【単独】前澤友作、月旅行の同行者8人を公募する理由。「宇宙を民主化したい」にイーロン・マスクも共感

前澤友作

撮影:竹井俊晴

「月に一緒に行く人を公募します」 —— 。

ZOZO創業者の前澤友作氏が2023年に予定している、民間人初となる月周回計画。3月3日に突如、同乗者8人が公募で選出されることが発表され、そのニュースは瞬く間にSNS上をかけ巡った。

ZOZO社長退任から1年半、「お金配り」と称して総額27億円以上を投じたり、個人資産総額100億円をつぎ込んだ「前澤ファンド」を立ち上げ、13の事業に出資して上場を目指すと公表するなど、世間を騒がせ続けてきた前澤氏。今彼の頭の中にあることとは?本人を直撃した(インタビューは3月3日に実施)。

募集開始から1日で30万の応募

—— ご自身が企画する月周回旅行「dearMoonミッション」で月に一緒に行く8人の公募を3月3日に発表されました。あえて公募という形をとられた理由は?

最初は自分の好きなアーティストに声をかけ、お連れしたいなと思っていたのですが、なんとなくそれではただの個人的な宇宙旅行にしか見えない。「宇宙が目の前に広がっている、民間に開かれている!」という、“宇宙の民主化”というもっと意義深いものにしたくて。

(イーロン・マスク氏が率いる)スペースXも、民間企業で初めて有人宇宙飛行を成功させた会社。その文脈で「宇宙の民主化」というミッションには共感してもらえました。3月14日まではプレエントリーで、 それから本格的に健康状態や体格、年齢、ミッションに対しての意気込みを聞き、月に行くメンバーを絞っていきたいと思います。

—— 選考基準として「社会や人のためになる活動をしていて、宇宙に行くことでそれをより成長させていける人」とありますが。

自分自身が、宇宙に行くことでさらにいろんな意味でやる気も出るはずですし、地球の大切さをもっと肌身で感じるはず。同じように、現時点で頑張っている人も、さらに頑張れるようなミッションにしたいです。活動分野としては現時点ではまだまっさらです。画家や歌手などのアーティストでも、起業家でもいい。

—— もう一つの条件として「仲間を重視できる人」とありました。これは?

宇宙旅行では、必ずミッションバッジに全員の名前が刻まれて、家族同然の関係になってから出発するんです。そのためにもチームワークは何よりも大切です。実際の月周回は1週間ですが、トレーニング期間は数カ月で、その間はずっと一緒にいることになると思うので、仲間を大切にできる方というのは大事な条件ですね。

—— 月旅行の総勢は10人〜12人で、今回公募するのは8人ですね。男女比なども考えていますか。

スペースX側との調整で、最終人数が決定していないのです。(バッファがある理由は)他の数人は僕自身が指名した人が搭乗する予定だからです。

多様性という意味では、国籍も性別も偏らない方がいいかなとは思っています。宇宙へ人を送り出したことがない国も地域も世界にはたくさんある。そういう国の方が選ばれたらその国にとってもニュースになるし、「宇宙の民主化」の象徴的な出来事になると思う。

ありがたいことに、募集開始からたった1日で世界250の国と地域から30万を超える応募がありました。

—— 宇宙に行くトレーニングっていつから始まるんですか?

それもまだ決まってないんです。トレーニングする場所もまだわからなくて。スペースX側とは毎日のようにやり取りをして、ロケットの開発状況など情報共有をしてもらっています。

スペースX「民間ならではの旅に」

前澤友作

スペースX創業者のイーロン・マスク氏とも頻繁にやり取りしているという。

画像:スタートトゥデイ

—— イーロン・マスクさんとは定期的に話していらっしゃるそうですが、前澤さんから見た印象は?

コロナで実際にお会いする機会はこの1年で減ってしまいましたが、DMでのやりとりは頻繁にさせてもらっています。とにかく彼は、生真面目で繊細な方。経営戦略は大胆ですが、エンジニア出身ということもあって、すごく細かいディテールまで気にしますね。

「ロケットのこの部分はどういう役割なの?」と尋ねたら、聞いたこともない単語がずらずら出てきて、物理学の授業みたいになったり(笑)。日本のアニメオタクでもありますし、とてもマニアな人ですね。

—— スペースXやマスクさん側から、今回のプロジェクトに関して前澤さんへの要望はありましたか。

「今までにないことをやって」という期待感は感じますね。民間ならではの、楽しさのある旅にしてほしいと。ただ、クルーは彼らが選ぶわけではなく、基本的には僕が選んだ人を最優先にしてくれると言っています。

—— 前澤さんは宇宙に行きたい理由を、好奇心と地球を外側から見てみたかったと話しています。ZOZOの経営をしている中で、他にも何か刺激が欲しかったのですか?

