している。一方、今後も固定席のままであり続けると回答した企業は半数以下の27%にすぎない。
多くの企業が、フリーアドレス型を取り入れていくことになれば、書類作業やITツールの導入などの身近な業務のDXにも影響があると考えられる。
(文・伊藤有)