震災取材を機にテレビ記者から国際NGOへ。防災でのジェンダー格差解消目指す

深刻化する気候変動・環境問題の最前線では多くの女性のプロフェッショナルたちが働いている。働く場所も国際機関やNGO、企業、行政などさまざまだ。彼女たちの仕事を通して、今地球環境に何が起きているのかを知る連載「気候・環境危機 最前線で働く女性プロフェッショナル」の1回目は、筆者である私の話から。

もともとテレビ局の記者だった私はなぜ、国際NGOで気候変動に取り組むことを選択したのか。

増加する災害、農業被害にも根深いジェンダー差

デモをする人たち

Shutterstock/DisobeyArt

私自身、もともと気候変動や環境問題に特別、関心があったわけではなかった。ジェンダー平等についても、テレビ局の報道記者として安倍政権の女性活躍推進政策を取材しながら、自分事としては捉え切れていなかった。そんな私が、数年を経て、「気候・環境危機 最前線で働く女性プロフェッショナル」という連載を自ら企画して記事を書くまでになった。世の中の「きっかけ」とは、本当に不思議だ。

2011年3月11日。

10年前のあの日、どこで何をしていたか、思い出せる日本人は多いだろう。

翌月、私はテレビ局に入社した。配属された報道部門は、震災報道の真っ只中だった。ADとして、先輩たちの取材映像を見て、ひたすら文字おこしをする日々。子どもを探し続ける親、家族を亡くした市長、遺体と対面した家族。「愛する人を亡くす」「故郷を失う」映像を、毎日、何時間も見続けた。彼らが話してくれた、想像を絶するリアリティを、自分なりに精一杯、想像する日々が続いた。

被災地の女性

REUTERS/Issei Kato

夏になり、自分も取材に出るようになったときには、復旧から早期復興へと、徐々にフェーズが移っていた。そしてある日、仙台市の沿岸部・閖上(ゆりあげ)地区の中学校の前におかれた学習机と出合った。息子を亡くしたお母さんが書いたメッセージが記されていた。

「あの日大勢の人達が津波から逃れる為、この閖中を目指して走りました。

街の復興はとても大切な事です。でも沢山の人達の命が今もここにある事を忘れないでほしい。

死んだら終わりですか?生き残った私達に出来る事を考えます」

どうすれば災害の被害を防ぎながら、より良い町へと、復興できるのか。自分自身が、取材を越えて、直接的に貢献できることは何かないのか。取材を続けるほど、自分の人生を賭けて取り組みたい課題だ、とも思った。

フィリピンの台風ハイアン後のボランティア活動に参加して、その意思は固まった。防災・災害復興の分野でのキャリアを築く機会を目指して、米ハーバード大の公共政策大学院に進んだ。

自然災害の被害は「自然」ではない

大学院では、自然災害の被害は、「自然」ではないことを知った。災害が人々に与える影響は「無差別」ではなく、ジェンダー、年齢、職業などによって大きく変わる。災害によって、元から存在する格差や構造が、表面化するからだ。

インドネシアのアチェ

Shutterstock/Frans Delian

2004年に死者・行方不明者30万以上を出した、スマトラ沖大地震・インド洋津波では、甚大な被害を受けたインドネシアのアチェで女性の死者数が男性の3倍にものぼったことに、衝撃を受けた。災害前のアチェの人口は、女性が男性よりわずかに多かっただけなのに、なぜこの大きな差は生まれたのか。

原因には、慣習や文化が大きく関係していた。アチェでは女性や女の子は木を登ったり、泳いだりすることが慣習としてなかったため、津波が到達した際、基本的なサバイバル手段が男性や男の子に比べて限られていた。また、普段から女性は子どもや家族の面倒をみる役割を担っていたため、彼らのケアをしているうちに被災したということだった。

既存の慣習・文化に存在するジェンダー差

大学院卒業後、東南・南アジアで防災の仕事をしていると、教室での学びを、実体験として学び直す機会があった。ミャンマーの洪水リスクの高い村で、水中の救助訓練を企画しているときだった。

「女性には泳げない人が多いし、肌の露出を気遣わなければならない。女性にとっては特に大変な訓練になってしまうから、このトレーニングは男性だけにした方がいいのでは」と、村の人たちに提案されたのだ。

