フィスカーが2020年10月の上場後、初めてとなる決算を発表した。
Fisker
電気自動車(EV)スタートアップのフィスカー(Fisker)はまだ売り上げも利益も出していないが、2020年に株式を公開し、株価も好調だ。
特別買収目的会社(SPAC)との合併で時価総額は30億ドル(約3150億円)となり、上場を通じて10億ドルの資金を調達した。10月の買収以来、株価は3倍(9ドルから25ドル)近くになっている。
2月25日にフィスカーが上場後初めて発表した決算(2020年通期)を受け、株価ははね上がり、時価総額は80億ドル(約8400億円)に達した。
モルガン・スタンレーのアダム・ジョナスが顧客向けに作成した調査レポートは、フィスカーは過去2年間に上場して話題と投資を呼び込んだ他の多くのEVスタートアップとは別格と位置づけ、目標株価を27ドルから40ドルに引き上げている。
ジョナスはフィスカーを「見かけより執行リスクの低い」「スリーパーEV」(=外装は他の車種と同様だが、技術や性能では一線を画する)と評価。その理由として、ヘンリク・フィスカー最高経営責任者(CEO)がくり返し「アセットライト(=資産を最小限にする、あるいは持たない)」と表現してきた、同社のビジネスモデルをあげる。
アセットライトとは要するに、工場を建設せず、パートナー企業に製造を委託するということだ。世界最大の自動車委託生産メーカーであるマグナ・インターナショナル(および傘下のマグナ・シュタイヤー)や、アップルのiPhoneを受託生産し、最近はEV事業への参入意欲を示している台湾のフォックスコンが、そうしたパートナーにあたる。
ジョナスはまた、フィスカーが2022年下半期に新型EV「オーシャン(Ocean)」を、さらにフォックスコンとの「プロジェクト・ペア」(PEAR=Personal Electric Automotive Revolution)を通じて2023年までに新型EVを生産開始するというロードマップは透明性が高く、信頼がおけるものと評価する。
発売1年半前まで、その時点の最新技術を組み込み可能
フィスカーの新型電動SUV「オーシャン(Ocean)」とヘンリク・フィスカー(写真右)のイメージ画像。
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2020年通期決算発表後のインタビューで、フィスカーCEOはInsiderに対し、「ゆうに9億ドル(約945億円)を超える現金が銀行口座にあり、しかも借金はゼロだ」と語った。
マグナはオーストリア・グラーツ工場で2021年中に『オーシャン』のプロトタイプを完成させる準備を進めており、今年下半期にはお披露目する計画という。
「お披露目はオンラインではやりたくない」とフィスカーは語り、次はメディアの前で(これまで実現性を疑問視されることも多かった)実物を見てもらうことの重要性を強調した。
派手なお披露目をやればカネがかかる。しかし、金庫に現金を置いたままでは何の利益も生まれない。フィスカーがいま考えているのは、投資のインパクトを最大化することだけだ。
フィスカーは「販売開始予定の1年半前までなら、その時点で最新のテクノロジーを車体に組み込むことができる」と語る。
伝統的な自動車メーカーだと新車を1台開発するのに3、4年はかかる上に、ある時点を過ぎると大きな変更がきかなくなる。その点、2022年後半に市場投入予定のオーシャンなら、例えば(1年半前にあたる)この3月中に実用化された最新の電池セルを組み込むこともできるという。
SPACを通じた上場そのものに問題はない
フィスカーの発展は2つの意味で注目に値する。
1つめは、ヘンリク・フィスカーが「カムバック」を果たしたこと。彼の最初の会社であるフィスカー・オートモーティブは2000年代後半から2010年代前半にかけて、テスラのライバルとみられていたが、2013年に破たんに追い込まれた。
2つめは、フィスカーが特別買収目的会社(SPAC)を経由して上場を果たしたことだ。資金調達と新規株式公開(IPO)を必然的に伴う投資手法で、SPACを上場させて資金が集まったらターゲット企業を買収する。
フィスカーの場合、大手プライベート・エクイティ・ファンドのアポロ・グローバル・マネジメント傘下のスパータン・エナジー・アクイジション(Spartan Energy Acquisition)がSPAC、いわゆる「ブランクチェック(白地小切手)」会社にあたる。
他の多くのスタートアップもこのSPACブームに乗った。以前は不透明なアプローチと批判されていた手法だが、いまや従来のIPOによる資金調達の困難な企業にとっての「最後の手段」とみなされ、その殺到ぶりはバブルの領域に突入している。
しかし、SPACも本質的には単なる資金調達手段の1つにすぎない。44億ドルの資金を運用し、プライベート・ファンドを通じてSPACへの投資を行うリバーノース・キャピタルのパトリック・ガレーCEOは次のように語る。
「SPACの仕組みと構造には何の問題もない。1年以上はかかるIPOのプロセスを回避し、(資金調達の)機会を得るための有効な手法だ」
台湾フォックスコンとのコラボに勝機
開発中の新型電動SUV「オーシャン」の市場投入は、フィスカーがCEOとしてまずは何より先にやらねばならない仕事だ。しかし、フィスカー自身は(その後に控える)フォックスコンとのプロジェクトのほうに興奮を感じているようだ。
「我々は社会的な境界を乗り越えるような自動車を生み出したい」とフィスカーは語り、セグメント化されて可能な限り多くの顧客に製品を販売することから距離を置いてしまった自動車産業を批判する。
現状の対極にある存在として、フィスカーは自らも刺激を受けた2車種をあげる。それは独フォルクスワーゲンのビートルとBMWの初代ミニだ。「ポップスターにも普通の人にも売れた車だから」。
フィスカーとフォックスコンのコラボでは、モノづくりのイノベーションに注力する計画。フィスカーは「フォックスコンは我々と違う視点を持っている。一緒にやればたくさん売れるクルマをつくれる気がする」と語る。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、両社の「プロジェクト・ペア」から生まれる新型EVは、フォックスコンが液晶ディスプレイ製造のために建設した米ウィスコンシン州の工場(現在は休止中)で生産されるという。
「まだ何も最終決定には至っていない。ただ、アメリカで(プロジェクト・ペアの新型EVを)生産する気になれば、工場はすでにそこにある、というのは確かなことだ」(フィスカーCEO)
再創業から日の浅いフィスカーにとって、このチャンスを生かさない手はないだろう。
[原文:Henrik Fisker's 'low-risk' plan for an electric-vehicle comeback is impressing Wall Street]
(翻訳・編集:川村力)