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JR東日本&三菱地所、若手JV社長2人が語る「オープンイノベーションのリアル」

Japan Open Innovation Fes 2020→21「The Real ~合弁会社社長に聞く!オープンイノベーションのリアル~」

出典:Japan Open Innovation Fes 2020→21「The Real ~合弁会社社長に聞く!オープンイノベーションのリアル~」

企業が自社内や社外のパートナーと手を組み、それぞれが持つ技術を組み合わせて新たな価値を創造しイノベーションを加速する「オープンイノベーション」の取り組み。

大企業と他業界の企業がジョイントベンチャー(JV、合弁会社)を設立するケースは、取り組みをビジネスに昇華するための通過点の1つだ。

2月26日に開催された「JapanOpenInnovationFes 2020→21」セッションに登壇したTOUCH TO GO代表の阿久津智紀氏とspacemotion代表の石井謙一郎氏は、いずれも大企業系ジョイントベンチャーの経営者だ。二人の言葉から大企業系ジョイントベンチャーの意義を聞く。

スピード感を持って事業を実現するため合弁会社を設立

無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」

高輪ゲートウェイ駅構内にある無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」。そのほか、非対面決済技術を活用した無人オーダー端末「TTG-MONSTAR」など複数のソリューションを実店舗で展開している。

撮影:平澤寿康

阿久津氏が経営するTOUCH TO GOは、小売店での無人決済システムを開発している。その礎となったのが、JR東日本スタートアップ社とサインポスト社による2017年にスタートした実証だった。画像技術を使った無人店舗運営を通じて、「そもそも、本当に(無人店舗の運営が)できるのか、といったところからのスタート」(阿久津氏)だったため、ジョイントベンチャーの設立といった目標は全くなかったという。

実証によって無人店舗の実現が十分に可能と判断し、2019年に双方が出資する形でTOUCH TO GO社を設立。JR山手線高輪ゲートウェイ駅構内で営業する無人決済店舗はその成果の1つだ。

Japan Open Innovation Fes 2020→21「The Real ~合弁会社社長に聞く!オープンイノベーションのリアル~」

TOUCH TO GO代表の阿久津智紀氏。

出典:Japan Open Innovation Fes 2020→21「The Real ~合弁会社社長に聞く!オープンイノベーションのリアル~」

一方の石井氏が経営するspacemotion社は、エレベーター内部のモニターを活用した広告事業を展開する。石井氏が所属するもう一社、三菱地所と、オープンイノベーションパートナーである株式会社東京の共同出資により設立された企業だ。

spacemotion「エレシネマ」

spacemotionが手掛ける、エレベーター内デジタルメディア「エレシネマ」。室内に設置した小型プロジェクターでドア面の空きスペースをデジタルサイネージの一種として使う。

出典:フロンティアハウス社2021年2月のプレスリリースより

spacemotion設立前、石井氏は所属する三菱地所株式会社で2017年頃から、DXの取り組みの一貫として社内の新規事業に向けた調査を進めていた。その中で、「エレベーター内広告が中国で盛り上がっている」という情報を知り、事業検証に向けた計画を立てるとともに、パートナーにプレゼンを行ったところ、その分野に精通した東大生(現spacemotion副社長の羅悠鴻氏)を紹介されたことが、ジョイントベンチャーの設立の第一歩になったという。

Japan Open Innovation Fes 2020→21「The Real ~合弁会社社長に聞く!オープンイノベーションのリアル~」

三菱地所DX推進部主事 兼 spacemotion代表の石井謙一郎氏。

出典:Japan Open Innovation Fes 2020→21「The Real ~合弁会社社長に聞く!オープンイノベーションのリアル~」

阿久津氏、石井氏ともに大企業出身者。ふたりがオープンイノベーションを経てジョイントベンチャー設立の企業側の狙いとして挙げたのが「立ち上げのスピード」だった。

TOUCH TO GOが手がける無人決済システムは先行投資型の事業だが、外部の大手企業と組むには本来、かなりの時間や労力を必要とする。ジョイントベンチャーを設立することで、JR東日本スタートアップとサインポストそれぞれの強みを掛け合わせ、また実行のスピードも速くなる、と考えた。