それは関係ありません。宇宙プロジェクトが本格的に動き始めたのは5年くらい前ですね。ZOZOの社長も務めていた時期でしたが、宇宙に行くのがこんなに大変だとは思っていなかった(笑)。

コストがかかるのは分かっていましたが、物理的なトレーニングがどれくらい必要かとかは全く分からないまま、好奇心・興味本位のままに手を挙げて。確かに決定した後「宇宙に行くとなると時間的に相当厳しくなるよな」とはなりましたが、1年半前に社長を退任したこととは直接関係はありません。

—— 宇宙に行きたい理由として「自分の小ささや未熟さを感じたい」とも話されていましたが。そう実感する具体的な出来事はあったんですか。

25歳くらいの時、地球の反対側にあるブラジルのリオ・デ・ジャネイロに行って「自分って本当に小っちゃいな」と思ったことをよく覚えているんです。人種の多様性も、貧富の差もすごくあって、海沿いは高級リゾートなのに、ちょっと街に入ると映画『シティ・オブ・ゴッド』の世界。

その温度差に衝撃を受けたことが、それ以降、僕が掲げてきた「世界平和」というミッションのきっかけにもなりました。地球の裏側に行っただけでそれだけの衝撃だったわけですから、宇宙に行けばもっと何か大きなものが得られるはずだと。

アート落札よりも価値ある「お金配り」

前澤友作

—— 今回公募された8人の月旅行代金も「前澤さん持ち」です。さらには2019年1月の100万円を100人に、というお年玉から始まり、2020年1月には100万円を1000人に、そして7月からは200日以上に渡って10万円を10人に、総額27億円も配られてます。「お金配りおじさん」から得た気づきは。

一言で言うと、お金に困った人が世の中には想像以上に多いということですね。たったの数万円、数十万円がなくて、自分のやりたいことへの一歩が踏み出せない。僕の体感値ですが、国民の8割〜9割がそう思っているんじゃないかというほど。

僕の(Twitterの)フォロワーは今1000万人以上いるんですが、そんな悲痛な叫びが日々聞こえてくるんです。 今まで多くのアート作品も買ってきましたが、例えば27億円で絵を1枚買う以上にものすごいものを得ている感覚があります。変な言い方ですけど、投資対効果はすごく高い。

もちろんキャッシュアウトするわけですから財布は痛くはなりますが、たくさんの人から感謝してもらえるし、その人の人生を変えるきっかけを作っているのかもしれないという喜びがある。

自分のことも知ってもらえるし、今後その人たちと何かしらのプロジェクトが一緒にできるかもしれない。アートを買う満足感よりも全然自分に返ってきています。なかなかそういう思いは理解はされていないかと思いますが、こういうアクションが注目されて、これから日本でも寄付文化の大きな流れが来るといいなと思っています。

—— 2月からは「お金配り」から「お金贈り」に名前を変え、医療従事者やITエンジニアの卵や女性、不妊治療をしている人など対象者を1週間ごとに変えて、お金を配っていますね(※注1)。「お金配りおじさん」の時には「下品だ」「何が目的だ」と批判もされましたよね。最初から「医療従事者に、お金を贈ります」と言う趣旨の方が理解も得られやすかったのでは?

毎週お金贈り

2021年2月以降は「お金配り」から「毎週お金贈り」に。

画像:「毎週お金贈り」公式サイト

注1:2021年2月以降は「毎週お金贈り」と銘打ち、500万円以上の支援金を寄付する協力者を公募。支援額と同額を前澤氏が出資した上で、支援テーマを決めて寄付している。

当初は「お金配り」の方がセンセーショナルでわかりやすく、注目も集めるのであえてそうしました。下品だと思われても人に知ってもらう方が優先でしたから。

でもそろそろ認知もされましたし、一緒に支援をするためにお金を出したいと言ってくださるパートナーも増え始めました(※注2)ので、もう少し優しい言葉に変えようと。それでいろいろな方が同しやすく、お金を受けとる側も受け取りやすいような「贈り」というネーミングにしました。