でもそれでは、村の女性はひとりも、救助トレーニングのノウハウを身に着けられない。日中、男性が仕事に出ている間、洪水がきたらどうするのか。子どもや親のケアを担っている女性たちは、溺れる家族を見て、何もしないわけがない。正しい救助方法を知らずに、自ら助けにいこうとする、これこそが防げる被害なのではないか。

そのような話し合いを経て、結局訓練は男女別で行なうことになった。誰も悪意を持って、女性を差別しようとはしていなかったが、既存の慣習や文化のジェンダー観によって、防災ノウハウの差が開き、災害時には被害の差として出てしまう。そんな現実を体験して、ジェンダーなくして災害対策は考えられないと、強く感じるようになった。

141カ国を対象とした研究では、災害の死者数は男性より女性のほうが多く、その差は男女の不平等な社会的、経済的地位と密接に関係すると指摘している。

貧困層の7割が女性、農業や自然資源に依存

ネパールの田植えをする人たち

Shutterstock/Siraj Ahmad

貧困の中で暮らす4人に3人が、農業や自然資源に頼って、生計を立てている。そして、貧困層の7割が女性だ。海面の上昇や気温・雨量の変化などの気候変動によって災害は増えているが、その影響を直接受けるのは、農家など自然資源に頼って生きている人たちだ。

今私の活動拠点の一つ、ネパールの人口の7割は農業に従事していて、農業分野のGDPへの寄与は約30%にものぼる。異常気象によって災害が増える中、多くの農家、特に女性の農家は危機にさらされている。

ネパール南西部に位置する地域では、気温の上昇によって農作物の成長が阻害されているうえ、害虫の生育が活発になり、農作物への被害が深刻化している。短期間に大量の雨が降ることも増え、洪水が頻発している。洪水が起きると農地が浸水し、大量の砂が流れ込むため、農産物を生産する土地が少なくなってきている。結果、収入の減少と食糧不足によって、長年住み続けた土地を離れ、移住を迫られる農家は少なくない。

このような気候変動の影響に対応するには、保険などの金融サービスや改良された種や器具を購入する手段が必要だ。天気予報や最適な農業の手法に関する情報へのアクセス、また、それらを理解するための教育も不可欠だ。しかし、これらすべてにおいても、ジェンダー差が存在している。

水不足で奪われる女性の教育機会

水汲みをする女性たち

Shutterstock/Sharad Raval

気候変動におけるジェンダー差が明らかになっているのは、農業の分野だけではない。世界的に見ると、性別役割分業などの影響で、水汲みの負担は、女性や女の子にのしかかっている。家に水道がない家庭の8割では、女性や女の子が水汲みを担っている。そして、数々の研究で、この水汲みに費やす時間は、教育や経済活動の機会を奪っていることも、明らかになっている。

タンザニアでの調査では、水汲みにかかる時間が約30分から15分以内に減ると、学校への出席率が12%増加したことが報告されている。アメリカとメキシコの国境地域で実施された研究も、水資源の減少は、女性のキャリアへの投資を阻む要因だと結論づけている。

気候変動による気温上昇や雨量の変化は、洪水に限らず、深刻な干ばつももたらす。「水が多すぎるか、少なすぎるか、どっちかだ。でも、いつ、どっちが来るか分からない」とパキスタンの同僚はよく言っている。海面上昇は川に塩水が流れ込む要因となり、生活用水の不足を助長する。2025年までに、世界の半数の人が水不足に直面すると予測されている。身近な水のソースが絶たれると、女性や女の子は水汲みのためにさらに遠い場所に、時間をかけて出向かなければならない。

気候変動は既に存在しているリスクを拡大し、社会・経済的に弱い立場にいる女性や女の子が、より深刻な影響を受けるのだ。

気候危機の対応に女性の考えは不可欠

日本が批准しているパリ協定(気候変動に関する国際的枠組み)の前文には、

「締約国が、気候変動に対処するための行動を取る際に、(中略)男女間の平等、女性の自律的な力の育成及び世代間の衡平を尊重し、促進し、及び考慮すべき」

と、書かれている。

ジェンダー平等を考えずに、気候変動や災害への適切な対応はできない。私自身もそのような現実を知り、見て、感じて、今はジェンダーの視点を、仕事で深く追及するようになっている。

