独フォルクスワーゲンが高級車部門のポルシェを上場させるという。画像はポルシェ初の電気自動車(EV)「タイカン 4s」。
Kristen Lee/Business Insider
2月末、ドイツのメディアは、フォルクスワーゲングループが高い収益性を誇る高級車部門ポルシェの上場を検討していると報じた。
報じたのはドイツの月刊誌「マネジャー・マガジン」で、詳しい関係者からの情報としている。ロイター(2月18日付)によれば、「同誌は、フォルクスワーゲンがポルシェ株の最大25%を上場し、その評価額は200億〜250億ユーロ(240億〜300億ドル)にのぼる可能性があると伝えている」という。
ブルームバーグも同様の動きがある可能性を報じている。
これらの報道に説得力を持たせる先例がある。2015年にフィアット・クライスラー・オートモービルズ(=のちにグループPSAと合併し「ステランティス」に)から分離・独立して上場を果たしたフェラーリがそれだ。フェラーリの時価総額は現在、350億ドル(約3兆7000億円)に達する。
350億ドルという数字は十分巨額だが、ポルシェはそれ以上の大台を狙える。フェラーリは他と隔絶したブランドを維持するため、年間販売台数を意図的に1万台に抑えているが、ポルシェは2020年実績で27万台だ。
ポルシェのルッツ・メシュケ最高財務責任者(CFO)は2018年、フォルクスワーゲンから完全独立した場合、時価総額は800億ドル以上になるとの可能性を示唆している。
EVシフト対応の資金がほしいフォルクスワーゲン
グローバル自動車市場ではガソリン車から電気自動車(EV)へのシフトが進んでおり、大手自動車メーカーは流れに対応するための資金調達に取り組んでいる。フォルクスワーゲンがポルシェ上場を検討している理由もおそらくそこにある。
「素晴らしいアイデアだと思う」と評価するのは、米ゼネラル・モーターズやクライスラー、独BMWの経営幹部を歴任したボブ・ルッツだ。
「フォルクスワーゲンは、いま手もとにあるポルシェの価値が揺らぎつつあることを理解すべきだ。電動化の波は圧倒的で、内燃機関車であるポルシェの優位性はゼロにもなり得る」
ポルシェはすでに電動化市場に漕ぎ出しており、2020年に同社初のEV「タイカン」を市場投入している。しかしその一方で、同社の象徴ともいえる「911」のような、富裕層向けのハイパフォーマンスなガソリン車のセダン、スポーツ用多目的車(SUV)も販売し続けている。
80年間積み重ねてきた投資がいまや見当違いの方向に、という可能性も否定できず、それゆえに投資家たちはポルシェが上場してもフェラーリのときのような株価上昇が起きるとは期待していない。
ポルシェとフォルクスワーゲンの複雑な会社関係
ただ、ポルシェとフォルクスワーゲンの株主構造は複雑だ。
ポルシェブランドを展開する事業会社「ポルシェAG」の筆頭株主である「ポルシェ・オートモービル・ホールディングSE」は、フォルクスワーゲングループの発行済み株式の約3分の1を保有する。この関係は20世紀半ばから続いている。
ポルシェAGの創業者であるフェルディナント・ポルシェは初代フォルクスワーゲン・ビートルを開発した技術者。文字通り「ドイツ国民の車(=フォルクスワーゲン)」となったこの車は、世界で数百万台売れた。
2008年、ポルシェはフォルクスワーゲンの完全買収を企図したものの失敗。逆にフォルクスワーゲンががポルシェAGを傘下に置いた。現在の株主構造と製造オペレーションの統合はそのときの経緯から生まれた。
フォルクスワーゲンのメシュケCFO(前出)は、ポルシェの上場後も発行済み株式の25%を保有し続ける可能性を示唆している。
「拒否権を持つマイナー株主」(メシュケCFO)としてのポジションを維持することで、将来の意思決定に関与する余地を残し、同時に、エンジニアリングとテクノロジーの共有を継続できるようにするのが狙いとみられる。
(翻訳・編集:川村力)