注2:協力者には、すでにタレントの武井壮さん(保護猫保護犬の飼い主支援)、サニーサイドアップ社長の次原悦子さん(女性支援)、元ZOZOコミュニケーションデザイン室長の田端信太郎さん(社長になりたい人支援)らが決まっている。

ただ最初から、しばらくは我慢というか、時代が理解してくれるのはもう少し先だと思ってやってきました。けれど根底には、お金の再分配や寄付という意味合いを自分の中で持っていたつもりです。最初からひとり親に限定したお金配りもしていましたしね。

—— コロナ禍前後で相談の内容や件数は変わりましたか?

困窮している実態はあまり変わりませんが、苦しくなった人はより増えているようには感じます。

民間にしかできない再分配

前澤式ベーシックインカム実験

画像:「前澤式ベーシックインカム社会実験」公式サイト

—— 2020年4月には「ベーシックインカム社会実験(※注3)」というプロジェクトも始めました。

注3・前澤式ベーシックインカム社会実験:応募者約403万人の中からランダムに選ばれた当選者1000人に対し、現金100万円を配布する社会実験。「4月に受け取る」「10月に受け取る」「1年間分割で受け取る」とグループを分けて、研究者らと共に労働⽣産性がどう変わるかなどを調査している。

実は僕の元には、ベーシックインカム研究の通説を覆す驚きのデータが揃い始めています。詳細はもう少し先に発表しますが、一つだけ挙げるなら、重要なのは「お金の配り方」ということです。

世の中のベーシックインカムの議論は「国の予算がいくらで、1人毎月いくら」というものしかない。毎月がいいのか、2カ月に1回がいいのか。全国民同じタイミングがいいのか、例えば年代によってお金をあげるタイミングをずらしたほうがいいのか。 そういった議論がなされていないんです。

今回、あえて配るタイミングを変えたり、配り方を一括払いにしたり、12カ月の分割払いにしたりと今までやったことのない実験をしたことで、もらう側の使い途や考え方が大きく変わることがわかってきたんです。

——「お金配り」「お金贈り」は民間でできる富の再分配だとおっしゃっていますが、最終的にはどんな形をイメージしていますか? 政府や行政の仕組みを変えたいという思いもあるのですか。

国の再分配は「すべての人に公平に」という概念があります。一方で、民間でしかできない分配の方法もあるんじゃないかと思っています。 例えば、税金ならば公共事業などまんべんなく使われるわけですけれど、寄付ならば自分の意志で必要だと思う人に使うことができます。

僕だったらお世話になった業界に対してダイレクトに支援ができるわけです。

アパレル業界にお世話になった僕が、アパレル業界で働く方やデザイナーを目指す方を支援するのはごく当たり前のエコシステム。支援することで業界の活性化にもつながるし、アパレル業界の自分のポジションもさらに進化させられるかもしれない。

—— 前澤さんは「お金とは何かとずっと考えてきた」とよく話されていますが、ご自身がお金にすごく苦労した経験があるわけでもない。どこから「お金」について考えるようになったのですか。自分がお金持ちになったからですか。

前澤友作

「人生よりもお金の方が大事なの?という、大人に対する違和感はずっとあった」

それもあると思います。 ただ昔から、働くこととお金をもらうことがつながりづらいとはずっと思っていたんです。大人たちに対しても 「お金をもらいたいからそう言ってるんじゃないか?」とひねくれて思っていた時期もありました。特に学校の先生に対して(笑)。

お金が欲しいからつらい顔して満員電車に乗るし、言いたくもないことをいう。そんなにお金が大事なの、人生よりもお金の方が大事なの?という違和感はずっとありました。

自分の場合、お金持ちになりたいと思って事業を始めたわけでもなく、結果お金が手に入った後でも、そもそもなかったものなのだからと執着することはありませんでした。

子どもの頃から財布がカラッカラになるまで使うタイプでしたし、お金なんてなくたってどうにかなると考えて生きてきたから、切実なものだとは今でも思っていないんです。

でもお金を配るようになってから、その切実さを理解できるようにもなってきましたね。

—— 2020年9月、アダストリアとユナイテッドアローズの株を取得し、大株主になりましたね。コロナ禍でアパレル業界も打撃を受ける中「救世主だ」との声も聞かれました。この意図はなんだったんでしょうか? 先ほどの支援の「エコシステム」の一環ですか?

