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【フィッシャーマン・ジャパン・阿部勝太1】東日本大震災を機に水産業を「カッコよく稼げて革新的な」職業に

阿部翔太_フィッシャーマンジャパン

サイトのトップにはミュージックビデオのような動画が現れる。船を操り、三陸の特産品であるホヤや魚を獲り、牡蠣を剥く。笑顔の男たちはお世辞抜きで、カッコいい。「PHILOSOPHY」の文字の後には、「Fishermen, be ambitious!(フィッシャーマンたちよ、大志を抱け!)」と続く。

「漁師にも仕事をしているときの何気ないカッコよさはあるのですが、それでは伝わらないと思って、わざとらしいぐらいにカッコよく見せようとホームページにはこだわったんです」

サイトの主、一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン(FJ)の代表理事、阿部勝太(35)は狙いをそう話す。

フィッシャーマン・ジャパン

公式サイトを訪れてまず驚くのがスタイリッシュなコンセプトムービーだ。

フィッシャーマン・ジャパン公式サイト

東日本大震災で家も職場も失った

阿部は宮城県石巻市で3代続くワカメ漁師だ。自ら望んで家業を継いだものの、すぐに朝3時から夜まで働いても安定して「稼げない」水産業の現実に直面した。

厳しい現実は、どの漁師にも共通する。だから子ども世代は後を継がず、担い手は減る一方だ。平成の30年で、日本で水産業に従事する人たちは約6割減り、現在約15万人。そのうち65歳以上が4割を占める。獲る人が減れば当然漁獲量も減る。世界の漁業生産量はこの30年で2倍になる一方で、日本は半分にまで減り、かつて世界1位だった生産量は8位にまで落ち込んだ。

東日本大震災

石巻市は東日本大震災の津波で甚大な被害が出た。津波による死者は3000人以上、今も行方が分からない人が400人以上もいる。

Yuriko Nakao / REUTERS

三陸の漁師たちにとって、そんな厳しい現実に追い討ちをかけたのが、2011年の東日本大震災だった。阿部も家や船、ワカメを加工する工場、すべてを失った。漁業を続けることを諦める仲間もいたが、阿部はどうしても海で働くことを諦められなかった。むしろ震災前から抱えていた課題を解決しようと火がついた。

「ただ復興させるだけでなく、どうせやるなら漁業をカッコよく、面白い職業に変えていきたい」

もともと漁師の多くは個人事業主で、他の人と一緒に取り組むという発想すらなかった。

「なんなら、みんなライバル、という感覚だったんで。でも、震災で受けた被害や課題はどの浜でも共通していたし、みんなでやった方が進むこともあるから、最初はとにかくやってみよう、ぐらいの意識でした」

2週間に1度、同じような思いを持った仲間たちで集まっているうちに、実は課題は震災前からすでにあったものばかりだったと気づいた。課題がありすぎて、何から手をつければいいか分からないほどだった。

海外では盛り上がる漁業、低い日本の生産性

阿部翔太_フィッシャーマンジャパン

同じ志を持った漁師や鮮魚店らと、水産業を「カッコよく、稼げて、革新的=新3Kな仕事にする」を掲げて、FJを設立したのは2014年のことだ。新しく担い手を増やし、販路を開拓し、労働環境を整える。FJの活動については明日公開する2回目で詳述するが、阿部らが目指すのは、「次世代の水産業の形」だ。

日本で魚食の摂取量が肉食に抜かれたのは2006年。人口減少によるマーケットの縮小は食に関わる全産業で抱える危機だが、加えて「魚を食べる」という文化の衰退も著しい。

「日本では食の欧米化で魚をどんどん食べなくなっているんですが、海外を見ると逆なんです。健康志向、環境志向から魚をより食べるようになっている。欧米では漁業は盛り上がっていて、外貨を稼げる産業として国策で育成しようとしている国もあるんです」(阿部)

畜産産業が環境に与える負荷が指摘され、気候変動問題への関心の高まりから魚食は改めて見直されている。それに呼応するように漁獲量も伸びているのは前述した通りだ。日本の漁業の低迷は担い手不足に加えて、1人当たりの生産性の低さにも起因する。

農林水産省が発表している国際比較を見ると、アイスランドやノルウェー、ニュージーランドなど漁業先進国に比べ、日本の1人、1隻あたりの生産量は著しく低い。漁業が「稼げない」のは、産業としてアップデートされていないからで、やり方次第では産業として可能性もあるということだ。

海外からの指摘に「ただ恥ずかしかった」

フィッシャーマン・ジャパン公式サイト

サイトは英語での表記が先に来る。世界に向けて活動を発信したいという思いがあるからだ。

フィッシャーマン・ジャパン公式サイト

冒頭で紹介したサイトは日英併記になっており、メンバーの略歴に至る細かいところまですべて英語表記が付いている。これは阿部たちなりの「意思表明」でもある。

FJを立ち上げてまもない頃、阿部はあるアメリカの魚市場で働く日本人からこう言われた。

「自国で獲れる魚や海産物は、その国の財産なのに、日本は粗末にしている」

安く買い叩かれたり、廃棄されたりしている現実を指摘され、阿部は「ただ恥ずかしかった」という。当時、日本ではまだフードロスや産地で廃棄する産地ロスという問題もそれほどクローズアップされていなかった。

「だから、僕らは海外に日本の漁業を出しても恥ずかしくないものにして、新しい水産業の形を世界に発信していこうと思っているんです」

ヤフー社員・元商社社員など25人が参加

フィッシャーマンジャパン

漁師などのもともと水産業に関わっている人たちだけでなく、ヤフー社員や小売り・商社出身者など多様な人間が集まっている。

提供:フィッシャーマン・ジャパン

復興復旧から課題解決、そして「未来」に目を転じられたのは、FJの事務局長を務める長谷川琢也(43)との出会いも大きい。長谷川は震災直後からボランティアとして被災地で活動し、その後ヤフーの復興支援室を石巻に設立、今までヤフー社員としても復興に携わってきた。

FJは長谷川のように地元以外の多様な人たちを巻き込んだことで、ずっと「海」しか見ていなかった漁師たちの目を「陸」と「未来」に転じさせた。当初13人のメンバーは、ITエンジニアや元商社社員なども加わり25人までになった。

未来にこの職業を残していくこと、日本の海産物を未来の子どもたちが食べられるようにすること。山積する課題の中から、限られたマンパワーで何ができるのか。阿部らが最初に手をつけたのが「担い手を増やす」ことだった。漁師だけでなく、海産物の流通や販売など関わる人、長谷川のような地元以外でも水産業に関わる人をすべて「フィッシャーマン」と呼び、10年で新たに1000人増やす。そのための活動を次回から紹介していく。

(敬称略、明日に続く)

(文・浜田敬子、写真・伊藤圭、デザイン・星野美緒)

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