新生Zホールディングスの代表取締役社長Co-CEOである川邊健太郎氏(写真左)と代表取締役Co-CEOの出澤剛氏。両者が着けているヤフーLINE両ブランドの色をあしらったネクタイは特注品である。
撮影:小林優多郎
3月1日、ヤフーを傘下に持つZホールディングス(以下、ZHD)とLINEが経営統合し、新生Zホールディングス誕生した。
同日から決済サービス「PayPay」を中心としたキャンペーンや、LINEアプリ内のサービス一覧上にヤフー系サービスが表示されるなど両社の統合の盛り上がりは、一般消費者であっても肌で感じているだろう。
経営統合後、LINEアプリのサービス一覧ページには、ヤフー系サービスが並んだ。
撮影:小林優多郎
3月1日の記者説明会で代表取締役社長Co-CEOの川邊健太郎氏は、2023年度の経営目標に売上収益2兆円、営業利益2250億円を掲げた(2019年度の連結決算は売上収益1兆529億円、営業利益は1522億円だった)。
それぞれ2倍弱の成長を狙うことになるが、そのカギは何か。ユーザーの暮らしと密接に関わる「決済」「銀行」「EC」の3点でまとめてみよう。
1. LINE Payの「PayPay化」は現時点では誤解
国内のLINE Payのコード決済はPayPayに統合される。
撮影:小林優多郎
会見の中で最もセンセーショナルだった話題は決済サービスに関する分野だ。既報のとおり、ZHDはLINE内のコード決済事業を2022年4月にPayPayへ統合するための協議を始めた。
確かに、スマホ決済の“顔”でもあるコード決済がLINE PayではなくPayPayにまとまることは、統合での象徴的な出来事だ。「超PayPay祭」など3月1日からはじまった統合を記念した還元キャンペーンは、ほとんどPayPayでのキャッシュバック施策だ。
LINE Payのすべての機能がPayPayになるわけでは、現時点ではない。
撮影:小林優多郎
一方で、決済サービスとしてのLINE PayとPayPayは、これまで全く異なる進化を辿ってきた。
PayPayはコード決済のその周辺機能の拡張、2020年12月末時点で286万カ所を超える加盟店の開拓に腐心してきた。
LINE Payは紆余曲折あったが、三井住友カードとの協業によって「Visa LINE Payカード」を提供したり、非接触決済機能のApple Pay/Google Payに対応したりなど、コード決済以外でも利用機会が増えるように開発されてきた。
そのため、クレジットカードや非接触決済機能がまるまるPayPayブランドになるわけではない。PayPay自身も子会社のワイジェイカード発行「ヤフーカード」を「PayPayカード」にリニューアルするなど、独自施策を発表している。
2021年4月からPayPay加盟店の一部ではLINE Payが使えるようになる。
出典:PayPay/LINE Pay
また、会見でも触れられたが、台湾やタイなどではすでにLINE Payが浸透している地域もある。こうした地域ではコード決済としてLINE Payが今後も存続する。
2021年4月には、第1段階としてPayPayのユーザースキャン型(客側がコードを読み込み支払う形式)QRコード採用加盟店でLINE Payが使えるようになる。現LINE Payユーザーとしては、利用できる店舗が一気に拡大する。
2.「LINE Bank構想」は継続、2022年度開業へ
2018年11月に発表された「LINE Bank構想」。
撮影:小林優多郎
FinTech分野では、銀行業についても言及があった。
ZHD内には既に三井住友銀行とZ Financialの共同出資の「ジャパンネット銀行」(4月15日からPayPay銀行)があるが、LINE Financialとみずほ銀行が関わるLINE Bank構想も継続して2022年度中の開業を目指す方針だ。
銀行業のライセンスを取るコストは非常に大きいが、LINEは統合前の2月22日にも継続して開業に向け準備を進めているとリリースを出している。LINE Financialとみずほ銀行は合計120億円の追加出資を発表している。
経営統合に関する記者会見で、質疑応答に登壇した川邊健太郎氏。
撮影:小林優多郎
その理由について、3月1日の発表会で深くは語られなかったが、川邊氏は「我々がやるFinTechには重要なポイントが2つある」と話した。
- とくにユーザー体験において、金融企業がやるネット事業ではなく、ネット企業がやる金融事業を進める
- PayPayでもLINE Wallet上でもマルチパートナー制で取り組んでいく
とくに2点目は、PayPayが既にジャパンネット銀行だけではなく、ほかの銀行などと接続しているなど、さまざまな企業とつなげていること(=マルチパートナー制)を挙げている。川邊氏は「いろいろな金融事業を、競合関係などあるとは思うが、一緒にやっていきたい」と考えを示した。
また、ZHDとして重要視するポイントとして「ユーザーへの総リーチ」であるとし、「PayPay銀行だけだと、LINEのユーザーが使わないということもありうる」「LINE上でのユーザー体験を最大にしたLINE銀行とPayPay銀行があるから、例えば5年後に日本の多くの方がどちらかの銀行を使っている……という状態になることもあり得る」とした。
3. 対Amazon・対楽天、EC日本一への野望
ヤフーとLINEの共同の取り組みとしてわかりやすいのがEコマース事業だ。
撮影:小林優多郎
わかりやすい両社のシナジーが発揮される点としては、コロナ禍で伸びているEコマース(EC)分野が挙げられる。新たなものとして以下の取り組みが発表された。
- ソーシャルギフト……LINEギフトにおいて、Yahoo!ショッピングと連携し、より多くの商品のプレゼントが可能に。
- 共同購入サービス……LINE上の友だちに呼びかけ、一定人数で低価格に商品を購入できる。
- ライブコマース……LINE LIVEの機能を活用し、インフルエンサーによる紹介動画を観ながら、視聴者同士でも交流・購入する機能。
- クロスショッピング機能……ネット注文後、自宅配送・実店舗受け取りなど、オンラインでの購入体験の強化。
- My Price構想(中長期的施策)……ユーザーそれぞれの利用状況(誕生日、ソフトバンク回線契約の有無など)によって商品の金額が変わるダイナミックプライシングの導入。
- Smart Store Project(2021年上半期開始)……事業者向けにECサイトの構築/運営、分析、接客、送客機能を一括して行えるツールの提供(NAVERとも協力)。現状のPayPay/LINE Pay加盟店のような中小規模事業者にも案内する。
代表取締役Co-CEOの出澤剛氏。
撮影:小林優多郎
いずれもユーザー間やユーザー・企業間のコミュニケーションはLINE、EC機能はヤフーの強みが生かされる分野だ。
とくに、My Price構想においては「(ZHD内の)ロイヤリティープログラムの統合」(出澤氏)も視野にあると話している。
ヤフーの「Yahoo!プレミアム」、PayPayの「PayPay STEP」、LINEの「LINEポイントクラブ」と、現状はバラバラになっている会員優待システムにも何らかのメスが入るかもしれない。
また、一連の取り組みによって出澤氏は「2020年代前半にはEC物販取扱高 国内No.1となる」とした。
具体名こそ挙げなかったが、もちろんその対抗意識は、EC2大巨頭であるアマゾンおよび楽天にあることは言うまでもない。
(文、撮影・小林優多郎)