お金配りや宇宙の話とは全然関係ないのですが(笑)。この状況下でアパレル業界に貢献したくて、上場企業でしっかり応援できる企業はどこだろうと考えていました。その2社はZOZO時代の大きな取引先で社内の事情もよくわかっていましたから、候補に挙がるのは自然な流れでした。

ショートターム(短期)のキャピタルゲインを狙ってもしょうがない。それなりの株式を取得させてもらって、将来的には意見交換する機会も得られればと。それに当時、ZOZO側から提案したことも山ほどありましたし、もっと提案もしたかった。今は中立な立場になったので、もう少しフラットに意見交換できるかなと期待しています。

ガバナンスではなく、人としてどうか

前澤友作

2021年からは「事業づくり」として、13の事業に出資。自ら採用や経営に関わることもあるという。

画像:スタートトゥデイ

—— 前澤さん自ら出資して、13の事業で上場を目指す新プロジェクト「事業づくり」についても教えてください。お金配りをする中で感じた課題意識が、新しい事業構想につながったのでしょうか。

それはあると思います。13の事業の中には「医療介護マッチング事業(KURASERU)」もありますが、それは介護業界の厳しい現実をTwitterを通じて知ったことにより「なんとかしないと」と思ったことがきっかけです。

—— 前澤さんの個人資産総額100億円を出資する株式会社前澤ファンドを設立し、起業家を広く公募されました。どんな意図で始められたのですか。

今まで僕は、VCを運用したこともなければ、プライベート・エクイティ(個人での出資)もほぼなかったので、まずはどんなことを起業家の皆さんが考えているのか知るために、広く応募いただこうと思いました。

しかしある程度のハードルがないと応募も無制限になってしまう。ですから、あえて登録料(エントリー・フィー)を10万円とさせていただいたのですが、想定を遥かに超えて4000件以上の応募がありました。

最終的に出資の決め手は、一言で言うと社長の魅力ですね。この人はチャーミングな方だなという人柄の社長が多いです。人としてのチャーミングさは大事なことです。僕が一番尊敬している経営者の孫正義さんも本当にチャーミングな方ですからね。

—— 事業一覧を見ると(ひとり親の養育費支援のような)深刻な社会課題に向き合っているけれどもビジネスとして収益を上げていくのが難しいと思えるようなものもあります。

儲けることは後からでもできます。利益はたとえ今大きく出なくても、現状を変えたりそのきっかけを作ることの方が大事だと思っています。

社会課題の解決というチャレンジをしている皆さんなので、先に儲けに走っても仕方がない。 とはいえ、株主としてはもちろん儲けていただきたいですし、事業計画もあるので、勝算はあります。

前澤友作

「そんなにうまくいかなさそうに見えますか?勝算はありますよ(笑)」

—— 最近はスタートアップ起業家のガバナンスやモラルに関わる問題が大きく取りざたされています。一時は破天荒さやある種のやんちゃさが起業家の強みと言われてきたこともありましたが、それによって見過ごされてきた問題が今、明るみに出てきているようにも思えます。前澤さんはこの流れをどう見ていますか。

ガバナンスとかコンプライアンスが重要だと言えば言うほど、言葉に踊らされて、それが基軸になってしまう。「法的にはこうだけど、ここはおかしいんじゃないか」とかつまらない話になる。そうした風潮は僕は好きではないんです。

「人として、会社として良いのか悪いのか」という話だけだと思いますよ。それは起業家でも経営者でも投資家でも同じことです。

(会社を作るのは)自分たちの独自のルールだし、自分たちの人間性です。それを常に考えていれば、必然的に(真っ当な)コミュニケーション、企業風土、サービスになるものです。それがもっと認知されれば、結果的にガバナンス・コンプライアンスも引き締まるのでは、と思っています。

例えば出資の決め手にした「社長のチャーミングさ」にしても、チャーミングだと、多少のミスは許されるからなんです。でもガバナンスやコンプライアンスの書類に「チャーミング」なんて項目はないじゃないですか(笑)。ミスが許容されたり理解し得る文化にしていかないと、良い会社だって育たなくなってしまうと思います。

(取材・浜田敬子、西山里緒、構成・西山里緒、撮影・竹井俊晴)

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