一方のspacemotionが手がけるエレベーター内広告に関しても、事情は近い。この事業ではエレベーター内へ動画データなどを配信するための通信ネットワーク構築が不可欠だが、合弁パートナーの株式会社東京がエレベーター内ネットワーク技術を長年研究している。三菱地所単独で挑むより合理的だという理由から、ジョイントベンチャー設立に至ったとする。

JV設立が目的になってはいけない

ジョイントベンチャー設立にあたり、、TOUCH TO GOは半年ほど、spacemotionではわずか2カ月ほどの短期間で設立した。

両名のコメントで印象深いのは、「合弁会社の設立が目的になってはいけない」と口を揃えていたことだ。

「そもそも、何かをやりたい、何かを解決したいという手段がオープンイノベーションであり合弁会社。そこが目的になると見誤ることになる」(阿久津氏)


「合弁会社やオープンイノベーション、ジョイントベンチャーといった言葉が近年キャッチーだが、それありきで考えるのは危険。経営戦略をたて、目指すべきゴールから逆算して必要な手法が合弁会社だった、というのが正解の道筋だ」(石井氏)

Japan Open Innovation Fes 2020→21「The Real ~合弁会社社長に聞く!オープンイノベーションのリアル~」

ジョイントベンチャーの設立の苦労やメリットを語りつつ、合弁会社の設立が目的になってはいけないと強調する阿久津氏(左)と石井氏(右)。

出典:Japan Open Innovation Fes 2020→21「The Real ~合弁会社社長に聞く!オープンイノベーションのリアル~」

設立にあたっては、それぞれ独特の苦労もあったという。

阿久津氏によると、TOUCH TO GOの設立にあたっては、JR東日本のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)からの出資を受けていることから、本来、JR東日本の意志決定は不要という規定にはなっていた。

ただし、リスクの高い事業であるため、取締役会と同等のルートで説明を進めた。

その過程では、実証実験で得られた内容をベースに、指摘を受ける可能性のある部分を徹底的に対処した事業計画を作成する必要があり、ここに苦労があったとする。JR東日本にはさまざまな「プロ」が揃っているため、プロからの指摘にきちんと回答する必要があるからだ。

spacemotionの設立にあたっては、石井氏が「パワープレイ」と呼ぶ通常の枠組みから外れる手法を利用したそうだ。

例えば、事業計画を社長に積極的に掛け合ったり、当時の担当役員に中国の現場や合弁パートナーとも引き合わせることで、合弁会社化を後押しする空気を醸成し、約2カ月という短期間での設立した。

石井氏は、「合弁(会社の設立)だから、という苦労はなかった」と答えていたが、設立前の実証実験や、国内では未成熟なエレベーター内広告の市場調査などにはかなり労力を割いたと言い、新規事業立ち上げ独特の苦労はやはりある。

両社とも将来の上場を目指す

阿久津氏は、当初よりTOUCH TO GOは将来的にカーブアウト(母体企業からの独立)させる計画だったとのことで、今後は外部の資本比率を高め、3年後には(無人店舗を)最低でも100店舗作る予定。また、2023~24年頃の上場を目指しているという。

そのうえで、JR東日本の資本比率を高めるといったことはせずに、システム導入を進められる外部の事業者と組んでいき、「無人決済システムが求められる時代になった時には圧倒的なソリューションとして世の中を変えられるようになりたい」(阿久津氏)と語った。

石井氏は、短期的にはエレベーター内広告という市場をいち早く獲得することに注力するとともに、国内での設置台数を現在の100台程度から2021年度内に1000台規模に持っていきたい、とした。

合わせて、spacemotionの顧客は、親会社である三菱地所から見ると競合となる企業も対象となるため、三菱地所の力を借り続けることは得策ではないとし、競合企業やエレベーター会社などからの資本注入の可能性もシナリオにはあるという。

将来の上場については、「上場した場合には、親会社である三菱地所と同等の時価総額を目指したい」と強気のコメントしていた。

(文・平澤寿康)

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