Zoom(ズーム)は3月1日、2021会計年度第4四半期決算を発表した。その業績は目覚ましいもので、同社の株価は時間外取引において11%という急上昇を見せた。同社の来期見通しでは、成長はパンデミック後もひきつづき加速するとしている。
通期売上高は前年比326%
Zoomの第4四半期売上高は、アナリスト予測を上回る8億8250万ドル(約882億5000万円)となり、前年同期比369%と大幅に上昇した。同四半期の一株当たり利益もアナリスト予測を超え、1.22ドル(約122円)となった。通期売上高は26億5000万ドル(約2650億円)となり、前年比326%の上昇を達成した。
来期(2022会計年度)の売上高は、37億6000万〜37億8000万ドル(約3760〜3780億円)の範囲になるとの見通しもあわせて示された。来期にかけての成長率は41%と見込んでおり、今回の326%成長には遠く及ばないものの、コロナ前の年間売上高6億2270万ドル(約622億7000万円)と比べると大幅な成長となる。
DAデビッドソンのアナリストであるリシ・ジャルリアはInsiderの取材に対し、「(Zoomへの)追い風は極めて継続性の高いものだ」と述べた。
Zoomは、オンライン会議の需要は減退しないと予想している。多くの企業が、永続的にリモートワークや従業員の柔軟な働き方を取り入れるからだ。
Zoomのエリック・ユアンCEO。
REUTERS/Carlo Allegri
Zoomのエリック・ユアンCEOは、アナリスト向けの電話会見で次のように述べた。
「世界がパンデミックから回復へと向かう中、当社の仕事はまだ始まったばかりです。企業が安全を確保しながら社員をオフィスに戻しはじめ、働き方を再考している今、Zoomが果たす役割は大きい。サービスと製品のポートフォリオをさらに拡充することで、企業変革をリードしていきます」
Zoomはオンライン会議ツールとして知られているが、他にもクラウド電話サービス、会議室システム・テクノロジー、さらに最近リリースされたイベント・プラットフォームと、周辺事業を拡大させている。
同社はこうした事業が成長を牽引すると見ている。さらに、オーガニックな成長とM&Aを通じて、新たな市場への進出も視野に入れている。
Zoomの成長を牽引する新製品群
同社発表によると、Zoomが2年前にリリースしたクラウド電話システムZoom Phoneのユーザー数は、第4四半期中に100万人に達したという。
ユアンCEOは、Zoom Phoneが南カリフォルニア大学やエクイニクスなどの法人顧客を獲得してきた成果を強調。既存顧客に対する新製品のアップセルが奏功しているとして、次のように語った。
「法人顧客は、従来の電話システムをZoomに置き換えることを選択しています。使いやすく一体化した当社の高品質製品を既に利用してきた経験が、プラスに働いているのです」
Zoomのケリー・ステックルバーグCFOによると、Zoom Phoneには今後「大きな」機会があるという。市場そのものが拡大すると見込まれるからだ。
Zoomの法人顧客のうち10人超の従業員を抱える企業は46万7000社あり、そのうち10万700社は既にZoom Phoneを導入したという。
ジャルリアによると、Zoom Phoneはハイブリッドな働き方を可能にすることから、企業がオフィスを再開したとしてもさらに成長が期待できるという。
同社の会議室システムZoom Roomsも成長中だ。ユアンCEOによると、数人がオフィスにいて、他の人はリモートで参加するハイブリッドな会議が、Zoom Roomsを利用することでスムーズに運営できるという。
Zoomの持続的成長を可能にする戦略
ステックルバーグによると、Zoomは成長を続けるために、2022会計年度は営業と技術チームの拡大を計画しているという。リモートワークによって、どこからでも人材を採用できるようになったことから、同社のタレントプールは大幅に広がっている。
ステックルバーグは、「当社は、世界中から場所を問わず最高の人材を採用する計画です」と語った。
アナリストが注目するのは、包括的なコミュニケーション・プラットフォームの実現に向けてZoomがどのような戦略を描くかだ。自社開発やM&Aによって、Eメールやカレンダー機能の導入、チャット製品の改良などが考えられる。
特に、2021年1月に新株発行によって調達した17億5000万ドル(約1750億円)を含め、Zoomには42億ドル(約4200億円)という潤沢なキャッシュがある。ステックルバーグは、その一部は新たなデータセンターへの投資にも充てるが、M&A投資も検討しているとして、次のように話した。
「人材や技術を拡充するため、M&Aの対象となる興味深い企業を常に探しています。エリックが求める高い基準を満たす企業は、なかなか見つかりませんが」
IT企業調査会社ニュークリアス・リサーチのアナリスト、トレバー・ホワイトは、まさにそうした適切な買収先を見つけることが、Zoomがマイクロソフトやグーグルといった巨大IT企業と渡り合うためのカギになると言う。こうした巨大企業は、包括的な生産性向上システムと一体化したオンライン会議ツールを提供している。Insiderの取材に対し、ホワイトは次のように述べる。
「グーグルなどの競合他社が無料もしくは低料金で多くのサービスを提供しています。当社の調査の中でも、特に小規模な企業からは、必ずしもZoomを利用する必要性はなく、切り替えることも十分あり得る、との意見が聞かれました」
調査会社ヴァルワールのアナリスト、レベッカ・ウェッタマンによると、特にマイクロソフトは、同社製オンライン会議プラットフォームTeamsへの投資を増加させているという。
ウェッタマンはInsiderの取材に答え、「Zoomは、(Teamsがそうしたように)人事や顧客サービスといった他の業務フローに組み込まれやすくする」ことが重要だと強調した。
ジャルリアは、Zoomもこうした戦略を考えていると思われるが、手を広げる前に、オンライン会議とクラウド電話ツールによって得られる機会の最大化に注力するだろう、と語った。
「(Zoomは)ふさわしいM&A対象が現れるのを待っています。同時に、買収の成果を最大化するためのリソースや人材を十分に準備することも必要だと考えています」
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)
[原文:Zoom just showed Wall Street that it can still boom even as life gets closer to normal]