国際機関・国際NGO業界では、防災や気候変動の事業の投資を受ける基準に、ジェンダー&インクルージョンは必ず含まれている。事業のデザイン、実施、評価のあらゆるステージにおいて、女性やマイノリティ・グループから意見を聞き、彼らの状況を考慮し、既存の格差解消に積極的に取り組みながら事業を行うことは、プロジェクトの条件だ。

日頃から感じているのは、このような社会構造の中でも、女性を「被害者」扱いせず、しっかりとノウハウや知識のある「当事者」として認識する重要性だ。

その土地の気象や土地、水について、女性たちは多くの知見を持っている。それらをしっかりと汲み上げるには、意思決定の過程に、女性はじめ多様なバックグランドを持つ人たちが参加し、意見を自由に話せる環境整備が重要だ。

国際NGOで働くということ

私が働く国際NGOは、世界の約40カ国で農業、テクノロジー、金融、災害、気候変動、水・衛生、人道支援などの分野で、年間5億ドル規模の事業を展開。私は東南アジア・南アジアで災害・気候変動分野のプロジェクトを担当している。国が策定した気候変動の政策を自治体で実装できるよう、市町村の職員と予算編成や事業計画づくりをする日もあれば、ある村のコミュニティで洪水の農業への影響ついてヒアリング調査をする日もある。

最近は、アフガニスタンやパキスタンなどの現地オフィスの気候変動事業の戦略づくりも、担当するようになった。日本でNGOで働いていると言うと、ボランティア的な支援をイメージされることが多い。実際は国づくりをコミュニティ・レベルからサポートし、事業のインパクトが継続的に活用される仕組みまでつくる。

だからこそ政府や地域コミュニティとのコーディネーションは欠かせない。コミュニティ・レベルの現場と国レベル政策づくり、両方みることができるのが、今の仕事の好きなところだ。

コロナ前はインドネシアのジャカルタに駐在しながら、ネパールやバングラデシュへ出張する日々だった(今はフル・リモート)。体力的にはハードな面もあるし、お腹を壊した回数も数知れず。でも、新たな地とそこで暮らす人たちに出会えることは、自分のエネルギー源となっている。

ジャカルタのオフィスで働く同僚たちの出身国も、インドネシア、アフガニスタン、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカ、ドイツとさまざまだ。職歴も民間企業、国際機関、国際NGO、アカデミアと多岐に渡る。多様なチームメンバーと共通の目標に向かって進むために、どうすればそれぞれが偽りのないauthenticな自分を出しながら、ベストな仕事をできるのか考える。それがモチベーションにもなっている。

気候・環境危機に対応するには、あらゆる業種のいろいろな人の力が必要なのだ。

手を集める人たち

Shutterstock/Africa Studio

「気候・環境危機 最前線で働く女性プロフェッショナル」の連載では、民間企業、非営利組織、政府など、さまざまな立場で、気候変動や環境問題に向き合う女性のプロフェッショナルを紹介する。

この分野にどんな仕事があるのか、どういう取り組み方があるのか。どういう問題意識のもと、どのような解決の糸口を見出しているのか。

気候・環境危機の対応において、女性の問題解決力や視点の重要性が認識される中、彼女たちのストーリーを通して、様々なアイディアや発見を提供していきたい。

大倉瑶子:米系国際NGOのMercy Corpsにおいて、洪水防災プロジェクトのアジア統括、アジア気候変動アドバイザー。職員6000人の唯一の日本人として、ミャンマー、ネパール、アフガニスタン、パキスタン、東ティモールなどの気候変動戦略・事業を担当。慶應義塾大学法学部卒業、テレビ朝日報道局に勤務。東日本大震災の取材を通して、防災分野に興味を持ち、ハーバード大学ケネディ・スクール大学院で公共政策修士号取得。UNICEFネパール事務所、マサチューセッツ工科大学(MIT)のUrban Risk Lab、ミャンマーの防災専門NGOを経て、現職。ジャカルタ・インドネシア在住。

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